問3 コンテンツ制作会社の事業展開に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。
(H30秋 ST 午後I 問3)
C社は,広告などのコンテンツ制作を事業とする中堅企業である。制作部のほか,営業部,総務人事部,及び財務経理部がある。
C社は,多くの広告代理店から,図,写真及び文章から成るコンテンツ制作の案件を受注している。業務は時期によって繁閑の差が大きいこともあり,コンテンツ制作を行う制作部はデザイナをあまり抱えておらず,社外の個人や法人のデザイナによるネットワークを組織して,案件の内容に応じてその分野を得意とする社外のデザイナに外部委託している。案件を受注する都度,社内のデザイナを指名し,営業担当者とともに案件担当者として割り当て,外部委託の手続や案件遂行に関するとりまとめの作業に当たる。案件ごとに社内のデザイナを割り当てるので,組織に業務ノウハウが蓄積しにくく,顧客によっては継続的な対応を依頼されるが,十分な取組みができていない。受注案件の採算は,コンテンツ制作に要する外部委託費と社内工数に大きく影響され,採算の改善が課題となっている。
C社でコンテンツ制作に用いている情報システムとしては,制作業務を支援するコンテンツ管理システム,及び案件を管理する案件管理ツールがある。案件管理ツールは今後,案件管理システムとして整備する方針である。
C社では,これまでは雑誌やリーフレットといった紙媒体のコンテンツ制作が中心であったが,受注量が漸減傾向にあることから,ディジタルコンテンツ制作にも取り組み始めている。紙媒体のコンテンツであってもディジタルデータで納品することがほとんどである。ディジタルコンテンツを取り扱っても業務プロセスに変更はないが,情報システムについては見直しを行い,ディジタルコンテンツへの取組みを拡大していきたい。
[制作業務の現状]
C社では,制作業務の実施に当たり,コンテンツ管理システムを利用している。コンテンツ管理システムは,図,写真及び文章から成るコンテンツの登録や編集などの機能がある。
案件の中には,企業の新製品の発表や決算報告用資料の印刷原稿の作成など,公開されるまでは極めて機密性の高いものもある。このような機密保持が必要な案件は,情報漏えいの防止及び監査対応が必要なので,コンテンツ管理システムにおいて,当該案件のコンテンツへのアクセスは案件担当者に限り,コンテンツへのアクセス履歴を保管している。
コンテンツは,素材となる幾つかのコンテンツ部品(以下,部品という)を組み合わせて制作する。部品は複数の社外のデザイナに分けて外部委託することが多い。社外のデザイナから全ての部品が納品されたら,社内のデザイナがそれらをコンテンツ管理システムに登録し,編集機能を使用して部品を組み合わせて,最終的にコンテンツを完成させる。社外のデザイナからは,部品の納品に際して著作権を譲渡してもらい,著作者人格権は行使しない契約を締結している。
案件によっては,過去の部品の形状や位置を少し変えるだけで再利用可能な場合もある。しかし,社内のデザイナのセンスや編集スキルでは部品のテイストが損なわれる可能性もあるので,納品された部品の形状や位置をC社で変更することはない。このため,異なる案件で類似の部品が必要となった場合でも,改めて部品を制作することになり,外部委託費が掛かるほか,契約や関連資料の授受といった事務手続のための社内工数が掛かっている。
[制作業務への新たな取組みの試行]
そこで,ブロックチェーン(分散型台帳)技術を応用したシステムを構築して,著作権は社外の各デザイナに留保させたままにして,社外のデザイナと広告代理店から成る取引先とC社の間で,部品を融通させる新たな取組みを試行することにした。ブロックチェーンには,部品のデータのハッシュ値,取引履歴などの情報に,社外のデザイナが電子署名をして利用する。ブロックチェーンは全ての取引先で共有することを予定している。この仕組みによって,著作権を保有する社外のデザイナから部品を購入することができるようになるので,改めて制作する必要も減り,C社での外部委託費はあまり変わらないものの,事務手続のための社内工数の削減が期待できる。C社は,この試行が成功したら,参加取引先を拡大させて,“コンテンツ流通のプラットフォーム運用事業”として事業化する予定である。
試行の成否は,KPIを設定して確認する予定である。KPIとしては,財務の視点からは“売上高利益率の増加率”を,顧客の視点からは“受注件数の増加率”を,業務プロセスの視点からは制作業務の観点に着目して“aコ”を,学習と成長の視点からは“システムの操作の習熟度”を設定する。
[案件管理の改善]
案件管理ツールは,スプレッドシートを利用して,引合いや受注した案件の内容,広告代理店名,広告主名,見積額,受注額,納期などを記録し,予算・実績の管理と営業部全員の情報共有に活用されている。
広告主の中には,費用削減を目的に,複数の広告代理店へ見積依頼することもある。
多くの広告代理店と取引のあるC社では,一つの広告主からの同じ案件を,複数の広告代理店から別々に見積依頼されることもある。このような場合でも,それぞれに対して同一の見積額を提示するように徹底している。
案件管理ツールについては,ディジタルコンテンツの取扱いや今後の事業拡大を視野に入れ,広告代理店からの引合いや受注の情報を確実に管理できるよう,案件管理システムとして整備する方針である。案件管理システムでは,案件情報や見積条件から,一つの広告主からの同じ案件と判断できる別の広告代理店からの引合いは,関連付けて管理する機能を設ける。
[事業拡大の取組み]
コンテンツ管理システムの機能を向上させ,案件管理システムを整備することによって,紙媒体やディジタルコンテンツ制作だけでなく,動画と音声を含めたWebデザインの業務まで拡大し,“Webの構築や運用の事業”に取り組みたいと考えている。
“コンテンツ流通のプラットフォーム運用事業”や“Webの構築や運用の事業”の事業拡大に当たっては,制作部でのWebデザイン業務の追加のほか,運用部を新設する必要があると考えている。