2026年5月20日(水)に、「第7回メタサイエンス勉強会:AI for RA:研究アドミニストレーション業務はどこまでAI化できるか?」と題したオンライン勉強会を開催しました。
開催趣旨(参加者募集時の文面):
AI for Scienceへの関心が高まっている昨今。研究の本体よりも先にAIにやってほしいことがないでしょうか? 研究費申請や報告書の作成、学会・イベント運営といった、研究アドミニストレーション業務です。
今の研究者やURA、研究所のスタッフはとても忙しく、慢性的にスタッフは不足し、猫の手も借りたいのが現状なはず。こうした研究アドミニストレーション(RA)の領域こそ、AIが力を発揮できるのではないでしょうか。
すでにAIをRA業務に活かす取り組みはあちこちで始まっていると思います。文科省のSPReAD公募など、行政側でもAIの活用が積極的に始まっているようです。こうしたタイミングだからこそ、一度関心のある人が集まって情報共有できる場をつくりたいと思い、この勉強会を企画しました。
主催者による話題提供を枕に、参加者それぞれの課題や実践についての知見を共有する場ができればと思っています。
開催日時:2026年5月20日(水)
開催方法:オンライン(ZoomおよびYouTube Live同時配信)・無料
プログラム:
主催:メタサイエンス研究会
共催:RA協議会スキルプログラム専門委員会「生成AIとURA業務」
参加者:登録170名、当日約130名
冒頭、司会の丸山(メタサイエンス研究会)より、本会の趣旨説明を行った。議論のスタンスとして、(1)AI for RAに関わる人は多様であり、研究者・URA・サイエンスコミュニケーター、大学・企業・個人とさまざまな立場があるため、自分に直接関係のない部分にも耳を傾けてほしいということ、(2)取り組みのレベルもさまざまであり、自分に合ったレベル感の取り組みを持ち帰ってほしいこと、(3)AIをとにかく使えばいいというわけではなく、使うことの問題点や使わないという選択、AI for RAが研究業界全体に何を意味するかをメタな視点でも考える場にしたいという、本会のスタンスを述べた。
森木銀河氏(gmoriki代表)「大学職員のための生成AI最前線」
まず、森木銀河さんは、長らく大学実務におけるAI活用を推進してきた立場から、「大学職員のための生成AI最前線」と題したトークを行った。トークのフルバージョンは森木さんのnoteで公開されている。
今、大学の現場におけるAIの「最前線」は、実は最新のAIを知り活用することから、「AI利用者のためのAIガバナンス」に移ってきていると森木さんは話す。つまり、個人の判断ではなく、組織としての運用設計こそが問われている。大学関係者からは、「機密情報はどう扱えばよいか」と「AI活用の他大学事例を教えてほしい」があるが、いずれもAI特有の問いではなく、結局はその組織でいかにAI活用をガバナンスするかという問題に帰結する。機密情報の扱いはSNSへの投稿問題と本質的に変わらないし、他大学事例は自分の組織への腹落ちなしには意味がない。どちらも外部の人から学べることには限界があり、「組織がAIに何を任せるかを設計する視座」が求められている。
そのうえで森木さんは、個人が使えるAIとして、NotebookLMとClaude Coworkを紹介した。Claude Coworkで自身が作成した産学連携調査データのダッシュボードの事例も紹介された。AIに任せられる作業は「参照・生成・編集・実行」の四つに整理でき、後ろの二つほど権限が大きくリスクも伴う。
森木さんは、「AIを使うこと」を個人の責任にする風潮に警鐘を鳴らす。必要なのは、AIを使い続ける営みを組織として支援することが必要であり、そのためには「AIガバナンス組織」を設けることが有効だとして、海外の大学ではすでに取り組んでいるところがあることが紹介された。
高木志郎氏(AI研究者)
続いてAI研究者の高木志郎さんからは、RAの現場の業務知見を「スキル」として集めて共有する取り組みについて話した。スキルとは、「この業務はこういうふうにやる」と記述したMarkdownファイルのことで、AIに読ませることで毎回ゼロから指示しなくても動いてもらえる。高木さんは「RAスキル」のリポジトリをGitHubで公開し、RAの現場を知っている人に知見を投げ込んでほしいと呼びかけた。
高木さんが強く影響を受けたというMichael NielsenらのブログA Vision of Metascienceというブログにおける、「科学のやり方の空間は本当は膨大なのに、私たちはそのごく一部しか探索していない」という考え方」に触れ、AI for RAのスキルの共有が、科学の在り方の探索を広げる試みでもある、と高木さんは位置づけた。
ライトニングトーク(4名)
有志によるライトニングトークでは、現役URAや大学関係者4名が発表した。
インタビュー候補者のリスト作成にAIを活用した海外調査の事例、NotebookLMを軸に組織的なAI活用推進を進める取り組み、全国のURA有志による勉強会コミュニティの活動報告、そして大学合併を機に開発した研究者マッチング支援ツールの紹介などの発表がなされた。
荻多加之氏(福島大学・JAIST URA)「現場実践の報告と、AI時代の研究支援者像」
