――幸せって、何だろう。
そんなことを誰かに聞いたなら、笑われるかもしれません。少なくとも、大好きな皆なら、「ましろんったら考えすぎなんだから」って笑うと思います。だから、案外そんなに難しいものじゃないんだと思うんですが、でも、それでもふとした時に考えちゃいます。
仲良くしてくれている先輩の由紀さんと、港にお出かけに行ったり、同じクラスの希望(のぞみ)さんと恋南(れな)さんが変なところで言い合いをしてるのを、面白くて笑って眺めてる事とか。そういう事が「幸せ」なんだとしたら、それなら今の私はきっと幸せなんだと思います。
こんな毎日がこれからも続いて、あわよくば、この学校を卒業してからも、そんな皆と一緒に過ごせたら良いなぁ……なんて、晴れた春始めの、あったかい昼下がりのグラウンド横のベンチで、そんな事をぼんやりと考えていると、ふいに横から「あ、いた!!」って声がしました。その方を見ると、由紀さんが少し早足で近づいてきていました。
「由紀さん、こんにちは」
そう頭を下げると、「こんにちは真白」って由紀さんも笑って返してくれました。そして、「隣座っても良い?」って聞いてきたので、私は迷わず「はい!」って頷きました。
由紀さんは、私がこの聖レリアッチ女学院の中等部に入学した時から、一番仲良くしてくださっている先輩です。この学院には幼稚園の頃から入っているそうなのですが、その中では一番早くレアスキルのブレイブを覚醒していたり、それにスキラー数値も八十五を超えているそうで、皆から期待されているって、この前由紀さんのお友達の吉崎蒼穹さんが自慢げに言っていました。当の由紀さんは「そんな事ないよ~」って笑っていましたけど。
でも、雑誌の『ワールドリリィグラフィック』に出ているリリィの皆さんに憧れて、この学院に入学した私にとっては、本当に凄いの一言です。いつか私も、由紀さんみたいなリリィになりたいなぁ……なんて思っちゃいます。でも、私は高等部に入ってもまだレアスキルどころか、サブスキルも覚醒していないんですけどね……えへへ……。
そんな由紀さんは、今日は高等部二年生のガイダンスがあったそうで、「長い話は飽きるんだよねー」って、ベンチの背もたれに寄り掛かって、深くため息を吐いていました。
「高等部の二年生って大事な時期だって言うのは分かるんだけど、もうちょっと簡潔にしてくれないかなぁ……。これじゃあ大切なのは分かるんだけど、眠くて寝ちゃいそう」
「もう由紀さんったら……」
「だって仕方ないじゃん、話を座って聞くのは性に合わないんだもの」
足をぶらぶらと振りながら、由紀さんがそう言います。それにしても。
「でも由紀さん、二年生が大切な時期……って、どういうことですか?」
何だかそこが引っかかって聞いてみると、由紀さんは「あーそっか、一年生のガイダンスは明日だもんね」って言いながら、二枚に重なって綺麗に畳まれたプリントをポケットから取り出して、私に手渡してきました。それを受け取って開いてみると、そこにはずらっと文章が所狭しと並んでいました。本を読むのは好きですけど、流石の私でもちょっと目が痛くなっちゃいます。
一生懸命読んでいると、「まったく読みにくいよねえ」って笑いながら、話始めました。
「今までって多分、真白や恋南(れな)とかって、ヒュージが現れた時は、その時当番だったら、その日当番同士で出撃していたでしょ?」
「はい、そうですね」
私はこくっと頷きます。確かに、由紀さんが言う通り、私たちが三月までいた中等部の時は、私たちの敵、ヒュージが近場に現れた時は、その日当番の人同士で倒しに行っていました。私もレアスキルやサブスキルは覚醒していなくても、チャームは起動出来ていたので、皆の足を引っ張らないように頑張って戦っていました。
「けどね、高等部は自分たちでチーム――レギオンを作って、その仲間同士で出撃することが出来るんだけど、そのレギオンを作れるようになるのは二年生からなんだよ。一応加入自体は一年生から出来るんだけど、声がかからないと今まで通り、フリーランスとして戦うことになるんだけどね」
「へぇ……そうなんですか」
レギオン、ってもの自体は私も知ってます。学校の授業でも教えてもらっていたし、今でも読んでる『ワールドリリィグラフィック』や、その他リリィについての雑誌とかでもよく取り上げられていましたから。
「それで、由紀さんもレギオンを作るんですか?」
「うん、そのつもり」
私の質問に、由紀さんは笑顔で頷きました。きっと由紀さんの作るレギオンは強くて、素敵なものなんだろうなあ……なんて考えたら、すごく憧れるんですけど、でもそれはそれで、なんだか由紀さんが遠くに行っちゃうようで、少し寂しくなっちゃいます。
「そうなんですね、素敵なレギオンを作って下さい」
そんな寂しさをぐっと堪えて言うと、由紀さんは「ふふ、ありがと」って笑いました。
「それでね。そんな私の素敵なレギオンにさ入ってくれないかな、真白?」
「へ?! 私が、由紀さんのレギオンにですか?!」
今し方、ないんだろうなって思っていたことを言われたので、思わず大きな声が出てしまいました。そんな私に由紀さんは「うん、そだよ」って言ってくれました。
「で、でも、私はまだレアスキルもサブスキルも覚醒していないんですよ?! それなのに、そんな、由紀さんのレギオンになんて……」
「それでも大丈夫だよ。一応後は蒼穹(そら)やそれに恋南や希望(のぞみ)も誘ってみるつもりだし」
「そ、それなら……」
蒼穹さんや恋南さん、希望さんも、中等部の頃に仲良くしてくれている皆さんです。恋南さんや希望さんは私と同じクラスなので、よく一緒にいるんですけど、よく変な所で喧嘩していて、一緒にいて面白いお二人なんです。蒼穹さんは由紀さんの幼稚園の頃からのお友達だそうで、よく由紀さんと一緒にいる事が多い、そんな先輩の方です。