Q.錯体の幾何異性体で,[MX3Y3] 型の6配位錯体には,幾何異性体が存在しますが,mer型がトランス体,fac型がシス体と同義ですか?
A. 幾何異性体という大きなくくりの中に,シス/トランス異性体,fac/mer異性体が含まれると解釈してください.ですから,fac型がシス体,mer型がトランス体であるというのは,厳密な用語の使用からは誤りということになります.ただし,期末試験においては,fac型,mer型という用語の理解は問いません.[MX3Y3] 型の6配位錯体には幾何異性体が存在することと,それを構造式で書いたときに見分けられるかを問います.
Q.同じ白金錯体でも,効果のあるがんとそうでないがんがあるようですが,それはどのような理由に起因しますか.
A. 「効果のあるがん・ないがん」の違いは、各がん種の持つ耐性機構と各白金錯体の耐性回避能力のマッチングの結果です.DNAの修復パターンには数種類あり,例えばNER(ヌクレオチド除去修復)が,大腸がんにおいてはオキサリプラチンが結合したDNAでは修復回避されやすい,などの理由があります.たとえば,オキサリプラチンではinertな配位子のかさ高いことも当然影響しているでしょう.また,各臓器への分布パターンが,配位子の違いによって異なることなど,いろいろな要因がありますので,上位学年になってさらに学習してください.
Q.無機化学意見箱でどのような意見が寄せられたのでしょうか.
A. 意見箱に意見を寄せてくださった方々,ありがとうございました.無記名ということもあり,お寄せくださったご意見に対し,直接どう対応されたかを説明はできないこと申し訳ありません.合計24個のお意見をいただきました.内容的に重複するもの(特に期末試験に関して)が多かったですが,対応できるものはできるだけ対応したつもりです.ただし,すべてに対応できているわけではないことと,ご批判の意見に対しては反省をし,次に生かしていきたいと思います.
1.期末試験で,これまでの傾向を変えないでほしい.(同様の意見3通)→ほぼ変えていないつもりです.
2.期末試験の問題を例年以上に難しくするのは、考え直してしてほしい(同様の意見4通)→考え直したわけではありませんが,近年では最もイージーなものとしたつもりです.記述式もなくしましたので,例年みられる白紙解答の本年はほぼないと思われます.
3.難易度の高い問題も混ぜてほしい(同様の意見2通)→範囲が結構広いこともあって,こちらが要求することを一通り理解することで結構大変だとは思いますので,今回はやめました.ご要望にお応えできず,すみません.
4.授業中に使用されているのうち,配布資料には含まれていないものがあるため,授業中のスライドを配布資料にも追加してほしい.(同様の意見2通)→講義資料に,追加しました.パワーポイントを読み込める環境にある人は,パワポのファイルをダウンロードしてもらえば,アニメーションも再現できます.復習に利用してくださるのは,こちらとしては非常にうれしいことです.
5.授業プリントの最後につけてある問題の回答を省略しないでほしい→解答を一覧にまとめたものを提示しましたので,そちらをご利用ください.
6.過去問を提示してもらえて,具体的にどこを対策すれば良いかわかるから助かる (同様の意見2通)→ぜひ,有意義に活用してください.
7.授業の内容の確認のため,授業動画が見れることがありがたい (同様の意見3通)→動画を見てくださってありがとうございます.例年,多くの人に活用していただいていますが,本年は,ほとんど見られていないようです.アドバンスの説明動画はほとんどみられていないのは残念ですが,もっと興味を持てるような講義にしなければいけないと反省しているところです.なお,期末試験の解答用紙の最後のページは1枚まるまる感想をかける欄が用意されていますので,このご意見をお寄せくださった方,ぜひ,そこに「動画見たよ」と書いてください
8.スライドには図が多く使われていて、理解しやすい →ありがとうございます.例年使用していた講義室とはことなる講義室での講義ですので,皆さんにとってもスライドが見にくいとか不便をかけているところ多々あるかと思いますが,このようなご意見はうれしいです.ありがとうございます.
9.PCが動かないで講義が中断するというのは,準備不足ではないか(同様の意見3通)→ご迷惑をおかけし,申し訳ありませんでした.確かに,講義前にスライドを確認したことに,動きが怪しいなとは思っていたのですが,本当に申し訳ありませんでした.
10.A3サイズではなく,A4サイズで資料配布してほしい.→そのほうが扱いやすいという意見は毎年いらっしゃいますが,maxで140部の資料を印刷するとなると,整理して綴じる手間がA4サイズにすると莫大に増えてしまうので,申し訳ありませんが,A3サイズにさせてもらっています.
11.つまらない→いろいろ考えて努力しているつもりですが,すみません.私も,学生の時は,無機化学や有機化学は全くつまらない(ほとんど理解できなかったからだと思う)と思っていましたから,お気持ちはわかります.その分,興味のある科目を見つけて,無機化学の分をそちらに注力してください.
12.意見箱にはどのような意見が寄せられたのか知りたい→いただいたご意見は以上です.
なお,最終講義日から,期末試験日までの間で,授業評価が行われることがユニパ経由で配信されているかと思います.今回の講義には反映されませんが,必ず授業評価を提出していただくようお願いします.講義最終日の最初に10分間アンケートに答える時間を設けます.
Q.フェントン反応の説明のところで,ハーバーバイス反応というのも出てきましたが,ハーバーバイス反応は期末試験のテスト範囲ですか.
A. これは,範囲外です.フェントン反応で生じた鉄(III)イオンがどのような運命をたどるかを説明したものです.今回のテストで問うことはありません.
Q.グリシンのようなカルボン酸で,カルボキシ基のまま(プロトンを解離しない状態で)配位子として機能することはないのですか
A. カルボニル基の分極と共鳴効果により、OH基の酸素の孤立電子対の電子密度が低下し、配位能が低くなる,ということだと思います.
ご指摘のように,理論的にはカルボキシル基のOHの酸素が孤立電子対を供与できるように見えます.もし,この酸素原子が金属に配位できたとしたらどうなるでしょう.配位と同時に脱プロトン化が起こることになります,結果として,常に陰イオン形(-COO⁻)で配位しているつまり、「カルボキシル基がそのままでは配位子になれない」という説明になります.つまり,水酸基のついているカルボニル炭素が,カルボニル基の分極ゆえΔ+性を帯びることにより,O-H
間の電子が,そちらに引き付けられることになり,結果,Hはプロトンとして外れることになります.アルコールのような化合物は,このような寄与がないので,酸素原子がプロトンを放出しないまま配位します.アンモニアも同様です.
Q.6配位化合物は,正八面体型錯体だけですか.また,6配位以上は可能ですか.
A. 6配位錯体は,正八面体以外に,三角柱型もあります.(trigonal prism).
また,中心の金属が原子番号の大きい金属であれば,7配位(d3sp3,双五角錐)や8配位(d4sp3,十二面体)なども知られています.
それほど大きくない金属の場合,自分の周りに6個のリガンドを配置すると,もう立体的な余裕はなくなります.
Q. L-アルギニンから一酸化窒素とL-シトルリンが産生される反応において,酸素分子が反応に関与しますが,テキストp.121のCOLIMNには「1モルのL-アルギニンに1モルのO2が反応して1モルのNOと1モルのL-シトルリンを生成する・・」とありますが,講義では,2モルの酸素が反応するということでした.どちらかが誤りですか.また,一酸化窒素に関する正誤問題でも,2モルの酸素が反応する,というのが正解となっていました.
A. テキストp.121の記述は誤りです.講義で話したように,2モルの酸素が反応に関与し,一酸化窒素中の酸素原子は1段階目に反応に関与する酸素原子,シトルリン中の酸素原子は,2段階目に反応に関与する酸素原子由来ということになります.講義プリントをもう一度ご覧ください.また,一酸化窒素に関する正誤問題においても,「生体内では,NO合成酵素(nitric oxide synthase)の触媒作用により1モルのL-アルギニンに1モルのO2が反応して,1モルの一酸化窒素(NO)と1モルのL-シトルリンが生成する. 」という文章に対しては,1モルの酸素ではなく,2モルの酸素ということになるので,誤りということになります.この反応の詳細は,他の科目でやることになるとは思いますが,簡単にまとめたものが,wikipediaの一酸化窒素合成酵素のページに掲載されています.検索してみてください.
Q.期末試験の過去問が難しいかどうかは,今の段階で判断するのは難しいです.どういうところを試験で問うのかをある程度教えていただきたいです.
A. たしかに,今の時点ですべての範囲を学んでいるわけではないので,判断はできないというのはその通りでしょう.薬学部に入ったら,試験前は徹夜続きの地獄だった,と後で懐かしむことができるような経験をさせてあげたいとは思いますが・・・
例年,出題概要を作成して,このようなことを問います,ということを開示しています.1つでも多くのことを理解していただければいいので,今年も同じようなものを作成したいと思います.あとは,高い点数をとって,良い成績につなげたり,研究室配属の優先枠を狙うなどと考える人は,たくさん勉強すればいいし,単位があればとりあえずはOKであると考える人は,それなりのやり方をすればいいのであって,各人の自由です.知識のインプット・アウトプットは,いつになっても大事かともいますが,それ以上に,少しでも面白いと思える瞬間が訪れることを願っています.
Q.「1塩基酸」と「1価の酸」は同じ意味ですか.
A. これらは同一の概念を表す異なる表現方法です:
一塩基酸と一価の酸は、どちらも「1つの水素イオン(H⁺)を放出できる酸」を意味します.
辞書的な用語解説でいえば,一塩基酸とは,酸1分子中に,塩基と中和することのできる(水素イオンとなりうる)H原子を1個含む酸をいいます.よって,1価の酸と同義ということになります.
Q.質量数11のホウ素は,中性子と反応しないのですか.
A. ¹⁰Bが中性子を捕獲すると: ¹⁰B + n → ¹¹B* → ⁷Li + α
この反応は発熱反応で,エネルギー的に有利です.¹¹B*は,安定核種の質量数11のホウ素の励起状態であると考えられます.しかし,質量数11のホウ素が,中性子を捕捉したとすると,¹2B*が生成すると考えられますが,熱中性子のようなエネルギーの低い粒子には,不安定核種であり,かつ励起状態の核種を生み出すエネルギーは持ち合わせていません.¹¹B の断面積は ¹⁰B の 約100万分の1 です.事実上「反応しない」と言えます.
Q.ホウ素以外に中性子反応断面積が大きい元素はありますか.また,あるのなら,その中で,ホウ素がBNCTに利用されている理由は何ですか.
A. 中性子反応断面積が大きい元素:ガドリニウム(¹⁵⁷Gd)が最も大きい中性子反応断面積を持ちます.その他の主要な元素として,カドミウム(Cd),サマリウム(Sm),リチウム-6(⁶Li).インジウム(In)などがあります.ガドリニウムはホウ素-10より約67倍高い熱中性子捕獲断面積を持つにも関わらず、BNCTにホウ素が使われる理由は以下の通りです.
1.ホウ素自体は生体内に微量に存在する元素であり,比較的毒性が低く,生体内での代謝が可能である.
2.ガドリニウムは重金属で毒性が高い.
3.質量数10のホウ素と中性子との反応で生じる⁷Li + αは,エネルギーが高くかつ,その飛程距離が細胞の大きさ程度であるという特徴がある.
