問4 超小型人工衛星の事業化に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。
(H29秋 ST 午後I 問4)
R社は,ヘリコプタ,船舶などの移動体に搭載するスタビライザカメラを主力製品とする特殊カメラメーカである。スタビライザカメラは,ジャイロを用いてぶれが少ない映像を撮影できるシステムであり,その用途によって,ハイビジョンカメラなどを積んだ放送・映画用と,赤外線カメラを積んだ捜索・救難用に大別される。近年,ラジコンヘリコプタ及びマルチコプタに搭載するカメラの需要が増え,小型モデルも製品ラインナップに加えた。その結果,売上が増加し,今後3年間は安定した高い収益が得られると見込まれた。しかし,国内外メーカの新規参入が増えつつあり,中長期的には収益性が高い新たな事業戦略が必要となっていた。
R社のITストラテジストであるE氏は,新たな事業戦略の検討を進める中で,農業機械メーカの関連会社が人工衛星によって得られる画像情報を求めているとの情報を入手した。その情報によると,麦の収穫が集中すると収穫機械及び乾燥施設が競合して,適期収穫ができなくなる。この問題を解決するために,人工衛星に特定波長の赤外線カメラを搭載して撮影した画像を基に,収穫に最適な時期を推測して,最適な収穫順番を計画するシステムを開発したいとの内容であった。
[日本の宇宙事業の状況]
E氏が調査したところ,100kg以下の人工衛星(以下,超小型人工衛星という)を安価な小型ロケットに搭載して打ち上げる準備を進めている会社(以下,ロケット会社)は,数社あり,超小型人工衛星であれば一企業が数億円で所有できる時代になりつつあることが分かった。また,データ応用面では,農業以外にも人工衛星による地球観測(以下,リモートセンシングという)技術を利用した“漁業の高度化”,“樹木の健康管理,伐採管理”など,第一次産業を中心に人工衛星による画像データ利用の要求が急速に高まりつつあることが分かった。
現在の日本における宇宙事業は急成長の段階にある。人工衛星で収集したデータを扱うサービス事業を行っている会社(以下,データ処理会社という)及び行おうとしている会社は非常に多く,その利用目的ごとに複数存在するので競争が激しくなっている。また,一般的な人工衛星を開発している会社は何社かあるが,超小型人工衛星を開発している会社は現時点では少ない。さらに,人工衛星を自社で購入して活用するには,人工衛星開発会社,ロケット会社及びデータ処理会社を探して,各企業と個別に契約する必要がある。つまり,人工衛星を購入しても,それだけでは目的を達成できないという煩雑な状況に置かれている。
[日本の人工衛星事業の事業体制]
人工衛星事業の事業体制は,企業が単独で進める場合,複数企業が協業する場合,及び公的な研究開発機構が催す“オープンラボ”に参加し,公的な研究開発機構の研究者,民間の研究者及び大学の研究者とプロジェクトを組む場合,の三つがあり,それぞれ次に示す特徴がある。
(1) 企業が単独で進める場合
・開発費用は,自社で準備する必要がある。
・自社で準備できない技術は,安価で購入できることが前提となる。
・開発で得られた技術は,自社の知的財産として保有できる。
・収益は,自社で独占できる。
(2) 複数企業が協業する場合
・必要となる技術をもつ企業を探す必要がある。
・開発費用は,企業間で分担できる。
・技術及び収益は,関わった企業間で共有することになる。
(3) オープンラボに参加する場合
・公的な研究開発機構から,年ごとに共同研究費を受けられる。
・公的な研究開発機構及び大学の実験設備を利用できる。
・プロジェクト内で相互に最新の保有技術,研究成果を生かせる。
・研究成果は,基本的には独占することができない。
[人工衛星事業の分析]
E氏が,人工衛星事業について分析したところ,今までR社が行ってきた事業とは異なり,次の特徴があることが分かった。
(1) 人工衛星事業に共通する特徴
・打ち上げ失敗などによって,人工衛星として運用できなくなるリスクがある。
・打ち上げ後の修理が困難なことから,運用の途中で運用停止となるリスクがある。
(2) 一般的な人工衛星事業の特徴
・単品かつ高額の製品である。
・初期投資が大きく,製品販売まで長い期間を必要とする。
・多くの機能と高い冗長性が求められるので開発期間が長くなり,原価が高く,収益性が悪い。
(3) 超小型人工衛星事業の特徴
・人工衛星一基当たりの打ち上げコストが小さい。
・リスクが表面化した場合の損失額が,一般的な人工衛星と比較して小さい。
・価格が安いので一企業で購入でき,得たデータも一企業で専有できる。
・数多く販売しないと,事業として成り立たない。
[人工衛星事業の事業性検討]
E氏は,最新のデータ活用技術の調査を行った。その結果,人工衛星のリモートセンシングで得たデータを気象情報など他のデータと組み合わせてAI技術で解析することによって,より価値が高い情報を得られる可能性があることが分かった。
E氏は,R社における人工衛星事業の事業性を検討して,次のとおりまとめた。
・一般的な人工衛星の開発事業は,R社の事業として成り立つ可能性は低い。
・超小型人工衛星の開発事業は,早期に製品化すると大きな売上を見込めるが,R社が単独で開発するには保有技術面で課題が多い。
E氏は,技術面の課題はあるものの,将来的な事業性を見込み,超小型人工衛星の開発を行うことを想定し,一般的な人工衛星との差別化を図った超小型人工衛星の開発事業を具体化するための材料を集めることにした。
[要素技術の調査]
E氏は,システムアーキテクトのN氏に,超小型人工衛星を開発するために必要な要素技術の調査を依頼した。調査においては,留意すべき次の2点を伝えた。
・一般的な人工衛星から流用できる技術と超小型人工衛星用に開発しなくてはならない技術を見極めること。
・技術ごとの先行メーカを把握すること。
後日,N氏は表1に示す調査結果をE氏に報告した。