タンザニアの滞在を通して学んだこと

IDDPスタッフによる途上国での活動紹介(2011-2012年)

西田陽子(にしだ ようこ)さん

JYA in Global Studies, University of Sussex

サセックス大学 学部短期留学 所属期間:2011年4月〜2012年3月

執筆:2012年3月

自己紹介

日本の大学4年次を休学し、サセックス大学のJYAという留学プログラムを利用して、現在は開発学部で学んでいます。大学1年次にインドでボランティアに参加し、現地NGOの資金繰りや運営の効率性に疑問を抱き、マイクロファイナンスやBOPビジネスなど民間セクターと連携した途上国開発に興味を持ち始めるようになりました。開発とビジネス両方が学びたいと悩んだ末に、開発学の研究が盛んなイギリスの大学への留学を決意しました。その決断の背景には、バングラディシュへのスタディツアー:BOPYouthや途上国のビジネスや開発に携わる方々との交流を通して、大学時代に学んだ開発にまつわる知識を整理し留学先で学び深めてから社会に出たいと考えたからでした。帰国後は復学し、就職活動をします。大学卒業後は、日本の企業が新興国へ市場開拓をする際のサポートや持続可能な仕組みづくりができる仕事がしたいと考えています。


概要説明

留学中の冬休みを利用して、イギリスのNGO:Original Volunteer経由でタンザニア南部のイリンガで3週間ボランティアとホームステイをしました。ボランティア先の現地NGO:IRUDIに頼んで、農村でのインタビュー調査に協力してもらえました。ここでは、まず現地でのインタビュー調査と考察、小学校での教育ボランティアと街中の本屋から学ぶ教科書不足に対する気づき、最後にホームステイなど現地の人々の暮らしと日本との関わり、IT製品についてご紹介します。


タンザニアの農村でインタビュー調査

途上国の農村部で生活する人々が、どんな課題に直面し、なおかつ製品やサービス面での現状が知りたかったため、2日間で農家50件程インタビューをしました。

↑農村でのインタビューの様子。

質問内容はSimple is bestを心がけ、単純で分かりやすく、数字やYES/NOのみで答えやすいように工夫しました。MDGsを参考にし、教育、公衆衛生、水や電気のインフラ、金融などまんべんなく並べたつもりです。個人的にBOPビジネスへの関心が高いため、開発のフィールドワークというよりも、市場調査の要素が強くなっているかもしれません。


質問項目

  1. 家族構成

  2. 毎月の収入 水の入手方法

  3. 1日あたりの水の使用量

  4. 自宅で電気が使用できるか。

  5. 電化製品の保持:携帯電話/テレビ/パソコン

  6. 貯蓄はしているか。

  7. 子供は学校に通っているか。

  8. 交通手段:自転車/バイク/自動車

  9. 健康上の課題を抱えているか。

  10. もし現金がたくさんあったら、何がしたいか/何が欲しいか。

↑インタビュー時に使用した質問項目をまとめた紙とメモ帳。

質問は紙にまとめ、現地の友人に頼んでスワヒリ語で翻訳した文章を下に掲載。現地語や数字を書き込んだことでコミュニケーションがしやすくなりました。インタビューの回答は持参した左端にうつっているメモ帳に全てまとめて記録。


調査結果

※農村全体の人口比に合わせて正確に統計をとったものではないことを予めご了承ください。設問によっては回答が得られなかった家庭があります。

1. 家族構成

5~7人の家庭が多かったです。中には女性だけで6人家族という家庭もありました。

2. 毎月の収入

この村では5000~20000タカ(=約250~1000円)の収入の農家が半数以上を占めています。150000タカ(=約7500円)以上の所得者は全て医者か教師か公務員です。医者と教師の給料は150000タカ程度と同水準でした。無収入の方もいましたが、中には退職後の教師の公務員の方が含まれています。「来年からタンザニア政府が、公務員には毎月収入の半分ほど支給するかもしれない。」と言っていたこともあり、先進国同様、今後の社会保障の面が気になりました。

3. 水の入手方法

この村は家に水道が通っている家庭は1件もありませんでした。皆近くの井戸や川に水を汲みにいっていました。

4. 1日あたりの水の使用量

家族の人数と水汲み場までの距離によって異なります。1日あたり40~60ℓが60%、80ℓが10%、100ℓがℓ28%、120~150ℓが10%、200ℓ以上が12%でした。

