問2 住宅設備メーカのシステム導入に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。

(H30秋 ST 午後I 問2)

 B社は,住宅設備のトイレ設備を製造するメーカである。トイレ設備の販売製品には,一般家庭向けの標準品とマンションやホテル向けの受注生産品がある。受注生産品には,複数の種類の製品がある。

 受注生産品の主要顧客であるデベロッパは,分譲マンションと賃貸マンションの建築を請け負っている。分譲マンションは土地取得からのプロジェクトなので,納入まで数年にわたる長期の商談が多い。賃貸マンションは土地所有者がオーナであることが多く,その場合には土地取得が不要なので商談の発生から納入まで1年以内の短期の商談が多い。新築マンションの供給戸数は,横ばいかやや減少の傾向である。

 B社では,標準品を製造するための生産計画ツールと組立管理システムを活用して受注生産品の製造を行ってきたが,機能が不足しているので,受注生産品に対応する新システムを導入することにした。新システムでは,生産計画の情報共有による見える化を図ることによって営業活動を活性化するとともに,正確な製造状況をリアルタイムに把握する。


[営業部門の現状]

 営業部門は,受注生産品について年度の初めに一度,年間の販売目標と月別に展開した販売計画を立てる。販売計画には,長期の商談は受注確度が低い商談まで含めるが,短期の商談は受注が確実な商談以外は含めない。販売計画に対し,毎月末に翌月から3か月間の製品の納期と数量を見直して,翌月以降の販売見込みを作成している。

 販売見込みに含めていない短期の商談が発生しても,生産可否の判断ができないので,原則として取り組まない。


[トイレ設備事業部門の現状]

 製品の年間と月別の生産計画は,年度の初めに,生産管理部門の担当者が専用のツールを使って,販売計画に基づいて作成し,併せて工場の要員計画を作成している。さらに,毎月末に,営業部門が見直した販売見込みに基づいて月別の生産計画の見直しを行い,翌月から3か月間の日別の製造計画を作成する。製品は納期を基にして製造するので,年度の初めに立てた月別の販売計画に対して販売見込みの数量の増加が大きい場合には,総作業時間が増加し,製造部門で計画した要員では就業時間内に対応できず,時間外作業時間が増える。想定以上の時間外作業時間の増加はコスト増加につながるので,製造部門では課題と考えている。

 トイレ設備の製品の製造は,陶製の便器(以下,便器という)を製作し,便器に水洗用付属機器(以下,付属機器という)を取り付けて行う。便器の製作は,原料調整工程,成形・乾燥工程,焼成工程,検査工程の順に行う。付属機器の取付けは,付属機器用の部品(以下,部品という)の組立工程,ユニット組立工程,検査工程の順に行う。便器の製作において,熟練作業者は作業開始時の温度と湿度の情報によって,成形後の乾燥時間,焼成の窯の温度をそれぞれ調整して不具合品の発生を防止している。

 製造管理は,ユニット組立工程だけに組立管理システムを導入して作業実績を管理している。ユニット組立工程以外の工程の作業実績時間の取得と記録はできていない。

 現在,1日に製造する製品の計画数量と実績数量の差は,当日の作業終了時に分かる。そのため,工場内の設備の故障や作業者などの問題で計画数量に対して実績数量の未達が発生しても必要な対応ができず,翌日以降の作業の変更などの影響が出る。

 部品の組立工程において,使用する部品の準備は,製造する製品を組み立てるごとに,部品倉庫から部品リストに基づいて出庫して取りそろえているので,作業工数が掛かり,見直しが必要と考えている。部品倉庫からの出庫の順序管理はしていない。そのため,部品倉庫に古い部品が残ることがあり,水回りのゴム製の部品が劣化することもある。

 部品は,在庫量が設定した発注点になったときに定量を発注する定量発注方式によって部品メーカに発注している。部品メーカの営業担当からは,自社の製造計画の作成のために“ある情報”が欲しいと要望されている。


[トイレ設備事業部門のシステム導入の概要]

 今回,生産計画の情報共有のために生産計画システムの導入,及び製造状況を把握するために全工程を管理する製造管理システムの導入が取締役会で決定された。生産計画システムを生産管理部門が,製造管理システムを製造部門が,それぞれ導入を担当する。

 営業部門でも,今回のシステム導入を機会に商談対応を見直し,受注拡大のために販売見込みに含めていない短期の商談にも積極的に取り組む方針である。


[生産計画システムの導入計画]

 今回導入する生産計画システムによって,営業部門,生産管理部門及び製造部門は,販売計画,販売見込み,生産計画及び製造計画の共有が行えるようになる。生産計画システムでは,工場の生産能力の余力の状況を営業部門からも確認できるようにする。営業部門は,販売計画と販売見込みを生産管理部門に提供する。販売見込みは,見直し時に受注が確実になった短期の商談も含める。生産管理部門は,営業部門が作成する年度の初めに立てた販売計画と工場の生産能力を考慮して,年間と月別の生産計画を作成する。また,営業部門が月末に見直す販売見込みによって,月別の生産計画の見直しと日別の製造計画を作成する。日別の製造計画は,製造管理システムにおいても使用する。工場の生産能力は,生産設備の稼働時間と作業者の一定の時間外作業時間を勘案した上限から算出して設定する。

 販売計画に対して販売見込みの数量の増加が大きい場合には,工場の生産能力を超えないように,生産する製品の順序を入れ替えて生産計画を作成する方法に変更する。


[製造管理システムの導入計画]

 今回導入する製造管理システムは,工程管理,実績管理及び在庫管理の機能をもつ。製造管理システムでは,生産計画システムで作成した日別の製造計画を取り込み,エ場で製造する製品の予定数量が分かる。工程管理は,その日に製造する製品の製造指示を行い,製品の複数の工程の進捗状況を管理する。製造指示は,1日分の複数の製品の製造する数量と,製品ごとに使用する部品リストをまとめて指示する。実績管理は,時間ごとに,工程ごとの作業実績時間,製造した製品の実績数量を記録する。エ程ごとの作業実績時間を計測し,作業の予定時間との差異を比較することによって工程の問題を検出できる。今回導入する製造管理システムにおいて,現状,取得と記録ができていない,便器の製作の全工程の作業の実績時間と,焼成工程の窯の温度情報の実績が,自動的にシステムに記録される。在庫管理は,製品の在庫と工程で使用する部品の在庫を管理する。部品の在庫は,入出庫日付と数量を管理する。部品の発注は,定量発注方式によって部品メーカへ発注する。

 熟練作業者が作業において参考にした情報を現場でその都度入力できるように,タブレット端末を導入する。

 製造部門では,今回のシステム導入によって,次の事項の改善を図る計画である。

 ① 工場内で製造状況に何か問題があった場合の早期の把握

 ② 部品倉庫からの出庫に関する在庫管理の改善

 ③ 製造管理システムへの機能追加による部品の取りそろえ作業の改善


[トイレ設備事業部門の取組み]

 トイレ設備事業部門では,今回のシステム導入に当たって,生産管理部門と製造部門が協力して次の事項に取り組む計画である。

 ① 熟練作業者の退職に備えた不具合品防止のノウハウの収集と分析

 ② 部品メーカの要望への対応

 ③ 生産計画の作成方法の変更