02/13, 02/16 Zhenghan Wang
13日 10:30 -- 12:00 数学棟 209号室
16日 10:30 -- 12:00 数学棟 201号室
Lecture 1: Modeling and classification of 2D topological phases of matter
Abstract: Topological phases of matter are gapped quantum phases of matter including quantum Hall liquids and topological insulators. We will discuss theoretical models of 2D topological phases of matter and their interplay with symmetry---symmetry enriched topological phases.
Lecture 2: Topological quantum computation
Abstract: Decoherence of qubits poses great challenge for building a useful quantum computer. Topology provides a solution to this fragility of qubits. We will discuss an application of topological phases of matter to quantum computing---fault-tolerant quantum computation by non-abelian anyons.
日時:01月27日 15:00 -- 於 数学棟 305 講義室
発表者:
15:00 -- 15:20 工藤将「連結な折り目特異点集合をもつ3次元多様体から2次元球面への安定写像について」
15:20 -- 15:40 高橋卓大「平面曲線特異点の実モース化のトロピカル幾何におけるアナロジー」
15:40 -- 16:00 直江央寛「シャドウによる無限個のMazur多様体およびcorkの構成」
16:00 -- 16:20 根本啓介「2橋絡み目補空間のspineの構成によるMatveev complexity の評価」
16:40 -- 17:00 森元裕太「デルペッツォ曲面のモジュライ空間のコンパクト化とケーラーアインシュタイン計量」
17:00 -- 17:20 中村聡「エクストリーマル計量と因子付きの安定性」
17:20 -- 17:40 中田駿平「調和写像列の収束」
17:40 -- 18:00 河野 伸哉「非コンパクト多様体上の完備リッチ平坦ケーラー計量の具体的構成について」
Calabi's conjecture of the K\"{a}hler-Ricci soliton type
本講演では compact K\"{a}hler 多様体上での K\"{a}hler-Ricci soliton 型のCalabi 方程式について考える。
これは Calabi 予想の一般化として Zhu によって導入された方程式である。本講演ではまず、
第一 de Rham cohomology 類 が消えている場合にこの方程式が一意的な解を持つための必要十分条件を与える。
更に第一 de Rham cohomology 類が消えていない場合にこの方程式が解を持つための十分条件も与える。
Metric on the space of quantum metric measure spaces
Gromovは測度距離空間の同型類全体の集合上にbox distanceとよばれる距離関数を導入した.
これは確率測度の間の距離であるProhorov距離を拡張したものである.VershikはGromovに対
してこの距離空間のコンパクト化を構成し, 基本的な測度距離空間の不変量をコンパクト化の元
へと拡張せよという問題を提案した.Elekはこの問題に対して部分的な解答を与えた.彼は量子測
度距離空間とよばれる空間を導入し, 直径1以下の測度距離空間の同型類全体のコンパクト化の
元がこの量子測度距離空間で表現できることを示し, いくつかの測度距離空間の不変量を量子測
度距離空間へと拡張した.本公演では量子測度空間の同型類全体の集合にコンパクト化に適合した
距離が存在し, 埋め込み写像が1-Lipschitzとなることを紹介する.さらにconcentration function
と呼ばれる測度集中に関わる不変量を量子測度距離空間へ拡張し, 量子測度距離空間の列の収束
と不変量の極限について述べる.
01/13 近藤慶(山口大学)
双リプシッツ微分同相定理ー薄滑解析の観点よりー
互いに同相な多様体が与えられたとき、それら多様体間の同相写像を必ずしも
微分同相写像によって近似出来るとは限らない。これは、エキゾチック構造の存在に
起因する。ところが双リプシッツ同相写像ならば微分同相写像によって近似出来るのではと考え
ることは、自然な発想である。例えば、1/4ピンチング球面(同相)定理において条件を満たす多
様体と標準球面間の同相写像は双リプシッツであり、実際、微分球面定理であることがリッ
チ流の手法を用いいて証明されている(Brendle-Schoen)。最近、講演者等は双リプシッツ同相な2
つのコンパクト多様体が微分同相となるための十分条件を薄滑解析(Nonsmooth analysis)
の観点から与えることに成功した。本講演では、その微分同相定理を証明するに至った動機や背
景を含めつつご紹介したい。本講演内容は、田中實教授(東海大)との共同研究に基づく。
一般四次元のtranslating solitonに関するBernstein型定理
平均曲率流方程式の時間大域解の挙動を調べるためには,特異点の分類が欠かせない.特にtype II特異点のモデルとしてtranslating solitonという特殊な部分多様体があり,これを調べることが特異点の分類に役立っている.余次元が1の平均曲率流方程式やtranslating solitonの形状については多くの結果が知られているが,一般余次元では未解明な部分が多い.本講演ではtranslating solitonの具体例を紹介したのち,一般余次元のtranslating solitonに関する非存在定理であるBernstein型の定理を紹介する.この結果は一般余次元のtranslating solitonの形にどのような制限があるかを示すものとなっている.
