ワイヤーセンサー設置場所の選定
土石流は通常、河川の上流で大雨による斜面の表層崩壊や堆積物による自然ダムの崩壊が発生し、これが引き金となって下流に倒木や土砂が一気に流下します。河川の両岸の地層や岩盤の状態を調べ、土石流発生前は崩壊しそうな斜面や土砂堆積による自然ダム、転石などの位置を記録し、土石流の発生後は残った土塊やさらなる崩壊が発生しそうな河岸斜面などの位置を記録します。この結果から以後の土石流発生を予測し、センサー(土石流を感知する部分)の設置場所を決めます。
ワイヤー式のセンサーを張る場合、センサー設置位置は次に土石流が発生すると予想される位置よりも下流で、なるべく上流側に次のような場所を探します。
川幅が狭い場所から急に広くなる場所、V字谷の出口などの上流側
河床の勾配が急に変化する場所、小さな滝や砂防堰堤の上
河川が蛇行する上流側手前
両岸にワイヤーを固定する十分な強度を持った場所(樹木や岩盤など)がある場所
これらの場所は土石流の速度が速くワイヤーが切れやすい場所(感知しやすい場所)です。土石流はこの場所を通過後に広い場所に出るため速度が減速します。
河床勾配変化
(急→緩)地点
小さな滝などの上
砂防堰堤越流部
ワイヤーセンサー
ワイヤーセンサー(鋼芯入屋外線); B接点入力方式土石流センサー
2本の銅線と補強用鋼芯の3本が入った鋼芯入り屋外線TOV-SSを使用します。
張力150kg以上で断線するため、河川に張る場合、両岸に150㎏の引張力が加わっても外れないワイヤーの固定場所が必要になります。
しっかりと根を張った樹木(幹の径が30㎝以上)や岩盤に打ち込んだアンカーなどにワイヤーを固定します。また、河床にも鉄筋杭などを打ち込みワイヤーの高さを保持します。
鋼芯入り屋外線TOV-SS
鋼芯入り屋外線TOV-SSの構造
B接点入力方式
ワイヤーの一方の端の銅線2本を短絡させ、(下図)もう一方の銅線2本を出力とします。有線式の場合はそのままワイヤーを伸ばして下流の出力装置の入力端子に接続し、無線式の場合は送信機の入力端子に接続します。どちらの場合もループとなっている銅線に常時微電流を流し、(図1)断線した場合に電流が流れなくなったことを検知して(B接点)警報信号とします。(図2)なお、B接点とは電流が流れなくなった状態(スイッチのOFF)、A接点とは電流が流れるようなる状態(スイッチのON)を表します。
ワイヤーセンサーの設置
河岸でのワイヤーセンサーの固定方法
・岩盤やコンクリート構造物への固定
・樹木への固定
ワイヤーセンサーを河川に設置する場合、土石流によってワイヤーが切断されるよう河川両岸にワイヤー切断時の張力に耐える固定点が必要になります。
例えば鋼芯入り屋外線TOV-SSの切断張力は約150kgであるため、150kg以上の張力に耐える固定部分が必要です。ワイヤーを設置する位置の河川の状況によりますが、河岸に張力に耐える樹木の幹(幹径30㎝以上)や堰堤などの構造物、露出した岩盤などがあればこれらに固定します。
適当な固定点がなければ河岸にH鋼や単管などを打ち込んで作ります。
樹木への固定
ワイヤーセンサー設置位置の河川岸にワイヤーの切断・破断張力に十分耐える樹木幹(少なくとも幹径30㎝以上)がある場合、これを利用して固定点にします。
樹木に直接ワイヤーセンサーを巻き付けて固定することもできますが、1年以上の監視期間がある場合、樹木(特に杉や松など針葉樹)が成長して幹径が太くなり、ワイヤーが切断したり樹木幹表面に食い込むことがあります。このため、当社では樹木幹にスリングベルトを掛け、これとワイヤーを接続することにしています。
スリングベルトも張力150kg以上に耐えるものを使用します。当社では荷重300kg以上のスリングベルトを使用しています。
また、送信機設置側のワイヤー固定点から送信機に導線のみ引き出す場合など必要に応じてシャックルなどを使用します。
スリングベルト(耐荷重300kg以上)
シャックル
ワイヤーのスリングベルトによる固定
岩盤やコンクリート構造物への固定
ワイヤーセンサー設置位置の河川岸にワイヤーの切断・破断張力に十分耐える岩盤やコンクリート構造物がある場合、振動ドリルで孔をあけ、アンカーを打ち込んでワイヤーを固定するのが一般的です。
アンカー(M10)
アイナット
アンカー(M10)
アイボルト
シャックル
ワイヤーの破断張力が150kgの場合、それ以上の力に耐える固定点が必要です。打ち込み式アンカーの場合M6以上で良いのですが、当社では余裕をみて通常、M10(張力10kN程度)のアンカーにアイボルトM10を接続して固定点を作っています。
シャックルなどを使用してワイヤーを接続します。
岩盤の固定点(アンカー+アイナット)例1
岩盤の固定点(アンカー+アイナット)例2
ワイヤー支持杭の位置決め
ワイヤー支持杭は1.5m~2m程度の間隔で設置します。
支持杭の間隔や打ち込む深さなどは河床の状況により変わりますが、長期間ワイヤーを保持することが可能な強度を持つように設置します。
河床への支持杭の設置
ワイヤーセンサーは河川の横断方向に河床、または普段流れている水の水面から上方に約60~70㎝程度の高さに設置します。