最後に登壇した荻多加之さん(福島大学・JAIST URA)は、二つの実践事例を紹介したうえで、研究支援の役割変化について論じた。
JAISTでの事例では、「研究の多様性を表現する図を作りたい」という漠然としたオーダーに対し、セマンティック・ワードクラウドという研究テーマの新しい可視化を自ら試みた。福島大学では、論文の質を把握したいという研究担当理事からの依頼を受け、SciValと契約していない状況でScopus APIを活用し、CiteScoreパーセンタイルを一括取得できるWebアプリを開発した。「生成AIがなかったら、どちらも私にはできなかった。AIの前と後で私の仕事は確実に変わった」と、荻さんは話す。
さらに、直近のSPReAD申請サポートを通じて、先生方の申請書の質が以前より格段に上がっているという観察が共有された。誤字脱字が減り内容もしっかりしており、AIを活用している様子がうかがえる。こうなると今後のURAの役割は「文章の体裁を整える」ことから内容の議論へと重心が移っていくのではないか。そうして個別支援がAIに移るとき、研究支援者はより広い視点、すなわち複数の研究を束ねる、分野横断的な視野を持つ、他のセクターとつなぐといった役割の比重が高まるだろうというのが荻さんの見立てだった。
こうした変化を踏まえ、荻さんは三つの問いを提起した。
個別の研究支援がAIに移るとき、研究支援者の役割は本当に小さくなるのか、それとも別の形で残るのか。業務の一部がAIに移ることは確かだとしても、それが「役割の縮小」を意味するのか。支援の形が変わるだけで、むしろ新しい必要性が生まれる可能性もある。
研究者・支援者・AIの3者で議論しながら研究を進める協働モデルは、実際に成立するのか。荻さんの実践事例はすでにその萌芽を示しているが、一般的なモデルとして広がりうるのか。
隣接分野や社会課題を結びつける役割を、研究支援者は本当に担えるのか.それは誰でも担えるのか。「束ねる」役割への期待が高まるとき、それを担える人材をどう育て、どう支えるかという問いが続く。答えを出すためではなく、問いとして場に投げかけ、ディスカッションへと移った。
ディスカッションでは、以下のようなポイントについて登壇者や参加者の間で議論が行われた。
スキルとガバナンスの接続。高木さんが提示した「スキル」の枠組みに対し、現場経験を持つ参加者から具体的な業務知識が寄せられた。スキルが組織をまたいで共有されるためには、属人的な暗黙知をどう記述可能な形に落とすかという問いが残る。個々のスキルの蓄積とともに、それを組織のガバナンスとして位置づける必要もある。
科研費申請支援の変化。AIによって申請書の文章品質が底上げされたとき、URAが担ってきた文章整理・体裁確認の業務は縮小していく。一方で、研究内容の議論や計画の論理的整合性へのフィードバックといった、より実質的な関与の余地が生まれてくるという見方が共有された。支援の「場」が変わることで、研究者との関係性そのものも問い直される。
研究者をどう育てるか。AIが申請書の質を底上げするとき、研究者自身の論理的思考力や文章力はどう育まれるのかという懸念も出た。ツールへの依存が深まるほど、研究者が自力で考える経験の場が失われるかもしれない。研究支援者が関わる意味の一つは、そうした育成的な側面を担うことではないかという指摘もあった。
研究支援者の支援。研究支援者自身が新しいツールを学び続けるためのサポートが必要だという声も上がった。個々の努力に任せるだけでなく、組織として学びの環境を整えることが重要であり、この勉強会コミュニティのような取り組みがその一助となりうる。
「束ねる」役割へ。荻さんは研究支援者の新たな役割として、「複数の研究を束ねる」ことがあるのではないかという。AIが個別支援の担い手になっていくとき、研究支援者の仕事は一対一の個別対応から、複数の研究をまたぐ構造的な支援へと重心が移る。
今回は、メタサイエンス勉強会としてはかつてない人数の方が参加され、研究アドミニストレーションの実務の現場からの関心が非常に高いテーマであることを実感した。それと同時に、AI for RAが、研究の在り方というメタサイエンス的な論点と地続きであることも感じた。
以下、この勉強会を振り返って、個人的なテイクホームメッセージを記しておきたい。
森木さんが強調した「個人の責任にしない」という視点は重要である一方で、森木さんを含む登壇者たちのように、自分で手を動かし試す態度も重要だと感じた。制度として取り組むことと、個人として技術に触れ続けることの両立が求められる。
高木さんや森木さんのように、自身がAIを活用するだけでなく、そのノウハウを共有し、みんなが使える仕組みをつくる活動は貴重だと感じた。
技術が日進月歩するAIの世界で、そのキャッチアップ自体が心理的な負担になりがちな中で、今回の登壇者のように変化を逆に楽しむ態度は見習いたいと思った。「非定常状態を楽しむ」くらいがよいのだろう。
AI for RA こそ、AI for Science以上に研究コミュニティへのレバレッジが効くという荻さんの指摘があった。研究者を支える人々がAIを使いこなすことの波及効果は大きい。そのことは今後も声を大にして言いたいし、その実践が広がることを期待したい。
(記:丸山隆一+Claude)