測度距離空間上の2つの弱勾配の同値性について
12/09 修士論文中間発表会(第二回)
講演40分,質疑応答5分
14:45 -- 15:30 工藤将 三次元多様体から二次元球面へのspecial generic map
15:30 -- 16:15 高橋卓大 平面曲線特異点の実モース化のトロピカル幾何におけるアナロジー
16:15 -- 16:30 休憩
16:30 -- 17:15 中田駿平 調和写像列の収束について
17:15 -- 18:00 森元裕太 del Pezzo曲面のモジュライ空間のコンパクト化とケーラー・アインシュタイン計量
三次元多様体から二次元球面へのspecial generic map
二つの多様体間の滑らか写像全体の集合の中から、写像fを取る。
fの微小近傍に含まれる任意の写像がfと右左同値であるとき、fを安定写像という。
安定写像は定値折り目、不定値折り目、カスプ特異点しか持たないことが特異点の分類で知られている。
特に、定値折り目特異点のみを持つ安定写像をspecial generic mapという。
講演では、三次元多様体から二次元球面へのspecial generic mapをもつ
三次元多様体の分類と、その安定写像の構成について述べる。
平面曲線特異点の実モース化のトロピカル幾何におけるアナロジー
(max,+)代数上の代数幾何学をトロピカル代数幾何学という. トロピカル代数多
様体は位相的には区分線形な構造をしているが, 古典的な複素代数幾何学に類
似 した性質を多く持つ. 一方で, 1970年代に平面代数曲線特異点の実モース化
と呼 ばれる変形からDynkin図形が得られるという結果がGusein-Zade,
A'Campoらに よって得られている. 今回は平面トロピカル曲線における実モー
ス化との類似の 結果とこれからの課題について解説する.
調和写像列の収束について
今読んでいるZahra Sinaei氏の論文「Convergence of harmonic maps」の主定
理について、特殊な場合(多様体列が崩壊しない場合)の証明を紹介します。
主定理は以下の通りです。;M(n,D)内の多様体列(M_i, g_i, vol_i)が測度距離
空間(X, d, μ)に測度付きGromov-Hausdorff収束している。また、各M_i上には
コンパクトリーマン多様体Nへの滑らかな調和写像f_iが定義されている。これ
に対し、もしエネルギー密度関数の族e(f_i)が一様有界ならば、f_iは収束する
部分列を持ち、しかも、その極限はH^1(X, N)における調和写像である。
del Pezzo曲面のモジュライ空間のコンパクト化とケーラー・アインシュタイン計量
コンパクト複素多様体上のケーラー・アインシュタイン計量(以下,
KE計量)の存在問題は複素微分幾何学における中心的な問題であり,2次元で
曲率が正の場合(del Pezzo曲面)はTianにより肯定的に解決されている
(1990). 特異点を許したdel Pezzo曲面上のKE計量存在問題は,最近になって
Odaka-Spotti-Sunによって解決された(2012).それはモジュライ空間の微分
幾何学的なコンパクト化(Gromov-Hausdorffコンパクト化)と純代数的な幾何
学的不変式論(GIT)を用いたコンパクト化が一致することを示すことで証明さ
れる.この証明には,様々な数学の分野が交叉しており,非常に興味深い.ま
た,彼らの結果は上記のTianの結果の別証明を与える.さらに,この方針によ
る一般次元への拡張も期待される. この講演ではSpottiの学位論文と上記
Odaka-Spotti-Sunの論文に基づき,次数が4および3のdel Pezzo曲面上のKE計
量の存在に関する結果を紹介する.
