岡山大学薬学部

高度先導的薬剤師養成プログラム

国立療養所 長島愛生園 学外研修(2022年716日)

長島愛生園は、岡山県瀬戸内市邑久町虫明に位置するハンセン病療養施設です。1930年に日本初の国立療養所として開設されましたが、治療薬がないこともあって国策として患者の隔離が行われました。現在は、ハンセン病に伴う後遺症の療養等を目的に約200名が療養生活を送っています。現地では、展示資料、園内見学に加え、療養生活を送っている方による講話を通じ、差別や偏見の歴史について伺うことができます。本研修では、このような医療人教育に相応しい地元資産への訪問の機会を学生に提供し、薬学での学び、そのモチベーション向上を目的に実施しました。座学や映像授業、臨床現場での実務実習では決して学べない患者の苦しみや医薬品の恩恵などが臨場感をもって学べる貴重な機会になればと願っています。

参加学生の報告書から


ハンセン病については、ライ菌が原因だということ、過剰に恐れられていたということ、感染したがゆえに差別を受けていた人がいた、という認識はあった。しかし隔離施設があることは知らなかったし、ハンセン病に関してどのような歴史が日本にあったのか、さらには今の状況は知らなかった。


今回の研修でハンセン病に関して問題だったのは、正しい知識の欠如にあると感じた。医者のように勉強してきた人の中には、治療をすることが優先だと唱えた方もいたが、そのような人の意見は無視され糾弾されたと書いてあった。そのような知識人の声は今よりも国全体には届きにくかっただろう。そのような状況下で、政府がハンセン病は恐ろしい伝染病だと伝えた時、国民がそれを信じてしまうのは、避けようのないことだったかもしれない。だからこそ国は絶対に差別を助長するようなことはしてはいけなかった。国を挙げての隔離政策が始まり、無らい県運動が始まるころには、世界では隔離より治療が効果的だと言われていたと書いてあった。そのことを考慮すると、国は隔離することに意味がないことを知っておきながら、隔離政策を進めたことになる。今よりも情報の伝わるスピードが遅かったとはいえ、治療を優先するべきだという情報がまったく伝わっていないことはないと思われる。


正しい知識を伝えることはせず、人権を奪い、差別を助長し隔離した。日本の外では、治療が優先されているのに政府の言うとおりにことが進んでゆく。これは昔に起こった他人事ではない。そのようなことが起こったという事実は無くならないし、同じようなことは今でも起こっている。十年ほど前、福島の原発が爆発したときに、被爆者はいじめられるし、ドイツなどですぐに原発はやめようという運動があったのに、日本では推進する意見の声が大きかった。新型コロナが増えてきたときもいじめは起こるし、正しい判断はできないし、対応は後手後手だ。誰かが利益を得ているから、普通に考えたら分かるような、おかしいことがいろいろ起こっているのだと思う。今回のハンセン病の話ではそのような話は出てこなかったが、誰かがおいしい思いをしていたのではないだろうか。ただの妄想ではあるが。


そして差別が日本でも当たり前にあったという事実を、学校ではなぜか教えてくれない。民主主義とは、人権とは、自由とは何か、先進国では子供のころから考える機会が学校で与えられると聞く。日本の教育はこのままでよいのだろうか。何か少しずつでも変えていきたい。

もう一つ感じたことがある。長島で暮らしてきた方が、私たちがここを作り上げてきた、一人一人にそこでのエピソードがある、それを忘れないでほしいとおっしゃったときのことだ。そこでの生活を強要されてきたことへの、恨みや後悔ではなく、ここに生きたのだ、ここで生きているのだというプライドのようなものを感じた。どのように表現したらよいのかわからないのでプライドと書いたが、そのような一言では表せない思いがあるはずだ。私にとっては生きるための強い力をもらったように感じた。


 感染したことで人権をはく奪され、差別されるようなことは起こってはいけない。歴史に学ばないで同じことが繰り返されることもあるが、しかし社会がまったく進歩していないことはない。今回の研修のように、事実を伝えてくれる方々がいて、それを見て聞ける場所、機会がある。あとは自分がどれだけ積極的に学びに行けるかが必要になってくる。これからもいろいろなものを自分の目で見て、考えて、糧としていきたい。