NMR利用案内
より良い結果のための試料調製
ルーチン測定は5mmφx長さ18㎝程度のNMR試料管を用います。必要に応じて微量試料管で調製します。試料濃度はプロトン通常測定の場合、分子量にもよりますが2-3mg/0.5mlあれば十分です。これに対してカーボンや二次元測定には濃い溶液のほうが有利となります。一つの試料でプロトン、カーボン、二次元を測定する場合、濃い目に作っておきます。ただし濃すぎる(100mg以上)溶液では分解能が低下してしまいます。
試料管は傷や歪みのないものを。チューブの口がかけていると、溶媒が揮発しやすいだけでなく、何かの衝撃でそこから割れてしまう可能性もあり、大変危険です。
試料は真空ポンプで良く乾燥させてから調整します。
試料に溶媒が残っているとそのシグナルがスペクトル上に現れ、時として目的のシグナルの観測を妨げることになります。1H-NMRの信号強度(面積)はモル数に比例するので、試料より残留溶媒が多ければ後者のスペクトルとなってしまいます。
溶媒はNMR専用の重水素化溶媒を使います。NMR装置は、測定時間中の磁場を一定に保つため、溶媒の重水素のNMR信号を監視して磁場を補正(ロック)しており、また、測定開始前にはその信号強度を用いて静磁場(NMRの磁石)を微少な磁場で補正(シム調整)します.
ケミカルシフト標準物質(TMSなど)は入れなくても良いです。基準物質が試料ピークより大きいとスペクトルの質が低下します。ケミカルシフトは、基準物質を入れなくとも溶媒ピークであわせることができます。二次元では入れないほうが良いです。
試料は均一に溶解させます。分解能の高い良質のスペクトルを得るためには、試料全体が均一な磁場を受ける必要があり、試料溶液が濁っていると分解能が著しく低下します。5mm管は細いため手で振り混ぜた程度では均一にはならず、一見溶解しているようにみえても内部が不均一のままのことがよくあり、この場合も分解能が低下します。溶液はボルテックスミクスチャーを用いてじゅうぶん撹絆しておきます。
試料溶液量は5mmφでは底から4.0~5.0cm に調整します。溶媒が多すぎると濃度が低くなり、測定時間が多く必要になってしまいます。溶媒が少なすぎると試料の観測コイルに入る領域を均一に保てず、分解能が低下します。
チューブ専用キャップをしっかりと閉め、パラフィルムでシールしておきます。重クロロホルム溶液の試料管キャップはテフロン製をお勧めします。
微量試料の場合は微量試料管の項目を参照して調整してください。
《依頼分析》分析依頼の準備
試料管に図のような旗をつけて試料略名、内線、名前を記入します。
紙片に試料名と内線、名前を書く
セロテープ、メンディングテープを紙片の上から貼る。テープは左に1cmはみださせておく
チューブに貼る
※ 粘着面どうしを貼り合わせないでください。
粘着面がみえていると他のサンプルに貼り付き落下させて割るなどの事故につながりますので粘着面を残さないで下さい。
この旗は測定時にはずします。粘着力が強すぎると(ビニールテープ、ガムテープ)はがすときにチューブを破損する危険があります。
粘着力の弱いテープ(「貼ってはがせる…」や付箋紙)はチューブから剥がれ落ちて試料の判別がつかなくなります。適切な粘着力のテープを使って下さい。
申込フォーム
フォームはelmsにログインした状態でアクセスしてください。
推定構造式の画像ファイルを作成案内に従ってご用意ください。保護基などの略号は使わず構造で描いてください。
試料名は、英数字で10文字以内の略称を与えてください。
試料量は溶液の濃度ではなく、試料管の中に入っている重さで記してください.
分子量は、分子量に依存した測定パラメータがあるためお尋ねしています.
1.7mmφ試料管はキャップ部分にシリアルナンバーが振られています。その番号をフォームの備考らんに記入してください.
試料は測定室前室の冷蔵庫の扉のポケットの「依頼測定」と書かれたところに立ててください.測定後は「測定終了」と書かれたところからお引き取りください.冷やさない方が良い試料は冷蔵庫の上のスタンドに立てておいてください.
結果の送付
測定が終わりましたら、フォーム送信元のメールアドレスにPDFをお送りするか、またはお知らせします。サンプルとあればCDをお引き取りください。
生データの構成について
測定生データをお渡ししていますので、投稿用などに自由に拡大を書く場合などにご利用ください。
市販のNMRデータ処理ソフト「らも」、mNovaなどを用いると異機種で測定したデータの扱いが容易です。
ブルカーのサイトから、測定と同じソフトウエアTopSpinのデータ処理に特化したバージョンがアカデミックフリーで使えます.Windows,Mac,Linux版があります.フーリエ変換した結果をそのまま開くことができるほか,NMR測定の際に読み込まれたデータ処理パラメータをもとにデータの再処理が容易に行えます.ほかの機種で測定したデータも扱うことができ,それを二次元スペクトルのプロジェクションとして貼り付けることもできます.
測定データの構成は以下のようになっており、処理ソフトでスペクトルファイルを開けば、ウインド関数をかけてフーリエ変換して、化学シフト補正、ベースライン補正などの行われたスペクトルを開くことができます。FIDデータを開けば、ウインド関数をかけるところからの処理をやり直すことができます。
たとえば測定ファイル名 20an282、実験番号6の場合、お渡ししたスペクトルの右側のパラメータの欄の上のほうに
NAME 20an282
EXPNO 6
PROCNO 1
と書いてあります。
/ NAME / EXPNO / のフォルダを開くと、一次元データなら以下のファイル、フォルダがあります。
fid というファイル (※これがFIDデータです)
acqu というファイル
acqus というファイル
pdata というフォルダ
pdataフォルダの中にPROCNOの数字の名前のフォルダ、ここでは1があり、その中に以下のファイルがあります。
1r ※これがスペクトルデータです。
title スペクトルのタイトルです。テキストエディタ(メモ帳など)で開けます。
ほかにパラメータファイルがありますが変更を加えないでください。
二次元の場合、スペクトルファイルは /pdata/1/2rr、FIDファイルは、ser です。
二次元スペクトルに貼り付けるファイルとして、ほかの機種で測定した一次元ファイルを指定することも可能です。一次元データは、フーリエ変換、位相・化学シフト・ベースラインの補正をしたものを指定してください。