周期ビリヤード軌道とループ空間上のモース理論
周期ビリヤード軌道は,境界付リーマン多様体に対して(境界での反射を考えること
で)定義される,閉測地線の自然な拡張概念である.
モース理論を通じて閉測地線とループ空間の(相対)ホモロジー群が関係することは
よく知られているが,ビリヤード軌道に対する類似の結果を,Benci-Giannoniの仕事
に基づいて説明する.
応用として,境界付リーマン多様体の「容量」という概念を定義して(この量は,少
なくとも特別な場合は,多様体の単位余接束のあるシンプレクティック容量に一致す
る),周期ビリヤード軌道の周長に関する不等式を導く.
本講演はarxiv:1403.1953に基づく.
11/25 小野薫(RIMS)
題目:深谷圏の分裂生成条件とその周辺
要旨:
Abouzaid 氏, 深谷氏、Oh 氏, 太田氏との共同研究に基づき
Lagrange 部分多様体の有限族が深谷圏を分裂生成するための十分条件を
紹介する。また、証明の中で使われるアイデアを具体的な場合に説明したい。
講演40分,質疑応答5分
14:45 -- 15:30 根本啓介 2橋結び目補空間の Matveev complexity
15:30 -- 16:15 直江央寛 shadowによるMazur manifoldの構成
16:15 -- 16:30 休憩
16:30 -- 17:15 中村聡 エクストリーマル計量と因子付きの安定性
17:15 -- 18:00 河野 伸哉 Stenzel計量に関する考察(Study of Stenzel metric)
2橋結び目補空間の Matveev complexity について
3次元多様体の境界からの collapsing で得られる almost simple spine のtrue vertexの数の最小値を
Matveev complexity という.
3次元多様体が閉多様体である場合は,多様体から開球体を1つ取り除き,同様の方法で complexity
を定義する.irreducibleな閉多様体の場合には,一部の例外を除き,このcomplexity
は四面体分割の四面体の最小数と一致することが知られている.講演では,2橋結び目補空間の spine
を具体的に構成することでcomplexity の上からの評価が得られたので,それについて紹介する.
shadowによるMazur manifoldの構成
コンパクトで向き付けられた境界付き4次元多様体上に定義されるshadowは,
1990年代にV.Turaevによって量子不変量の研究を目的として導入された.
一方Mazur manifoldは可縮な4次元多様体で,
指数が0,1,2のハンドルそれぞれ一つずつからなるハンドル分解をもつ.
可縮な4次元多様体とexotic構造には密接な関係があり,
あるinvolutionからexotic pairを構成できることが知られている.
今回このような多様体がshadowから構成できたので紹介する.
エクストリーマル計量と因子付きの安定性
エクストリーマル計量とは,ケーラーアインシュタイン
計量や定スカラー曲率ケーラー計量をその例として含んだ,コンパクトケーラー
多様体上の標準的なケーラー計量である.これらのような標準計量の存在と,
多様体の安定性が同値であるという予想は,複素微分幾何学の中心問題である.
本講演では,まず,ある因子の上で特異点を持つようなエクストリーマル計量
が構成できることを紹介する.そして,この特殊なエクストリーマル計量の存
在に対応すると予想されている,因子付きの安定性を導入し,自ら取り組んで
いる問題について解説する.
