ガーナでのJICA青年海外協力隊、及び東ティモールでの国連ボランティア

執筆:2013年2月

「MA in Education and Development, University of East Anglia」

(イーストアングリア大学 教育開発学 修士課程)

石田 裕一(いしだ ゆういち)さん


1.自己紹介

体育学を専攻し、海外なんて行くことなんかないと言い張りまったく英語ができない学部時代の自分が、思い切って東南アジアに一人旅に出て以来途上国の魅力にとりつかれてしまいました。インド、ネパール、チベットとバックパッカーの聖地と呼ばれる土地を渡り歩きながら、世界における富の不平等さ、貧困、児童労働問題などを目の当たりにし、ただ旅人としてそういった現実を素通りする自分に少し後ろめたさがあり、こういった世界の現実に対して何かできないかと思っていたところ、青年海外協力隊の募集を見て学部卒業後にすぐ西アフリカのガーナ共和国へ渡りました。

協力隊の仕事ではタマレというガーナ北部の町でバスケットボールというスポーツを通して、子供から青少年まで夢中になることを与え、将来仕事や生活で役に立つスキル、例えば努力をすること、リーダーシップをとること、チームワークを大切にすることなどを教えてきました。協力隊での2年間の仕事を通じて、開発、国際協力について、可能性を感じつつも一方で少し疑問を感じたりしました。特にスポーツという結果が数字や形として残らないものが、貧しい国の人々にとってどのような存在なのか疑問に感じていました。

学部を卒業してそのまま海外で働いてしまって世間知らずでしたので協力隊終了後にはこれはまずいと思い日本で石油天然ガスプラントを扱う外資系商社に3年間勤めました。途上国が好き、といいつつ2年間も雨が3ヶ月降らなかったり、砂に覆われる季節があったり、環境が苛酷な開発の現場で実際に働くことに少し疲れたこともありました。些細なことですがカフェでコーヒーが飲めないとか、ショッピングに行けないとかが恋しくもあり日本で働く選択肢をとりました。

日本での仕事は忙しく充実していたのですが、旅人としての一面がある自分は無性に海外に再度出たいという気持ちが強くなり、だったらもっと「開発」に関することを学んでみようと思いました。イギリスの修士を選んだのは1年間で取得できるという経済的理由が強く、親族からもお金を借りることができなかったので、会社にご飯とレタスのみを詰めたお弁当を持っていき草食男子と呼ばれながらも地道にお金を貯め、運よくロータリー財団から奨学金を得ることができたので留学することができました。


2.フィールドワークまでの流れ

協力隊でスポーツに関する活動をしていたので、「スポーツ=教育の一部」ということで教育開発コースを専攻しました。修士論文では「スポーツを通じてガーナのタマレという貧しい地域の青少年がどのようなメリットを得ることができるのか」ということを書き、昔の同僚にコンタクトを取り現地調査に行きました。論文ベースでも調査は可能だと思いますが、絶対フィールドで調査をするんだと決めて、フィールドに行かなくては行けない理由を考え大学には許可をもらうことができました。

大学院で学術を学ぶのはもちろん大切だとは思いましたが、コーヒーを飲みながら空調の効いた部屋で貧困とは何かを議論していても違和感があったし、授業で社会調査の仕方を学んでも実際に自分が行ってやるのは理論と違って難しい問題がたくさんあるだろうと考え、フィールド調査に行きました。

フィールド調査では昔自分が二年間住んでいた町に行っても、例えば雨が降れば調査に行けない、インタビューのアポを取っていたのに先生がこないなど途上国ならではの問題がありなかなか苦労しました。調査終了後だったので助かりましたが食中毒にかかり、タクシーを飛ばして首都まで戻り、点滴を打ち、三日ほど入院してしまいました。フィールドに行くということは開発現場でのさまざまな側面を見ることができるので、困難はありますが地元の人々はそこで生活していますし、将来現場で働きたい方には是非お勧め致します。


3.現地での活動内容

現在はUNV(United Nations Volunteers)として UNDP(United Nations Development Programme) 東ティモールのCrisis Prevention and Recovery Unitで働いています。UNDPの中で平和構築を担当する部署で、警察能力向上プログラムを担当しており、世界中から広報、人事、調達、ITなどの専門家を招集し、現地警察に知識を伝え、トレーニングやワークショップをしていくプログラムです。

途上国の警察と言えば、汚職・威圧的とかマイナスなイメージが強いのですが、UNDPとしては日本のおまわりさんのような警察になるような手助けをしたいと考えています。地元の人々も警察に対してあまりいいイメージがなかったり、逆に警察官自身は権威的存在と考えたりしているので両者の間に壁がありますが、警察官が歩いてコミュニティーを周り、一般市民の方とコミュニケーションを取る事によって、警察の印象も変わるだろうし、コミュニティーや町の事件の火種になるような情報も早い段階で入手できるような警察になって欲しいと思いながら業務に取り組んでいます。まるで大阪のおばちゃんがおまわりさんにあそこのスーパーの大根が安いとか世間話ができるような警察機関になってもらうのが長い目でみた目標です。

UNVはUN機関に入るための登竜門なので大学院時代はUNVに絞って就職活動をしました。協力隊出身ですと、優遇制度があるのでそれを利用しました。将来携わりたい分野として「開発」「子供」「教育」「スポーツ」でどちらかというとバックグランドが「教育」なのですが、教育系のUNVの仕事を取ることができず、迷いましたが選んで頂いた為今の平和構築の仕事に決めました。なかなか開発系でキャリアを築くのは難しく、全て自分の希望通りの仕事を取るのは大変ですが、少しずつ自分の目指すところに近づけるようにしたいと思います。


4.フィールドワークをめざしている人へ一言

フィールドワーク、現場で調査をしたり、仕事をしたりするのは生活環境、異文化など困難なように思いますが、できる理由を見つけてどんどん現場に飛び込んで欲しいと思います。開発学を学ぶ方は正義感が強く、世の中を良くしたいと考えている方が多いと思いますのでその思いを持って現場を見て、いろんなジレンマを間に当たりにしながらそれでも突っ走っていけるといいのではないでしょうか。現場に行かなければみえてこない世の中のB面を肌で感じて、学業にそして実務に活かして頂けるといいかと思います。