2008年改正
EU法は、フランスのVin de PaysやイタリアのI.G.T.などのテーブルワインに分類されるものにも地理的表示を許容したため、分類が錯綜して混乱を招いた
欧州委員会は、2007年7月に、WTOルールへの適合性も考慮して、EUワイン法の改革案を提案した
改正後のワイン法は、ワインを地理的表示付きワインと地理的表示なしワインに区分し、地理的表示付きワインとして、「保護原産地呼称(AOP)」と「保護地理的表示(IGP)」の2つを規定した
醸造や瓶詰めの場所
醸造所については、生産基準書に記載されていれば、生産地域に隣接する行政区域で醸造することを可能としている
醸造場所は酒質に与える影響が小さい
ブルゴーニュのように畑単位でAOCとなっている場合、畑ごとに醸造所を設けることは事実上不可能
瓶詰めの場所については規定されていないが、裁判所は以下のような判断を下している
リオハワイン瓶詰め事件 欧州司法裁判所1992年6月9日判決(C-47/90)
域内で生産されたワインをバルク(タンク)で輸送して域外で瓶詰めされたものが、スペインの「RIOJA」というDOカリフィカーダ(AOP)を名乗ることができるかどうかについて争われた。
欧州司法裁判所は、ワインの瓶詰めは重要な作業であり、厳しい要求に応じて実施されないと製品の品質を著しく損なう可能性があるが、原産地呼称を使用する権利のある者の直接の管理下で、瓶詰めの際に損なわれたり、失われたりしてはならないワインの特性に関する専門的な経験と徹底した知識を持った事業者により瓶詰めが行われた場合は、EC条約34条に反しないとした。
地理的表示付きワインのラベル表示事項
義務的表示事項
AOP、IGP名称
容量アルコール濃度
原産国
瓶詰め元、生産者又は販売者
輸入ワインの場合輸入元
発泡ワインの糖分含有表示
任意的表示事項
収穫年
ぶどう品種名
スティルワインの残糖量の表示
伝統的表示(シャトー・~等)
醸造方法(瓶内二次発酵)
瓶内二次発酵に関する表示
大量生産される発泡ワインはタンクで二次発酵した後に瓶詰めされる
これに対して、伝統的な高級発泡ワインは瓶詰め後に二次発酵が行われる
このようなワインに対してEU法は、AOPワインに限り「Traditional Method」、「Classical Method」等の表記を認めている
問題となったのは、ドイツのモーゼル・ザール・ルーヴァー地域の高品質スパークリングワインに付けられた「Flaschengärung im Champagnerverfahren」(英訳すると、bottle fermented by the Champagne method)という表示である
Champagne Method事件 欧州司法裁判所1994年12月13日判決(C-306/93)
欧州司法裁判所は、規則2333/92の目的は、ワインの地理的原産地の指定や表示の登録を保護することであり、ワイン生産者が、その製品の製造方法に関する記述においても、ワインの実際の生産地に対応しない地理的表示を使用することは認められないと判示した。
EU法と加盟国法のいずれが優先するか
エネル事件 欧州司法裁判所1964年7月15日判決(6/64)
イタリアが既存電力会社を国有化したところ、電力会社の株主であったコスタ氏が、「国有化は、EU条約第37が国営企業の漸次解消を規定していることに反する」として、損害賠償を請求した
事件が係属したミラノ裁判所は、欧州司法裁判所に欧州条約の解釈について判断を求めた
欧州司法裁判所は、「加盟国が自ら進んで共同体を構成する以上、欧州法に反することはできない」と、加盟国の法律よりも欧州法が優先すると判示した