岡山大学薬学部

高度先導的薬剤師養成プログラム

シミュレーター教育に関する講演会と演習(2022年829–30日)

薬剤を投与することで患者さんにどのような変化が生じるか。薬学科の学生は、実務実習があるとは言え、代表的な8疾患を有する患者に広く関わり、それらの薬物療法を実体験するのは時間的制約もあって困難です。薬局や在宅実習でも、必ずしも8疾患全ての患者さんに会えませんし、会っても服薬指導は経験できますが、薬の効果や副作用を観ることはできません。病院実習でも薬を使用された入院患者さんの様子をリアルタイムで観察することはできません。創薬科学科の学生にとっては、ご自身もしくは身近な経験以外知る機会は少ないと思われます。そのような課題を解決する一アプローチとして、シミュレーターを用いた実習を知る機会をと、本研修を企画しました。講師には、薬剤師によるフィジカルアセスメントの確認を推進するためのシミュレーション教育やeラーニング教材の作成に力を注いでいらっしゃれる、九州保健福祉大学教授の徳永仁先生をお招きしました。初日には薬学部教員のFDフォーラムも兼ねた講演会(対面とzoomのハイブリッド)、翌日は鹿田キャンパス医歯薬学融合棟にあるSimMan 3Gを用いて、演習を行いました。

講演会の様子

シミュレーターを用いた演習風景

参加学生の報告書から


【薬学科(6年制)関係者】

 今回のシミュレータを使用した代表的8疾患について病態変化の確認のシミュレーションに参加させていただき、シムマン3Gに初めて触れさせていただきました。実習ではこのような聴診器を使用して患者さんの容態を観察することは出来なかったので今回のこの講習で病状の変化と聴診器から聞こえる音の変化などをリアルに体験ができてよかったです。また実習は期間が決まっているため、6か月先の経過までは追えなかったりしますが、このような高度なシミュレータがあれば本物の患者さんと変わらないような経過が短時間で分かって嬉しかったです。実習では学べないような部分が補えて良かったなと感じました。


 今回初めてシムマン3Gを用いた薬物投与シミュレーションを体験しました。まず、シミュレーター自体がプログラムに応じ患者が発汗している様子や舌の浮腫を表現できることに驚き、高度なシミュレーターの開発が進んでいることに感心しました。そのシミュレーターを用いた演習では、生で見た患者の状態や検査値から必要な薬剤を選択しそれを投与することで生じる患者の状態の変化を経験できるというもので、座学では学ぶことのできない貴重な体験でした。特に聴診器を用いて患者の病態の変化に伴う心音、呼吸音、腸蠕動音の変化を体験することは、薬学生にとってシミュレーターを用いた実習でしかなかなか経験することのできない大変意義のあるものとなりました。今後、薬局が在宅医療により注力することが求められていく中で、薬剤師も患者のバイタルサインや検査値などの数字から患者の状態を推測する力が必要になってくると思うので、こういった経験がどの薬学生でも行えるように普遍的に広まってほしいと思います。


 今回の研修では、高機能シミュレータを用いて、薬剤師として必要な臨床現場での薬剤選択や対応を学ぶとともに、フィジカルアセスメントについても機能を実際に体験することができました。基本的なフィジカルアセスメントのみならず、「進行する」病態モデルについて薬物投与も含めたシナリオを体験できるため、臨床現場を大いに意識した教育になると感じました。実務実習で取りこぼす指導内容についても実際に近いシミュレーション教育で補うことができるという意味ではコアカリキュラムとの親和性も高い教育だと思います。

体験実習に加えて、臨床現場ではフィジカルアセスメントを積極的に採用している薬剤師は少なく、身に着けた技術を就職後に実際に使うとは限らないという課題もお話いただけました。また、シミュレータについてメーカーの方から伺ったところによると、基本装備として1500万円ほどであり、近年は増加傾向にあるが、まだ保有していない大学も多くあるとのことでした。さらに、プログラムの開発なども含めたパッケージとしての販売はされていないようです。これら問題点に加え、教育者側の意識も相まってシミュレーション教育に投資できない現状に課題があると思いました。臨床現場ではフィジカルアセスメントの積極的に実施し、行政は薬剤師の働きに対する正当な評価を制度に反映することが薬剤師の職能拡大に繋がると考えます。事前講義も含め、非常に考えさせられることの多い研修会でした。


【創薬科学科(4年制)関係者

 ありがたいことに、毎回と言っていいほど高度先導的薬剤師養成プログラム事業に参加させていただいていますが、毎度感じるのが、「木を見て森を見ず」ということです。大学院生であり、今後も医薬品研究職で働く者として、既存薬がどう使われ、どういう問題があるのかは知っておくべきに思いました。さすがに、薬剤師国家試験ほどの知識を身につけることは難しいかもしれませんが、せめて自分が関わる研究に関連した医薬品については、色々と知っておいて損はないかと思います。この点を改めて感じることができ、参加した甲斐がありましたし、博士論文発表までに今一度、勉強する機会を設けられるよう努力します。

 徳永先生の講演にもありましたが、薬理学の講義でこのようなシミュレーション教育を取り入れられたらと感じました。創薬科学科出身ですが、薬理の知識がほとんどないことに改めて痛感しました。もちろん、自分の勉強不足と言ってしまえばそれまでですが、薬理の講義は「文字」だけでしか勉強できませんでした。「低血圧」という字面だけは、呼吸数、心拍、血圧などのバイタルがどうなるのか、身体的にどのような症状が出るのかはしれません。今回のように、「どのような症状が出ているから、どの薬を投薬する。するとどういう改善があり、一方である副作用が生じる」。この一連の薬理学を実際にシミュレーターで体験することは、薬剤師のみならず薬学を学ぶ学生には必要な知識、経験に思います。今回のシミュレーションで使った薬の作用、副作用は忘れにくいでしょうし、そのような現場を知っているからこそ、医薬品研究職につくものとしてより良い研究開発につながるのではないでしょうか。

 「勉強しておくといい」と研究室配属以来、よく言われています。研究室に入ってから、いわば実際に経験しながら勉強した内容は頭に入りやすいです。ただ、文字だけの勉強では、文字だけの知識になりかねません。徳永先生が大切にしておられる、「見て、聞いて、触って」は、真の知識、真の理解のために大切なことであると思います。