ポートフォリオという言葉は、もともとの意味は「紙の資料を束ねたもの」であるが、現在ではさまざまな場で用いられている。ネットワーク情報学部生の場合は、主に3つの場における「ポートフォリオ」の意味がそれぞれ異なることを、まず理解しておきたい。
クリエイターが、自分の履歴や能力を組織の採用関係者に伝えるための作品や活動をまとめたものをポートフォリオという。企業への就職活動、クライアントへの売り込み、プロジェクトメンバーへのアサイン(任命/仕事割り当て)などの際に、自分に何ができるのか、普通の面接だけでは見えないことをアピールするための重要なツールとなる。
学びの場において、さまざまな活動やそれを通して学んだ経験を逐次記録し、ファイリングしてふりかえれるようにしたものをポートフォリオという。それぞれの授業では、その場だけの単発的な活動になってしまいがちなものを自分自身で再度組み立て直す。そしてふりかえって全体像を見渡してみる。それらを通して単独の課題としては見えなかった新しい接続や自分の理解度の変化を見出し、自分自身の学修に役立てていくためのツールである。(後期に扱う予定)
自分の保有する資産を、(それぞれ性格が違う)金融商品に分割して運用していくかの具体的な組み合わせのことをポートフォリオと言う。「ポートフォリオを組む」ということは、どのような投資信託を購入しようとするか、株はどの銘柄とどの銘柄をそれぞれ何株ほど持つか、それによってなるべく損しないで、長期的に自分の資産を最大化できるように検討をするという意味である。
学生の時点では、3)の文脈でこの言葉を使うことは比較的少ないが、1)と2)は非常に混同しやすいので気をつけよう。フィールド演習で課されているポートフォリオは、1)「自分の履歴や能力を、組織の採用関係者に伝えるための作品や活動をまとめたもの」の意味である。
ここでは、1)の「自分の履歴や能力を、組織の採用関係者に伝えるための作品や活動をまとめたもの」を、便宜的に「就活用ポートフォリオ」と呼ぶ。
企業にとっては、エントリーシートの文章や面接の受け答えだけでは志望する学生が持つ潜在能力の判別が難しいが、ポートフォリオがあることで、過去の活動実績やアウトプットする能力などを見ることができる。一方で学生にとっては、採用時の一発勝負ではなく、経験を蓄積し、継続的に改善・努力することができる。つまり企業側・学生側の双方にとってメリットがある。
もともとデザイナー採用では何十年も前から必須であったが、近年ではクリエイターをめざす学生や、創造的な活動に取り組んだ学生を採用したい企業の双方の裾野が広がったこともあり、多くの職種(映像やエンジニア、ディレクターなど含む)にも広がりつつある。必要になってから急に準備できるものではないので、Dコース生は就活が本格化する冬までに作成しておくことが望ましい。
大きく分けて、以下の3つがある。
1)紙媒体のレイアウトを想定してつくる場合
紙に出力した冊子
PDFに書き出してスクリーンで見れるようにする
2)ブラウザを想定してつくる場合
自分でコードを書いた自作サイト
CMSを用いた自作サイト(Wordpress/ Movable Typeなど)
ノーコードサイト作成ツールを用いたサイト(Google site / Adobe Portfolio Studio/ Webflow /Wix / BiNDup / Strikinglyなど)
3)Webサービスを利用する場合
SNS(Instagram / Pixiv /などに作品掲載)
クリエイター向けポートフォリオサービス(Dribbble/ Behance / Adobe Portfolio などに作品掲載)
就活マッチングサービス(Re:designer for student / vivivitなどにPDFを掲載)
開発プラットフォーム(Githubなどにソースコードを掲載)
どのメディアにも利点と欠点があり、学生の志向性/専門性の違いもあるので、どれがよいのかの答えは一概には言えない。ただ、ここ2年ほどオンライン面接が主流なので、今後もスクリーンでみれるようにつくることは必須だろう。
1)採用の初期段階の書類審査の際
企業にエントリーする時点でフォームからPDFファイルやウェブサイトのアドレスを添付するかたちで提出し、書類審査に用いられる。必要書類にポートフォリオが挙げられている場合は、提出できないと門前払いとなるが、必須ではない場合でも重要な判断材料になるので、提出できたほうが確実に有利になると言えるだろう。
2)作品をプレゼンする際
企業によっては、選考が進んでから「学生時代に力を入れたこと」の一環として、面接に持参して面接官向けにプレゼンする場合がある。(「なにか見せられる資料がある場合は持ってきて」と言われたことがあるOB/OGは多いそうだ)
Check Point 1 / 志望する会社/職種を想定して対応しているか?