Stenzel計量に関する考察(Study of Stenzel metric)
MをコンパクトKahler多様体で第一チャーン類が0である
ものとすると、 Calabi予想のYauの結果によりMはリッチ平坦Kahler計量を持つ。
他方、Mがコン パクトでない場合、完備リッチ平坦なKahler計量の存在に関し
ては、Tianと Yau(1990,1991)、S.BandoとR.Kobayashi(1990)が存在定理を示し
ている。 今回考える多様体はコンパクトランク1対称空間の複素化、すなわ
ち余接束と する。これらの非コンパクトな複素多様体上に、Stenzelは完備リッ
チ平坦 Kahler計量を構成した。この構成では、特にリッチ平坦に関する偏微分
方程式を 対称性を用いて常微分方程式に落として考えること、また完備性にお
いて Symplectic幾何学の考え方を使うことが、ポイントとなる。 またランク
1コンパクト対称空間の複素化は標準束が自明であるから、 Calabi-Yau多様体
となる。Calabi-Yau多様体における特殊Lagrangian幾何学は物理学のミラー対
称性として 知られる現象によりたいへん重要なものとなっている。 とくに
T*S^2のStenzel計量はEguchi-Hanson計量(1978)でありT*S^3の計量は Stenzel
よりも先にCandelasとde la Ossa(1990)により、研究されていた。今後 はこの
ように構成された計量と特殊Lagrangian幾何学との関係について研究して いき
たいと思う。
リッチ曲率が下に有界な境界付き多様体の剛性
本講演では、リッチ曲率ならびに境界の平均曲率が下に有界な境界付き多様体に対す
る結果を紹介する。そのような境界付き多様体に対し、境界の近傍に対するビショッ
プ・グロモフ型の体積比較定理を示した。その体積比較定理を用いることで得られる、
境界の近傍の体積増大度に関する剛性定理について述べる。また境界から垂直に出発
する半直線の存在性に関する仮定のもと得られる、チーガー・グロモール型の分裂定
理について述べる。さらに体積比較定理の証明中の議論の応用として得られる結果に
ついて解説する。
双曲Coxeter群のgrowthについて
双曲Coxeter群とは、双曲空間におけるCoxeter多面体の余次元1の面に関
する鏡映変換で生成される群であり、この多面体を基本領域に持つ等長変換群
の離散的部分群となることが知られている。本講演では、双曲Coxeter群の標準
的な生成系に対するgrowth function, growth rateの結果を述べる。特に、
growth rateとして特殊な代数的整数が現れることについて、既存の結果や講演
者の結果を用いて説明したい。
Isoparametric foliation in spheres and related topics
Abstract: I will give a brief introduction of the isoparametric hypersurfaces
in spheres and talk about our recent works on this subject related with Yau
conjecture on the first eigenvalue, Willmore submanifolds, a problem of Besse,
and so on.
制御された擬準同型と交換子長
共役不変ノルムは次の一般化として、Burago-Ivanov-Polterovichの2008
年の論文によって定義・整理された概念である。
・幾何学的群論、低次元トポロジーにおける交換子長
・力学系理論における分裂長
・シンプレクティック幾何学におけるHofer長
Burago-Ivanov-Polterovichの残した基本的な問題の一つが「交換子長は安定有
界だが安定非有界な共役不変ノルムを持つ完全群は存在するか」というものであ
る。
今回、ユークリッド空間のハミルトン微分同相群の交換子群が安定非有界な共役
不変ノルムを持つことを示し、特にBurago-Ivanov-Polterovichの問題を解決し
た。それについて解説する。
この共役不変ノルム構成の際に用いたのがEntov-Polterovichによる「制御され
た擬準同型」のアイデアであり、これにより題の「制御された交換子長」の安定
非有界性を示した。
計算ホモロジーによるアモルファスシリカの構造解析
原子が並進対称性・周期性をもって配置されている結晶構造と違い、ガ
ラスなどに見られる「アモルファス構造」には特徴がないと言われ、内在する
構造を特徴づける指針が明確に与えられていないのが現状でした。今回は与え
られた点データに内在する幾何学的情報をスケールの変化を介して捉える「パー
システントホモロジー」を応用して、アモルファスシリカを例に非晶質構造を
もつ物質の幾何学的視点からの特徴付けを試みます。数学の外の分野の全く種
類の異なる対象に対して、ホモロジーが持つ可能性の一端を感じていただけれ
ば思います。本研究は東北大学WPI-AIMRの中村壮伸助教、平田秋彦准教授、西
浦康政教授、九州大学IMIの平岡裕章准教授、Emerson Escolar氏との共同研究
です。
Upper escape rate of random walks on weighted graphs
For a continous time symmetric random walk on a graph(with weights), we
are interested in how far it can run in large time. An upper bound can be
given in terms of volume growth of balls with respect to a suitably chosen
distance function. A little surprisingly, this upper bound has the same
form as that for a diffusion.
Indeed, for the proof, we will realize the random walk as a trace of a
diffusion on a suitable metric graph and then compare the escape rates by
estimating the occupation time of the diffusion on vertices of the metric
graph.
