バングラデシュでフィールドワーク

IDDPスタッフによる途上国での活動紹介(2009-2010年)

松月 さやか (まつづき さやか)さん

MA in Education and Development, University of East Anglia

イースト・アングリア大学 教育開発修士課程

執筆: 2010年3月

自己紹介

日本の大学を卒業後渡英し、現大学の大学院準備コースで2009年夏にGraduate Diplomaを取得した後、引き続き修士課程で学んでいます。中学生時代に見たテレビ番組で、世界には学校に行けず厳しい環境で働いている子どもがたくさんいることを知り、衝撃を受けたことがきっかけでこの分野に興味を持ちました。高校時代から夢見ていた国際開発学の勉強、大学院進学、留学を統合した結果今に至ります。開発分野での職務経験はありませんが今回ご紹介するバングラデシュでの研究のほか、タンザニアでボランティア、日本のシンクタンクでインターンとして途上国向けODAに関する調査業務に携わった経験があります。今後は学生中にインターンシップに応募しつつ、日本にて開発に関連する仕事への就職を考えています。


経験した活動概要

【バングラデシュで卒業研究】

バングラデシュへは大学の卒業研究のために行きました。他学部の友人を通じて彼女の指導教官(地理学)と知り合う機会があり、教授の古くからの友人であるバングラデシュ人の先生が当時特任教授として赴任しており、ともにバングラデシュに調査に行くことを聞きました。希望する学生にはフィールドワークの一環として興味に応じた調査を課すことを知り15人の学生に交じって私も参加させていただくことになりました。私にとっては4年生の9月末に当たる時期だったので卒業研究にしようと決めました。私の専攻は社会学でしたが学際的な学部だったため研究内容が個人の裁量に任されていたことも渡航の後押しとなりました。初めての途上国経験はバングラデシュの首都ダッカから車で3時間の小さな農村で始まりました。バングラデシュ人の先生が運営しているNGOの施設を拠点として村内での調査を行いました。

幼稚園の様子

具体的な活動内容・所感

【調査の概要】

私の調査内容は初等教育の就学状況で、小学校の先生と学齢期の子どもたちへの聞き取り調査を予定していました。ラマダン休暇で授業のない期間だったうえに、事前に調査対象者にコンタクトを取ることもできなかったので、行き当たりばったりの調査となりました。地元出身の大学生がベンガル語と英語の通訳として手伝ってくれました。運良く調査対象の小学校で会議中の先生方数人にも会うことができ、小学生の在学状況、教材や奨学金プログラムの普及状況、カリキュラムなどについて聞くことができました。子どもたちには好きな教科や学校を欠席した理由などをアンケート式で質問していきました。またバングラデシュ人の先生の計らいで郡の教育事務所の所長に話を聞く機会にも恵まれました。

【調査結果】

興味深かった結果の一つは、文献などでは国の低い就学率が報告されていますが、実際この農村では教育に関する親の意識も比較的高く未就学児は少なかったことです。小学校の隣にできた幼稚園にまず通わせる家庭もあり、なぜか小学1年生の年齢になってから幼稚園に入学するケースがよく見られました。小学校に通う子どもたちは勉強を楽しんでいる一方で家計を助けるためや成績悪化により退学に至ることもあり、退学経験者はみな青年期以降、低賃金の労働に就いているようでした。他にも2ヵ月間授業を欠席した小学生に理由を聞くと、実家に帰省する母親について行かなければならなかったとのこと。また、双子なのに学年が違う理由をその親に聞くと、国全体で実施している奨学金プログラムは1家庭から同じ学年に2人の子供がいる場合適用されないからなど、驚く実態が多かったです。

【調査の難しさ】

学部で社会調査の勉強はしていたものの、どんなデータをいつ、どう集めるかなど悩むことが多かったうえに、一旦終了すれば簡単には再訪できない地域、異なる言語という制限もあり納得のいく調査内容だったとは言い難いです。事前にある程度仮説を立てて訪れていても予期せぬ結果が得られたりして、帰国後に分析する際に「もっとこの質問を掘り下げるべきだった」などと思ったことは多々あります。また通訳の学生に自分がどういう意図でこの質問をするのかということを理解してもらわないと、本当に聞きたい情報が得られなかったり、通訳の過程で情報が削られたり曲げられたりするのだということを学びました。

ラマダン終了を祝う食事会

【生活環境】

もちろんのことですが生活環境は全く違いました。ラマダン中でしたが外国人には寛容なようで滞在先となったNGOの施設の人は3食料理を用意してくれました。しかしバングラデシュ人が我慢している中で飲食をするのは申し訳なく思いました。雨期直後の蒸し暑い時期、頻発する停電、夜の食堂で電球に寄ってきたハエが天井の扇風機に当たり自分の皿の上にひっきりなしに降ってくるなど耐えがたいことも多かったですが、観光地の少ないこの国は人々も素直で人懐っこくとても魅力的でした。一方で大学を出てもそれに見合う仕事がない、宗教・慣習上女性の社会進出が難しいなどの問題も目の当たりにしました。しかし都市化はダッカから着実に広まっているようでした。

その他の情報

私は、普段から意識していろいろな人に自分の興味のある分野ややってみたいことなどを話すように心掛けてきました。意外とその人が有用な情報を知っていたり、その時は何もなくても後に関係する情報を得た時に思い出して教えてくれたりすることもあります。今回の機会も積極的に動くことが大切だと実感した経験でした。