(1)奈良・平安
奈良時代の鏡は、唐鏡と和鏡両方の特徴を兼ね備えた鏡である。(ここでの和鏡は唐独自の生物やモノなどを和風化したということ)利用法としては、仏教が盛んになってきた時代を背景として祭事などの道具として使われることが多かった。一方平安時代の鏡だが、この頃になると化粧道具として鏡が平安貴族の生活に根差したことや国風文化が確立する。それもあり、鏡の文様は従来の唐鏡をモチーフにしたものから自然の趣を写実的に描いた日本的なものとなる。具体的には菊・松・梅・鶴・鷲などといった『枕草子』や『源氏物語』や和歌集で取り上げられるものが挙げられる。
この瑞花鴛鴦八稜鏡は平安時代後期に作られた鏡です。特徴としては、8か所の稜(プリズム)を持つ銅鏡で、仕上がりが上等なことでも有名です。外面の内側には吉兆の文様である瑞花唐草文と鴛鴦(おしどり)の文様が紐(ちゅう)を中心に点対称に配され、足を紐側に向け、左後ろに振り返る構図となっており、外圏には簡素化された唐草を鋳出しています。
※ 瑞花(ずいか)・・・ここでは豊年のしるしであるめでたい花のこと。
鴛鴦(えんおう)・・・オシドリのこと。オシドリは古くから夫婦仲の良いことのたとえとしたりするなど縁起の良い生き物とされている。
八稜鏡(はちりょうきょう)・・・分かりやすく言うと、この形は花の文様を形どったものである。
(2)唐
唐鏡の大きな特徴としては、彫刻の技法が非常に優れていることである。具体的な技法を説明すると、光と影の表現をする彩画やヤコウガイやオーム貝などの貝殻を砥石などですり減らして板状の欠片にして、それを文様の形に切り装飾にする螺鈿がある。
青銅の六花鏡体に、文様を打ち出した銀板を貼り付け、その上に鍍金をほどこしている。主に7世紀前半に流行した装飾性の強い鏡である。この花は別名六つ花とも呼ばれているのだが、名前でも分かるように花弁のところに角が六つある花の事をさし、この鏡でもその特徴が如実に出ている。
※走獣(そうじゅう)・・・走獣は今でいう獣であり、具体例としては虎や猿、犬といった実在の動物から龍や唐獅子などの想像上の動物も含む。
八掛(はっかけ)・・・八角形の鏡のこと。
(1)鎌倉・室町
まず鎌倉時代だが、これまであった信仰的な性格というのは薄れ、実用面に重点が置かれている。それと共に形も大形化し、鏡の厚さも増し、材質も優秀な白銅を用いるようになった。室町時代は技術的には高度化するもの、鎌倉時代に見られた陰影が現実のものとなる。文様はより図案的で、戦乱の世となる予兆を感じさせるものとなっている。
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菊花双というのは平安時代後期からその元となった菊花文(これは花の菊をモチーフとした文様のこと)はあったが、ここでの菊花双はこれまでの菊花文に洲浜と呼ばれる楕円形の板に短い脚をつけ、そこに岩木・花鳥を飾る置物の要素を加えたものがこの菊花双である。
(2)高麗鏡
高麗鏡は同時期の鎌倉・室町や中国鏡の鏡によく似ており、この時代の鏡としては少し異質なものである。
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八掛鏡は本来、風水術などで使われる道具の一つで真ん中に鏡を埋め込んで周りに先天図の八掛を記すものである。が、ここにある八掛方鏡はその痕とみられる文様が見られなくなってしまっている。ただ、この意味での八掛と八掛方鏡は繋がりは完璧にあるのか、あったとしても鏡として使われたのと風水術として使われたのはどちらが先なのかということに関しては良く分かっていない。
※方鏡(ほうきょう)・・・正方形あるいは長方形の鏡。特に唐の時期に流行をしたが、時期的にあとに当たる朝鮮の高句麗鏡もこれに含まれる。
参考文献
鎌倉時代の考古学 小野正敏・萩原三雄編 (高志書院、2006年)
日本人と鏡 菅谷文則著 (同朋舎出版、1991年)
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クレジット表記例:「出典:こくとち360°まるみえミュージアム」・「出典:國學院大學栃木学園参考館」または"Kokutochi Museum"
このページは國學院大學栃木短期大学日本史フィールドの2021年度博物館実習の一環として作成したものです(公開開始2022.1.31)。
3Dデータは、野口淳氏、株式会社ラングの方法を参考に、Agisoft Metashare standard、Cloud compareを用いて作成しました。