タイトル:2次元軌道体群の円周への作用の有界オイラー数
アブストラクト:Burger,Iozzi,Wienhardは連結かつ向き付けられた有限型
の穴あき曲面の基本群の円周への作用に対して有界コホモロジーを用いて有界
オイラー数を定義した.有界オイラー数を含むMilnor-Wood型の不等式が成立し
その最大性はフックス作用を半共役を除いて特徴付ける.被覆を考えることに
より有界オイラー数の定義は2次元軌道体群の作用に対して拡張される.
Milnor-Wood型の不等式およびフックス作用の特徴付けはこの場合にも成立する.
この講演では,モジュラー群などのいくつかの2次元軌道体群のフックス作用の
持ち上げがいつ有界オイラー数により特徴づけられるかについて記述する.
境界とCoarse Baum-Connes予想
Coarse Baum-Connes予想に対する,いささか古典的なアプロー
チである,境界を用いた手法について述べる.応用として,完備負曲率で有限
な体積を持つRiemann多様体の基本群の,Roe代数のK群が具体的に計算できる事,
及び,CAT(0)群とある種の相対双曲群の直積の群に対してCoarse Baum-Connes予想が
成立する事を紹介する.どちらも証明の要は,空間の「よい」境界を構成する事である.
スペシャルラグランジュ部分多様体の特異点解消の一意性
スペシャルラグランジュ部分多様体はカラビ・ヤウ
多様体の体積最小ラグランジュ部分多様体である。例えば、カラビ・ヤウ多様
体が複素3次元ならば、スペシャルラグランジュ部分多様体は実3次元であり、
高次元極小曲面といえる。高次元極小曲面の特異点の研究はあまり進んでいな
い。
スペシャルラグランジュ部分多様体は高次元極小曲面の中の特殊なものである。
例えば、一般の極小曲面は2階の偏微分方程式の解として定義されるが、スペシャ
ルラグランジュ部分多様体は1階方程式の解となる。同様のことがYang-Millsイ
ンスタントンについても成り立つ。
4次元ゲージ理論ではYang-Millsインスタントンのモジュライ空間をうまくコン
パクト化することができ、それを使って、例えばDonaldson不変量が定義される
等、色々応用がある。シンプレクティック多様体の擬正則曲線についても同様
のことが言える。しかし、スペシャルラグランジュ部分多様体の場合は特異点
の解析が難しく、モジュライ空間をうまくコンパクト化することは、4次元ゲー
ジ理論や擬正則曲線の理論よりもずっと難しい。
私はスペシャルラグランジュ部分多様体の特異点が単純な場合(接錐が重複度
1の安定T^2錐になる場合)に特異点解消の一意性定理を証明した。この場合は、
モジュライ空間のある近傍に限って、4次元ゲージ理論や擬正則曲線の場合と同
じことができる。
他にも、2つのスペシャルラグランジュ部分多様体の横断的交わりの特異点解
消の一意性定理も証明した(Dominic Joyce, Oliveira dos Santosとの共同研
究)。安定T^2錐より横断的交わりの方が例は作り易いが、横断的交わりは一般
には対称性が無いため、一意性定理に関しては安定T^2錐よりはるかに難しい。
Dominic Joyce, Oliveira dos Santosとの共同研究では、ある深谷圏の対象に
なるものに限って、一意性定理を証明した。深谷圏の対象になるという仮定は
ミラー対称性の文脈では自然なものである。
調和関数と平行平均曲率ベクトル曲面
3次元ユークリッド空間内の極小曲面論は複素関数論と密接に関係し
ている。本講演では、調和関数と深く関係している曲面があることを報告する。
それは複素2次元非平坦複素空間形内にあり、平均曲率ベクトル場が平行
でケーラー角度関数はある調和関数から定まる。逆に、 リーマン面上の与え
られた調和関数に対し、複素射影平面や複素双曲型平面内にそのリーマン面か
ら平行な平均曲率ベクトル場をもつはめ込みが構成できる。
境界付きコンパクト多様体の二階楕円型微分作用素のマルコフ性について
本講演では,境界付きコンパクト多様体で定義された,
ドリフト項とポテンシャル項をもつ,一般には非対称な二階楕円型作用素の
マルコフ性の特徴付けについて議論する.紹介予定の結果は,
M. BordoniとS. Gallotとの共同研究により得られたものである.
5/13 入江博(東京電機大学)
非ハミルトン体積最小なハミルトン安定ラグランジュトーラスについて
