ケニアNGOでのインターン経験より

IDDP通信:IDDPスタッフによる途上国での活動紹介(2009-2010年)

小倉 あかね (おぐら あかね)さん

BA in Development Studies and Linguistics

School of Oriental and African Studies (SOAS), University of London

(ロンドン大学 東洋アフリカ学院 開発学・言語学学士課程)

執筆: 2010年1月

自己紹介

2007年9月にSOASに入学し、現在学士課程の最終学年に所属しています。高校在学時に「国際開発」という学問があることを知り、開発学に定評のあるイギリスの大学に進学することを決めました。高校卒業後1年間は都内の留学機関にて英語を勉強し、その後渡英しました。渡英後1年間はカンタベリーのカレッジでファウンデーション・コースを取得し、その後現大学に入学しました。開発学を勉強しようと思ったきっかけは、高校時代にタイでの児童買春に関する新聞記事を読んだことです。大学卒業後は、最終的に児童買春・人身売買の問題に関わる活動に携われるよう、キャリアパスを形成していきたいと思っています。これまでに、大学の夏期休暇を利用し、タイとケニアでそれぞれNGOでのボランティア活動、そしてインターンシップを経験しました。

経験した活動概要

ここでは、昨年(2009年)夏のケニアNGOでのインターンシップ経験について書きたいと思います。在英中にサハラ砂漠以南のアフリカの国に赴き、発展の現状を把握したいという思いが常々心のなかにあり、NGOでのインターンシップという形でそれを実現することができました。インターネットで様々なアフリカ内NGOのインターンシップ情報を調べ、そのなかで日本のNICEという特定非営利活動法人が提供しているプログラムを選びました。このプログラムは、NICEと提携している首都ナイロビに事務所を構えるCIVSという小さなNGOで、2ヶ月間インターンシップを行うという内容でした。ボランティアではなくインターンシップという形をとったのは、よりNGOの運営状況に焦点を当てた活動をしたいと考えたからです。インターンシップ期間は2ヶ月で、初めの1ヶ月はナイロビの事務所で事務仕事を担当し、後半の1ヶ月はケニア西部のキスム地方の電気も水道もない村で、そのNGOが実施する地域開発プロジェクトに携わりました。

具体的な活動内容・活動を通して学んだこと

ナイロビ事務所での事務仕事は、そのNGOが毎月発行しているニュースレターの作成、スタッフミーティングにおける運営面での改善点の提案、そのNGO主催のワークキャンプに参加する日本人のための案内の翻訳などでした。地方での開発プロジェクトでは、地域民の自活のために料理釜を作り、それを売るビジネスを立ち上げるサポート、地域の人々がアクセスできる畑作りの手伝い、地域の学校の設備改善などを行いました。

ケニア滞在では人生初めての経験が多数あり、自分の中で価値観も大きく変わりました。まず初めに、外国人であるということがあれほど不便な国に行ったのは初めてでした。家から一歩外に出ると自分の一挙一動に注目が集まる、外国人イコールお金持ちだと思われるので対等な人間関係が築きにくい、犯罪のターゲットになりやすいなど、同じアフリカ人だったらどんなに楽だったろうと何度も思いました。私が今まで訪れたどの国よりも、外国人(ここではアフリカ人以外の人)を特別視する度合いが高いように感じました。植民地時代に根ざした白人への偏見が、現代にも強く残っているようです。そのなかで、やはり外部からの力よりも、地域の住民が必要性を感じて、自ら行う開発および発展が必要だと実感しました。

次に、あれほどまわりの人を信用できない状況におかれたことが、生まれて初めての経験でした。私は幸い何の被害にもあうことはありませんでしたが、町中で強盗やスリにあうことはもちろんのこと、滞在先のホストファミリーに貴重品を盗まれたり、NGO事務所に預けていたものがなくなったりという話をよく聞きました。そのような身近な人々でさえも信用できないという状況は、精神的に非常にきついものがあります。町に出たら、まわりは皆泥棒だと思うくらいの心構えが必要で、特にアフリカ内で2番目に危険な都市とされるナイロビ滞在中は、常に緊張感をもっていました。町中でも足を踏み入れてはいけない危険地帯が決まっていたり、日が暮れてから出歩くのは危険だったりと、自分の行動に制限があることもかなりのストレスになりました。

冒頭に自分の価値観が変わったと書きましたが、一番大きく変わったのは、物質文化に対する姿勢です。日本やイギリスでは、ケニアのように生活用水に制限があることはありません。水は必要なときにいつでもいくらでも使えますし、洗濯は洗濯機がやってくれ、昼夜問わずどこへでも自由に出かけることが出来ます。しかし、そんな不便もどうでもよくなってしまうような魅力がケニアにはありました。あるアフリカについて書いた本に、「アフリカに足を踏み入れると、自分が今まで半分しか生きていなかったことに気づく」というような表現がありました。まさにこのとおりで、ケニアにはものはないけれど、毎日人として最大限に生きた実感を感じられるのです。人間が持っている五感を最大限に活用し、家族や親しい人々と時間を共有し、自然と共に生きる。日本やイギリスをはじめとする先進国では、このような本来自然であろうことが、日常的に欠けてしまっていることが多々あると感じます。ケニアを訪れてから、おしゃれなレストランやカフェ、きれいな服や靴、最新の電子機器などに前ほど心を惹かれなくなりました。それよりももっとあたたかくて幸せで、エネルギーに満ちあふれた大切なものがあることを知ったからです。ケニアで一番印象に残っている風景に、サバンナで見た日の出と、派遣先の村でマンゴーを食べながらのんびりしていた昼下がりの情景があります。人間は、自然との共存によって初めて、最大限に気持ちよく生きていけるのではないかと感じました。幸せは、世間一般の物差しではなく、自分自身の価値観で決めるものだということもあらためて実感しました。ケニア滞在中にお世話になったナイロビのホストファミリー(私はホストファミリーに恵まれ、家が唯一の安らぎの場所でした)、地元民でないと行けないようなところに連れて行ってくれたナイロビの友達、そして行く先々で私を歓迎し可愛がってくれたケニアの人々と出会えたことが、私のケニア滞在を通じての最大の財産です。ケニアから帰ってきた当初は、しばらくロンドンに拒絶感を感じていたほど大好きになった国なので、また機会を見つけて訪れたいです。偏ったメディアの報道により、先進国の人々からは貧困・紛争・飢餓など暗いイメージばかり浮かんできがちなアフリカですが、非常に魅力に溢れた文化と土地、人々が暮らす国だということを、私から伝えていきたいです。


開発分野でのインターン・就職を考えている方へのアドバイス

開発分野でのインターン探し(イギリス国内外関わらず)のアドバイスとしては、できるだけたくさんの情報を集めることをおすすめします。インターネットや雑誌などはもちろんのこと、知人や学校の掲示板などの身近な情報源を大切にしていただきたいです。特に大学の掲示板はあまり見る人がいないのですが、意外と「これは!」と思う情報が載っていたりします。なかには参加費が異常に高い団体などもあるので、たくさんのプログラムを比較した上で、自分の必要にあったものを選んでください。私は現在就職活動のまっただ中なので、他人に助言できる身分ではありませんが、就職活動については早め早めに準備しておくことをおすすめします。個人的には、はじめから分野を狭めて就職先を探すよりも、自分なりに開発に対する様々な関わり方を考え選択肢を増やしたうえで、可能性を探っていくほうが現実的かと思います。