例えば、アプリのユーザ・インタフェースのデザイン職を志望するなら、それに関連した制作実績がわかるものを準備すべきであって、イラストや写真をたくさん載せたところでアドバンテージにはならない。また、(心を込めた手紙と同じように)全部同じ内容で攻めるのではなく、本当は希望する会社ごとに相手を考慮して作り変える必要がある。
Check Point 2 / ポートフォリオでみせるべきことの焦点はあっているか?
プロジェクトや応用演習の作品は基礎的なもので成果にならないような気がするかもしれないが、問題対象へのアプローチによっては本質的なこともあるので、まとめ方次第である。例えば、デザイン職の場合では、成果物の見栄えの良さよりも、どのくらい調べているか、つくったものを実際の現場で使ってどう評価して、どのように作り直したか、などのプロセスを踏んでいるかの方が重視されることが多い。(教員は以前、「プロジェクト」において、街の中でのワークショップの仮説検証のトライ&エラーを一年間で6回繰り返して、その活動と考察をまとめたポートフォリオが某大企業の採用担当の人に高く評価された場に居合わせたことがある)
Check Point 3 / 課題をそのまま載せてないか?
課題としてとりくんだものは、主体性を持って説明する必要がある。先生にやらされたようにまとめるのでは、実績にならない。1週目にこれ、2週目にこれ、3周目にこれ、のように進行順のメイキングを羅列するのではなく、成果物を説明するために、強調すべきところを強調した見せ方になるように順番を組み替えて記載すること。(現状の皆さんの提出物は、提出された時系列のまま・課題のままが多いので、ここが非常に気になる)
「これはなにか」「なぜつくったか」「どのように発想したか」「どのように進めたか」などの観点で、自分自身で決めてそうつくった、という主体性を全面に出して組み立て直すことが必要である。なお、見出しは適宜変えること。
✕ アクタント・マッピングキャンパスを書いた
◯___をとりまく関係性を整理するために、アクタント・マッピングキャンパスを用いて検討を行った。そこから「__」という問いを抽出した。(メソッドを使ったことだけをアピールするのは基本的にダメ)
成果物を紹介するサイトの見せ方の例 tsumi-ishi / はらぺこいわし / あさまのぶんぶん
(学生作品を紹介する場合は、商品のようにセールスポイントをアピールするわけではないので、メイキング/制作プロセスを記載することも重要であるが、こういった大事なポイントの説明をしたあとに記載したほうがよい)
Check Point 4 / 他人がやったことを自分の手柄のように書いてないか?
最近はグループワークが増えて、どの会社も個人の能力を見抜くのに苦労している。グループワークでどこを担当したのは、明確に示すこと。「盛る」ことも場合によっては必要になることもあるが、虚偽を記載するのは絶対にいけない。フィールド演習は個人課題なので「個人制作」とはっきり書く。
Check Point 5 / ちゃんと未来を見ているか?
ググって見つけた他人のポートフォリオ実例や作り方解説記事を見ていると、その通りに作ればいいような気がしてくるが、大きな間違いである。検索してひっかかるものは基本的に「過去」に作られたコンテンツであり、いま現在でも正しいとは限らない。また、自分で考えようとしない人ほど、安直なキーワードで引っかかった上位の情報源からパクろうとしがちである。結局、失敗しないことを求めれば、小さくまとまったものになってしまうことには気をつけたい。
諸君らは「未来」をつくりだすのだから、過去を参照したとしてもそれを乗り越えることを目指していく必要がある。時代はすこしづつアップデートされている。例えば、スマホのUIが少しづつ変わっているように。ポートフォリオをどうつくるべきかも、同じように時代に合わせて変化している。
Check Point 6 / プロフィールの方向性は、それで合っているか?
就活用ポートフォリオは、一冊まるごとが企業へのエントリーシートであるとも言える。プロフィール写真は、タレントのオーディションのためではなく、その組織に対して「チームメンバーとしてともに働きたい」とアピールするためのものである。写真にはどんな印象をもたれるかを、立場の違う人(できればビジネスマン)にチェックしてもらおう。人の顔に隠された本音はみな意識の水面下で敏感に感じ取るので、気をつけたい。
Check Point 7 / それで本当に完成か?
諸君らのように成長段階の場合は、日進月歩で自分にできることが増えていくので、ちょっと時間が経って自分の成果物を見返すと、なんだか稚拙に感じてしまって掲載をためらう場合もあるだろう。その場合は、以前の課題を再制作したと断った上で、作り直して掲載しても全く構わない(むしろ積極的に改善するのはいいことである)。したがって、ここまでやればゴールという明確なものはなく、「永遠のベータ版」のつもりで、改定し続ける気持ちを持たなければならない。
Check Point 8 / Done is better than perfect !