↑水汲み場の様子。

5. 自宅で電気が使用できるか

電気を使用している家庭は50件中4件程度。一部家庭はソーラー、バッテリーやランプを活用していました。

6. 電化製品の保持:携帯電話 70%、テレビ 4%、パソコン0%

7割の家庭が携帯電話を所有していました。パソコンは1件もなく、テレビも1・2件あるかないかでした。

↑携帯電話で音楽を聴く若者。

7. 貯蓄はしているか。

50%の家庭がYESでした。NOと答えた家庭の大半が「貯金がしたくても収入が少なくてできない」とのことでした。

8. 子供は学校に通っているか。

子供のいる全家庭がYES。農村の中心部に小学校があるため就学率は高かったです。

9. 交通手段:自転車 60%、バイク12%、自動車8%

バイクや自動車を保有している人はタクシー業務をやったりと、村人同士で助け合いをしているのが印象的でした。

↑バイクは“SANLG”という中国メーカーが人気だそうです、日本製は欲しくても高くて購入できないとのこと。

10. 健康上の課題を抱えているか。

3割がYES。子供の足への障害や成長不振、夫婦ともにエイズに感染している家庭が2件ほどありました。

11. もし現金がたくさんあったら、何がしたいか/何が欲しいか

最も多かった回答は「もっと良い家に住みたい」でした。大工に頼むのではなく自分たちで数ヶ月かけて家を建てるのが伝統で、家の広さや材料、設備にまつわる要望や不満がありました。次に「商売や起業がしたい」、若者は勤める企業が全然ないから自分でビジネスをやってみたい、農家ではもっとたくさん農作物を売ってみたいという声がありました。「トラクターが欲しい」、「プランテーションがしたい」「家畜が欲しい」といった農作業に関連する実用的な回答も多かったです。他には「子供の教育費にあてたい」「この村から遠い中学校に子供たちを送り届けるバスが欲しい」。また、この農村には男性用の床屋はあっても女性用の美容院がないため、「美容院をやりたい」という女性がいました。

↑農村の風景。

現地調査から見えてきた問題点・実態

1番の問題点は水のアクセスです。この村に水道が設備されている家庭はなく、ほとんどが1キロ近く離れた井戸や川を利用します。水汲みは伝統的に農家の女性の仕事で、毎朝20キロ分のバケツを抱え、何往復もして水を汲みにいきます。インタビューをした高齢の女性は、「朝6時半に井戸に水汲みにいっても、他の女性達に汲まれてもう残っていない。水が足りないときには朝3時に起床して汲みにいく。歳で体力もないから、2往復しかできない。」と言っていました。

次に、携帯電話の充電についてです。7割近くの人々が携帯電話を保持していながらも、自宅に電気が通っている家庭はわずかしかないことから、「どうやって携帯電話を充電しているのか?」と尋ねました。「床屋やパブにいってお金払って充電する。電気が通っている家庭に頼んだりすることもあるよ。」と答えてくれました。お互いに足りないものを補い、支え合う生活が印象的でした。ついつい先進国に住んでいる自身の生活と比較しがちになってしまいますが、彼らには彼らなりに生活のスタイルがあり、それを頭ごなしに否定せず、尊重することが大切だと感じました。

↑自宅で夕食準備にとりかかる女性。

現地調査の難しさ

今回農村でのインタビュー調査をしてみて難しかったのは、コミュニケーションです。言語面や信頼関係が現地調査に大きく影響しました。私はスワヒリ語ができないため、現地NGOスタッフに英語ができる小学校の先生を紹介してもらい、彼に通訳をしてもらいました。

別の町で、自分ひとりでインタビューをやってみたのですが、英語がなかなか通じなかったり、目的の説明や身分証明をしてからじゃないと答えたくないとよく言われ、スムーズにインタビューができませんでした。さらに「質問に答えたから、次は君が答える番だよ。」と、日本の政治の仕組み、経済や震災からスポーツのことまで沢山聞かれました。我々が相手を知りたがっているのと同様に、相手も我々に興味があるのだと感じました。答え方によってはネガティブなイメージを与えかねず、言葉選びを慎重にしなければいけない、そして何よりも自国のことをもっと知らないといけないなと自戒しました。

また、通訳をしてくれたタンザニア人は小学校の先生ということで顔が広く、村人の信頼が厚い人物でした。農村では親切に答えたくれた人が大半でしたが、メリットや金銭的な見返りがないと協力はしないと言われたこともありました。現地の人間を介することでコミュニケーションは改善できます。ただ、項目によって質問者の先入観が含まれてしまうので、事前の打ち合わせや意思疎通が現地調査では大事だと感じました。

私の場合、2日間で50件程インタビューは出来たのですが、本当に彼らの生活習慣や実態を理解したいのであれば、数ヶ月、数年単位で滞在しないと難しいと思いました。例えば、私が訪問した時期は1年のうち降水量が多い雨季で、水が足りない乾季で発生する課題を把握することはできませんでした。だからこそ公的機関などの統計データを参考にすべきなのかもしれませんが、地域ごとで問題は異なり、原因は歴史や社会構造など複合的な要素からなるので、改めて開発の難しさを実感しました。