一般的にはワイヤーを河川中央部で高さが60㎝程度になるよう一本だけ張っているようですが、当社ではワイヤーを河川に往復させて30㎝、60㎝の2段に張っています。
両岸でのワイヤー固定点が決まったら両岸の固定点を結ぶ直線上の河床にワイヤー(TOV-SS)を支持する杭(鉄筋杭)を打ちます。
(木製の杭は腐食するため使用しません)
このワイヤー支持杭として当社では鉄筋杭(径16㎜ 長さ1m)を使用しています。
ワイヤーを張る
ワイヤーを鉄筋杭に張っていく順番に決まりはありません。
ワイヤー(TOV-SS)のロールを持って河川を横断しながら張っていくのが一般的ですが、ロールは重いため、先に必要なワイヤーを引き出しておいて鉄筋に結び付けていっても構いません。
2段に張る場合、ワイヤーを張る始点と終点は同じ場所になりますが、張ったワイヤーの一方を送信機に接続し、もう一方の先端を短絡させるのに必要なだけ余長をとっておく必要があります。
ワイヤーと鉄筋の締結部分は、ワイヤーを鉄筋に何度か巻き付け、ほどけないようにさらに上から結束バンドや針金(ステンレス針金を推奨)などで巻いて固定します。
ワイヤーを鉄筋に巻き付ける
→
結束バンドで縛る
SUS針金で縛る
ワイヤーを鉄筋に巻いた部分を結び目とする(ワイヤーの結び目の中を鉄筋が通っている)が最も良い方法ではありますが、ロールを持って進んでいく場合、各結び目でワイヤーに輪を作ってその中をロールを通す必要があるため手間がかかります。
あらかじめ結び目になるようワイヤーを輪に通してから鉄筋に通す
ワイヤーを引いて鉄筋に直接結ぶ
ワイヤーを張り終えた後、ワイヤーの一端の導線を短絡して被覆します。もう一端はテスターで先端の導線間が短絡(抵抗0Ω)していることを確認した上で送信機に接続します。短絡していない場合、もう一方の先端の短絡が不充分か、河川に張ったワイヤーのどこかの導線が切れている恐れがあります。
ワイヤーセンサーTOV-SSは張力150㎏以上で引っ張られた場合や、同じ場所が何度も折り曲げられた場合、鋼芯より先に導線が被覆の内部で切れるのでワイヤーを張る際にはご注意ください。
ワイヤーセンサー・送信機 設置例
人が通る可能性がある場合は目立つように蛍光テープ(マーキング用目印テープ)などをつけておくと良いでしょう。
ワイヤー(TOV-SS)の結び方
ワイヤーセンサーは支持線(鋼芯)が入っているためとても硬い電線です。イメージとしては針金を結ぶようなものです。通常のロープや紐のように何度も自在に輪を作って通して結ぶのは困難です。
ここでは比較的簡単で強度が得られる方法(8の字結び)で結ぶ方法と輪を作る方法をご紹介します。
(現場でカッターなどでワイヤーを裂き、鋼芯の部分だけ他の締結具に締結することも出来ますが、裂く時にワイヤーの導線の部分まで傷つける恐れがあるためお勧めできません)
ワイヤーをシャックルなどに直接、結びつける(ワイヤーの長さを調整できる)
写真では分かりやすくするためシャックルとアイナットを分離していますが、実際の現場では岩盤にアイナット(またはアイボルト)とシャックルが繋がって取り付けられた状態で結びます。
ワイヤーをシャックルに通す
必要な長さの部分で折り返す
元のワイヤーに巻く
先端の輪に通す
通した先を引っ張って締める
締結された状態
ワイヤーセンサーの先端に輪を作る方法(輪を作ってシャックルやアイボルトなどにつなぐ)
輪を作っておいて他の締結具などに引っかけてつなぐ場合に行います。二つ折りにした先端を8の字結びにして輪を作ります。ただし、最初に二つ折りにした先端までの長さは結ぶことにより短くなりますので注意が必要です。
ワイヤー先端を折り曲げる
曲げた先端を折り返す
背面に回す
一周させてから輪に通す
両側を引いて締める(硬い)
2本まとめて8の字になる
ネット併用ワイヤーセンサー
ネット併用ワイヤーセンサー
河川を流下するものが落石や泥土の場合、ワイヤーだけでは隙間をすり抜けるため捉えることが困難です。このような場合、ワイヤーセンサーにネット(ジオグリッドなど)を併用します。小さな岩や石などの落下はこのネットで防ぐことができるため下流側の作業の安全管理にも役立ちます。
下図は三井化学産資(株)のテンサーネットRE40を使用したネット併用型土石流センサーです。ネットが土石流を受けて伸びると縫い等されたワイヤーセンサーが断線しします。ワイヤーの導線ループや送信機、受信機と警報機などは通常の土石流センサーの場合と変わりません。
テンサーネット併用落石センサーは基本的に上図の構造としています。ただし、現場斜面上に設置する際、鉄筋杭によるテンサーネットの固定が不充分な(ネットが前後に倒れる恐れがあるなど)場合、ネットの上側斜面にさらに杭などを打ち、ネットをロープで固定する等の追加構造を施す必要があります。また、ネットを固定する鉄筋杭は約1.5m間隔としているが、地盤の状況により構造の維持に必要な間隔に変更します。
実際に斜面に設置する場合は図のように河床の形に合わせてネットの幅や長さを調整し、ネットが倒れないようアンカーやロープで形状を維持します。
テンサーネット RE40
(右図の送信機は従来が特小無線送信機)
株式会社 シンク・フジイ