なお,ガドリニウムは,ホウ素のような核分裂反応は起こさず,中性子捕獲反応を起こしてγ線を放出します(放射薬品学などで学んでください).そのため,放射線による殺傷効果は10Bのように細胞内に限局されず,組織レベルの範囲に至ることになります.実際には,BNCTと同じように,157Gd製剤を用いて熱中性子と反応させてがん治療を試みる研究はされています.157Gdが熱中性子との反応でγ線を放出するということは,腫瘍細胞への特異的殺傷効果の観点からは短所と捉えられますが,逆に157Gdが必ずしもがん細胞内への送達を必要としない点でメリットとみることもできます.ただし,正常細胞への影響は必至であることから,BNCTが現在実用化に至っていると考えられます.
つまり,単純に断面積の大きさだけでなく.生物学的安全性,核反応の特性,臨床応用の実現可能性を総合的に考慮した結果,ホウ素がBNCTに最適な元素として選ばれていると考えられます.
いろいろなことにつながる有益な質問ですね.
Q. ジボランは水と反応してホウ酸と水素になりますが,生成したホウ酸はさらに水と反応しないのですか.
A. ジボラン(B₂H₆)が水と激しく反応してホウ酸(H₃BO₃)と水素を生成する一方,生成したホウ酸はそれ以上「反応しない」ように見えるのは事実です.ただし,ホウ酸が一塩基酸であると説明されたところでは,ホウ酸が,水と反応して,結果的にオキソニウムイオンを放出するためということを学びました. よって,反応するのかしないのか,と問われれば反応するでしょうと答えますが,ジボランと水との反応を化学反応式でとらえたときには,もうこれ以上「反応しないように見える」としておいてよいのではないかと思います.ここで,反応しないように見えると書いた理由は,ジボランが水と反応した後に生成したホウ酸は,さらに水分子存在するならば,加水分解反応は進行するわけですが,完全に「反応が終了」するわけではなく.動的な平衡状態にあるというのが正確な表現です.このため.見かけ上は「水と反応していない」ように観察される,と考えて,ジボランと水との反応式は,B₂H₆ + 6H₂O → 2H₃BO₃ + 6H₂と書いていいのではないかと思います.もちろん,そのあと,H₃BO₃ + H₂O ⇌ B(OH)₄⁻ + H⁺も考えられる,としてもよいですが,大過剰の水のなかに,気体のジボランを通じるという条件はあまり想定できませんから,(空気中の湿気ですぐにジボランは分解するとかを想定するほうが現実的)最後の加水分解までは,この場合考えなくてもよろしいかと思います.すでに学んだことを,別のところで生かして考えるという姿勢は素晴らしですね.
A. はい,どちらが多いかぐらいは覚えておいてください.BNCTで利用されるホウ素は,質量数10のホウ素でした.天然のホウ素は,この質量数10の同位体の方が存在率が低いと感覚的にとらえておけばいいでしょう.質量数10でないと,ヘリウム核へ崩壊できません.上の質問も参照してください.
Q.水酸化アルミニウムゲルのアルミニウムイオンの混成軌道はsp3d2 ですが,4s軌道はなぜ混成軌道に使われないのでしょうか.
A. 構成原理から考えれば,3s<3p<4s<3dという軌道準位だから,ということですね.
Al3+の基底状態は,L殻まで閉殻なので,3sは0,3pも0個の電子です.よって,混成軌道を構築しようと考えるとき,まず,方向性のない軌道はs軌道なので,使用される軌道は,一番エネルギーの低い3sになります.よって,混成軌道においては,s軌道は,必ず混成に必要であり,殻の異なる同種の軌道は混成しない(たとえば3sと4sは混成しない),エネルギーの近い軌道同士が混成できると考える,ということで,アルミニウムイオンの場合,空の(電子が存在しない)軌道で,かつ,最もエネルギー準位の低い3sが使われ,4sは使われないということになります.
期末試験出題概要に関する質問
第11回講義に関する質問
A. 分裂の大きさは異なります..
分裂の大きさを決めるのは,金属イオンが同じなら,配位子の種類(分光化学系列),
配位子が同じなら,
中心金属の酸化数の大きさ(大きいほど大きい)ということで,3+のほうが大きいということになります.
ちなみに,酸化数が同じ場合は,原子番号が大きいほうが大きいということになります.
すなわち,配位子と,金属の組み合わせによって決まるということです.
一般的に,Δoの大きさは,よく出てくる金属で,
Pt4+ > Ir3+ > Pd4+ > Ru3+ > Rh3+ > Mo3+ >Co3+ (d6)> Fe3+(d6) > V2+ > Fe2+(d5) > Co2+(d5) > Ni2+ (d7)> Mn2+(d5)
同じ金属で比較(配位子は同じで比較)するなら,例えば,CoはCo3+(d6)>Co2+(d5),
FeならFe3+(d6)>Fe2+(d5)という比較はできます.
また,講義では言っていませんが,Δoの大きさは5dn>4dn>3dn (5dnというのは,5d軌道に電子がn個入っている金属イオンのこと)となります.これは,3d<4d<5dと軌道が大きく広がることになり,相互作用が大きくなるからです.非常に良い質問です.
第10回講義に関する質問
Q. 一重項酸素の電子配置は2通りの状態が考えられませんか.(重要)
A.はい,そのとおりです.下図の通り,2通りの電子配置が存在します.Δ一重項と∑一重項です.講義では,一重項酸素として,左側のΔ一重項を紹介しました.どちらもスピン多重度を計算すれば1ですので,一重項酸素です.ただし,∑一重項は非常に高いエネルギーを持っていますので,すぐにΔ一重項になってしまいます.よって,通常,一重項といえば,Δ一重項の状態を指すと考えてよいかと思います.なお,日本薬学会の用語解説を下に引用しておきますが,そこでも,同様に説明されています.よって,試験では,Δ一重項の電子配置を書けばよいと思います.
一重項酸素(日本薬学会 用語解説より)
一重項酸素は酸素分子の分子軌道のπ*軌道(反結合性のπ軌道)に入った2個の電子のスピンの向きが異なる一重項状態、すなわち全スピン量子数が0である励起状態で、1O2で表される。このような励起状態には2つ存在するπ*軌道のそれぞれに1つずつ異なる向きの電子が占有しているΣ1状態と、π*軌道の一方のみを2つの電子が占有しているΔ1状態が存在する。Δ1状態よりΣ1状態の方がエネルギーが高いため、Σ1状態は速やかにΔ1状態に遷移する。このため一重項酸素といえば通常Δ1状態のものを指す。一重項酸素(Δ1)は活性酸素の一種ではあるが、軌道上に単独の電子を持たず、フリーラジカルではない。一重項酸素を発生させるには、ローズベンガルやメチレンブルーのような色素を光増感剤として使用する。生体内においても、紫外線を浴びたりすることにより体内の色素が増感剤として機能して一重項酸素が発生することがある。また、免疫系では次亜塩素酸と過酸化水素が生じ、これらの反応により一重項酸素が生成する。一重項酸素を選択的に除去する化合物にはベータカロチン、アジ化ナトリウムなどがある。https://x.gd/3ezZK
混成軌道に関する質問
Q. 二酸化塩素の混成軌道の考え方がわかりません.
A.下のリンクから動画をご覧ください.
Q.ClO₂(Cl)の混成軌道についてです。①ローンペア2組、配位結合1つ、シグマ結合1つを作って考える場合と②ローンペア1つ、不対電子1つ、シグマ結合2つ、パイ結合2つの場合を考えました。どちらもsp³にはなりますが、等価な2つのOに配位結合とシグマ結合という別々の結合を作ることが可能なのか、②のように不対電子を作って混成軌道を考えてもいいのでしょうか?
A.等価な2つのOに配位結合とシグマ結合という別々の結合を作ることが可能なのか
という質問ですが,これは,可能です.
1つの考え方は,配位結合は,できてしまえば,共有結合 という考え方です.
すなわち,配位結合は,どちらが2電子を出して,どちらが受け取ったかを明示するわけですので,結合自体は,結局,2原子間で2電子を共有している形に変わりはありません.
よって,結局,配位結合でも共有結合でも,違いはない,という考え方.
もう一つは,共鳴のように考える考え方です.配位結合とσ結合をきっちりとかき分ければ,2つの極限構造式が書けます.それらの存在確率は1/2となるので,2つの酸素原子は,等価ということになります.
言葉でいうとわかりにくいので,動画で説明しましたので,確認していただければと思います.
②のように不対電子を作って混成軌道を考えてもいいのか
これは,全然OKです.例えば,NO2の窒素原子の混成軌道を考えるとき,不対電子にも1つの軌道を割り当てますので,問題ありません.下の動画を確認下さい.
上のQに対する回答で紹介した動画と同じです.
Q.SO2(二酸化硫黄)の混成軌道の考えかたを教えて下さい
A. まずは,d軌道を考慮しないで考えてみてください,下の動画が参考になります.
硫黄を含む化合物の混成軌道の考え方の例(d軌道を考慮しない考え方)(11:40)
第1回から第5回までの講義に関する質問
Q.水和された電子というのは,存在しないのでしょうか?
A. 水中で溶媒和された電子(水和電子)は、藍色を呈することが知られており ,単寿命ですが存在するということです.ナトリウムーカリウム合金を水に落とした瞬間を撮影したものが雑誌Nature Sciencesに掲載されています.下の写真(出典:P. Jungwirth et al, Nature Chemistry, 2015, 7(3), 250-254)は,水に落ちた瞬間ですが,金属の周りが藍色になっているのが観察されています.通常,激しく反応して,水素ガスが生成(爆発)しますが,このようなアルカリ金属と水との反応は,そう単純なものではないようです.なお,ハイスピードカメラで捉えた動画がYoutubeにあります.https://www.youtube.com/watch?time_continue=253&v=8PEVmflpUCo&feature=emb_logo
Q.水酸化アルミニウムの異性体がなぜ2個あるのかわかりませんでした.
A.幾何異性体として,mer型とfac型が存在します.merはmeridionalの略で,子午線の意味で,同じ3つの配位子が同一平面に来ます.fac型は金属を挟んで,反対側の配位子がすべて別,つまり,HO-Al-OH2配置になるものです.かんたんな解説動画を一度ご覧になってください. また,自分で模型などを使って,2つしか異性体が存在しないことを確認してみてください.
Q.プラチナPtの基底状態の電子配置が,構成原理の例外となるということでしたが,この電子配置は,覚えておく必要はありますか.
A. いいえ,覚えておく必要はありません.講義中にも言いましたが,原子としての基底状態の電子配置は,構成原理の例外ですが,イオンになると,2電子とれた形なので,この例外を意識する必要がなくなります.また,問題文には,Pt2+ は,d8 であることが明示されています.
Q.第3回講義に関する問題で、bと cの正誤がなぜ順に誤、正になるのかわかりません.
A. b. 水の酸素原子のローンペアが,硫黄に電子対を供与しに行くことによってこの反応は進行するので,水はルイス塩基,二酸化硫黄はルイス酸です.
c.LiAlH4と,数字の4がタイプミスで上付き文字になっていましたので,このために正誤が判定できないということであったのなら申し訳ありません.LiAlH4が正しい記述です.
Q.第13回目の講義で,構造活性相関を調べる実験(23枚目スライド)がありましたが,inertな配位子が,二座配位子でよい,ということが言えるということですが,その根拠は?
