「くッ――」
梨璃が十発目を撃ち終えた。
「お疲れ様、梨璃」
そう労いの言葉をかけながら、目の前の的の弾痕に目を向ける。昔よりはだいぶ良くはなったけれど、明後日の方向に弾痕がついていたりと、まだまだ鍛錬が足りない。
「……だいぶ良くはなったけれど、もう少し心を落ち着かせなさい。」
「は、はい……すみません……」
梨璃がそう頷いて、もう一度グングニルを覗いた、丁度その時。
『先ほど現れたケイブの数が、想定より多いため、本日非番のリリィの皆さんも、至急戦闘区域に向かってください』
そんな校内放送が流れた。
「お姉様!!」
「行くわよ、梨璃」
「はい!!」
頷きあって、私たちは射撃訓練場を出た。
戦闘区域に向かう途中、私は梅たちに電話を掛けた。けれど、誰一人として電話がつながらない。どんな時であろうと、一柳隊の皆が電話を無視するとは思えないし、もしかしたらヒュージの出すマギのせいで、電波が干渉してしまっているのかもしれない、
「お姉様……!」
走りながら、少し不安げな表情で私の方を見た。
「安心なさい。梅や楓さん達が、そんな簡単に負けるわけはないわ。私たちも私たちで、今は目の前の事に集中しましょう」
「……はいっ」
梨璃が力強く頷くのを見て、そっと笑いかけて走り続けた。
+++
百合ヶ丘から海岸に向かって走り続けていると、所々から爆発音が聞こえるようになってきた。どうやらここら辺が激戦区らしい。
「梨璃、気を付けて」
「はい! お姉様!!」
梨璃にそう言いながら振り返った時、梨璃の後ろにヒュージが今にも飛びかかろうとしていた。
「梨璃ッ!!」
「ふぇ――?」
梨璃を撥ね退けて、ブリューナクの腹でヒュージの攻撃を受ける。ずしんという衝撃に一瞬手が痺れる。
「くッ――ハァッ!!」
それに負けじと、そのまま薙ぎ払う。まだ体勢を直し切れていなかったヒュージが、そのまま私たちから少し離れたところまで投げ飛ばされた。
「梨璃、けがはないッ?!」
「は、はい、なんとか!!」
よろめきながら立ち上がった梨璃は、グングニルの柄をぎゅっと握った。すると、梨璃の持つグングニルのマギクリスタルコアが、鈍く輝き始めた。それを見届けて、動き出そうとするヒュージを睨みつける。この分だと、梅たちと合流するには時間がかかりそうだ。
「梨璃……私の後ろは任せたわよ」
前を見据えながら、後ろにいる梨璃にそう声を掛ける。すると、「はい、お姉様!!」という、もう何度も鼓舞されてきた、梨璃の力強い声が返ってきた。それとほぼ同時に、さっき投げ飛ばされたヒュージが、勢いよくこちらに向かって突進してきた。
「来るわよ梨璃ッ」
「はい!!」
飛んでその攻撃を回避する。そして飛びあがった反動を利用して、その頭に刃を叩き込む。声にもならない悲鳴をあげて、ヒュージの動きが止まり、そして爆ぜた。
けれど、ここでの戦闘音を聞いてか、ヒュージが次々に寄ってたかってくる。幸か不幸か、まだ小型ヒュージが多いお陰で、梨璃もそれほど苦労してはいないようだけど、このままでは埒が明かない。
【Log end.】