問3 クレジットカード会社の保有データを活用した取組みに関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。
(H29秋 ST 午後I 問3)
C社は,中堅の金融系クレジットカード会社である。主に,カード会員(以下,会員という)からのキャッシングやリボルビング支払での利息,加盟店からのクレジットカード取引の手数料によって,収益を得ている。
[C社の状況]
同業他社が景気や消費の回復によって業績を持ち直しているのに対し,C社は会員数が伸び悩んでおり,手数料収入の増加も見られず,利益率も同業他社よりも見劣りしている。
C社は,契約している加盟店が多いこと,加盟店の業種・業態が多岐にわたること,会員には個人事業主や会社員など様々な属性の者がいることが特徴である。また,C社は,各加盟店でのカード利用の決済データを取得できるが,POSのデータやECサイトでの購買データとは異なり,商品単位の決済データは取得できない。
このような状況を踏まえ,C社では,収益の改善を図る方針を打ち出した。
[新たな取組みに向けた背景]
他のクレジットカード会社では,親会社の事業と関連性が強いポイントシステム,マイレージシステムなどとの連携を進め,顧客の囲い込みを図り,有力な加盟店との取引規模の維持・拡大を狙う戦略を進めてきている。
C社でも,ポイントシステムは顧客のロイヤリティ維持に有効性が高いと考え,取引額に応じたポイントを付与する取組みを進めてきた。また,幾つかの加盟店から割引券などの特典(以下,特典という)を提供してもらい,その数量や特典内容に応じてC社で特典対象会員を決めて,利用明細書に特典を同封して送付するようなマーケティング活動も実施してきた。
しかし,会員の退会が毎年一定数発生し,新規会員獲得の効果をそいでいる状況である。データ分析をしたところ,次のことが分かった。
・会員,退会者ともポイントの利用は活発ながら,退会者は多くのポイントを残したまま退会しているケースが多い。
・会員の特典利用は活発である。
・送付された特典は退会後も利用できるが,退会者の特典の利用状況は把握できていない。
このことから,C社は特典提供の拡大に力点を置いてマーケティングを進める方針とした。
また,キャッシングやカード取引に関する延滞の取扱いについては,自社で回収業務を行う余裕がないことから,一定期間を超過した延滞債権は大幅に割引をして債権回収事業者に売却している。割引額は債権の内容などを基に交渉によって調整するが,債権回収見込みを客観的な証拠で示すことができると交渉は有利になる。
C社は,保有する大量の会員データ,決済データ,請求データなどを活用した新たな取組みを検討することにした。
[営業部門の取組み]
C社は,会員の属性や購買履歴を基に,加盟店の特定商品に利用できる特典を付与するサービスを提供し,カード取引量を増やすことで収益拡大を目指すことにした。
これまでも類似のサービスを実施してきたが,会員からは特典を持ち歩くのが面倒といった意見や,利用するタイミングを逸するといった意見が出ていた。このことから,会員が事前にC社のWebページで利用したい特典を登録しておけば,決済時に自動的に特典が受けられるようにすることにした。
また,過去には,特典を提供した会員を匿名にしていたにもかかわらず,特典の対象者が極めて少ない地域において,特典対象会員の決定のタイミングで加盟店によって会員を特定されてしまい,該当する会員に加盟店からダイレクトメールの送付などの営業活動が行われ,個人情報の流出事故を疑われる事案があった。
これらのことから,会員データの保護にも配慮した次の取組みを行うこととした。
(1) 特典の利用を申し込んだ会員の属性や購買履歴を基に,加盟店から要請があった条件(以下,抽出条件という)に合致する会員を抽出する。
(2) 改正個人情報保護法の趣旨にのっとり,加盟店の抽出条件において結果が一定数以下の極めて少数になるような場合には,営業部門が結果を確認して集計カテゴリの調整を行う。例えば,ある特定の地域で90歳以上の条件のような場合は70歳以上のカテゴリの条件に変更する。
(3) 抽出データは,加盟店に提供する。このとき加盟店から直接,会員に営業活動が行われることがないよう個人情報を匿名化する。
(4) 抽出された会員に対しては,利用明細書に特典の通知を印刷したり同封したりする。
(5) 会員は,通知を見て,C社のWebページで利用したい特典を登録する。
(6) 会員は,購買時に特典を提示しなくても,特典の利用に該当する取引をした場合,C社はカード利用料金の会員向け請求データの作成の際に,特典利用の清算処理を行う。C社はこのサービスを無償で提供し,加盟店は特典の利用額分を負担する。
加盟店はマーケティング効果を高めるために,必要に応じて,抽出条件を追加,変更することができる。ある加盟店で,近隣地域に住むことを抽出条件にしてこのサービスを試したところ,想定以上にサービス利用者が多く,特典に要する費用が多くなった。このことから,この加盟店では,対象者を絞るべく利用実績が高額であることを抽出条件に追加することにした。
加盟店からは,特定顧客向けに特定商品に利用できる特典を提供するなどの時宜を得たマーケティングの希望が多くあった。しかし,営業部門で検討した結果,特定商品に利用できる特典とはせず,特典を利用額に応じた割引とし,利用額と割引率の組合せを加盟店で選択できるサービスとすることにした。
[審査部門の取組み]
C社は,会員の新規入会時や既存会員のカード更新時には,利用限度額を適切に設定することで,カード利用の拡大を促しつつ,延滞になる事案も削減して債権割引額を減少させたい。利用限度額については,会員の住所や居住年数といった属性のほか,これまでの支払状況,未決済の残高に応じた評価(以下,クレジットスコアリングという)を行い,その評価結果を基に,金額を設定する。
C社では,クレジットスコアリングのシステム化を行うことにした。システム化に当たっては,表1の情報を入力して,利用限度額を設定できるようにする。ただし,全社の債権総額に応じて,各情報の重み付けの係数を微調整することがある。