A. 化合物3と化合物4の比較で,構造的に異なるのは,inertな配位子の部分です.単座配位子か,2座配位子(en)かの違いですね.enのような構造的に小さい二座配位子の場合,シス配置でしか配位できませんので,シス配置という点でも,3と4は共通です.よって,スライドにあるようなことが言えます.ただし,labileな配位子は,クロリドのまま変えていないので,labileな配位子が,二座配位子でよいかどうかの議論は,この結果からだけでは言えない,ということです.(実際には,labileな配位子も二座配位子でもよい)
Q.銅アンミン錯体[Cu(NH3)4]2+の銅イオン(2価)が,なぜ,dsp2混成をとるのですか.d軌道に空の軌道がないと思うのですが.
A. 平面4配位錯体におけるd軌道の分裂様式を学習しました.Cu2+はd9 錯体なので,確かに空のd軌道は存在しないはずですが,不対電子が,dx2-y2 の軌道に入っていることに注目します.このdx2-y2 軌道は,その分裂様式から,非常にエネルギー準位が高い軌道となりますね.以降,動画で説明しているので,そちらをご覧下さい.
A. いいえ.チオ硫酸ナトリウムがシアン化物イオンの解毒剤となること,あるいはヒ素の解毒剤となるという事実,そして,シアン化物イオンをチオシアン酸イオンに変換して解毒する性質があること,をとりあえず知っておいてください.解毒機構の詳細を知りたい方は,動画で説明していますので,ご覧ください.また,化合物としての性質で,例えば,ヨウ素と反応する,なんていうのも,反応式が書けるようにしておいて下さい.チオ硫酸ナトリウムは,還元剤です.ヨウ素は,酸化剤でしたね.
A. はい,3sから4pへの励起では,よりエネルギーが必要となるので,元に戻るときのエネルギーは,より短波長となり,紫外光となるので,黄色(3s, 3p間のエネルギー差589 nm)しか認識されません.ちなみに,カリウムの場合には,4s, 4p間のエネルギー差は767 nm(赤)で,ナトリウムより主量子数が大きい軌道の電子の励起ですので,より長波長側です).また,カリウムにおいては,4sと5p間の励起もあり(404 nm),より高エネルギーとなるので,紫色です.よって,カリウムの炎色反応はこれらがまじりあった赤紫となるわけですね
Q.ニトロソ二ウムイオンの結合次数は3なのに、なぜNニトロソ化あたりで出てくるニトロソ二ウムイオンは二重結合になっているのですか?
A. 第9回講義プリントの3枚目のスライドで説明した通りで,それが理由です.ニトロソニウムイオンは,三重結合と二重結合の両方の共鳴体を取りますね.三重結合の場合には,両原子は,オクテット則を満たしているので,とりあえず安定な形です.(他からローンペアを受け入れることにはならない)一方,二重結合の場合には,酸素原子はオクテットを満たしていますが,窒素原子はオクテットを満たさず6電子が自分の周りにいるので,2電子不足です.よって,このとき反応が起こると解釈できます.
Q.硝酸イオン中の窒素の混成軌道の考え方がよくわかりません.
A. 手順は以下の通りです.まず,窒素は,3つの酸素原子と3σを構築する必要がある.よって,最低,sp2混成,もしかしたらsp3混成かも,と考える.次に,σ結合の構築の際,両原子が一電子ずつ出し合ってσを作るか,一方が2電子,一方は受け取るのみの配位結合で構築するか,の2パターンを考える.配位結合で考える場合,2電子を受け取る側が,2電子受け取るための,空の軌道を用意できるかを見極める.酸素原子の場合,電子を移動させれば,p軌道を一つ空にできる.(例えば,塩素原子では,どうやっても空の軌道を調達できないので,塩素原子への配位結合は不可).混成に組み入れられなかった軌道に存在する電子がパイ電子となれるかを検証する.以上の手順を順次行えばよいと思います.
なお,プラスとか−の符号がついているイオンを考えるときは,−ならば,電気陰性度の大きい原子に1電子を追加,プラスなら,電気陰性度の小さい原子から一電子を取り去ってから考える,ということをすれはよいです.
講義の終わりに質問された方,解決していますか?解決していないようなら,ご連絡下さい.
A. どちらの書き方でも構わないと思います.私がカッコを付けずに書くのは,表記が煩わしくなる,多くの大学で採用されている無機化学のテキストであるシュライバー・アトキンス無機化学(東京化学同人)では,カッコなし表記である,県大の無機化学の講義で採用しているテキストでは,両方の表記が混在している(たぶん章ごとに著者が違うので,各人の好みではないかと推察される),などの理由です.その軌道に入っている電子の数を右肩に書くということさえ守られていれば,どちらでもいいのではないかと思いますが,ボルハルトショアー有機化学では,カッコ付きで書かれていたりするので,どっちが正しいかと考えてしまうのかもしれませんね.ただし,他の書き方を認めないという人がいるかも知れませんので,そこは適宜対応して下さい.(下図は,シュライバーアトキンス無機化学より)
A. これは,d電子の数だけでは決められないということになります.
分裂の大きさを決めるのは,金属イオンが同じなら,配位子の種類(分光化学系列),
配位子が同じなら,
中心金属の酸化数の大きさ(大きいほど大きい)
酸化数が同じ場合は,原子番号が大きいほうが大きい
なので,配位子と,金属の組み合わせによって決まるということです.
一般的に,Δoの大きさは,よく出てくる金属で,
Pt4+ > Ir3+ > Pd4+ > Ru3+ > Rh3+ > Mo3+ >Co3+ (d6)> Fe3+(d6) > V2+ > Fe2+(d5) > Co2+(d5) > Ni2+ (d7)> Mn2+(d5)
同じ金属で比較(配位子は同じで比較)するなら,例えば,CoはCo3+(d6)>Co2+(d5),
FeならFe3+(d6)>Fe2+(d5)という比較はできます.
また,講義では言っていませんが,Δoの大きさは5dn>4dn>3dn (5dnというのは,5d軌道に電子がn個入っている金属イオンのこと)となります.これは,3d<4d<5dと軌道が大きく広がることになり,相互作用が大きくなるからです.いい質問でした.
Q.混成した時に、混成しなかった軌道に電子が二つ入った軌道が残ってはいけませんか?
A. 混成に組み入れられなかった軌道に存在する電子は,パイ電子になるので,パイ電子として活用できるのであれば,2電子残しても問題はありません.例えば,ボラジンの説明のときにもこの例は出て来ました.ただし,この2電子残すというのが許されるのは,結合相手の原子が,2電子を受け入れる空の軌道を有している場合,という条件が付きます.
Q.第十回講義資料の21ページにグアニンの構造式があり、講義中にその環状の部分に位置番号を付けたと思います。この位置番号はどういった基準でつけるのでしょうか?
A. この番号付けは,国際的にこのような番号付けをする,と決まっているものです. 残念ながら覚えなければいけません.抗がん剤であるシスプラチンの作用騎乗を学習する際,N7が大事なドナー原子となりますので覚えてください.
Q.反応性が高い酸素種を活性酸素種という,という定義ですが,酸素もビラジカルで反応性が高い化学種では?
A. 確かに,酸素単体は,ビラジカルで反応性が高く,いろいろなものを酸化します.活性酸素種は,その酸素単体(三重項酸素)よりも,より反応性の高い酸素種に変化したものの総称につけられている用語です.三重項酸素との比較の問題となりますので,三重項酸素が反応性が低いという意味ではありません.
Q.次亜塩素酸ナトリウムの塩素原子の混成軌道わかりません?
A. 以下の動画を確認してみてください.
Q.原子軌道の図で,x軸,y軸,z軸という風に,軸を考えて軌道を配置していますが,これは一元的に決まるものですか.
A.これは,原子同士の軌道が重なり合って新たな結合ができる,という原則から考えれば,特定の座標軸に軌道を配置する形に考えるが妥当です.特にd軌道に関しては,錯体を学習するときに説明しますが,この方向性が大事です.例えば,皆さんがよくご存知の銅アンミン錯体を思い出してください.銅を中心に4つのアンモニア分子が結合していますが,あの結合の方向をx軸,y軸と考えます.例えば,縮重している3つのp軌道を.どれをx軸上に置くかなどは各自の勝手ですので,一つ決めてしまえば他が決まるといった相対的なものです.
Q.原子軌道の図で,例えばp軌道では,亜鈴型の一方が濃色,一方が薄い色で濃淡をつけて書いていますが,これは何か意味があるのですか.
A.これは,位相の違いを表しています.どちらかがプラスの位相,どちらかがマイナスの位相を示しています.この軌道における位相という話は,分子軌道法を考えるとき非常に重要になります.
簡単な説明をYouTubeにあげておきましたので,参考にしてください.
Q.SO2(二酸化硫黄)の混成軌道を考えるときに,下の説明で,sp混成を考えないのはなぜですか?
A. 端折っているだけです.慣れないうちは,順番に考えていけばいいかと思います.sp混成を考えると,そのような考え方は無理であることがわかります.長い動画ですが,端折らないで説明した動画をYoutubeにアップしたので,時間とギガに余裕があれば見て下さい.炭酸イオンの混成軌道も一緒に説明しています.1.5倍速再生なら30分程度で見れます.
炭酸イオンと二酸化硫黄 (Youtube 42:15)(インデックスを付けて,炭酸イオンと二酸化硫黄の見たい方に飛べるようにしてあります)
また,別の考え方での説明もありますので,下の質問と合わせて,以下の動画をご確認下さい.
硫黄を含む化合物の混成軌道の考え方の例(d軌道を考慮しない考え方)(11:40)
Q.SO2(二酸化硫黄)SO3(三酸化硫黄)の硫黄原子がsp2であるという考え方は,下のQ&Aの考え方だけですか?
A. d軌道を使わないで,考えることも出来ます.配位結合と共鳴の考えを使えば下のように考えられます.構造式の書き方で,酸素-硫黄間を二重結合で書くことになじみがある人は,下のQ&Aの考え方,配位結合で書くことに慣れていて共鳴の考え方で考える人は,ここに書いた考え方で考えればいいのではないでしょうか.配位結合の際,酸素原子が硫黄から電子対を受け取るためには,電子の配置を換えなければいけませんから,そこだけ注意してください.よく,昇位しないでいいんだったら,使うエネルギー違うんじゃないかと言う人がいますが,酸素は,下の考えでは,酸素原子は,エネルギー使って基底状態から電子配置を変えています.そのかわり,硫黄は昇位エネルギーを使っていません.全体を見て考えないといけないと言うことです.
Q.s,p,d等の副殻の名前と,K,L,Mといった原子軌道の名前に由来は何ですか.
A. s,p,d,fは,sharp,principal,diffuse,fundamentalの頭文字をとったものです.
これらは,スペクトル測定の実験結果に由来していて,原子スペクトルあたりを調べてもらえばいいかと思います.スペクトル線の鋭い(sharp)発光線に関与しているのがs軌道,どんな原子にも見られる基本的(fundamental)な発光線に関与するのがp軌道といった具合です.もう,今では,その由来と言うよりも,方位量子数が0の軌道をs軌道という,といった名前になっていると思います.
原子軌道についてまだ研究が進んでいなかった頃,K核よりも小さな軌道が存在するであろうと考えられていたようですね.そのため,とりあえず,内側に10個分の余裕を見て,11番目のKから始めたと言うことのようです.結局,Kが一番内側であったので,今では,最内殻がK,その後アルファベット順です.最初に決めてしまったから,もうこれでいっちゃおうと言うことですね.いくつかの説があるようですが,私はこの説が確からしいのでは,と思います.
