「……っ」
私は、行く手を阻むヒュージ達をなぎ倒しながら、森の中を一人走っていた。
百合ヶ丘から少し離れたところに、いつものように突然現れたヒュージの群れはあまりに多く、一丁度当番だった私たち一柳隊だけでなく、他のレギオンも総出で、掃討にあたっていた。
最初こそ、一柳隊の皆と一緒に戦っていたのだけど、次から次に現れるヒュージの群れを、固まって対処するのはあまりに得策じゃないと判断して、それぞれ四つに隊を分けて行動することにした。そんな私は梨璃と一緒に戦っていたのだけど。
けれど、そんな私たちの前に、特型ほどではないけれど、でも普通のヒュージとは一線を画すような個体が現れた。そんなヒュージに手を焼いている最中にも、他のヒュージも湧いて出てきて、気が付けば梨璃と離れ離れになってしまっていた。そうして、まずいと判断した私は、そこから一旦離れて、梨璃の捜索に注力することにして、今に至る。
まったく、高等部三年にもなって、彼女のシュッツエンゲルであるにも関わらず、こうして梨璃を見失ってしまうとは情けない。梨璃も二年生に上がって、入学してきた時と比べれば見違えるほど成長したからとはいえ、少し配慮が足りなかったわね……。走りながら、そう一人で反省をする。
それにしても、もうどれくらい走ってきたかしら。体感的には、梨璃とはぐれたところから、まだそれほど離れていないとは思うのだけど、梨璃の姿はどこにも見当たらない。いつか、私の不注意で山梨で倒れてしまった時や、施設に閉じ込められてしまった時、梨璃がすごく心配して、今にも飛び出そうとしていた話を梅に聞いたことがあるけれど、なんだかその時の梨璃の気持ちが分かるような気がする。
――梨璃、無事で居て頂戴……。
頭を過る嫌な予感を振り切るようにそう心の中で唱えた時、上から「夢結っ!!」っていう声がした。その方を向くと、空から天葉が降りてきた。
「天葉、あなたの担当はこの辺りではなかったはずでしょう? どうしてここに?」
すると、天葉は開いていた翅を閉じながら、「樟美とはぐれちゃって。確かこっちの方に来ていたと思ったんだけど」って少し不安そうな表情を浮かべながら言う。
「それでさ、夢結、樟美のこと見てないわよね?」
天葉に聞かれて、少し記憶を遡ってみる。けれど、樟美さんを見かけた覚えは一度もない。
「いえ……見てないわ」
「そっか……とりあえずもう少し探してみるわ。ありがとう」
そう言ってまた飛び上がろうとする天葉に、「待って」と止める。
「それで言うと私もなのだけど……梨璃を見なかったかしら」
「梨璃さんを? いえ、見てないわ」
「そう……」
もしかしたら、と思って聞いてみたのだけど、まあ、そうよね……。
「夢結もそんな感じなら、一緒に行動しないかしら? 今回のヒュージ、なんだかいつも以上に動きが読めなくて、一人だと少し厳しくて」
「えぇ。私もその方が助かるわ」
願ってもない天葉からの提案に頷きながら、さっそく梨璃と樟美さんを探すため、私たちはまた森の中を駆けだした。