無向グラフ上のリッチ曲率は、2011年に粗いリッチ曲率を離散化することでLin-Lu-Yauにより定義された。これで微分幾何学の視点からグラフを考察でき、現在多くの研究がなされている。一方、グラフは辺の向きの有無によって、有向グラフと無向グラフに分類出来る。グラフの形に注目するコンピューターサイエンスには無向グラフを、グラフ上の流れに注目する交通ネットワークには有向グラフを用いるなどの応用がある。
本講演では、まず有向グラフ上のリッチ曲率を定義して、無向グラフ上のリッチ曲率との違いを説明する。主定理としてリッチ平坦な有向正則グラフの分類を述べる。
1/26 竹内博志(東北大)
【行列を用いた可換梯子型パーシステントホモロジー群の直既約分解】
近年の位相的データ解析では,実データ解析の需要に応えるため,
ジグザグパーシステント加群などの時系列位相的データ解析の手法が提案されてきた.
本研究では,ジグザグパーシステント加群の直既約分解を前提として,現在ガラスのデータ解析に応用されている可換梯子型パーシステント加群の直既約分解を,行列問題を用いた新しい分解アルゴリズムによって達成した.
1/26 浦川直大(東北大)
【概ケーラー多様体のラグランジュ部分多様体を保つカップルドフローについて】
ケーラー・アインシュタイン多様体のラグランジュ部分多様体を平均曲率流で変形すると,
そのラグランジュ性が保たれることが知られている.しかし一般のケーラー多様体ではこれは成り立たない.
そこでJ.D.Lotay氏とT.Pacini氏は,ケーラー計量をケーラー・リッチフローで変形し,平均曲率流との
カップルドフローを考えることにより,ラグランジュ性が保たれることを示した.
本講演ではこの結果をさらに概ケーラー多様体の全実部分多様体に拡張したLotayとPaciniによる結果の紹介と考察を行う.
1/26 田村葉月(東北大)
【完備極小部分多様体の安定性と位相構造】
極小部分多様体のコンパクトサポートを持つ任意のnormal deformationに対し,体積汎関数の第2変分が非負であるとき, この極小部分多様体は安定であるという。本講演では,まず,スカラー曲率非負の3次元多様体内の安定極小曲面について,次に,ユークリッド空間内の安定極小曲面について,最後に,リッチ曲率正のケーラー多様体内の安定極小ラグランジュ部分多様体について,それぞれ,Fischer-Colbrie & Schoen,Micallef,Miyaoka & Uekiの研究結果を紹介する。
1/26 海野智昭(東北大)
【例外軌道が2つのpseudo-free circle actionをもつ5次元多様体について】
Pseudo-free circle action をもつホモトピー5次元球面の、例外軌道の個数に関する“
Montgomery-Yang 問題”という問題がある。本講演では、“Montgomery-Yang 問題”へのアプローチとして、7次元ホモトピー球面に関する1972年の Montgomery-Yang の論文の手法に則り、例外軌道が2つの pseudo-free circle action をもつ5次元多様体を構成し、その特徴などを紹介する。
1/26 久守貴史(東北大)
【グラフ多様体のReidemeister torsionの漸近挙動】
多様体の基本群の表現に対してReidemeister torsionという位相不変量が定義され、
高次元表現に対するReidemeister torsionの漸近挙動は、表現の取り方によって様々な幾何学的な特性を表している。例えば双曲多様体に対しては、その体積との関連がPere Menal-FerrerとJoan Portiによって明らかにされ、またSeifert fibered spaceに対しては山口祥司氏によって、base spaceの2-orbifoldとしてのオイラー標数との関連が明らかにされている。本講演ではこの議論をある種のグラフ多様体に拡張した際の結果について述べる。またそのグラフ多様体のSU(2)表現空間を記述してReidemeister torsionの漸近挙動との関係性も述べる。
1/26 福田端季(東北大)
【アレキサンダー多項式の特殊値によるbranched twist spinの判定】
ホモトピー4次元球面上の局所滑らかで効果的な円周作用について
,軌道空間が3次元球面である場合,例外軌道と固定点の軌道空間における像は弧か単純閉曲線となることが知られている.この例外軌道と固定点の和集合として branched twist spin という2次元結び目が定義される.2次元結び目とは4次元球面に埋め込まれた2次元球面のことであるが,実際 Pao はこの場合にはホモトピー球面は4次元球面であることを示している.