Q.アニリンの窒素原子の混成軌道はsp3かsp2か
A.紙の上で書けば,sp2とsp3のどちらも可能と言っていいでしょう.ジアゾ化の時のようにローンペアが反応していくときにはsp3と考えても間違いではありません.ただし,アニリンは弱塩基です.その理由は,アニリンの共鳴式を書けばわかります.一度書いてみてください.5つ書けますか?そのうち,2つはベンゼン環の二重結合の位置の異なるもので,電荷分離のないもの,残り3つは共鳴により正電荷が窒素上に,負電荷がベンゼン環のオルト位とパラ位にある電荷分離した状態です.よって,電荷分離しているかいないかで,紙の上で書く場合には,sp3とsp2の両方と解釈できるわけです.このように芳香環があるときは要注意です.とにかく,アニリンは弱塩基で,それは,ローンペアがベンゼン環に流れ込んでいるからです.
混成軌道でも,以下のような話には要注意です.(2や4は有機化学で芳香族性を学ぶ必要あり)
第100回薬剤師国家試験の問題です.
Q.CrやCuは半閉殻や閉殻の理由で構成原理に従わないと講義で学習しましたが、その一つ前の原子番号のVやNiも4sの電子を2つ移せば半閉殻・閉殻の状態になると思うのですが、そうならないのは何故でしょうか.
A.下の図で赤枠で囲ったところは4s軌道に電子2個を入れたまま,3d軌道の電子が増えて言ったときの軌道のエネルギー順位を表しています.d軌道の電子が増えていくに従い,エネルギーは安定化していきます.
そして,青枠で囲ったところの折れ線グラフは,4s軌道に電子を1つ収容して,残りを3d軌道に収容したときのエネルギー準位です.いずれも先のグラフと同様,d電子の数が増えていくに従いエネルギー準位は安定化していく傾向は変わりませんが,軌道エネルギーが安定な4sに電子2個を入れておくほう(赤枠から始まる折れ線グラフ)が安定なので,構成原理に従い電子は収容されているわけですね.ただし,Cr とCuの場合のみ,4sに電子1個として,残りをd軌道に収容したほうが安定になっています.すなわち,d軌道が,閉殻,半閉殻になることの安定化の寄与が大きく出るためで,これが,構成原理の例外と言われるものです.
一方,ご質問にあったように,例えば,Niが4s軌道の2この電子を3d軌道に移したときのエネルギーの安定化を見たものが,紫の枠線で囲ったところから始まる折れ線グラフです.傾向的には,やはい,d電子数が増えていけば,エネルギーは安定化していくわけですが,いずれの原子の場合にも,他の電子配置よりも安定化は得られない,と見てとれます.
すなわち,やはり,エネルギー準位の低い安定な4s軌道から電子を埋めていくことは,全体の安定化につながる,すなわち構成原理が成立し,いくら,内殻のd軌道が閉殻,半閉殻になるからといって,安定な軌道に入っている電子2つをまるごとd軌道に移動させることは,系全体の安定化を崩すものだと言えます.
Q.構成原理の例外についての講義の際「閉殻」という言葉が出てきましたが殻に収容可能な数電子が入りきったということを示しているのでしょうか。Krのように4p軌道まで埋まっている場合は「閉殻」と言わないのでしょうか?
A. 閉殻には,いくつかの使い方があります.ベーシックには,K,L殻などがすべて電子で埋まった状態です.それ以外に,副殻が電子で埋まった状態も閉殻状態といいます.例えば3d軌道に電子が10個入っていれば,3d軌道は閉殻,といった具合です.さて,18族元素ですが,Heを別として,sに2個,2に6個で貴ガス配置(俗にいうオクテット)で閉殻とは言っていますね.構成原理を見てみると,3p<4s<3d<4p<5s<・・・ですから,4pまで電子が埋まってしまうと,次にエネルギー準位の高い軌道は,O殻の5sになってしまうので,N殻の4dではありません.ですから,ここで,いったん閉殻となって,4pまで埋まったら,次は外側の電子殻に電子が入っていくわけです.
Q.混成軌道にはd軌道も関与しますか?
A. 硫黄を含む化合物など,第三周忌硫黄の元素を含む化合物においては,混成軌道を考える際,d軌道を考慮して考えることもできます.まだ,d軌道に馴染みの薄い時期において,これら化合物の混成軌道を考えるならば,とりあえず,d軌道を考慮しない考えを学んでみてはどうでしょうか.なお,この考え方の前提として,2原子間でσ結合を構築するには,2原子が各々1電子ずつ出し合ってσ結合を作る考え方と,もう一つ,一方が2電子を出し,もう一方の元素が2電子を受け取る,すなわち,配位結合の考え方の二通りがあることを認識しておく必要があるということです.
以下の動画を参照下さい.
硫黄を含む化合物の混成軌道の考え方の例(d軌道を考慮しない考え方)(11:40)
なお,その他の考え方については,以下の動画で,塩化チオニルを例に説明しています.
Q.スレーターの規則を使って計算する第1回課題レポートで,計算式だけではだめ,というのはどういうことですか?
A. 計算式だけ書くなら,わざわざレポートとして課す必要はなくなります.レポートは,本人が,その課題に対して理解していることを示し,かつ,その課題から何がわかったか,あるいは考えたかをコメントすることです.規則通り,グループ分けして,四則演算すれば確かに答えは出ますが,意味を理解して書いているのかどうかは示すべきでしょう.構成原理に従い,軌道のエネルギー準位は,1s<2s<2p<3s<3p<4s<3d<・・・です,よって,カリウムは構成原理に従いエネルギー準位の低い軌道から入るので3dよりも4sに先に入るのでした.よって,この課題の解と同じ結果になるのです.そこを,スレーターの計算とシンクロさせて議論するわけですね.これを計算したあとに,比較結果があって,そこから考察です.この考察に上記のようなことを書いていくわけです,また,なぜ,d軌道の電子が対象だと,内側の電子の遮蔽寄与は1になるのか,キーワードの「貫入」を使って説明しつつ,書くのです.試験の答案用紙に解を書いているわけではないので,レポートは,「結果と,それに対する解釈がセット」です.また,すでにもベタ用に,最後に考察をつけることが必要です.なお,単純な計算ミスなどは問題ありません.ただし,提出要項に従わないものは不受理とします.
2022年度
Q.期末試験 出題内容概要(1)の5番,問1のところ(p.4)記述で,フェントン反応とハーバーバイス反応は区別する,と書いてありますが,ハーバーバイス反応はテスト範囲ですか.
A.ハーバーバイス反応は試験範囲外です.書物やネット記事では,この2者が混同されて記述されたりしているので,ご注意くださいということです.
Q.期末試験では,ペルオキシナトライトとチロシンの反応が出ていたりしますが,チロシンのどこの部位がニトロ化されるのか知っておく必要はありますか?
A.一酸化窒素(NO)は生体内において重要な生理機能を担う一方,NOはスーパーオキサイド(O2-)と 反応することでペルオキシナイトライト (Peroxynitrite: ONOO-)を形成し,活性窒素種(Reactive nitrogen species: RNS)として細胞や組織の障害に 深く関わっていることが明らかにされつつあります.チロシンのニトロ化は水酸基の隣(3位)で起こりますが,このニトロ化されたニトロチロシン(3-nitrotyrosine: 3-NT)は、ペルオキシナイトライトによる主要なタンパク質ニトロ化修飾物の一つであり,ニトロ化ストレス(nitrosative stress)マーカーとして広く用いられています.これまでにアルツハイマー,パーキンソン氏病, 多発性硬化症,脳卒中などの神経疾患をはじめ,動脈硬化症,心筋梗塞,冠動脈疾患,高血圧症など数多くの疾患との 関連性が報告されています.上位学年で更に深く学習することともいますが,現時点では,ペルオキシナイトライトによって,チロシンはニトロ化されるんだ,という事実を抑えておけばよいでしょう.位置選択的に進行するのは,水酸基は,o-p-配向性であり,かつ水酸基の隣が立体的に空いているからであると考えられます.ついでに言えば,グアニンの8位をニトロ化するという話もしましたが,シスプラチンのところで7位窒素原子がドナー原子となることを知っていなければならないので,このグアニンにおける番号付けは知っておいてよいでしょう.
Q.混成軌道の見分け方について教えてください.
A.混成軌道について質問がある中で,多くは,構造式が書けないと(すなわち価標を使って書けないと)わからないじゃないか?とおっしゃる方がいます.例えば炭素原子だったら,混成はspかsp2かsp3のどれかで,二重結合が一つならsp2だし,三重結合が一つならspだし,二重結合が2つならspとか大体言えると思いますが,それは,構造式がかけるという前提での話が多いです.では,自分では構造式が書けないような(価標を使ってどういう結合になるのかが書けない)化合物の場合はどうしますか?その時点で,混成軌道がわからない,ということでは困ってしまいます.最低限,原子の軌道と,価電子の配置,それと電子間の反発そして,結合とな何かさえわかれば,そこからパズル的ではあれ,自分の知らない化合物でも,どのような立体配置をしているのか,塩基性はあるのか(ローンペア)などある程度予測することはできるわけです.もちろん,それで全ての化合物の構造がわかるわけでもなく,π電子の非局在化,立体反発など,多方面から考察しなければならない場合は多々あります.ただ,基本をしっかりしておかないと,そのような考察をすることはできません.例えば,N(SiH3)3という分子は,アンモニアと同じように考えれば,窒素の周りに3つのSiH3基がついている形ですので,ローンペアを考慮すれば,sp3混成を窒素がとるかと思われますが,実際はsp2です.それは,この分子が平面構造を取っていることからもわかります.また,塩基性も殆どありません.ケイ素は炭素と同じ族ですから,N(SiH3)3はN(CH3)3と同じように考えられると思ってしまいます.実際N(CH3)3はアンモニアと同じ分子形(実際には,メチル基の立体反発でもっと広がっていますが)です.よってsp3と考えてもよいようにおもわれますが,何が違うかというと,ケイ素にはd軌道があるということです.ここまで話を聞いてピンとくれば大丈夫です.もし,追試験を受けることになったら考えてみてください.
Q.追試験と再試験の違いはなんですか.
A.追試験は病気など(公欠に相当する)の理由で,期末試験を欠席した場合に行われる試験で,満点は80点です.再試験は,本試験に不合格のものに対して行われる試験で,満点で60点です.無機化学の場合には,再試験は行いませんので,次年度,再履修ということになります.また,追試験の場合には,本試験とは問題が異なりますので,すでに配布した,出題内容概説は当てはまりませんのでご注意下さい.無断欠席がなく,レポートが提出されていれば,今期単位が認定されなくとも,次年度試験のみでの再履修が可能になります.
Q.CN分子の分子軌道エネルギー準位図で,非結合性軌道は考えなくてよいですか.
A.一酸化炭素の分子軌道エネルギ―準位図において(テキスト),非結合性が考慮されています.これは,炭素と酸素とのエネルギー準位が比較的大きいことによる考え方です.(実際にはそれぞれが相互作用するので,非結合性ではない).一方,課題では,原子番号が1つだけ異なる組み合わせの二原子分子なので,一酸化炭素のように,大きくエネルギ―準位がことなるわけではないので,sとpとの相互作用を考えればよいということになります.図だけから判断できないのでは,との質問もありましたが,非結合性の軌道であれば,エネルギー準位は変わらないことから,課題中のCN分子軌道エネルギー準位図でエネルギー不変の軌道が存在しないことから,非結合性は考慮していないことになります.
