フラボノイド

フラボノイドとは

フラボノイドはC6-C3-C6のフェニルクロマン骨格を持つ芳香族化合物の総称で,たいてい黄色い固体です.配糖体で存在するものも多くあります.C環の置換様式によってフラボン,フラボノール,フラバノン,ジヒドロフラボノール,カルコン(C環が閉環していない),フラバン,イソフラボン,オーロン,赤から青色色素のアントシアニジンなどに分類されます.フラバン-3-オール構造を持つカテキン類(白~赤~茶色)もフラボノイドの一種ですが,化合物の性質からタンニンに分類されます.イソフラボンは配糖体ではなくフリーで存在するものが多く見られます.

フラボノイドのMS

配糖体ではないフラボノイドで,アントシアニジン以外は,EI-MSで分子イオンピークがはっきり得られることが多いです.2,3位間が二重結合のものは,逆ディールスアルダー開裂により,A環,C環の置換基の数を推定できることがあります.たとえばアピゲニン(4',5,7-trihydroxyflavone)のEI-MSでは,A環に水酸基が2個,B環に1個あることを示すm/z 153,118のフラグメントイオンが観測されます.イソフラボンでも同じフラグメンテーションが見られます.それぞれの環の置換位置までは推定できません.

水酸基の数があまり多くなってくると,EI-MSでは気化せず測定できなくなってきますので,そのようなときは,ESI-MSで測定します.配糖体はESI-MS(正,負)で測定します.アントシアニジンはESI-MS(正イオンモード)で測定します. 

フラボノイドのNMR

置換様式を含めた構造は1H-NMRで推定できます.

A環5位と7位に水酸基があるものが多く、その場合、6位と8位が酸素置換基に挟まれることで化学シフトが小さく、スペクトルの右に出ます.これらのカーボンの化学シフトも小さいです.

B環の4'位だけ水酸化されている場合は対称となり,他の位置のシグナルと比べて積分値が2倍あるシグナルが6.5-7.5ppm付近に2組観測されます.J=8Hz程度でオルトカップリングしたダブレットのようですが、2'と6',および3'と5'は磁気的には非等価なので,二次作用によりダブレットの両脇に小さな「肩」のようなピークが現れます.化学シフトは4'位にある水酸基の影響が支配的で,たいていの場合,3',5'の化学シフトが小さくなります.

B環の3',4'位に水酸基がある場合は非対称になります.2'は6'とのメタカップリングによるダブレット,5'は6'とのオルトカップリングによるダブレット,6'は5'とのオルトカップリングと2'とのメタカップリングによりダブルダブレット(dd)になります.メタカップリングは0-2Hz程度と小さく,分裂は見えず背が低くなって観測されるだけのこともあります.

例として,ナリンギンとケルセチンの1H-NMR(500MHz)の拡大図を示します(メタノール-d4溶液).

いろいろなフラボノイド

上に述べたように,フラボノイドはC環の置換様式によって分類されます.それぞれ,よく見られる化合物と分子式,分子量をまとめました.なお,フラボノイドの置換位置を並べて書く際は,4',5,5',7,8-pentahydroxyflavoneのようにプライムの無いものもあるものも混ぜて数字の小さい順に並べます.5,7,8,4',5'-のようにプライムのあるものを無いものの後ろにまとめるのではありません.

天然から得られるフラボノイドは,生合成経路から,A環5,7位と,B環に水酸基があるものが多いです.

水酸化のほか,プレニル化,二量化,重合なども見られます.ロテノンはプレニル化イソフラボンがエポキシ化,環化されたものです.

かんきつ類からはポリメトキシフラボン類(PMFs)が得られています.1H-NMRで多くのメチル基が観測され,EI-MSでM+・および[M-15]+・のイオンが観測されます.