問4 AIを活用したエレベータの製品企画に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。
(H30秋 ST 午後I 問4)
R社は,エレベータの製造販売を行う中堅メーカであり,国内市場において,主に低層及び中層のビル向けに製品を納入してきた。
エレベータメーカの業態は,製造販売のほかに,新設・更新工事と保守も手掛けるストック型ビジネスである。エレベータの物理的設置方法がメーカごとに異なることから,更新工事のほとんどはそのエレベータを設置したメーカが再受注することになる。したがって,新設のシェアを高めることができると長期間高い売上げを維持することができる。
[R社の現状]
・創業以来売上げは順調に伸びていたが,ここ数年は下降傾向となり,売上げを確保するための新たな事業戦略を立てる必要に迫られている。
・保守体制の新規構築に課題があり,これまで海外進出には消極的であった。
・監視センタの遠隔監視システムで,エレベータの故障情報を収集して保守に生かしている。しかし,エレベータの故障発生を通知されてから修理する事後保全であることから,予期せずエレベータが使えなくなったり,修理完了までのエレベータ停止時間が長くなったりするので,利用者から不満が出ている。
[国内市場の動向]
・低層及び中層のビル用エレベータについては,数年前,海外メーカが新規参入した。このメーカのエレベータは安価で,しかも国内のメーカごとに異なる物理的設置方法に対応できるように工夫されていることからシェアを伸ばしている。
・オフィス,ホテルの高層ビル化が急激に進んだ当時のエレベータの最大の課題は,移動速度であった。高速エレベータは特殊な部品・構造を要し,価格が高くなるので,今では,超高層ビルの展望階に直行する観光用エレベータなどに限定されている。
・国内市場ではビルの建設は一巡し,新規ビルの建設数は減少傾向にある。
[高層ビル用エレベータに対する最近の要求事項]
・利用者が集中する時間帯(社員の出退勤時間帯,宿泊客の到着時・出発時,食事時間帯など)における待ち時間を短縮してほしい。待ち時間を短縮するために,エレベータを高層階用,中層階用,低層階用にグループ分けするケースが多いが,利用者がいないグループのエレベータがある一方で,別グループのエレベータの待ち時間が長い場合が多い。待ち時間は,ビルの階数に応じて長くなる傾向が見られる。
・予定されている外出,打合せなどで急いでいるときに,エレベータが離れた階から移動してくることがあるので,その待ち時間を短縮してほしい。
・地震が多発する地域のエレベータでは,利用者の閉じ込め事故を防止する機能が必要とされている。しかし,地震を感知してエレベータを最寄りの階に停止させ開扉する従来の方式では,急激な揺れの場合は間に合わないことがあるので改善してほしい。
これらの最近の要求事項は,特殊な部品・構造を必要とせず,ソフトウェアの制御技術で対応可能なので,高層ビル用エレベータの市場は参入しやすくなってきている。
[海外市場の状況]
R社のITストラテジストであるU氏は,海外市場における今後10年間のエレベータの需要を調査したところ,次のことが分かった。
・新興国の都市部に高層ビルの建設予定が多く,集中した需要が見込まれる。
・日本国内同様,高層ビルにおける待ち時間の不満が多くなってきている。
U氏は,今後は海外市場の高層ビル向けの製品にも注力すべきと考えた。
[新機能の検討)
U氏は,海外への事業展開に当たり,ターゲットを高層ビルとし,一度獲得した自社のシェアを守るために,他社との差別化を図った新機能を新製品にもたせるべきと考えた。そこで新製品に備える新機能3件を,次のようにまとめた。
・待ち時間の短縮
・保守によるエレベータを利用できない期間の短縮
・急激な揺れの地震時における,エレベータ閉じ込め事故の防止
U氏は,実現方法の検討を,R社のシステムアーキテクトであるV氏に依頼した。
V氏は,実現方法の検討結果を次のようにまとめ,U氏に報告した。
・利用者が集中する時間帯には,利用者の行き先階をリアルタイムに判別して,乗るエレベータを分け,算出された人数まで利用者が乗った後,又は一定時間経った後に閉扉するように制御することによって平均待ち時間を短縮する。
・曜日,休日,時間,天気,周辺のイベントなどによる利用者の変動を予測する。
・エレベータの稼働時の状態を監視し,予防保全を行う。
・各地に分散しているビルの振動情報をリアルタイムに収集して地震の発生を検知し,計算によって大きな揺れが伝搬する地域を割り出す。その結果を基に,従来の方式よりも早くエレベータを最寄り階に停止させて開扉するように制御する。
[他社技術の検討]
U氏は,V氏に対して次の検討を依頼した。
(1) 総合ビル管理システムメーカS社の入退場管理システム,監視カメラシステム(以下,S社2システムという)との情報連携
R社と協業関係にあるS社は,海外に工事・保守拠点をもち,グローバルな事業展開を進めてきたが,売上げが目標に達しなかった。今後は,省エネルギーなど,ビルを活用する上での様々な効率向上を図るソリューションを提供し,シェアを伸ばす方針を固めている。
(2) 情報処理システム開発メーカT社との,AI技術を活用した新機能の実現
R社と同系列会社であるT社は,AI技術をコアコンピタンスとして,新たな事業展開を模索している。
V氏は,S社及びT社とともに検討した結果,新製品に備える新機能3件は実現可能であることを,U氏に報告した。
[国・地域ごとの調査]
U氏は,V氏に国・地域ごとの次の調査を先行するよう指示した。
・エレベータに関する各種規格の調査
・通信インフラのリアルタイム性調査
・天気,周辺のイベントなどの情報を入手する方法の調査
[海外への事業展開計画]
U氏は,海外への事業展開に当たり,次の施策を検討した。
・S社,及びT社と提携して新機能を備えた新製品を開発し,S社2システムと合わせて販売する。
・AI技術を活用した新機能の開発が遅れる場合でも,後でソフトウェア更新することを前提に市場投入を急ぐ。
・S社2システムを対象とした通信ユニットを実装する。
・S社に対しては,S社2システムとの連携のほかに,エレベータの新設・更新工事と保守の協業も依頼する。
・将来,エレベータに追加可能なオプション機能として,ビルのテナント会社の業務システムから従業員のスケジュール管理情報を取り込んで,S社2システムと連携したエレベータの自動制御機能を開発する。