Q.スレーターの規則による有効核電荷の計算式が,期末試験の注意事項のところに載っていますが,これを使うところはあるのですか.
A.あります,有効核電荷の計算値で議論するために,載せています.スレーターの規則による計算式を覚えておく必要はないでしょう.ちなみに,スレーターの計算による有効核電荷は,大きい原子番号の原子に対しては適応できません.
Q.異核二原子分子の原子軌道エネルギー準位の話で,原子番号の大きい原子のほうが軌道のエネルギー準位は低い理由の回答として,同一周期であることが限定されていますが、有効核電荷を計算すれば異なる周期とも比べられるのでは?と考えました。どの様に考えればよろしいでしょうか?
A.電気陰性度(電子を引き付ける度合い)というパラメーターを持ち出すと,原子ばんごうが増えるごとに,電子を引き付ける力は大きくなる,という議論で置き換えるならば,同一周期でなければ成り立ちません.ということです. よって,電気陰性度が大きいから,というだけでは回答とはならないということです.
Q.電子を与えるのが還元・電子を奪うのが酸化として考えるとプロトンは酸化性・ヒドリドは還元性を持つと考えています.ヒドリドは還元性をもつと講義で説明を受けましたがプロトンは自分で考えたので自身がありません.そうなるとBirch還元でプロトンを受け取ってナフタレンが還元されるところで矛盾していると思います.Birch還元では非共有電子対があることが関係しているのでしょうか?
A.バーチ還元は,あくまで,溶媒和された自由電子が付加して還元が起こるということです.その結果,炭素がアニオン(カルバニオン)となるため,結果的に,プロトン性溶媒からの水素の引き抜きが起こり,水素原子が付与された形となるということです.例えば,ナフタレンのような共鳴安定化した化合物の二重結合に水素を付加するような還元反応はまず進行しませんが,溶媒和した自由電子ならば,電子を付与すると言うかたちで還元が起こるわけです.この還元される過程と,最終的な水素付加とは,別の過程です.酸塩基反応と酸化還元反応と区別しなければなりません.酸塩基反応は,酸化数の変化はありません.
Q.リンのオキソ酸の還元性について質問です。酸化数を上げて安定化するためにホスホン酸とホスフィン酸が還元性を持つことはわかりましたが、水素が解離することで還元性を持つところがわかりません。
A.例えば,水中で,ホスホン酸の酸化還元電位を考える時,H3PHO3 + 2H+ + 2e- = H2PHO3 + H2OでE=-0.276V です.リンの酸化数は,+3から+5に上がるので,相手を還元するということになります.結果として,ホスホン酸の非解離性水素と水酸基が入れ替わった形となるので,非解離性水素のヒドリド性水素が2電子失ってプロトンとなったと考えれば良いのではないかと思います.
Q.テキスト以外で学習するためのツールはなにかありますか(英語含め)
A.テキスト以外の学習教材をいろいろ探している人も多くいるようです。書物を読むのも一つの学習方法だとは思いますが、今回紹介するような教材はいかがでしょうか。さて、今回、紹介するのは、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)での基礎化学の講義VTRです。化学と英語を同時に学べるよい教材だと思います .
Q.2021年期末試験の問題で,3番の問5のcはどう考えればよいのでしょうか.
A.弱酸の塩と,強酸が反応すれば,弱酸が追い出され,強酸の塩ができる,ということは高校でやっていますね.これと同じ考え方です.ハロゲン化ホウ素のルイス酸としての強弱の順がわかれば,同じ考え方が適用できるということになります.そして,付加体は,塩と同じとして考えればよいうということになります.
Q.2021年期末試験の問題で,4番の問6の文章で答える問題は,どこまで答える必要があるのでしょうか.
A.略解に示したようなことが必要かと思います.スレーターの規則の計算方法も,問題用紙に与えられています.ここで,重要なのは,[電気陰性度が大きい原子のほうが,軌道のエネルギー準位が低い]という解答は,解答になっていないということです.現象としてはたしかにそのとおりですが,その根拠を聞いています.また,この回答においては,スレーターの規則を適用し,計算した結果を比較する前提は,同一周期に属する元素だからできる.ということです.この前提の記述は重要です.すなわち,同一周期内においては,原子番号が増えれば,有効核電荷も大きくなることにより,軌道のエネルギー準位は低くなる.ということです.
Q.期末試験では,周期表は与えられますか?
A.はい.本年度の試験でも,周期表は与えられますので,例えば,金属イオンのd電子のかずなど,原子番号さえわかればカウントできることになります.
Q.講義で紹介されていたような分子軌道の計算をPCで行うのに,おすすめのソフトはありますか?
A.まず,フリーソフトという前提で紹介すれば,Wionmostartというソフトがおすすめです.有料版もありますが,学生ならば,無料でも,ある程度のことまでできるので,ぜひ,トライしてみてください.
また,これに関連して,化学構造式を描画するソフトにChemDrawというソフトがあります.大学のPCには入っていますので,今後,レポートなどを書く際に,非常に有用かと思います.このソフトも,購入すると非常に高額ですが,大学在学中であれば,各自,アカウントを作成して,自分のPCにインストールすることもできます.このソフトには,Chem3Dというソフトも一緒についていて,これは,2次元の構造式を3次元表示できるソフトです.分子模型を組んで,立体的感覚を養うのも良いですが,一つのツールとして,このようなソフトを触ってみるのもありかと思います.一度,大学のPCで試してみてください.
Q.八面体型錯体における3重縮重t2gの安定化が2/5Δoということですが,2/5という数字が出る理由は?
A.安定化する軌道(t2g)が3つ(2/5の寄与),不安定化する軌道(eg)が2つ(3/5の寄与),相殺されてゼロということになるということです.
2/5Δo ×3-3/5Δo×2=0
Q.2021年期末試験の問題で,5番の問8の結合の切断の容易さの考え方がよくわからないのですが?
A.単純に,結合次数が少ないほうが結合は切断されやすいということです.すなわち,単結合より,二重結合のほうが切断されにくいということです.ですから,問題文中のニ酸素の化学種の結合の切断の容易さは,結合次数の低い順,ということになりますから,最も結合次数の低い化学種は,この場合,O22-でBO=1となります.
Q.2021年期末試験の問題で,4番の問3の結合長の考え方がよくわからないのですが?
A.ここでいう結合長さは平均結合長さのことです.例えば,NO2- の平均結合多重度は,(2+1)/2=1.5と計算できます.すなわち,N-O結合が2箇所あり,1つは二重結合,もう一つは単結合なので,その平均を取るということです.NO3- は同様に考えて,(2+1+1)/3 = 1.33・・と計算できます.
Q.Fe(III)にチオシアン酸イオンを加えると血色になるのは,d-d遷移で説明できるのでしょうか,それとも,別の機構で説明できるのでしょうか?
A.過去にも同じ質問がありましたが,硫酸鉄(III)の水溶液に,KNCSを固体で加 える と,濃赤色に発色する反応は,確かに高校化学でFe(III)検出のところで記憶しなければいけないものでした.これは,d-d遷移によるものではなく,LMCTによるものであることがわかっています.LMCTは,中心金属イオンの酸化数が高く,配位子が陰イオン性のもので電子を流しやすいものの組 合わせでおこりやすい遷移で,CTは濃い発色を示す原因となります.一般的に,濃い色の発色は,d-d遷移由来ではないと思ってよいかと思います. その代表例として,講義では,過マンガン酸イオンが濃い紫色を呈する理由として,電荷移動遷移(CT)を紹介しました.d-d遷移は,これまで,試験に何回も出題していますが,LMCTやMLCTは試験で当たことがありませんでしたので,本年度は問うてみたいと思います.なお,講義中にも言いましたが,配位子内遷移に関しては,試験で問うことはありません.
Q.sp3d2とd2sp3は異なる混成軌道ですか(第5回講義問題2-4に関連して).
A.sp3d2とd2sp3では,できた形は正八面体型ですが,意味は全く違います.混成に組み入れる内殻の軌道から順番に表記します.アルミニウムイオンの場合には,sp3d3のsは3s,pは3p,dは3dなので,同じ殻ですから順番に書いています.ところが,d2sp3と表記するのは,s,p軌道より内殻のd軌道を混成に使えるときです.例えば,Co3+は 配位子の違いによって,sp3d2とd2sp3のどちらの混成も可能な金属イオンです.なお,どちらの混成軌道になるかの理論は,後半に講義で話します.
Q.欠席届を出さなかったのですが大丈夫でしょうか.
A. 欠席する自由もあるわけですから,3分の2以上の出席があれば,期末試験の受験資格はあると規定されています.一方,欠席する場合は,欠席届を出すよう規定されています.最初の講義で説明したように,理由を明示しなくてもいいから,必ず届け出を出すように,かつ,大学規則での欠席届でなくても,例えばメールでもよいから連絡すること,としているわけですから,しないのは自己責任ということですので,いろいろな点で考慮の対象外です.例年,無断欠席があったがゆえに,単位取得の際に考慮されずに再履修となる学生が何人かいます.
Q.原子軌道を三次元的に見れるサイトはありますか?
A. 原子軌道に関して,なかなかイメージしずらい人も多いかと思います.PCで,原子軌道を3次元的に見ることができるサイトを紹介しますので,興味のある方はアクセスしてみてください.(スマートフォンからでもアクセスして,軌道を表示できるようです.原子軌道を重ね合わせて,自由に動かすことができます)
https://www.chemtube3d.com/a-level-orbitals-all/
Q.dx2-y2,dz2の名称はなんていっているんですか.
A.dx2-y2: d x squared minus y squared, dz2: d z squared
Q.D-ペニシラミンは2座配位子として働く場合と3座配位子として働く場合がありますが,配位する金属原子の大きさだけに依存するのですか.
A.そうですね.第4周期の金属であれば2座配位子としてキレート形成し,第5,6周期の金属であれば,3座配位子としてキレートを形成するということになります.よって,カドミウムイオンや鉛イオンのような第5周期,第6周期の金属イオンとは,3座配位子として機能し,キレートが形成されます.このあたりは,期末試験で問われるところです.
Q.金属イオン中のd電子数で,2価の鉄イオンはd6錯体であることを覚えておくと良いと言う事でしたが,他の金属イオンで覚えておくといいものはどれですか.
A.覚えなくてはいけないというよりは,覚えておくといいでしょう,ということです.特に,Fe2+は,ヘモグロビン中に含まれるイオンだったりしますから,d6錯体であることが重要な役割を果たしますので,知っておくといいかと思います.テストに限って言えば,周期律表が載っているわけですから,鉄の原子番号から,電子配置がわかり,外側から電子2個取ればFe2+のd軌道の電子の数は,わかります.Co3+もしかりです.すなわち覚える必要はないといえばない,ということです.ただし,この先も何度か出てくるであろうFe2+やCo3+のd電子の数を知っておけば,Fe3+はd5錯体だし,Co2+ならd7錯体だってことはすぐ出てくるので,時間の短縮になると別のところで説明した次第です.これは,期末試験の7番の偶数問に関する動画で説明していることです(03:58あたりから)あとは,平面4配位の錯体はd8かd9錯体が多く,特にd8錯体が多いので,Pt2+はd8錯体であるぐらいは知っていたほうがいいかと思います.あとは,基本的な電子配置に関する知識があれば,解決する問題です.
