11月5日(水)、図書委員と希望者を対象に、第13回 図書室文化講座を実施しました。京都大学大学院 人間・環境学研究科より研究協力員の三澤 魁旺さんにお越しいただき、『意識はどのようにして脳活動から生じるのだろうか? ~神経科学と情報学の融合~』をテーマにご講演いただきました。例えばイチゴを見たとき、その赤は他の人が見ている色と同じと言えるだろうか、もしかしたらお互いに違う色を見ているのかもしれない、といったことを考える時、自分の見ている色はこんな赤だよと言葉にすることは、とても難しいと思います。そういった伝えづらい感覚的な質のことをクオリアと言うそうです。これは紀元前から考えられている意識の哲学的な謎であり、けれども最近では現代科学によって少しずつ足がかりを見つけているらしいです。
意識があるか、ないかとは何でしょうか。例えば、隣に居る友達に意識があると言えるのはどうしてでしょう。呼びかけて、反応があったら意識があると言えるのでしょうか。寝ているように見えて、反応がないのであれば意識はないのでしょうか。事故や病気で動かなくなってしまった人は、呼びかけたり、触ったりすると反射的に動くそうです。けれども、例えば動くものを目で追ったり、特別親しい人を認識して見つめ続ける、といった反応はできず、そういった人は『意識がない』ものとして、つまり植物状態になってしまったと判断されてしまうそうです。ですが、本当にその人に意識はないのでしょうか。
植物状態と診断されてから、長い年月をかけて回復した方の衝撃的な話がありました。実はずっと、動くことはできないけれど意識だけはあり、痛みも感じていたそうです。入院していた病室のベッドで、これからどのような施術をするのかも伝えられず、まるで物を扱うかのように肺から粘液を取り除かれるのはぞっとしたと言います。植物状態の『グレイ・ゾーン』にある人にはおなじみの、息を止めて死のうとする自死を試みましたが、身体が死のうとしてくれなかったそうです。
本人しか知り得ない意識のあるなしを、他の人からわかる方法はないのでしょうか。例えば、自分がテニスをしているところを想像してくださいと指示され、その通りにするだけで脳は運動している時のように活動するそうです。こういった脳の仕組みを利用し、MRIに入れた健常者と植物状態になってしまった人に同じ想像をしてもらい、脳の活動を見ることで、意識のあるなしがより高い精度でわかるようになりそうです。ですがこの方法には欠点があります。まず耳で聞き、それが脳に届く必要があり、またその言葉を脳が理解し、指示通りに脳が活動できる必要があるのです。やはり他の人が意識のあるなしを完全に判断することは難しいのかもしれません。
眠っている状態、麻酔をかけられている状態、意識障害。この3つの『意識がない』とされる状態には、共通のメカニズムがあるはずで、それを発見できたなら体温計のように目で見える、『意識メーター』が作れるかもしれません。そしてなんと実際に、部分的に成功した研究があるそうです。起きている時に脳に電気的な刺激を与えると、脳は長く応答し、眠っている時の刺激には短く応答すると言います。その2つのパターンで反応した脳の範囲や時間を表にし、また圧縮することによって定量化(PCI、摂動複雑性指数と呼ばれます)すれば、かなり高い精度で意識のあるなしを測ることができるそうです。
大昔から考えられてきた意識の謎を、現代科学が紐解きつつあります。さらに最近の研究では、人間以外の生き物にどの程度意識があるかについても解き明かせる兆しがあるそうです。今回のお話を聞き、生徒たちは普段考えることのない意識というものについて気づくきっかけになったかと思います。実際、「すごく面白かった」と言っていた生徒も居ました。三澤 魁旺先生、この度はお越しいただき本当にありがとうございました。