講演者は与えられた2つの branched twist spin が異なるための十分条件を結び目の不変量である初等イデアルを比較することで与えた.本講演では,その結果を紹介し,証明の概略を述べる.
10/06 鈴木康平(京大)
【Convergence of Brownian motion on RCD*(K, N)-spaces】
10/13 Marcos Dajczer(IMPA, ブラジル)
【A class of minimal submanifolds and their associated families of genuine deformations】
Concerning the problem of classifying complete submanifolds of Euclidean
space with codimension two admitting genuine isometric deformations, until
now the only known noncompact examples with the maximal possible rank four
are the minimal real Kaehler submanifolds that were classified in parametric
form by Dajczer-Gromoll. They behave like minimal surfaces since, if simple connected either they admit a nontrivial one-parameter associated
family of isometric deformations or are holomorphic. I will talk of
a new class of complete noncompact genuinely deformable Euclidean submanifolds of rank four but now the structure of the deformations is quite more involved which, in particular, indicates how challenging the classification problem can be. Bbeing minimal, these new submanifolds are also interesting by themselves. I will also discuss the case of similar minimal submanifolds in the Euclidean sphere. In that case and for low dimension thet can be compact.
10/27 鈴木紀彦(東北大)
【粗い曲率次元条件の安定性】
BonciocatはLott-Villani,Sturmにより測度距離空間に定義された曲率次元条件に誤差を加味した粗い曲率次元条件を定義した.この条件は誤差付きでRicci曲率の下限と次元の上限を与える条件である.粗い曲率次元条件は測度距離空間の輸送距離と呼ばれる距離に関して安定性を持つことが知られているが,この安定性は誤差がなくなっていくようなものに関するものである.講演者は誤差を保ったままの安定性について示すことができた.本講演ではそのことについて述べる.なお,本研究は小澤龍之介氏(京都大学)との共同研究に基づく.
10/27 中村聡(東北大)
【K-stability with a divisor and log-Futaki invariant】
In complex differential geometry, it is natural to question whether or not a given complex manifold admits a constant scalar curvature k\”{a}hler metric (CSCK metric for short). Nowadays, it is expected that the answer of this question is “K-stability” condition defined by Donaldson. This question is called Donaldson-Tian-Yau conjecture, and is a central problem in complex differential geometry.
K-stability is formulated by compact complex manifold $X$ and ample line bundle $L$ over $X$. Sz\’{e}kelyhidi generalised K-stability into the pair $(X, D, L)$ where $D$ is a smooth divisor in $X$. And he is conjectured that K-stability for $(X, D, L)$ is equivarent to existence of CSCK metric which has cusp singularity along divisor $D$. This conjecture is also open.
In this article, we introduce a numerical obstruction to existence of CSCK metric which has cusp singularity along divisor $D$. This obstruction was inspired from K-stability for $(X, D, L)$. Finally, we calculate this obstruction in the case of complete intersections in complex projective space.
11/10 直江央寛(東北大)
【Infinitely many corks with special shadow complexity one】
単連結閉4次元多様体のエキゾチック対には常に cork と呼ばれる部分多様体が存在し,
その切除・再接着によって他方が得られることが知られており,
4次元のエキゾチック微分構造の研究において cork は重要な対象と考えられている.
Cork は可縮なコンパクト Stein 曲面として定義されるが,
近年 Lefschetz 束の一種である PALF との関連や,
3次元多様体論における Akbulut-Kirby 予想の反例の構成にも応用されている.
本講演では shadow と呼ばれる2次元多面体から4次元多様体を考え, ある種の複雑性(special shadow complexity)が1である無限個の異なる cork を構成した結果について紹介する.
11/19 Jeremie Brieussel(Universite de Montepellier)
【Speed of random walks, isoperimetry and compression on finitely generated groups】
I will present a solution to the inverse problem (given a function, find a corresonding group) for large classes of speed, entropy, isoperimetric profile, return probability and compression functions. This is joint work with Tianyi Zheng.