Q.何故炭酸水素ナトリウムが下剤としての働きを持たないのかが分かりませんでした。炭酸水素ナトリウムも酸と反応して塩化ナトリウムを生成するため、腸内の浸透圧が上がるのではないのでしょうか.
A.ひとえに,Mgが非吸収性だからです.Na,K,Clイオンのようなイオンは細胞内外を容易に移動しますが,Mgはそのようなことがないということです.
Q.ボラジンの生成する反応で,アンモニアとボランの付加体を加熱するところで,反応式として書くと,ジヴボランと水素が発生する,ということでいいですか.
A.そのとおりです.紹介したボラジンの製法は,Stock and Pohlands methodと呼ばれるものです.
反応式を完全に書くと,
3B2H6 + 6NH3 → 6(BH3・NH3) → 2 borazine +12H2です.
よって,ボラン・アンモニア付加体を原料とし,加熱(250-300 ℃)によりボラジンを生成する反応式は,
3(BH3・NH3)→ B3N3H6 + 4 H2
となります.プリントには,水素の発生は省略されています.
今回の試験では,このボラジンの構造式がかければ良い,ということです.
Q.水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素を原料にしてジボランを生成させる反応で,どうしてジボランが生成するのかがわかりません.
A.まず,水素化ホウ素ナトリウムは還元剤ですので,ヒドリドを放出します.次に,フッ素原子は,電気陰性度最大なので,陰イオンになりやすい元素ですね.すなわち,この反応では,ヒドリドとフッ化物イオンとの交換が起こる反応がメインとなります.下の図で,同じ色で色分けされたところを追っていくと,化合物の収支がわかるかと思います.YouTubeに説明動画あり(03:55)
Q.八面体型錯体における3重縮重t2gの安定化が2/5Δoということですが,2/5という数字が出る理由は?
A.安定化する軌道(t2g)が3つ(2/5の寄与),不安定化する軌道(eg)が2つ(3/5の寄与),相殺されてゼロということになるということです.
2/5Δo ×3-3/5Δo×2=0
Q.クラウンエーテルの内孔径とイオンサイスの関係についてですが,リチウムイオンの大きさと,12-クラウン-4の内孔径を比べたとき,リチウムイオンが約1.4Åの大きさで,12-クラウン-4が約1.2から1.5の大きさと動画の問題にありましたが,12-クラウン-4が約1.2だったとすると,リチウムイオンはクラウンエーテルの中に完全に入らないような気がするのですが?
A.鋭い質問ですね.金属イオンの大きさが,クラウンエーテルの内孔径よりも少し大きいからと言って,錯体が形成しないわけではありません.金属イオンがクラウンエーテルの内孔から少しずれた位置で錯体ができる場合もあります.そのような例を下に示します.ただし,もっと大きなサイズのイオンでは,当然,クラウンエーテルの酸素原子の近くに収まることは難しくなるので,金属イオンとクラウンエーテルの内孔径と金属イオンの選択性に関しては,講義で説明したような議論は成り立ちます.
ちなみに,クラウンエーテルが 金属を取り込んだとき,キレート環が形成されることになりますが,キレート効果の観点から,生成されるキレート環は歪の少ない5員環となるため,最も安定なキレート環形成であると見ることができます.
もう一つ,同じような現象を説明すると,ヘモグロビンの例があげられます.ヘモグロビンは,鉄の二価のイオンがヘム構造の中心にいますが,この鉄イオンは,酸素が配位していない状態では,ヘム平面より若干浮いて存在しています.すなわち,ヘムの内孔より少しイオンサイズが大きく,はまりきっていない状態です.ここに酸素が配位すると,鉄イオンのサイズが小さくなって,ヘムの内孔にすっぽりハマるようになり,酸素を安定に結合させて運搬できるようになります.サイズが小さくなる理由は,鉄イオンのスピン状態が,高スピン状態から低スピン状態に変化するためです.通常,高スピン状態のイオンサイズよりも,低スピン状態のイオンサイズの方がコンパクトになります.下の図をご覧ください.
Q.錯体のd電子の数は,期末試験のときに知っていないとだめですか?
A.周期表が試験問題の1枚めに載っていますから,そこから,d電子の数を計算すれば,特に覚えている必要はありませんが,Co3+ やFe2+ がd6 錯体であるくらいは覚えておくと,時間短縮になるかと思います.これらが,d6 錯体であるならば,例えばCo2+ はd7 錯体出し,Fe3+はd5錯体になるわけなので,有名所を抑えておくメリットは有るかと思います.
Q.ボラジンは無機ベンゼンともいわれるということですが,ベンゼンと同じような反応をしますか?
A.反応性は全く異なります.ボラジンはベンゼンと同じ電子構造をもつにも関わらず,電子不足なホウ素と電子豊富な窒素に由来する電荷の偏りがあり,水やアルコールに対し高い反応性を示すことが知られています.一方,ベンゼンは,水に対しては,反応不活性です.なお,講義でも説明したように,ボラジンの構造は書けるようにしておいて下さい(ベンゼンのように共鳴します).下の図のように,B=N結合が形成される理由や,共鳴構造をとれること,結果,B-N結合長は,どれも等しくなること,ベンゼンと等構造であること,などを講義しました.
Q.第10回配布資料中の問題で,3番の問8の結合の切断の容易さの考え方がよくわからないのですが?
A.単純に,結合次数が少ないほうが結合は切断されやすいということです.すなわち,単結合より,二重結合のほうが切断されにくいということです.ですから,問題文中のニ酸素の化学種の結合の切断の容易さは,結合次数の低い順,ということになりますから,最も結合次数の低い化学種は,この場合,O22-でBO=1となります.
Q.第10回配布資料中の問題で,1番の問2(a)の結合長の考え方がよくわからないのですが?
A.ここでいう結合長さは平均結合長さのことです.例えば,NO2- の平均結合多重度は,(2+1)/2=1.5と計算できます.すなわち,N-O結合が2箇所あり,1つは二重結合,もう一つは単結合なので,その平均を取るということです.NO3- は同様に考えて,(2+1+1)/3 = 1.33・・と計算できます.NO2は(1+1)/2=1
Q.芳香族のニトロ化では,ニトロ基は1つしか入らないのですか?
A.ニトロ基は強い電子吸引性基であるため,通常のベンゼンを基質とする場合には,1つだけニトロ基が導入されたモノニトロ化体が生成した段階で,反応は停止します.つまり,ニトロ化はニトロニウムイオンに電子が供与されて反応が進行するので,電子求引性の強いニトロ基が1つ導入されると,2個めのニトロニウムイオンとの反応性が落ちてしまうからです.ニトロ化は,一般的には,こんさんで行われますが,基質によっては,硝酸のみでもニトロ化は進行します.その理由は,硝酸の自己イオン化によりニトロに生むイオンが生成するからです.講義でもしょうかいしましたので ,自分で説明できるようにしておいてください.
Q.チオ硫酸ナトリウムによるシアン化物イオンの無毒化では,どのようにしてチオ硫酸ナトリウムからシアン化物イオンにS原子が移動するのでしょうか?
A.少し難しい話ですが,この反応には,酵素であるロダネーゼが必要です.ロダネーゼは,触媒として働きます.その機構を下に示しますので参考にしてください.YouTubeにも動画をあげています.ロダネーゼによるシアン化物イオンの解毒機構(YouTube 03:31)
ロダネーゼにはジスルフィド部(S-S)が存在し,ここでまず,チオ硫酸イオンと反応が起きます.チオ硫酸イオン中のSがロダナーゼのジスルフィドと反応すると,ジスルフィドは開裂し,反応したチオ硫酸イオンとロダナーゼとの間にジスルフィド結合がいったんできます.この中間体に,シアン化物イオンが反応することにより,亜硫酸イオンが脱離します,その結果,S-CN結合が形成されます.ロダナーゼが,この段階で,再び元の状態に戻れば,チオシアン酸イオンが生成することになります.ロダナーゼは元に戻ったので,「触媒」ということになります.このように,反応は二重置換機構の酵素触媒反応によって進行していると考えられています.
Q.塩化チオニルの硫黄原子の混成軌道がよくわかりません.
A. sp3混成です.考え方を動画にしてありますのでわからない人は動画を参照してください.混成軌道は基礎化学の範囲ですが,無機化学でも,試験に出しますので,しっかり理解しておいてください.塩化チオニルの混成軌道の考え方は二通りあるので,動画2つに分けました.この動画は,最初の質問者に対しての解答として作成したものなので,その点ご了承下さい.
Youtube (04:33) Youtube(もう一つの考え方) (04:03)
また,塩化チオニルは,Lewisの酸としても,塩基としても機能するということも重要なことです.Lewis acid, baseも試験範囲です
Q.窒素を含む化学種の混成軌道がわかりません.
A. 価電子が奇数の窒素原子を含む混成軌道はちょっと難しいかと思います.また,電荷がついているときどうしよう,と考える人もいるかもしれません.電荷がついているというのは,通常よりも電子が多いか少ない仮名ので,基底状態の電子配置がわかれば,そこに電子を足すか引くか,だけです.講義で話した通り,電子の入った軌道同志は反発する,それに派生して,ローンペアや孤立電子には,一つの軌道をあたえるのがよい.できるだけエネルギー使わない形から考える(昇位する必要あり?混成に組み込む軌道数の最低数は?).そして,これまでの説明で,共有結合の時,AとBが2電子共有する場合,仮にAが1電子,Bも1電子出し合って共有結合を作ると,という前提で説明してきました.あくまで,・・・と考えると,と言ってるんです.2電子共有するパターンはほかにもあります.配位結合です.高校化学です.ですから,どちらかのパターンでσ結合を構築するって考えないとうまくいかないことはあります.すでに学習済みのことです.ただし,あくまでも,混成軌道は考え方の問題であることは頭の隅に置いておくべきでしょう.もっと本質に近づくためには,分子軌道法で解かないと無理です.ここまで読んで,わからない人は,以下の動画を見てみてください.
窒素原子を含む3つの化学種(NO2, NO2+, NO2-)に関して説明しています.概要蘭にインデックスがつけてあります.
Q.Naカチオンを溶媒和するアンモニアの数がnと記述されていますが,溶媒和するアンモニアの数は決まっていないという事でしょうか・
A.溶媒和に関しての記述がある論文,あるいは書籍をみても,その記述は一定していません.下に示した図で,上の図では,ナトリウムイオンは,Na+(NH3)6となっています.下の書籍の記述ではNa+(NH3)4となっています.
すなわち,n=4or6です.多くの書籍で,どちらかが記述されているので,ここではnと書きました.私も,どちらかだと思います.6以上は,ナトリウムイオンサイズを考えてもむりなので,最高で6だと思います.また,Na+の水和水は4と言われていますので,最低でも4かと思います.ここでの話において,ナトリウムイオンのアンモニア溶媒和の数が特に重要ではないので,いくつかの報告があることから,nという形に記述しました.
Q.第一回,二回講義に関する演習問題の問9で,24Crと29Cuの電子配置が[Ar]4s¹3d⁵、[Ar]4s¹3d¹⁰という風に問題文に書かれているのですが、[Ar]3d⁵4s¹、[Ar]3d¹⁰4s¹という風に書くのは間違いでしょうか?
