問1 証券会社のコールセンタにおけるAIの機能を活用した新サービスの検討に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。

(H30秋 ST 午後I 問1)

 A社は,中堅の証券会社である。主に,電話やオンラインによる個人顧客向けのトレーディングサービスに強みをもっている。A社は,半年前にオンラインによるトレーディングサービスのシステムを刷新した。ユーザビリティが大幅に向上し,顧客は,より簡便にオンラインによるトレーディングサービスを利用できるようになった。その結果,A社の証券口座をもつ既存顧客のサービス利用頻度が増え,A社で証券口座を開設する新規顧客も増加傾向にある。

 A社は,自社でコールセンタを運営しており,顧客から電話による注文と問合せ,及び電子メール(以下,メールという)による問合せを受け付けている。

 電話による注文と問合せは,平日・土曜日の8時から19時までを受付時間としている。オペレータは,この時間帯の中でシフト体制を組んで対応している。

 メールによる問合せは,19時までに受け付けたメールに対して,翌営業日の21時までに初回の回答を返信することにしている。顧客からのメールを受信すると直ちに受付完了メールを自動返信する。その後,電話による問合せに対応するオペレータが,手すきのときに,メールに回答する。

 これらとは別に,A社は,顧客がA社のWebサイトを参照して,FAQやヘルプの検索などによって自らの問題解決を促すセルフサービス機能も提供している。

 最近,電話による問合せ件数が増加傾向にあるので,コールセンタのオペレーション業務を見直すことにした。


[電話による問合せ対応の現状]

 電話による問合せへの対応では,オペレータの経験の程度によって対応品質に差が生じていた。経験の浅いオペレータに対しては,コールセンタの指導員が指導を行い,対応品質の向上を図っていたが,指導員が指導に携わることができる時間に限りがあり,思うように進まなかった。さらに,電話による注文の件数が多い場合,A社は,オペレータを問合せへの対応から業績へのインパクトが大きい注文への対応ヘシフトさせるので,問合せへの対応が手薄になるという問題を抱えていた。

 このため,A社では,音声認識技術とAIの機能を組み込んだオペレータサポートシステムを導入して活用してきた。本システムでは,通話の音声は,音声認識技術によってリアルタイムにテキストデータへ変換される。AIの機能が,そのテキストデータを解析し,FAQやオペレータ用のリファレンスマニュアルと関連付けて,回答候補をオペレータの端末の画面上に表示する。オペレータは,回答候補を参照しながら顧客に回答する。オペレータが選択した回答はオペレータサポートシステムに記録され,AIが学習して,表示する回答候補の精度が向上していく。ただし,適切な回答候補がないとオペレータが判断した場合,オペレータはFAQやオペレータ用のリファレンスマニュアルから探して回答する。

 電話による問合せがオペレータの応答待ちになった場合は,自動音声応答の案内によって,顧客をFAQやヘルプの検索及びメールでの問合せに誘導しているが,顧客が案内の途中で電話を切ってしまうことが多く,A社は,顧客満足度の低下を懸念している。


[メールによる問合せ対応の現状]

 受信した問合せのメールは,オペレータサポートシステムによって,その内容を確認され,担当のオペレータへ割り振られる。オペレータは,AIの機能を利用して,回答候補を参照しながら顧客に返信する。オペレータが選択した回答は,電話による問合せへの対応と同様にオペレータサポートシステムに記録され,AIが学習する。

 電話による問合せが多い日は,受付時間内にメールによる問合せへの回答に対応する時間が取れないこともある。その場合,19時まで勤務予定だったオペレータのうち必要な人員が,時間外勤務をして,初回回答の期限である21時までにメールへの返信を行っている。時間外勤務によって,業務コストも増加している。


[新サービスの検討]

 A社は,業務コストを抑えながら顧客からの問合せ件数のさらなる増加に対応するために,コールセンタのサービスの高度化が次の重要なテーマだと考え,AIの活用範囲を広げた新サービスを検討している。

 新サービスの検討に当たって,問合せをしてきた顧客に簡単なアンケートを行った。その結果,問合せをした顧客の多くが,電話やメールで問合せをする前に,FAQやヘルプの検索などのセルフサービス機能での解決を試みていることが分かった。

 そこで,A社は,新たに自動応答Webチャット(以下,チャットボットという)を利用するサービスを検討している。チャットボットは,セルフサービス機能をもち,電話・メールに続く第三の対応方法である。チャットボットではオペレータサポートシステムに蓄積されたデータを活用する。この新サービスは,Webサイト上から利用でき,AIの機能によってオペレータの介在を必要としないので,24時間365日いつでも提供できる。顧客がチャットボットだけで解決ができない場合は,顧客へのコールバックに切り替えることで解決できる仕組みとする。


[新サービスの導入効果]

 A社は,新サービスの導入効果を測定するために,チャットボットの利用状況に関するKPIと,チャットボットだけで解決した問合せの割合に関するKPIを設定する。これらのKPIの目標値を継続的に達成し,新サービスの導入効果が確認できた場合は,オペレータによる問合せへの対応を平日だけにする計画である。また,A社は新サービスの導入によって,オペレータの労働条件を改善でき,業務コストを抑制できると考えている。