11/24 Ling Yang(Fudan University)
【Submanifolds with constant Jordan angles】
To study the Lawson-Osserman's counterexample to
the Bernstein problem for minimal graphs of higher codimension,
a new geometric concept, submanifolds in Euclidean space
with constant Jordan angles(CJA), is introduced.
By exploring the second fundamental form of submanifolds with CJA,
we can characterize the Lawson-Osserman's cone
from the viewpoint of Jordan angles.
12/22 渡邊一義(東北大)
【離散的な微分形式とGauss-Bonnetの定理】
R.Forman氏は離散モース理論を提唱したが, さらにそれを拡張するために, Cell-complex上に定義される離散的な微分形式をChainからChainへの線形写像として定義した. この微分形式を用いて, 外微分やラプラシアンが定義することができ, そこからBochnerの公式を使って曲率を定義することができる. その曲率を用いて1-complexと2-complex上でGauss-Bonnetの定理が成立することが証明できることを紹介する.
12/22 小松尭(東北大)
【d次元整数格子上の離散時間量子ウォーク】
古典ランダムウォークの量子版として導入された量子ウォークは, 数学のみならず量子情報理論, 材料科学, 量子生物学への応用が期待されている. 1次元整数格子上の量子ウォークは古典ランダムウォークとは異なる極限分布をもっていることが知られており, 量子ウォークの推移確率の長時間挙動に現れる極限分布や局在化現象を調べることが主な研究対象の一つになっている.
本講演では, 楯辰哉氏によって定式化された枠組み, すなわち量子ウォークを整数格子上の周期的なユニタリー推移作用素と位置づけその極限分布を調べることを研究の目的とし, 得られた結果を報告する. 主な結果は, ある2次元正方格子上の離散時間量子ウォークの長時間挙動に現れる極限分布を具体的に導出し, その極限分布に現れる密度関数と1次元離散時間量子ウォークに現れる密度関数(Konno関数)の関係を明らかにした. さらに, Franco et al. らによって導入されたalternate量子ウォークと我々のモデルとの関係性を明らかにした.
1/5 高橋卓大(東北大)
【Tropicalization of A_3-curve】
G.Mikhalkinによるトロピカル曲線を用いたA_1曲線のenumerationを,特異点の 位相型について拡張するため,E.Shustinは代数曲線のトロピカル化 (tropicalization)を導入した.Shustinはその応用として,A_2特異点を1つ持つ 曲線と,トロピカル曲線のあるクラスとの対応を構成し,トーリック曲面上の A_2特異点を1つ持つ曲線のenumerationを実行した.
講演ではトロピカル曲線とトロピカル化について概説し,A_3特異点を1つ持つ曲 線のトロピカル化に現れるトロピカル曲線の候補を与えたという結果について紹 介する.
1/12 梅原慶裕(東北大)
【コットン汎関数と3次元共形幾何学】
3次元リーマン多様体が共形平坦であることをはかるテンソル場として,コットンテンソルが知られている.
コットンテンソルの L^1-ノルムを考えることで滑らかなリーマン計量全体上で定義された共形不変な汎関数を得ることができる.これは計量の共形平坦性からの乖離を定量的に測るものと見なせる.
n (> 3) 次元の場合ではワイルテンソルの L^(n/2)-ノルムを考えることで共形不変な汎関数を得ることができるが,この汎関数については比較的多くの研究がなされている一方で,コットンテンソルから定まる汎関数については体系的な研究はなされていない.
本講演では,局所等質閉多様体上のリッチ流のもとでのコットンテンソルの L^1-ノルムの変化についての研究と任意の閉多様体上でのスカラー曲率が定数かつ任意に大きい L^1-ノルムの値を持つ計量の構成について紹介する.
