FAQ.サンプルが少ないとき

容量の小さい容器に試料を入れる

遠心濃縮機だと濃縮された試料が目にみえなくても、試料が容器の下の方に集まっていることが分かっているのでその後のサンプルハンドリングに有利となります。

ロータリーエバポレーターを使う場合は、濃縮したい溶液を入れた小型試験管やエッペン(蓋は切り離します)を、ロータリーエバポレーターにつける試験管や遠沈管の中に入れて回します。

試験管や遠沈管の中は減圧になり中の試料管やエッペンに熱が伝わりにくくなりますので、湯浴の温度は高めにしても大丈夫です。この方法は容器のかなり上の方まで試料が広がってしまう欠点があります。

突沸してエバポレーターの上の方まで広がる危険を減らすため、エバポレーターのアダプターの下(サンプルのある側)にグラスフィルターをつけたものをガラス業者に作ってもらうのもよいでしょう。

エッペンのふたを切り落として使う場合、ふたのついていた部分が出っ張ったままだとロータローエバポレーターで回転させるときにひっかかり、その衝撃で突沸しやすくなるので、ふたを切り落とした後はきれいに丸めておきます。

補足~溶媒系と容器の素材

ガラス容器で水系溶液を扱うとガラスからNaやKが溶け出して、とくにMSスペクトル測定の妨害となることが知られています。脱塩後の試料はエッペンに受け、以降はガラスに触れさせないようにします。

ピペットも同様です。ガラスのパスツールではなくてピペットマンのチップ(ピペットマンが無ければ駒込をつけて)を使った方が良いでしょう。ガラスは水溶液がべったりと広がってしまいますが、エッペンやチップは水をはじくので、器壁に試料が残る量を減らす効果もあります。

微量試料のD/H交換

NMR測定試料はH→D交換:微量試料のNMR測定で、重水や重メタノールを溶媒とする際、重水や重メタノールの水酸基の位置のシグナルが大きくなって、目的シグナルの観測を妨げたり位相が歪んだりします。また、交換性のプロトンを消去するために行う「重水添加」を少ない試料に対して行う際も同様の問題が起こります。

このような場合、少ない試料はあらかじめD2OまたはMeODに溶解と濃縮を数回繰り返してD/H交換を行います。MSを測定せずNMRのみ測定する試料なら、濃縮して容器を移し替える操作の途中から用いる溶媒は全て重水素化溶媒とします。含水結晶を作るものや糖など交換性のプロトンを有する化合物や、水や溶媒が試料に残る場合に、これらを重水素化しておくことでプロトンNMRに現れなくします。

微量試料でNMRサンプルを調製する場合、重水素化溶媒は0.5-0.75mlづつアンプルに分けて売られているものを用います。

MS測定試料はDH交換:重水や重メタノール溶液でNMRを測定していた試料はMSを測定する前に、これと逆に軽水や軽のメタノールに溶解~濃縮を繰り返して完全にHに置換しておく必要があります。部分的に重水素化された試料ではそれぞれの質量数のイオン強度が下がってしまい、感度の極端な低下を引き起こすからです。

NMR微量試料管の使用

NMR信号強度は溶液の濃度に依存しますので、同じ試料量なら溶媒が少ないほど強度が高くなります。このため,細いプローブで液量を減らす(濃縮する)のが有効です.当測定室では1.7mmφのTXIプローブが使えます.このプローブ用のサンプルチューブは専用のもので,液量は0.04mlです.プロトンコイルが内巻きで,COSY,NOESY,HSQC,HMBCなどプロトン観測の二次元の感度を非常に高めることができるほか,カーボンも感度が上がります.

また,5mmφの通常プローブで,シゲミのミクロ試料管を使うのも有効です.このチューブはNMR観測コイルの部分にだけ試料溶液を入れるようにし、その上下のシムコイルの部分にあたるガラスの磁化率を溶媒に近似してあります。このため試料溶液の深さは5mmφで1.2cm、2.5mmφで0.7cm程度で済みます。溶液の深さが深すぎると、サンプルが薄まってしまい、上げ底管を使うメリットがなくなるだけでなく、サンプルがこぼれる原因にもなります。購入の際は溶媒とNMRのメーカーを指定してください(当測定室の500MHzのNMRはブルカー製です)。

カーボンの一次元測定で1.7㎜φを用いても不十分な場合,2.5mmφのdualプローブでシゲミの上げ底管(0.06ml)を使うと改善が期待できます.シゲミチューブの型番,サンプル調整方法は、試料管・溶媒などの項目からシゲミのサイトをご覧ください.

当施設での選択の目安

以上まとめると

1.7mmφ NMR試料管での試料調製法

用意するもの

試料管,試料管の栓(ボール),小型のサンプルビン(5mmf, 5cm長さ程度)またはエッペン1本,シリンジ,または先の細いチップをつけたピペッター,アンプル入りの高純度な重水素加溶媒,つまようじ.


調製方法

NMRチューブ内を同じ重水素化溶媒(ビン入りので結構です)ですすぎ、その液もあわせて濃縮します。何度か繰り返し完全に回収したら、溶媒を良く飛ばし、通常どおりポンプで乾燥させます。

BallCapをする場合:試料管の栓となるボールを乗せ,手で軽く押す.栓をつまようじで押し込む.

※揮発性の高い溶媒で長時間の測定をする場合はこちらで密封度の高い栓をしますので、ボールキャップはしないでください.

折れないようにストローに入れ,氏名等を書いた旗をつける.

試料管の上部にはシリアルナンバーが印字されています.試料がわからなくなるのを防止するため,書き留めておくと良いでしょう.

この量の体積は測るのが難しいと思いますが、液の深さで見てください.最適な深さは2.6~3.2cmです.これより多くても測定はできますが、濃度を損してしまいます.次回の調製時に溶媒を加減してみてください.少なすぎると分解能調整や測定が困難になります.

シゲミ試料管での試料調製法

製造元のサイトに動画がありますのでご覧ください.

用意するもの

シゲミミクロ試料管1組、小型のサンプルビン(5mmf, 5cm長さ程度)1本、パスツールピペット2本、シャーレ、アンプル入りの高純度な重水素加溶媒、パラフィルム5mm四方。

調製方法

NMRチューブ内を同じ重水素化溶媒(ビン入りので結構です)ですすぎ、その液もあわせて濃縮します。何度か繰り返し完全に回収したら、溶媒を良く飛ばし、通常どおりポンプで乾燥させます。

少ないサンプルでFAB-MSを測定する

ニートのまま薬匙等で扱えない量以下のサンプルでFABMSを測定する場合、以下のように試料/マトリックス溶液を調製することにより、試料を確実に装置へ導入でき良好な測定を行うことが可能となります。