「シロヒメシンクイ」はハマキガ科ヒメハマキガ亜科モグリヒメハマキガ族に所属する種で、リンゴの害虫として知られており、長らく Spilonota albicana (Motschulsky, 1866) という学名が当てられていました。
岩手県の小蛾類(奥,2003)によって、かつて「シロヒメシンクイ」とされていたものには4種が混同していることが指摘されました。また「シロヒメシンクイ」という和名はリンゴの害虫種に与えられていたもので、Spilonota albicana (Motschulsky, 1866) はリンゴの害虫種の方ではではなかったことから、「ニセシロヒメシンクイ」という和名に改称されました。岩手県の小蛾類で示された4種とその寄主植物は以下になります。
・Spilonota albicana (Motschulsky, 1866) ニセシロヒメシンクイ(カスミザクラ、ミヤマザクラ、イヌザクラ、ネジキを摂食)
・Spilonota sp. 3 シロヒメシンクイ(トキワサンザシ、ナナカマド、ウラジロノキ、セイヨウリンゴを摂食)
・Spilonota prognathana (Snellen, 1883) ハシバミシロヒメハマキ(ツノハシバミ、ハシバミ、アカシデ、サワシバ、アサダを摂食)
・Spilonota sp. 4 ズグロヒメシンクイ(カナメモチを摂食)
この扱いは、日本産蛾類標準図鑑(那須ら,2013)や日本のハマキガ1(那須,2021)でも踏襲されており、シロヒメシンクイとズグロヒメシンクイの学名は未決定とされていました。
この学名未決定種のうちシロヒメシンクイについて動きがありました。
2024年にzootaxaにて韓国産のSpilonota属の分類学的再検討についての論文が出版され、そこで2新種が記載されました(https://mapress.com/zt/article/view/zootaxa.5418.4.4)。
新種のうちの1種であるSpilonota samseong Choi, Bae & Nasu, 2024(タイプ産地は韓国の安養市)の記載文中で、日本産のシロヒメシンクイと形態的な類似性について言及がなされ、論文著者の1人である那須義次博士所蔵の日本産サンプルとの比較の結果、シロヒメシンクイはS. samseongと同一種であると結論付けられていました。
なお、この論文中ではS. samseongの生態に関する言及はなされておらず(Host plantもunknownとされています)、今後生態学的知見を含めた更なる検討が期待されます。
シロヒメシンクイ Spilonota samseong Choi, Bae & Nasu, 2024
本ページの作成にあたり収蔵標本の掲載をご許可いただいた屋宜禎央博士(九州大学昆虫学教室)に厚くお礼申し上げます。
2024. 03. 03 鈴木信也