1/12 中田駿平(東北大)
【双曲空間の間の調和写像方程式の無限遠境界値問題】
双曲空間のボールモデルをかんがえたとき、その境界の球面は無限遠集合とみなせる。調和写像方程式の無限遠境界値問題とは、球面から球面への写像が与えられたとき、それを境界値とするような調和写像の存在性・一意性・正則性について論じるものである。本講演では、この問題の基本的な結果としてLi-Tamらによる論文の一部を紹介するとともに、講演者の今後の展望を述べる。
1/19 浅見祐一(東北大)
【グラフの列の収束について】
1/19 中畑佑一郎(東北大)
【リッチ曲率積分条件におけるBishop-Gromov型不等式とその応用】
1/19 山本航平(東北大)
【直積グラフ上のpercolation】
1/19 木村あさ美(東北大)
【リーマン面上の同型でない二つの複素構造の存在】
コンパクトリーマン面はモジュライ空間の理論により
同型でない複素構造を持つことが知られている.
一般の非コンパクトなリーマン面にはモジュライ空間の理論は十分ではないが
J.Winkelmann氏は,リーマン面が双曲型であるという点に着目して
同型でない複素構造の存在を示した.
本講演ではその結果と証明の概要を紹介する.
1/19 山田大貴(東北大)
【リッチ曲率を用いた有向グラフの分類について】
04/07 松村慎一(東北大)
【Asymptotic invariants of cohomology groups and curvatures of holomorphic line bundles 】
複素多様体上の正則直線束の曲率とその直線束のコホモロジー群のテンソル冪に関する漸近挙動の間のいくつかの関係について話します. まずは, 0次コホモロジー群の漸近挙動の主要項の特異計量の曲率カレントを用いた積分表示とその一般化について説明します. 次に, 高次コホモロジー群の漸近的な消滅条件(q-豊富性)の曲率を用いた特徴付けについて考察します. 具体的には, 多変数関数論のAndreotti-
Grauertの定理の逆が成り立つかという問題(Demailly-Peternell-Schneiderの問題)について考察します.
04/21 見村万佐人(東北大)
【固定点性質の新しい代数化 (New algebraization of Kazhdan and fixed point properties)】
可算離散群に対する Kazhdan の性質 (T) は,
「ヒルベルト空間への等長作用が 常に大域的な固定点を持つ」
という固定点性質と同値である.Bader--Furman-- Gelander--Monod は,
この固定点性質を他のバナッハ空間のクラス X に一般化 した固定点性質
(F_X) を定義した.X を測度空間を動かしたときの L_p 空間 たちの族
(p は固定された 1 以上の実数)L_p としたとき,「全ての p に対し
(F_L_p) をもつ」という条件は (T) より真に強く,Gromov 双曲性と
相容れない ことが知られている.
n を 3 以上とするとき,有限生成整係数非可換多項式環上の n×n の
elementary group(n 次正方基本行列たちで生成される群)を「非可換
普遍格子(noncommutative universal lattice,NCUL)」という.NCUL
が性質 (T) をもつかは非常に大きな問題で あったが,2010年に Ershov と
Jaikin-Zapirain のブレイクスルーにより肯定的に 解決された.彼らの
方法はヒルベルト空間特有の幾何を用いるものである.以後,「全て の p
に対して NCUL が (F_L_p) をもつか」は重大な懸案事項であった.
Shalom によるある種の群において代数的に性質 (T) を示す方法(ICM 2006)を
発展し,新しい代数化をあみだすことに より,今年に入って講演者は上記の
懸案を n≧4 のときに肯定的に解決した.「有界生成 (bounded generation)
条件の排除」をキーワードとして,事の顛末をご説明したい.
04/28 本多正平(東北大)
【Elliptic PDEs on compact Ricci limit spaces and applications】
Riemann多様体をGromov-Hausdroff位相で変形させたときにどのような量が連続的に動くのか,という問いは自然である.直径などはそのような量のなかでも自明なものであり,Laplacianの固有値は非自明な例を与える.最近ではSchrodinger方程式,山辺型の方程式,Hodge Laplacianなど,より一般の楕円型の偏微分方程式の解についてもそのような連続性がわかってきた.本講演ではそのような連続性や,それらのRiemann多様体のGromov-Hausdroff極限空間の正則性の研究への応用について紹介したい(本講演はarXiv:1410.3296の内容である).