ポートフォリオは「ここまで終わらせよう」と強く意識しないと、いつまでも終わらない。(決心がつかず、結局いつまでも作りだせない/まとめられない学生も多い)。いくつかのバージョンに分けて、そのバージョンの目標を決めてそれをいつまでにつくるかの締め切りを決めてみよう。自分の身の丈以上のものが都合よくできるわけではないのだから、その時点で「できたポートフォリオが、いいポートフォリオ」なのである。 "Done is better than perfect" (Mark Zackerberg)
成果物1までをまとめたものを、企業に提出することを想定したポートフォリオとしてまとめる。まだ作品と言えない場合も、仮にまとめること。次の2ページとする。
まずは、試作してみよう。
1)Topページ / 含むabout
・Topにはオリジナルなタイトルをつける。「ポートフォリオ」というタイトルは不可。(写真集に写真集とつける程度には、ひねりがなさすぎる)サブタイトルとしては問題なし。
・簡単な自己紹介をいれる。自分のスキル、志望職種などを記入する。自分の写真はここにいれる。ワンポイント的に表示させるか、背景的に表示させるかは自由。
2)成果物/プロセス
・撮影した写真を用いて制作したものの概要を紹介する。レポート同様に「だ、である」体で書くこと。
・タイトル、制作期間、利用材料、分担パート(※この場合「個人制作」と書く)
・課題の進行プロセスではなく、説明のためにわかりやすくなるように組み替えた順番で記載すること。後付けの言葉でコンセプトを説明することは、決して嘘になるわけではない。
✕ 1週目にこれ、2週目にこれ、3周目にこれ、を課題としてつくらされた。
◯ 「これはなにか」「なぜつくったか」「どのように発想したか」「どのように進めたか」(自分の主体性を全面に出して組み立て直す。見出しは適宜変えること!)
締切は、7/31(月)17:00
とりあえず「学内のみ公開」の設定で良いが、インターン採用などで必要になった際には、いつでも「一般公開」できるようにしておくこと。
2つの選択肢を用意したので、自分でどちらかを選んで制作すること。
1)Google Siteを利用して制作する。
昨年の基礎演習で利用したように、ノーコードでWebサイトが制作できる。基本的には技術の問題はなくなり、だれでも簡単につくれる。(随時バージョンアップしているようで、日本語のフォントサイズ調整や文字間調整もできるようになって読みやすくなった)
2)自分でコードを書いて自作する
Webデザイナー/Webのフロントエンドエンジニアを目指している学生は、HTML/CSSのコーディングスキルを武器にしたいこともあるだろう。ノーコードツールで制作したものでは、技術的な差別化ができないため、そういった目標を持っている場合は自作を推奨する。フレームワークの利用も可。その場合は学部サーバーのディレクトリ、もしくは自分のサーバーにアップしてアドレスを投稿すること。
ふりかえりダイアローグ
2〜3人でグループをつくり、今後にむけてどうするかを共有する。もし、似たテーマを探っている場合は、お互い方向性を棲み分けていくことができるかもしれないので、この機会に話しておくと良い。
(20分〜30分程度)
成果物1の制作を通して
自分の発表へのフィードバックコメント、教員・スタッフからの総評、 振り返りダイアローグなどを総合して、成果物1についての自己評価及び今後の活動にむけた検討を行い、フィールドノートにまとめる。
1)ポートフォリオ
成果物1までをまとめたものを、企業に提出することを想定したポートフォリオとしてまとめる。締切は、7/31(月)17:00
1)フィールドノートをつける(5本/5週間分以上)
7,8,9月分の活動について、7月のプロジェクト前やインターン中などは書けないだろうから免除するが、3ヶ月の間に、最低5本/5週間分は活動についてフィールドノートを書くこと。授業回数全15回+夏課題分5週=20本がフィールドノートの必須の提出回数となる。
また本日の分は夏課題に含めず、前期まとめとして、7/4 23:59までに提出する。
もちろん、それ以上を毎週書いてもかまわないし、内容が充実している場合は評価に加味する。
2)成果物2の取り組み・・・10/4 発表会
成果物1までの活動および、夏季休暇の活動をもとにまとめた成果物2について、10/4に成果物2の発表会を行う。この演習主旨として、つくったものがどのようになっていくかについて継続して観察していくことが大事なので、定期的に活動を行うと良い。毎週「時間が足りない」を言い訳にしがちだった人は、時間があるときならば、充実した活動を行うことができるだろう。
✕ 頭の中だけで、あれこれやらない理由を考えていた。
△ ___をつくってみた。
◯ ___をつくってみて、こんなことが実際に起こった。それによってこんなはたらきがうまれることがわかった。