問2 保険会社の新事業の企画に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。
(R01秋 ST 午後I 問2)
B社は,中堅の損害保険会社である。業績が伸び悩んでおり,新たな保険商品による収益増加を,新しい中期計画の重点施策にした。保険業界では,近年,ITを業務効率化や生産性向上だけではなく,革新的な商品に活用する場面が増えてきている。B社でも,自動車保険でドライブレコーダを装着した契約者向けに特約を提供することで,契約件数を伸ばすことができ成功した。これに倣って,ITを活用した新たな医療保険の導入を企画した。
[新たな医療保険の概要]
医療保険は,生命保険会社と損害保険会社の双方が取り扱えることから,市場には多くの商品が登場している。B社は,これまでも医療保険を取り扱ってきたが,競争優位性の確保が難しく販売実績は低迷している。近年の人生100年時代の背景もあり,医療保険契約者の傾向として,健康に気を配っている層が増えている。これらの層には入院や治療などのいざというときには備えたいが,日頃から健康には気を配っていることが保険料に反映されないことに不公平感をもち,契約をためらっている潜在的な契約者も少なくない。
そこでB社では,契約者にセンサデバイスを装着してもらい,得られるデータに応じて月額保険料を割引する医療保険(以下,新商品という)を開発し,新たに販売することにした。健康に気を配っている潜在的な契約者のニーズに応え,見込み客を取り込み,販売を拡大したいと考えている。B社としては,契約者が健康であり続けることで,保険料を割引しても長期にわたり安定的に収入を得られ,かつ,保険金の支払を軽減することが期待できる。
B社は,これまでは,年齢,性別,り患率,治療費などを統計処理した結果に基づき,月額保険料を算定してきた。そのため,センサデバイスから得られるデータに応じた月額保険料の割引率体系の確定のためには,データを収集し,さらに統計処理して,新商品の採算性を見極める必要があると考えている。
新商品を提供するには,センサ技術とAI技術の活用が必要になるので,取引先であるデバイスメーカC社とスタートアップ企業D社と協議して,図1に示す事業スキームを構築することにした。その概要は次のとおりである。
(1) C社は,センサが内蔵されたリストバンド型デバイス(以下,リストデバイスという)をB社へ販売する。B社は,リストデバイスを新商品の契約者に提供する。
(2) 契約者は,リストデバイスを着用し,Bluetoothで自身のスマートフォンと連携させる。リストデバイスで収集される心拍や血圧のバイタルデータ,歩数,移動のデータ(以下,まとめて,健康データという)は,クラウドサービス上のシステム(以下,新商品システムという)に,スマートフォン用アプリケーションプログラムを通じてアップロードされる。新商品システムのためのクラウドサービスや,スマートフォン用アプリケーションプログラムは,C社が提供する。新商品システムはB社が管理する。
(3) B社は,D社のAIエンジン技術を利用して,収集した健康データ,及び病気にかかったり入院したりして保険金が請求された履歴情報(以下,保険金請求情報という)から学習し,それらをAIエンジン学習済モデル(以下,学習済モデルという)として蓄積する。その結果から,契約者別にポイントを計算し,算出されたポイントに応じて,当該契約者の月額保険料の割引率を算定する。その結果を受けて,各人の月額保険料の請求額は四半期ごとに改定する。