第15章 温和怜悧

人は、苦しむ。

多くの苦しみを受ける。

疲労苦、不快苦、劣等苦、不満苦、貧乏苦

老苦、病苦、死苦、別離苦、孤独苦

それらは、直接の苦痛や不快から、

または、逃れようのない不安から、

選ぶことの出来ない不自由から、

人は、苦しむ。

それらの苦しみを与えるのは、環境。

それは、自分を含む環境。

自然環境であり、社会環境であり、

対人環境であり、体内環境だ。

環境は、徐々に、ゆるやかに、

あるときは突然に、するどく、

人に襲いかかる。

敵は、襲いかかる。

簡単に払い除けられる敵もあれば、

圧倒的に押し寄せてくる敵もある。

しかしどの敵も、因果に従ってやって来る。

人の感情が絡んだ敵は、時には理不尽のように振舞うが、

しかし、大きな因果に従っている。

その因果が、見えるかどうかだ。

それが敵の先制を挫ける。

因果の道理を知り、

原因となる状況を避け

または、わずかな原因の発生に気づき、

または、好転へ導く原因を起こす。

そして、その結果が、次の原因とならないように、

さらなる不幸を引き起こすことのないように、

二次災害とならないように、

被害を最小限に止める。

そのためには、

冷静に状況を認識し(理解力)、

適確に対応を検討し(想像力)、

正確に行動する(制御力)、

それらを成し遂げる強い意志を持つ(動機力)、

以上の能力を、日々、対応の経験から養う。

それは、苦しみの経験から鍛えられる。

苦しみは、自分が自分に与える警告。

苦しみは、心の痛み。

苦しみは、試練。

今の痛みを和らげるために、人は考える。

次は痛みを受けないように考える。

しかしその考えが、歪んでしまってはいけない。

痛みは、人を正しく導く警告でなければならない。

そのために制御力として、感情や欲求に振り回されないように

第2章で述べた、四つの態度をとるように心がける。

泰然性・・・因果に従い、陰湿を嫌い、

堂々と、誠意を持って対応する。

裕然性・・・こだわらず、本質をつかみ、

先行きを見通す。

毅然性・・・冷静に、現状を受け入れ、

自分や他人に応じない。

整然性・・・秩序を重視し、正確に丁寧に、

礼儀正しく努める。

人は、戦士だ。

環境と戦う。

生き延びるために。

環境より、生を守るために。

さらにより良く生きるために。

そして、苦しみを跳ね返すために。

しかし、いつも勝ち戦とは限らない。

負けるときはある。

そのときは、すみやかに撤退すべきだ。

起こってしまった結果は、因果として受け入れる。

完璧を求めず、

やるべきことはやったと諦める。

人は、戦士だ。

しかし人生は、戦争ではない。

人生は、出会いである。

それは自分を含めて、環境との出会いである。

自分と共鳴する環境との出会いである。

そんな環境と出会うために、人は一生、環境と戦う。

人は、そのために一生苦しむ。

だが、出会いは、苦しみの向こうにある。

その環境は、爽快でなければならない。

心を解き放つ爽快である。

生きる喜びを与える、爽快である。

哲士は、爽快を求める。

そのために自分が、爽快になろうとする。

そのためには、苦しみも厭わない。

『哲士は、温和怜悧(おんわれいり)、

穏やかで賢く、

生きる爽快を求める