05/12 福島竜輝(RIMS)
【Anderson模型の固有値の揺らぎについて】
Anderson模型とはランダムポテンシャルを伴うSchrodinger作用素である。
本講演ではこれを有界領域を近似する細かい格子の上で考えて、格子間隔を
小さくした極限を考える。このような設定では多くの場合に作用素が適当な意味で
ランダムでない平均化された作用素に収束する、均質化(homogenization)と
呼ばれる現象が起こることが知られている。これは確率論的には大数の法則に
あたるが、今回は固有値に関してはさらに中心極限定理にあたることが成り立つ
ことを示した。この種の問題は摂動論的に扱われることが多く、小沢真や
Guillaume Balの先行結果があるが、証明の構造上Green関数の二乗可積分性が
必要になることから結果は低次元に限られている。今回はマルチンゲール
中心極限定理を使う確率論的アプローチを考え、高次元の場合にも結果を
得ることができた。本講演はUCLAのMarek BiskupとWierstrass研究所の
Wolfgang Konigとの共同研究に基づく。
05/26 Miklos Palfia(京大)
【Gradient flow in K-convex and CAT(1)-spaces】
We generalize the theory of gradient flows of semi-convex functions established by Ambrosio-Gigli-Savaré for CAT(0)-spaces to CAT(1)-spaces. We show that the so called commutativity property and semi-convexity of the squared distance function is enough to establish the uniqueness, EVI and contractivity of the gradient flow similarly to the CAT(0) setting using the Moreau-Yoshida resolvent. The commutativity property is representing the Riemannian nature of the space.
06/02 千葉逸人(九大)
【パンルヴェ方程式とweight系】
微分方程式のweightとは、Newton図形から定まる自然数の組
であり、方程式の不変量である。講演では、weightに付随する
トーリック多様体を用いたパンルヴェ方程式の解析法について解説する。
また、パンルヴェ方程式のweightは斎藤恭司氏の正規weight系の
理論と密接に関係しており、与えられた正規weight系から、
対応するパンルヴェ方程式とそのハミルトニアンを決定することができる。
06/09 加藤本子(東大)
【高次元トンプソン群のエンド数と相対エンド数について】
高次元トンプソン群 nV は、トンプソン群 V の一般化として Brin により 2004 年に定義された。Vがカントール集合 C の自己同相群の部分群として表されるのに対し、各 nV はC^nの自己同相群の部分群となっている。本講演では、nVのエンド数が 1 であり、相対エンド数を無限大とする部分群が存在することについて述べる。また、相対エンド数を無限大とする部分群を構成する際の議論から、nVが Haagerup property を持つことやコンパクトケーラー多様体の基本群でないことが示される。これらの結果は、Vを扱ったFarley の結果の拡張である。
06/16 服部広大(慶応大)
【リッチ平坦多様体の無限遠の接錐の非一意性について】
非コンパクトな距離空間を,「無限の彼方」から見ることで新たに得られる距離空間を,
元の空間の無限遠点における接錐という.
例えば,小学校で習う反比例のグラフを,2次元平面から誘導される直線距離に関して距離空間とみなせば,
その無限遠点における接錐は,グラフの漸近線,すなわちx軸とy軸の和集合である.
一般に,非負リッチ曲率を持つ完備リーマン多様体には,
無限遠点における接錐が常に存在することが知られている.
しかも,非負リッチ曲率リーマン多様体がユークリッド的体積増大度を持つ場合は,
無限遠点における接錐はある距離空間 X の錐となることが Cheeger-Colding によって示されている.
この X を接錐の断面と呼ぶ.
さらに仮定を強めて,リッチ平坦でユークリッド的体積増大度を持つ完備リーマン多様体に対し,
無限遠点における接錐の一つが滑らかな断面を持てば,
接錐の一意性が成立することが Colding-Minicozzi によって示された.
彼らの一意性定理の仮定の中で,少なくともリッチ平坦性が本質的であることが Perelman とColding-Naber の具体例によって示されている.
本講演では,体積の増大度に関する仮定が本質的であることを示す具体例について説明する.
その具体例として,Anderson-Kronheimer-LeBrun によって構成された
実4次元の完備超ケーラー多様体を用いる.