A.どちらの形で書いても間違いではないですが,主量子数の小さいほうから書く方が一般的かと思いますので,[Ar]3d⁵4s¹、[Ar]3d¹⁰4s¹と書く方が多いかと思います.
Q.第五回講義で制酸剤で二酸化炭素が発生する場合がいくつか紹介されていましたが,二酸化炭素が発生することがメリットであるかデメリットであるかうまく理解することができませんでした.げっぷによる清涼感が得られるためメリットと捉えてしまっていいのですか?
A.いい質問ですね.デメリットはないかと言われれば,あります.炭酸水素ナトリウムの中和により発生する二酸化炭素は,胃粘膜を刺激して二次的に胃酸分泌を促すことが知られています.すなわち,胃酸を中和しながら,同時に,胃酸の分泌を促してしまう恐れもあるということですが,炭酸水素ナトリウムは,ある意味,対症療法薬です.胃もたれなどの根本的原因を治癒するものではありません.よって,例えば,げっぷなどによる当座の清涼感は,胃部不快感を有する人には大きなメリットかと思います.炭酸水素ナトリウムの最も大きなメリットは,即効性ですね.では,炭酸水素ナトリウムによる胃酸中和の即効性を生かしながら,二酸化炭素の二次的副反応を抑えるにはどうするかというと,多くの場合,酸化マグネシウムを炭酸水素ナトリウムに配合します.酸化マグネシウムは講義で言ったように,遅効性ですが,中和により生じた塩化マグネシウムは,二酸化炭素を吸収してくれます.
どんな医薬品でも,メリット,デメリットはあるかと思います.その人が何を一番求めているかで,メリット,デメリットも変わってくるかと思います.
Q.補色と波長の関係(どの波長の光を吸収して何色になる)は,覚えておく必要がありますか?
A.期末試験で,という前提だと思いますが,どの波長の光を吸収して何色になるは,記憶しておく必要はないかと思います.知っていて損はありませんが,試験においては,カラーサークルを示しますので,吸収した波長に対する補色が確認されることだけ知っていればよいでしょう.
Q.章末問題3章の9番で,解答に点線で構造式を記述していますが,なぜ点線なのですか.
A.去年も同じ質問があったので,Q&Aの下の方に同じ回答があります.ここに,再掲します.まず,上記解答のp.2はp.52の誤りですね.点線は,非局在化の広がりを表しています.図3.19に二酸化窒素の共鳴式があります.この2つを合わせると,全体的にπ電子が非局在化しているということになります.右のN-O結合も左のN-O結合も,トータルとしてみれば区別ないということですね.これを一つの構造式で表記する方法として,解答にあるような表記法もあるということです.実線はσ結合,点線は,非局在化したパイ電子ということです.ただ,この表記だといくつのπ電子があるかがわからないということが欠点です.そのため,電子は非局在化しているにもかかわらず,電子が局在化していて,かつ,電子の数がわかる構造を好んで書きます.窒素上に不対電子があり,この不対電子が対になるように窒素-窒素間に単結合をつくるということがまず第一です.図3.19のN-Nを単結合で結ぶと,その共鳴式を書かなければいけません.あと,分子形を意識するなら,直線分子ではないので,解答とは違いますね.
Q.結晶場理論では,リガンドが点電荷として考えられますが,配位子と金属との結合は影響しないのですか?
A.結晶場理論では,金属とリガンドとの結合は一切考えておらず,結晶場理論は,イオン結合モデルです.よって,中心金属に存在するd軌道と静電的に相互作用する,ということだけを考えているわけです.例えば,CO(カルボニル)は,金属と安定な錯体を形成しますが,この結晶場理論では,その理由をまったく説明できません.また,分光化学系列で強い配位子場を持つことも説明できません.これをより発展させたもう一つの理論である「配位子場理論」を持ち出さないと説明できないことになります.配位子場理論は,金属のd軌道と配位子軌道から構築された分子軌道を用いて錯体の結合を記述するものです.配位子場理論は,共有結合の考え方を取り入れた理論ですが,本講義では取り上げません.このような疑問を抱くことが次につながっていくのだと思います.
Q.Fe(III)にチオシアン酸イオンを加えると血色になるのは,d-d遷移で説明できるのでしょうか,それとも,別の機構で説明できるのでしょうか?
A.硫酸鉄(III)の水溶液に,KNCSを固体で加 える と,濃赤色に発色する反応は,確かに高校化学でFe(III)検出のところで記憶しなければいけないものでした.これは,d-d遷移によるものではなく,LM-CTによるものであることがわかっています.LM-CTは,中心金属イオンの酸化数が高く,配位子が陰イオン性のもので電子を流しやすいものの組 合わせでおこりやすい遷移で,CTは濃い発色を示す原因となります.一般的に,濃い色の発色は,d-d遷移由来ではないと思ってよいかと思います.
Q.クラウンエーテルに関して,演習問題で,「クラウンエーテルと金属イオンの結合力は,非極性溶媒のほうが極性溶媒よりも大きい」 という文章が誤りとのことですが,もう少し説明して下さい.
A.略解に書いた説明では,「非極性溶媒でクラウンエーテルは酸素原子を内側に向け,金属イオンと結合する空孔を形成するので,結合力は極性溶媒中のほうが大きい.」と書きましたが,クラウンエーテル中の炭素は,この場合,外側を向くということです.すなわち,非極性の溶媒と親和性のある炭素原子が外側を向く方が,溶媒和されやすい,ということです.この説明 のほかに,テキストp.168の記述も参考にして下さい.テキストでは,「クラウンー金属イオン錯体の安定性は溶媒によっても変化する.」という記述があります.一度,目を通してください.なお,試験では,クラウンエーテルの構造は,知っているという前提となります.クラウンエーテルの内孔径と金属イオンの直径がほぼ等しいと安定な錯体を形成することなど,今一度復習してください.
Q. NO2- , NO2 , NO2+ の結合角は,混成軌道の考え方を使わずに, VSEPR 理論から∠O-N-O の大小を予測できませんか?
A.確かに,可能だとおもいます.講義動画では,一度,話をしていると思います.さて,VSEPR 理論とは,結合電子対(共有電子対)や孤立電子対(非共有電子対)の反発に基づき分子の立体 構造をより精密に見積もる方法です.一般的に結合電子対は 2 つの原子間の比較的狭い範囲に分布しますが,孤立電子対はそれに比べて空間的に大きく広がった分布を持つため,孤立電子対同士の反発は大きく,結合 電子対同士の反発は小さく,また結合電子対-孤立電子対間の反発はその中間になる傾向にあります.このこと を考慮すると,NO2- では N の孤立電子対と 2 つの結合の間の角が大きくなって,∠O-N-O が小さくなります(実 際には∠O-N-O = 115°)が,NO2では N 上に孤立電子が 1 つしかないため,結合電子対との反発が緩和され,結合電子対間の反発も緩和される結果,∠O-N-O が NO2 - よりも大きくなります(実際には∠O-N-O = 132°).さ らに NO2+ では N 上に非共有電子(対)が存在しないため,結合電子対の反発を最大限緩和 できるように∠O-N-O = 180°となると考えることができます.
Q.分子軌道法の演習問題で,CN分子の分子軌道エネルギー準位図において,非結合性軌道は考えなくてよいですか.
A.一酸化炭素の分子軌道エネルギ―準位図において(テキスト),非結合性が考慮されています.これは,炭素と酸素とのエネルギー準位が比較的大きいことによる考え方です.(実際にはそれぞれが相互作用するので,非結合性ではない).一方,課題では,原子番号が1つだけ異なる組み合わせの二原子分子なので,一酸化炭素のように,大きくエネルギ―準位がことなるわけではないので,sとpとの相互作用を考えればよいということになります.図だけから判断できないのでは,との質問もありましたが,非結合性の軌道であれば,エネルギー準位は変わらないことから,課題中のCN分子軌道エネルギー準位図でエネルギー不変の軌道が存在しないことから,非結合性は考慮していないことになります.
Q.窒素の分子軌道で,結合性のシグマとパイ軌道のエネルギー準位が逆転する理由は?
A.これは,なかなか難しい問題です.そういうものと現時点で解釈しておくとよろしいかと思います.少なくとも,その理由を期末試験で聞くことはありません.なお,上記の問題に関して,YouTubeに5分程度の解説をしていますので,ご覧ください.
Q.窒化リチウムの結晶格子の第二層のリチウムイオンと窒化物イオンの比に関して(第4回講義問題)
A.6個あるリチウムイオンは,結晶中で,1つのリチウムイオンに対して,3この窒化物イオンが配位していることになります.すなわち,窒化リチウムの単位格子中,第二層のリチウムイオンは,1/3の寄与です.よって,第二層中には,リチウムイオンは,(1/3)*6=2個となるので,リチウムイオンと窒化物イオンの比は2:1です.なお,単位結晶中の第1層と第3層のリチウムイオンは,それぞれ1/2の寄与ですので,上下合わせてリチウムイオン1個分です.よって,窒化リチウムがリチウムイオン3個と窒化物イオン1個の組成であることがわかっていれば,第二層は,リチウムイオン2個と窒化物イオン1個で構成されている,としても良いでしょう.
Q.章末問題3章の2番で,解答に結合角度が書いてありますが,この角度は覚える必要はありますか.
A. 115°という数字を覚える必要はありません.ニトロニウムイオンは直線型ですから180°は自明ではありますが..
亜硝酸イオンは折れ曲がり型,ニトロニウムイオンは直線型ということを理解すればよいかと思います.すなわち,結合角は,ニトロニウムイオンのほうが大きい,ということですね.
これが理解できれば,次の質問はどうですか?
What is the order of bond angles NO2+, NO2, NO2-?
The answer is: NO2- < NO2 < NO2+
NO2は窒素上に不対電子が,NO2-は窒素上にローンペアが存在します.よって,これら電子が入っている軌道と,2つのN-O間軌道の反発は変わってきますね.ローンペアの方が電子数が多くて反発が大きいと考えれば,NO2-の結合角が一番小さいという事になります.
NO2の結合角は134°です.この角度も覚える必要はありませんが,結合角の順番が答えのようになる理由は大事です.
Q.配位結合でシグマ結合ができるように,逆に,配位結合のように一方が2電子出して,パイ結合ができることはありますか?
A. そのように考えることはできます.例えば,硫酸は,2つの酸素原子には配位結合で,OHの酸素原子には,1電子出してシグマ結合作るように考えて骨格を書くと,価標4本出す.よく見る硫酸の構造式において,2つの酸素原子と二重結合で結合しているように書かれていますが,価標は計6本です.もし,同じように書きたいのならば,下のように考えることもできます.酸素原子は,硫黄原子から,電子対(σ結合)を受け取るため,空の軌道を準備する必要があるので,エネルギーを使って,電子を組み替えます.そして,下の図のようにsp2混成を取ると,混成に寄与しない電子(青)が,2個余ります.こrをそのままパイ電子として硫黄に与えれば,一番右の構造式中に書いた赤い矢印になります.矢じりをとってしまえば,単純な二重結合になるので,一番左と同じということになります.では,硫黄は,この2電子をどこに受け入れているのか.2個,まるごと受け入れるわけですから,空の軌道が必要です.sとpは埋まっています.そうです.d軌道です.d軌道は全く電子が入っていないので,空の軌道を用意できるわけです.
閉殻には,いくつかの使い方があります.
ベーシックには,K,L殻などがすべて電子で埋まった状態です.
それ以外に,副殻が電子で埋まった状態も閉殻状態といいます.
