問1 大型機器製造業におけるIoTを活用したビジネスモデル構築に関する次の記述を読んで,設問1,2に答えよ。

(H29秋 ST 午後I 問1)

 A社は,輸送用,生産用の大型機器・車両(以下,製品という)の製造を得意とする製造業であり,個別受注生産方式で,製品の設計,調達,製造,保守・整備を行っている。

 A社の今年度の業績は,売上げが目標を達成できず,利益も前年度を下回っている。この状況を打開するために,A社の経営層は,新年度の経営計画において,次の柱を決めた。

・サービス事業拡大による売上げ増加

・業務プロセスの見直しによる固定費の削減

 また,関係各部の部長で構成する事業改革推進チーム(以下,推進チームという)を組織し,活動を開始した。


[A社の課題]

 推進チームは,A社の各部の課題を洗い出すところからスタートした。

 A社は,営業部,設計部,製造部,研究部,エンジニアリングサービス部(以下,ES部という)及び本社部門で構成されている。各部の課題は次のとおりである。

・営業部

 受注確保のために顧客からの新機能や機能改善の要求をできる限り受けている。

 一方で,その要求を実現するために設計・製造のリードタイムが長くなってしまい,顧客から納期遅延のクレームを受けることも多い。顧客からの引き合い時に,対応可能な納期を提示できれば,このようなクレームもなくなり,顧客の満足度を高めることができると考えている。

・設計部

 製品の型式ごとに専任の技術者を置いている。それぞれの技術者が多忙であり,製品の型式間で部品の標準化や共通化の取組みが進んでいない。顧客から機能の変更要求があった場合,ベースとなる製品の型式を基に,仕様を変更して派生モデルを設計することがある。派生モデルもその都度専任の技術者が設計しているので,全社で見ると,同じような部品を重複して設計してしまうことがある。

 営業部が受けた顧客からの新機能や機能改善の要求についても,技術者の余裕がなく,設計部として迅速に対応できていない。

・製造部

 納期遵守のために,加工機械の稼働率は高い。製造部の要員も超過勤務で業務をこなすことが多く,原価を押し上げる原因となっている。複数の製品を並行して製造する場合,ある工程で製品ごとに必要な工数を累積した工数が稼働可能な要員の総工数を超えてしまい,全体の納期を遅らせる工程(以下,ボトルネック工程という)が発生し,製造の計画を変更せざるを得ないことがある。ボトルネック工程は,製品の組合せによって変動するので,どこで発生するか予測することが難しく,要員を効率よく配置できず,顧客に約束した納期が遅延する大きな要因となっている。

・研究部

 最近では,IoTに関する技術の発展で,個々の機器の制御情報や稼働状況の情報(以下,機器情報という)を長期間保存できる機器が開発され,そこから通信回線を介して収集し,時系列データとして蓄積できるようになっている。また,その時系列データと他のデータを組み合わせてビッグデータ解析を行い,様々な切り口で相関関係を把握して,製品で発生した障害の原因を推定するAIを活用したソフトウェアパッケージも出回っている。研究部では,専任のデータアナリストを育成し,ビッグデータの活用方法を探っている。この試みの一環として,製品の機器情報を保存して送信できる組込みユニット(以下,ユニットという)を開発した。今後,どの製品にこのユニットが適用可能かどうかを見極めた上で,できるだけ多くの製品にこのユニットを組み込み,顧客に納入することにした。

・ES部

 顧客に製品を納入した後の,顧客ごとの製品の保守・修理は,ES部が担当している。ES部は,A社の全ての製品について,全国のMRO(Maintenance,RepairandOverhaul:整備,修理,分解点検)を担当している。ES部は,顧客からの利用上の問合せに迅速に対応したり,障害発生時の運転や整備の履歴の調査結果を基に運転や整備に対する改善提案をしたりしており,顧客に密着した高い品質のサービスを提供することで業界での評判も高い。最近では,他社製品への対応を有償で依頼されることも増えてきている。その結果としてMROに関して豊富な事例をもち,製品で発生した障害と,その時点での運転や整備の履歴との関係や,製品の型式ごとの障害の特徴などをナレッジシステムとして保有している。

 ES部としては,顧客が継続的に記録してきた,製品の運転や整備の履歴情報を得ることができれば,自社でもつナレッジシステムの情報と組み合わせて分析ができ,障害に関するノウハウをより高めることができると考えている。また,研究部で開発したユニットを多くの顧客の製品に組み込んでもらい,機器情報を継続的に入手し,障害のノウハウを適用できれば,予防的なMROの提案が可能になると考えている。顧客の協力のもとで,このような情報の活用ができれば,顧客にとっては,機器の障害による業務の停止を防止するというメリットを得ることができると考えている。


[顧客の状況]

 推進チームは,顧客の要求を把握するために,A社の大口顧客であるP社からヒアリングを行った。

 P社は歴史がある大手輸送業であり,A社の製品を中心に,多くの大型車両を保有して全国で事業を展開している。P社の整備部門は,P社が保有する大型車両の整備を担当している。P社として修理や交換が必要になった場合は,A社の車両であればA社に依頼する。

 近年,P社の整備部門への新規要員の採用が難しく,技術者の高齢化と作業負荷の増大という問題を抱えている。熟練社員の退職も多く,整備業務全体を管理できる要員も少なくなっている。

 このような状況を受け,P社は緊急課題として,整備部門を縮小しつつも,大型車両の運用を継続できる施策の検討を開始した。また,この検討に加え,長期的な検討課題として,保有する車両の障害による業務の停止を防ぎ,より効率的かつ安定的に運用することを可能にする施策についても検討する必要があると考えている。


[業務プロセスの見直し]

 推進チームは,まず,業務プロセスの見直しから着手することにした。

 情報システムの整備の一環として,過去に実際に顧客へ納入した全製品の仕様,部品構成,派生モデルの有無とその仕様などのデータベース(以下,製品DBという)の整備を実施した。

 その上で,推進チームは,設計部に対して,製品の設計完了段階で,①原価低減を主眼とした設計レビュー(以下,DRという)の徹底を指示した。また,原価低減以外の観点での課題にも対応するために,②営業部の担当者と研究部の担当者も交えてDRを行い,それぞれの部門の視点からのレビューも併せて行うこととした

 推進チームは,製造部に対して,整備した製品DBを利用し,製品ごとに,製造の工程ごとに必要となる標準工数を算出するよう指示した。その上で,③複数の製品を受注した場合に,工程ごとに累積工数を算出するように指示した。また,稼働可能な要員の配置計画と,製品の納品までの日程計画を対比できるようにした上で,④営業部と定例的なミーティングを実施することを指示した


[サービス事業拡大]

 次に,推進チームは,サービス事業拡大を目指して,IoTを活用した新ビジネスモデルを企画することにした。

 そのためには,顧客の課題を実際に解決する方策を顧客と共同で検討することが有効だと考え,大口顧客のP社に対して,緊急課題への対応として,⑤A社の強みを生かしたあるサービスについて,共同で実証検討を開始する提案を行った。P社としても,自社だけでは実現できないと考えていたところであり,共同での検討を進めることに合意した。

 さらに,推進チームは,P社の長期的な検討課題に対応するために,⑥P社に対して,ある協力依頼をすることにした