06/23田中守(東北大)
【Orlicz空間に対する性質(T_B)】
有限生成群がKazhdanの性質(T)を持つことは、任意のユニタリー表現が"ほとん
ど固定されるベクトルを持たない"ことで定義される。Kazhdanの性質(T)は、
Banach空間への線形等長表現に対し拡張され、性質(T_B)と呼ばれている。性質(
T_B)は、特にLp空間の場合に詳しく研究されているが、本講演ではOrlicz空間と
呼ばれるLp空間を一般化した空間に対して性質(T_B)を考察し、得られた結果を
紹介する。
06/26 Anatoly Vershik(St. Petersburg Department of Steklov Institute of Mathematics)
【General notion of exit boundary and phase transition for random walk on the trees】
1.Exit boundary for Markov (non-stationary) compact with the list of cotransition probabilities.
2.Elementary examples ( De Finetti theorem), dynamical Cayley graph and simple random walk on the groups,
3.Free group and its exit boundariy, connection with PoissonFurstenberg boundary.
4.algebraic model of the phase transition.
06/30 國川慶太(東北大)
【一般余次元平均曲率流のトランスレーティングソリトン】
一般に,平均曲率流は有限時間で特異点を持つ.特異点はその第二基本形式のノルムの発散の仕方でタイプIとタイプIIに分類されている.これらの特異点を調べるためには特異点周辺でスケール変換を施した後に現れるモデルとなる部分多様体を調べることが有効である.タイプI特異点のモデルは自己縮小解と呼ばれ,球面や円柱などを代表例にもつ.一方でタイプII特異点のモデルとなっているのが本講演の主題であるトランスレーティングソリトンである.トランスレーティングソリトンは平均曲率流のもとで, 形を変えず定速で平行移動する特殊な解でもある. 超曲面の場合の平均曲率流の研究は1984年のHuiskenによる仕事以来盛んに行われてきた.ラグランジュ平均曲率流など,余次元の高い状況での研究も重要であるが,超曲面の場合に比べて未解明のことが多い.特に,一般余次元トランスレーティングソリトンの研究は自己縮小解に比べてもほとんど進められていない. 本講演では,まず一般余次元トランスレーティングソリトンに関する非存在定理であるベルンシュタイン型定理を述べる.続いて非自明なトランスレーティングソリトンを大量に構成する方法を説明する.これは超曲面の場合とは著しく異なる状況であり,余次元が高くなった場合の特徴である.最後に,一般余次元の完備なトランスレーティングソリトンがある条件下で1次元のトランスレーティングソリトンと極小部分多様体に分裂することを説明する.証明の細部よりも,具体例をたくさん紹介することで直感的に理解していただけるような内容にする予定である.
06/30 三石史人(東北大)
【アレクサンドロフ空間の向きと基本類】
アレクサンドロフ空間とは, (局所的に)曲率が下に有界な距離空間であり,
完備リーマン多様体や完備リーマン軌道体や凸多面体の境界などはその例となります.
アレクサンドロフ空間は, リーマン多様体の崩壊理論の観点から重要であり,
その幾何や位相を徹底的に調べることによって, リーマン幾何へのフィードバックを与えます.
今回は, アレクサンドロフ空間の基礎的な位相幾何学的研究を目標にします.
アレクサンドロフ空間は, 特異空間であり, 一般に多様体でなく, また(コ)ホモロジー多様体でもありません.
その様な空間に対して, それぞれの応用の為に独立な文献で,「向き」の概念が定義されています.
素朴な問題は, その同値性です. また, (コ)ホモロジー多様体や位相多様体で通常考えられる
向きの定義との関係も調べます. 特に, アレクサンドロフ空間が閉であったとき,
「基本類」の存在性と, (適切な意味での)向き付け可能性は同値であるか, という問いも考えられます.
今回は, それらの問題にすべて肯定的解決を与えます.
講演では, 上記の事と, 向きの概念を使った応用や, 今後考えるべき問題を皆様にお伝えする予定です.
07/07 平井広志(東大)
【Weakly modular graphs and nonpositive curvature】
弱モジュラーグラフと呼ばれるグラフと負曲率な距離空間との関係を論じる.