ボランティアと教科書

小学校で英語と算数を教えるボランティアをしました。教えると言っても、授業中に解く練習問題の丸付けやスペルチェックをするといった簡単なものです。イギリスのNGO経由で申し込んだプログラムだったので、イギリス人スタッフが多く、彼らによる英語の授業をよく手伝っていました。ボランティアして気づいたのは、教科書・ノート・ペンなどモノが絶対的に足りないことです。教科書は日本のように1人1冊ではなく、学校が授業中だけ貸し出す形式でした。街中の路上では、よく教科書が売られているのを目にしました。都市ダラエスサラームに入った本屋では、売られている本の半分以上が小中学校や大学の教材で、それらの大半はイギリスやアメリカなどの欧米諸国の出版社が多かったです。現地の人間による現地語の本は少ないという事実が印象的でした。

↑小学校の教科書置き場。

ホームステイ

申し込んだボランティアプログラムは料金を追加すると、ホームステイが可能でした。現地の人々の生活習慣を知りたかったので、ただホテルに泊まるのではなく、ホームステイを希望しました。ホストファミリーは一夫多妻制のお金持ちで、ホストマザーだけの収入で自分の娘と息子だけでなく親戚までも養っていました。

↑ホストファミリー。

公共交通機関と日本とのつながり

タンザニアでは“ダラダラ”と呼ばれるミニバスが市民の足となっています。料金は1乗り300て(=約15円)、価格は年々上昇傾向にあります。実際に運転されているミニバスの多くが日本の中古車でした。10人以上の乗車できる飲食店や老人ホームの送迎バスがよく活用されています。

↑公共バス“ダラダラ”。道路には日本の中古車がたくさん走っている。

通信

英ボーダフォンによる合弁会社、ボーダコムのUSBタイプのデータ通信製品でインターネットを利用しました。料金はモデム自体が30000タカ(=約1500円)、2週間利用で10000タカ(=約500円)かかりました。

通信料金の支払いと使用方法は、まずSIMカードを購入し、そのSIMカードを携帯電話に差し込み、料金分指定の番号を入力します。料金分入力したSIMカードを内部に挿入し、USBでパソコンに接続すれば自動的にインターネットが使用できるようになります(※写真1を参照)。2000タカ(=約100円)で30分だけ使用することもできます。もちろんインターネット上の画面でも支払いは出来ます、携帯電話と同様、指定の番号を入力します。その入力番号は、写真2のように紙に記載され、それらは雑貨店や路上など売られており、料金が表示されているので必要な金額のみ購入します。

イギリスでは携帯電話のTOPUPの方法と同じです、日本ではプリペイド式だと思い浮かべて頂けると分かりやすいかもしれません。…正直いって回線速度は遅かったです。

写真1)SIMカードとモデム。USBとしてPCに挿入してネットを使用します。

写真2)緑色の紙を内側に指定の入力番号が記載されている。2000タカ分。

写真3)ネット使用中のパソコン画面。

写真4)Sasatelの広告。ボーダコム以外にもネット業者があります。

終わりに

私がタンザニアを選んだ決め手は、何よりも料金の安さと安全性、ホームステイと農村でフィールドワークが出来るかどうか、そしてアフリカ経済の発展を知りたかったからでした。ボランティアに関してはNGOによって参加するだけで10万円以上支払わないといけない場合があるので、目的と内容をよく吟味して選ぶ必要があると思います。今回、インタビュー調査、現地の人々と同じ暮らしをしてみて、異文化理解の大切さを思い知らされました。さらに中国人のインフラ業者がタンザニアの地方にまで道路をつくり、“Chinese Camp”というエリアまでつくって住み込んでいたことから、今後アフリカ経済がどうなっていくのか、ますます興味深くなりました。

↑都市ダラエスサラームの様子。↑都市ダラエスサラームにあった銀行。アフリカ系の銀行が沢山立ち並んでいました。

その他の情報

最近、日本国内の大学生の中ではビジネスを通じた国際協力が人気になっていると感じます。その影響からか、留学やインターンシップ先にインドやフィリピンなどアジア・アフリカの途上国を選ぶ友人が増えていると思いました。私自身は異文化体験だけでなく専門的な知識の勉強に力を入れたかったのでイギリス留学を選びました。途上国は旅行やボランティアを利用して訪問していました。人によって目的や手段は様々です。資金面や健康管理もよく考慮したほうがいいと思います。