複素 Euclid 空間の標準的トーラスが Hamilton 微分同相写像による変形の下で
体積最小(Hamilton 体積最小)になるか?という Y.-G. Oh の予想があったが、
この予想には反例があることが Viterbo により指摘されていた。
本講演では、
(1) 3次元以上の複素 Euclid 空間のほとんどの標準的トーラスが Hamilton 体積最小では
ないこと、
(2) 3次元以上のコンパクトトーリックケーラー多様体のトーラス軌道にはハミルトン体積最小
ではないものが存在すること、
を説明したい。(小野肇氏(埼玉大学)との共同研究)
4/22 田中守(東北大・WPI-AIMR)
有限グラフの中央固有値について
結晶中の電子密度分布を近似する1つの簡単なモデルにTight bindingモデルが
ある。これは原子を頂点とし、結合を辺としたグラフ上で、自由電子の分布関数
をグラフの隣接行列の固有関数で表現するものである。材料科学において、その
グラフの中央固有値付近の固有値分布が重要であることが多い。
そこでセミナーでは、有限グラフの中央固有値についてスペクトルグラフ理論で
知られている結果を紹介したい。
Group approximation in Cayley topology and coarse geometry, Part I: coarse embeddings of amenable groups
本研究は酒匂宏樹氏(東海大)との共同研究である.自然数 k をひとつ固定し,k 元
からなる生成集合を持つような有限群とそうしてとった生成集合の組 (G_m,S_m) (この組を
k-marked 群という)の無限列を考える.marked 群からは Cayley graph を作ることができ,
それによりそれぞれの marked 群を距離空間と思うこともできる.一方,k-marked 群全体の空間
G(k) には Grigorchuk によって定義された Cayley 位相というコンパクトかつ距離付け可能な
位相が入る.本研究では,有限 k-marked 群の無限列 {(G_m,S_m)}_m に対し,次の 2 つの関係
について述べる:
◎有限距離空間を併せてできる無限距離空間の距離空間としての性質(coarse property);
◎この無限列の G(k) の中での "無限遠点境界"(Cayley 境界)に現れる群の性質(group property).
より具体的には,以下の項目について話す予定である.
・Cayley 位相による収束 = Cayley graph の色つき Gromov--Hausdorff 収束と,その例;
・coarse property の例(郁の property A や coarse embedding など)と group property の例
(従順性など);
・主定理とその応用例.特に,{SL(2m+1, Z/p_mZ)}_m(p_1<p_2<…<p_m<… は素数の列)の各生成集合
たちのシステムを変えたときの対応する marked 群の無限列からできる無限距離空間の振る舞いの
変化について.
予備知識は特に仮定せず,上のアブストラクトに出てきた用語を知らなくても問題ないように
お話ししたい.例を豊富に用いて説明をする予定である.
カレントと測度ホモロジー
カレントはド・ラームによって微分可能多様体の微分形式の成す空間の連続双対の元として定義されました.
2000年に Ambrosio と Kirchheim は, 距離空間のカレントを, 形式的な
微分形式の空間を用意する事により, その双対として定義しました.
特に, コンパクト台を持つノーマルカレント全体は鎖複体を成します.
さて, 位相空間が局所可縮という性質の距離空間のカテゴリーへの類似として,
講演者は, 距離空間が弱局所リプシッツ可縮という概念を導入しました.
完備リーマン多様体, proper CAT 空間, 有限次元アレクサンドロフ空間など,
距離空間の幾何学で扱われる多くの対象が, この性質を満たす事が分かります.
今回は, 弱局所リプシッツ可縮距離空間を対象とし局所リプシッツ写像を射とする圏の上で,
上記のカレントの複体のホモロジーと測度ホモロジーが自然に同型になる事を証明しました.
ここで, 測度ホモロジーとは, サーストンによって定義された位相空間のあるホモトピー不変量です.
講演では, これらの定義や証明のアイディアを紹介いたします.