代表的な例として,CAT(0)立方複体の1-スケルトンは,メディアングラフと呼ばれる弱モジュラーグラフになり,
逆にメディアングラフの超立方体部分グラフの族から,CAT(0)立方複体が決まる,というものがある.
このような構成が弱モジュラーグラフのいくつかの部分クラスで一般化できることを紹介する.
例えば,モジュラー束のハッセ図は弱モジュラーグラフであるが,
それから決まるorthoscheme複体と呼ばれる距離を入れた順序複体はCAT(0)になる.
この事実はBradyとMcCammondによって予想されていた.
ほかの例としては,dual polar spaceやEuclidean buildingがある.
また,私自身の専門である離散最適化理論とのかかわりについても述べる.
J. Chalopin, V.Chepoi, D. Osajdaとの共同研究.arXiv:1409.3892の内容紹介.
07/14 Murray Elder(University of Newcastle, Australia)
【Solving equations in free groups】
An equation in a free group is an expression $U=V$ where $U,V$ are words over elements of the group and variables
$X,Y,\dots$. A solution is an assignment of group elements to the variables which make the equation true.
In the 1970's, Makanin constructed a (really complicated) algorithm which decides if an equation has a solution or not. Late
r, Razborov extended Makanin's result to find all solutions. Both algorithms are extremely difficult to understand and imple
ment.
In this talk I will present a new approach, describing a finite graph that encodes all solutions in reduced words, which has
exponential size and can be constructed in nondeterministic quasilinear space. I will try to motivate and explain the probl
em, how it relates to some questions in logic, and give some of the ingredients of the proof.
This is joint work with Laura Ciobanu, Neuch\^atel and Volker Diekert, Stuttgart.
07/21 Nan-Kuo Ho(National Tsing-Hua University)
【Convexity for certain moduli spaces of flat connections】
Convexity of the moment map image is a fundamental phenomenon in symplectic geometry. For example it is related to the Delzant Theorem, and the classification of Hamiltonian symplectic manifolds. The moduli space of flat G-connections over a Riemann surface can be viewed as an infinite dimensional symplectic quotient, or a finite dimensional quasi-Hamiltonian quotient. When G is compact, it has been proved that the moment map image is convex. However, when G is not compact, convexity is not expected in general. In this talk we shall present an interesting example of a certain moduli space of flat connections (with noncompact G) whose moment map image is convex. This is work in progress with M. Guest.
07/21 窪田陽介(東大)
【Co-assembly maps and finiteness of K-area】
GromovのK-areaはRiemann多様体(のホモロジー群の元)上に対する
不変量で,特性類の積分が非自明になるベクトル束の曲率の最小値の逆として定
義される.その値が有限かどうかという問題は多様体のトポロジーにしかよらず,
例えば正スカラー曲率の存在問題などと関係がある.2006年にはHankeとSchick
によってHilbert C*-加群の束を考えるバージョンが導入され,その値が有限で
あることとK-ホモロジー群の中でassembly mapの核に含まれることが同値である
と証明された.本講演では,この結果をE-theoryを用いた議論によって精密化す
る研究について紹介する.主結果は,Gromovによるベクトル束に関するK-areaの
有限性がHankeのHilbert C*-加群束に関するK-areaの有限性と同値であるという
主張である.また,この議論を境界付き多様体に一般化することで,切り貼りに
関するK-areaの有限性の振舞いをよく調べることができる.
09/01, 09/03 Karl-Theodor Sturm(ボン大学)
【Super Ricci flows of metric measure spaces】
A time-dependent family of Riemannian manifolds is a super-Ricci flow if 2 Ric + \partial_t g \ge 0.
This includes all static manifolds of nonnegative Ricci curvature as well as all solutions to the Ricci flow equation.
We extend this concept of super-Ricci flows to time-dependent metric measure spaces. In particular, we present characterizations in terms of dynamical convexity of the Boltzmann entropy on the Wasserstein space as well in terms of Wasserstein contraction bounds and gradient estimates. And we prove stability and compactness of super-Ricci flows under mGH-limits.