エチオピアでの滞在を通して得たもの

IDDPスタッフによる途上国での活動紹介(2009-2010年)

梛野 耕介 (なぎの こうすけ)さん

Graduate Institute of International Development and Applied Economics, MSc in Agricultural Development Economics

レディング大学 農業開発経済学修士課程

執筆: 2010年3月

自己紹介

学部時代より農業開発学を学び、卒業後は、2年間の農産物を扱う専門商社で働きました。学部時代より、大学院で自分の専門をさらに深めたい、と考えていたため、退職し、2009年4月より渡英、語学留学を経て、レディング大学、農業開発経済学修士課程へ進学しました。卒業後は、コンサルタント、農産物流通に関わる仕事に就きたいと考えています。農業開発の分野を選択している理由は、まず、高校の頃から生物が好きで大学で農業を勉強することを決めたことが始まりです。そして、国・地域によって全く異なる農業の多様性に魅かれ、さらに農業で途上国に貢献したいという思いが強くなり、いつの間にか国際協力にたどりつきました。

ここでは、大学院進学前の6月にアフリカ農業の知見を広げるために、エチオピアに約1ヶ月滞在した際の体験について紹介させていただきます。エチオピアを選んだ理由は、テフやエンセーテ(エチオピアの伝統料理「インジェラ」の原料)といった作物への興味、さらに過去に幾度か飢餓が起こったことから、どのような要因がエチオピア国内の食料安定供給に影響しているのかを知りたい、という気持ちからです。


経験した活動概要

修士に進学するにあたり、現場での経験を少しでも積むことにより、論文に反映させたいという思いがありました。偶然にも同じ時期に、博士課程に在籍する大学時代の友人が、エチオピアに農業調査のために滞在すると聞いたため、同行させてもらいました。始めの約1週間は、友人の紹介により、エチオピア北部のラリベラを拠点として、草の根レベルで活動するNGOに滞在しました。そこでは、学校建設事業と灌漑施設を整備し、植林を行う事業の現場を視察させていただきました。その後は友人と合流し、アディスアベバ市内や近郊の村に滞在し、現地の農業や市場を視察しました。


具体的な活動内容・所感

滞在は、約1ヶ月という短いものでしたが、「現場を見ることの重要性」を一層感じました。日頃、机の前に座って勉強しているだけではイメージすることが出来ない、現地の開発プロジェクトや農業の実態、といったものを限られた時間の中で、学ぶことが出来たと思います。

1週間のラリベラの滞在では、まず首都のアディスアベバとの差異に驚かされます。アディスでは、道路も整備され、多くの店があり、人々の交流も活発です。しかし、北部のラリベラに向かうと、道路建設があちこちで行われ、舗装路も急激に減少します。ラリベラから奥地に入ったNGOの活動地域では、道はさらに狭まり人やロバしか通れなくなります。また経済危機によるインフレーションから物価が上昇し、資金調達が難しいNGOの活動にも影響を与えていました。

ここでの滞在は、厳しい環境に住みながらも元気に生きる現地の人々の逞しさを感じました。ラリベラよりさらに奥地に入った村では、実際に植林事業を行う前の灌漑施設の整備を見学させていただきました。山頂付近の湧水を植林サイトまでパイプラインを使って、引いてくる作業を現地の労働者やスタッフと共に行いました。現地の人々は本当にタフです。重いパイプや砂袋を担いで急な山道を登り、運んでいきます。このパイプラインを作る作業は数日間にわたりました。しかし、パイプを繋ぎ、山頂から水が引けた時、さらにパイプを全て繋ぎ終えた時、現地の人々は非常に喜び、盛り上がりました。作業を行っている人々の多くがパイプの終着点に行き、最後の作業に参加しようとするほどでした。あの時の盛り上がりは、「開発」の主役は現地の人々にある、と改めて感じさせられる瞬間でした。

ラリベラ付近の風景。この時期はまだ乾季であったため、より乾燥が激しく、緑が少なかったです。急峻な地形もこの写真からお分かりになるかと思います。

アディスアベバ近辺の滞在においては、北部とは風景が変わります。肥沃な土地が広がり、空港からもアクセスが容易なため、欧州向けの花卉の大規模栽培施設も存在しています。青果物や家畜の市場を見て回ると、ラリベラでの市場と同じく活気がありましたが、規模は大きくなります。市場のあちこちに多くの人が集まり、農産物や家畜、香辛料、日常生活用品等の様々な商品のやりとりが行われています。その人込みの中を時折、紐に繋いだ何頭かのロバを連れた商人や農民が人を押し分けていきます。そのロバの群れに足を踏まれそうになったりもします。その国でどのような農産物が作られているのか、どのような農産物が売れるのかは、市場に行くと最も良く分かります。日本の市場の状況から考えると、価格のやりとりだけではなく、情報も集まっているはずです。

地元の農家に泊まらせていただいた際は、体中を虫に刺されながらも多くのことを学ばせてもらいました。市場には出回らない野菜等を見ることが出来、さらに、地元の人々の農業や日々の生活を直に見ることが出来ました。エチオピアはアフリカで牛耕が非常に盛んな国です。滞在した農家でも数頭の牛を所有していました。牛耕は重労働なため、男性が行います。しかし、8歳くらいの小さな子供でさえも巧みに牛を操り、牛耕を行う姿もありました。自分も牛耕を挑戦させてもらいましたが、牛を思い通りに動かし、畑を耕させるには困難を伴うものがありました。現地語は喋れないので密にコミュニケーションをとることは出来ませんでしたが、農家の人々の底知れぬパワーを感じました。この経験は私の専攻である経済学では見ることは決して出来ず、現地に滞在し、観察することでのみ感じることが出来ます。経済の分析においては、得られた数値を分析することが多く、現場のイメージが湧き難い場合があります。現場をみることと、例えば、需要と供給のバランスのような机上の理論とをすりあわせることの重要性を一層感じました。さらに、現地での経験が大学院で学んでいくためのモチベーションとなりました。また機会があればぜひエチオピアを訪問したいと思います。

首都のアディスアベバから少し離れた土地の様子。同じ頃の乾季であるにも関わらず、北部のラリベラと比べて緑が多かったです。

その他の情報

今回の滞在は、インターンや論文のための現地調査ではありません。講義が中心の大学院で現場の雰囲気を少しでも感じたいという思いから急な予定を組みました。私からの要望に応えてくれた、大学時代からの友人や友人の紹介により滞在を快諾していただいたNGOの方に大変感謝しております。そのため、アドバイスとして、日頃から自分の興味や研究に関する情報収集、大学や外部の勉強会等でのネットワーク作りが挙げられます。また当然のことではありますが、現地に入ればアンテナを高く張り巡らし、自分にとって重要な情報を見たり、現地の人に尋ねることによって収集することが重要です。現地に入ることでしか得られない情報もあるかと思います。