問3 大学受験向け予備校の合併に伴うITを活用したビジネスモデルの見直しに関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。
(R01秋 ST 午後I 問3)
F社は大学受験向け大手予備校である。全国各地域に校舎をもち,1名の講師が多数の生徒や学生(以下,学生という)をまとめて指導する集団型講座を展開している。
昨今の大学受験市場は,18歳人口の減少などの影響によって募集人数に対し入学を希望する学生の数が減少している。大学の多くは,入学志願者の間口を広げるために主要5教科の試験による選考に加えて,小論文や面接などの方法での選考も行っている。F社は,主要5教科の試験対策を行って大学に合格することを目的とする授業だけを提供しており,大学受験市場の変化に思うように対応できていない。
このような状況を受けF社は,G社に合併の提案を行うこととした。G社は,首都圏近郊に展開している学習塾である。講師1名に対し学生1名~数名を指導する個別指導型講座を展開しており,講座においては独自に構築したITを活用して学生の苦手分野の克服に特化した学習サービスを積極的に取り入れている。G社の講師は,講義時間外を利用して,学生と面談し,学力向上のために小論文や面接対策の指導を行っている。学生とのコミュニケーションを重視していることが口コミで広がり,学生の獲得につながっている。
[F社のIT活用状況と課題]
F社の強みは,大学合格実績が多いことである。F社には多くの大学の過去10年間にわたる全教科の入学試験の傾向が蓄積された大学データベースがあり,大学別の学力判定模擬試験(以下,F社模試という)の合格判定の精度も高い。F社に通う学生のほとんどが,自身が志望する大学のF社模試を受験する。F社模試で出題した問題と解答,分野,過去の受験者の成績情報及び合否結果はビッグデータとして学生データベースに蓄積されている。F社模試の合格判定には,蓄積されたビッグデータを活用している。
F社の講師は,講座の質を高めるために,毎年各大学の入学試験の傾向を分析し教材の改訂に当たっている。多くの学生が苦手とする分野を題材として取り上げることができれば講座の質が高まると考えているが,実現できていない。
F社の講座には,教室で行うライブ講座とオンライン講座がある。オンライン講座には,ライブ講座を他校舎の教室で放映するリアルタイム形式と,スタジオで録画した講座を専用ブースで視聴するオンデマンド形式があり,遠隔講座システムを用いている。また遠隔講座システムは,スタジオでの講座を専用ブースへ生中継し,講師と学生が遠隔でコミュニケーションをとりながら行うWeb会議形式の講座も開講可能であるが,現在は希望する学生が少なく,利用されていない。
F社は,学生が会員登録して利用するWebサイト(以下,学習支援システムという)上で,学生への学習支援サービスを提供している。学生は,学習支援サービスを通して,自身が受講する講座のスケジュールや時間,教室の変更情報,F社模試の結果履歴などを確認することができる。
F社では,今後ITを活用して,F社に通う学生の次のようなニーズに対応することが必要であると感じている。
[F社に通う学生のニーズ]
F社に通う学生は,難関大学への入学を望む傾向にある。F社に対しては,志望校合格に向けて実践的に学習できる講座が提供されることを望んでいる。また,最近では学習しているその場で苦手分野を克服するための個別指導へのニーズも高い。
F社の学生は,志望校に合格するためにはF社の講座とは別に自宅学習が重要であることを理解しているが,一人で自宅学習する意思を持続することは難しいと感じている。自身が行った学習時間を把握して他の学生の学習時間と比較することができると競争意識が働き,自宅学習のモチベーション向上に役立つと考えている学生も多い。
[G社のIT活用状況とニーズ]
G社の講座は,対面指導のほかに,独自に構築したアダプティブラーニングシステム(以下,ALSという)を活用した自立型学習サービスの提供に特色がある。ALSは,学生がALSを利用して行った教科ごとの分野や演習問題とその学習にかかった時間などを学習記録として蓄積するものであり,学生が学習の進度や理解度を確認できるようにするものである。G社のALSには,ALSを利用した学習記録に限らず,ALS以外で行った試験の結果なども記録することができる。さらにALSは,独自に開発したAI機能を活用し,蓄積されたデータから多くの学生が苦手とする分野の傾向を分析することができる。また,傾向分析した情報を活用し,学生ごとの学力向上につながる最適な演習問題を繰返し出題する仕組みを実現している。蓄積されるデータが多いほど傾向分析の精度や演習問題の適応度が高まるのでG社は今後蓄積データを増やしたいと考えている。
G社の強みは,個別指導型講座による対面指導で,学生の弱点をその場で解決できることである。
G社の講座は,教科別の講座であり,特定の大学向けの講座はない。学生からは,志望する大学に特化した講座の開講を期待する声もあるが,学生のニーズには応えられていない。
G社は,今後ITを活用して,ニーズや課題に対応する必要があると感じている。
[合併に向けた講座の新設と見直し]
F社の合併提案に対してG社も合併によってG社のニーズや課題に対応できると判断したので,両社は合意した。両社は合併に向けて両社がもつITを連携統合し,用するための具体的な協議を開始した。講座形態については,F社に通う学生のニーズに応えるためにF社の遠隔講座システムを利用してWeb会議形式による個別指導型オンライン講座を新設することにした。
また,G社に通う学生のニーズに応えるために,ある情報を講座内容に取り入れて見直しを図ることにした。
[ALSの活用促進策]
学生は,ALSを活用することで学習の進度や理解度を確認することができるとともに,学習を行うほど出題される演習問題が苦手分野に適合していくので学力向上につながっている。ALSが出題する演習問題の適応度を高め,学生の一層の学力向上を図るために,F社のある情報の活用を検討することにした。
[学習支援システムの強化策]
学習支援システムの強化策として,次の機能を追加する。
① ALSに蓄積された学習時間の情報を学習支援システムへデータ連携する。
② 学生が自宅で行ったALS以外での学習の開始時刻・終了時刻の入力を可能とし,学習時間として管理する。
③ 同じ講座を受講する学生の学習時間の統計情報を確認でき,学生全体の中での自身のポジショニング情報を知ることを可能とする。
④ 講師と学生の双方向のコミュニケーションを可能とする。