例えば3d軌道に電子が10固入っていれば,3d軌道は閉殻,といった具合です.
さて,18族元素ですが,Heを別として,sに2個,2に6個で貴ガス配置(俗にいうオクテット)で閉殻とは言っていますね.
構成原理を見てみると,3p<4s<3d<4p<5s<・・・ですから,4pまで電子が埋まってしまうと,次にエネルギー準位の高い軌道は,O殻の5sになってしまうので,N殻の4dではありません.ですから,ここで,いったん閉殻となって,4pまで埋まったら,次は外側の電子殻に電子が入っていくわけです.
Q.SO2(二酸化硫黄)の硫黄原子がsp2であるのは?
A.以下の考え方を見て下さい.
すなわち,混成に組み入れられなかった軌道に存在する電子をπ電子として利用できるかどうかが決め手です.もう一つは,硫黄にはd軌道があるので,そこを使おうと思えば使えるという点ですね.ちなみに,二酸化硫黄は,電子供与体としても,電子受容体としても機能します.
Q.SO3とSO2における硫黄原子の混成軌道がわかりません.
A. イオウは,リンと同じくd軌道が存在するので,このd軌道を利用することができます.
動画に考え方をまとめましたので,参考にしてください.
ただし,本当にd軌道に入った電子がπ電子となるのか?ということは考えていません.
この考え方を使って説明して,説明が出来たから,とりあえず真だと考えるってだけです.
難しく考えない方がよいかと思います.
第一回目の講義で,硫酸の話をしましたが,あれをみれば,そうだよねって思いますよね.
イオウを含むいくつかの化合物を題材に混成軌道を説明していますが,自分の見たい化合物に飛べるよう,概要欄にインデックスがつけてあります.
詳細に勉強したい人は,基礎化学か物理化学で勉強して下さい.
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2019年度 (6月26日 更新)
Q.HSO3-とHPO32-が等電子関係である理由は?
A. 等電子関係にあるための条件は,構成原子数が等しいことと,価電子数が等しいことです.ただし,価電子数を数える際に,対象化学種がイオンの場合には,そのイオンに伴う電子を加減しなければなりません.すなわち,チャージが-1であれば,全体に1電子を加え,チャージが+1であれば,全体から1電子分引きます.
以上の観点から,質問にあった2化合物を見てみます.
まず,構成原子数は,両方共5原子であり,条件を満たしています.
次に,価電子を数えます.
まずをHSO3-数えます.Hが1個,Sが6個,Oが6個で酸素原子3つあるので6・3=18個,さらに,マイナス1のチャージがあるので,電子を1個足します.よって,総価電子数は,1+6+18+1=26個となります.
次に,HPO32-を数えます.Hが1個,Pが5個,Oが6個で酸素原子3つあるので6・3=18個,さらに,マイナス2のチャージがあるので,電子を2個足します.よって,総価電子数は,1+5+18+2=26個となります.
以上より,構成原子数が同じで,総価電子数も同じなので,両者は,等電子関係にあるといえます.
Q.CN分子の分子軌道エネルギー準位図で,非結合性軌道は考えなくてよいですか.
A.一酸化炭素の分子軌道エネルギ―準位図において(テキスト),非結合性が考慮されています.これは,炭素と酸素とのエネルギー準位が比較的大きいことによる考え方です.(実際にはそれぞれが相互作用するので,非結合性ではない).一方,課題では,原子番号が1つだけ異なる組み合わせの二原子分子なので,一酸化炭素のように,大きくエネルギ―準位がことなるわけではないので,sとpとの相互作用を考えればよいということになります.図だけから判断できないのでは,との質問もありましたが,非結合性の軌道であれば,エネルギー準位は変わらないことから,課題中のCN分子軌道エネルギー準位図でエネルギー不変の軌道が存在しないことから,非結合性は考慮していないことになります.
参考までに,別のテキストにおける一酸化炭素の分子軌道エネルギー準位図を示します.(ハウスクロフト著,ハウスクロフト無機化学(上),東京化学同人)小鹿の図書館に在庫あります.
Q.試験問題が例年解説されると聞いたのですが,今年も例年通り解説されますか.
A.昨年の授業評価でもあまり解説しないでほしいという意見が多くありましたので,お知らせしない予定です.
今年度はあまり質問がないので,もし質問があれば,ここでシェアしたいと思います.
Q.章末問題3章の9番で,解答に点線で構造式を記述していますが,なぜ点線なのですか.(2019年中間試験(仮)にもある)
A.まず,上記解答のp.2はp.52の誤りですね.点線は,非局在化の広がりを表しています.図3.19に二酸化窒素の共鳴式があります.この2つを合わせると,全体的にπ電子が非局在化しているということになります.右のN-O結合も左のN-O結合も,トータルとしてみれば区別ないということですね.これを一つの構造式で表記する方法として,解答にあるような表記法もあるということです.実線はσ結合,点線は,非局在化したπ電子ということです.ただ,この表記だといくつのπ電子があるかがわからないということが欠点です.そのため,電子は非局在化しているにもかかわらず,電子が局在化していて,かつ,電子の数がわかる構造を好んで書きます.窒素上に不対電子があり,この不対電子が対になるように窒素-窒素間に単結合をつくるということがまず第一です.図3.19のN-Nを単結合で結ぶと,その共鳴式を複数書かなければいけません(4つ).まあ,4つ書けば済むのですから.あと,分子形を意識するなら,直線分子ではないので,解答とは違いますね.
Q.アミンのニトロソ化反応と,生体内での反応との関連性がよくわかりません.
A.ハムやソーセージの発色剤として,亜硝酸ナトリウムが使用されています.亜硝酸ナトリウムが胃中に入ればニトロソニウムイオンが生成する可能性があります.そこに,第二級アミン類,例えば,魚類中に存在するジメチルアミンが反応すればN-ニトロソジメチルアミンが生成し,これに発がん性があるという研究が1950年代後半に報告されてから,ニトロソ化合物とがんの発生に関する研究が行われてきました.特に,ニトロソ化合物と胃がんとの関連を指摘する研究者が多かったのも事実です.しかし,実際には,そのあたりの関連性が事実なのかどうかはまだまだ議論の余地があるところである,というのが現状ではないかと思います.現在使用されている発色剤に関しては,食品衛生法で食肉製品で用いられる亜硝酸根残存量は70ppm(1kgに対して0.07g)以下と使用基準がしっかり定められていますから,食品摂取量から考えて問題になる量ではないように思います.厚生労働省は,「生体内でのニトロソ化合物の生成と胃がんとの関係」ということで以下のような見解を公表しています.
(以下,厚労省の見解)
生体内で、硝酸塩から発ガン物質であるニトロソ化合物の生成の可能性があることから、胃がんと硝酸塩(または亜硝酸塩)の摂取の関係についていろいろな研究がされています。
胃がんと硝酸塩の関係については、関係があるとする研究もありますし、関係が認められないとする研究もあります。大部分の研究は結論が出ていませんし、むしろ硝酸塩の摂取量が増えると、胃がんの発生率が低くなるという逆の相関を示す研究結果もあります。
一般的に、がんについての疫学研究は、胃がんの原因要素がいろいろあることや、発病する場合でも、摂取してから、発病するまで時間がかかることから、結果が得にくいようです。
野菜は硝酸塩の主要な摂取源ではありますが、ビタミンCなどの保護因子も含むため、野菜を大量に摂った場合には、それに含まれる硝酸塩と同じ量の硝酸塩を添加物等として摂取した場合に比べて、胃がんのリスクは低くなると思われます。(以上,厚労省の見解)
化学的反応としては,重要であるので,ジアゾ化と合わせて,しっかり理解しておいてください.
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2018年度 (7月10日 更新終了)
Q.トランス効果の説明をするときに,配位子交換反応が起きますが,このとき中間体は存在しますか.
A.4配位化合物なので,配位子が交換される際には必ず,配位数が1つ増えた反応中間体が存在します.説明に用いた図では省略してあるが,会合機構による配位子交換が起きています.その中間体は,会合機構のとき説明した形の中間体です.この中間体の構造は重要です.
Q.tetraammineplatinum(Ⅱ)のammineをchloro基で一つ置換した後、またchloro基で置換していく反応で、このときトランス効果でchloroのトランス位にあるammineが置換されると説明をうけましたが、labileな配位子であるchloroが再び置換されるということはおきないのでしょうか?トランス効果はammineのinert性より強いということですか?
A.chloroが再びammineで置換されることは,当然あります.しかし,この場合は原料に戻るだけ.トランス効果は,置換反応が起きるという前提で,置換反応が起きるのなら,どの配位子が置換されるかを議論しています.よって,置換されにくいammineが置換されやすいchloroで置換されるのは違和感があるかもしれませんが,置換されないわけではありません.(ただし,反応速度は遅くなるはず).反応を進行させるための工夫として試薬濃度を高くするとかがあります.
Q.t2gとegというグループ分けで,tとかeとかって何ですか.
A.t2gは三次元方向(t)に電子雲が広がり,2回回転軸(2)があって,電子雲の位相が対称(g)であるという三重縮重しているグループ,egは二次元方向(e)に電子雲が広がり,電子雲の位相が対称(g)であるという二重縮重しているグループ.群論というのを学ばなければならないので,とりあえず,そういうグループ名であることを知っておけばよろしいかと思います.大学院に進学する人は知っていてよいかと思います.物理化学かなにかで学習すると思います.
Q.Fe2+はなぜ,d6錯体なのですか.d4錯体ではないのですか.
A. これは,構成原理から考えた結果,d4錯体と考えたのだと思われます..鉄の基底状態の電子配置は,Fe[Ar]3d64s2です.構成原理では,軌道のエネルギー準位が3d<4sであるので,4sから電子が埋まり,ついで3dに電子が埋まる,と考えました.となると,エネルギー順位の高いd軌道に入っている電子からとれていって,d44錯体になる,と考えたのでしょう.しかしながら,構成原理を,イオンの電子配置に持ち込むと誤りです.
(重要)カチオンの電子配置を得るには,まずs電子を,ついで,d電子を必要な数だけ取り除けばよい.すなわち,Fe2+では,また,有効核電荷からも,同様の議論ができます.これを,3d電子と4s電子で計算してみるとよいです.有効核電荷は,原子核のプラスをどれだけ感じるか,ということなので,数値が大きいほど核電荷を大きく感じて,引きつけられる力が大きいと考えられます.実際に,テキストp.20のスレーターの規則を使って計算してみます.(4s電子)遮蔽定数S=(0.35×1)+(0.85×14)+(1.0×10)=22.25,よって有効核電荷は26-22.25=3.75 (3d電子)遮蔽定数S=(0.35×5)+(1.0×18)=19.75,よって有効核電荷は26-19.75 =6.25.この計算より,3d電子より4s電子の方が有効核電荷が小さいので,とれやすいということになります.
Q.スーパーオキサイドアニオンラジカルと一酸化窒素からできる活性窒素種の生成は速い,ということですが,瞬時に反応してしまうということですか.
A.質問の趣旨は,スーパーオキシドアニオンラジカルが生体内で産生され,また,それを不均化反応でSODが消去するメカニズムがあるので,一酸化窒素との反応でどちらが速いのかを知りたい,ということでした.
スーパーオキシドアニオンラジカルと一酸化窒素とが生体内で反応していることは,スーパーオキシドアニオンラジカルを分解する酵素SODを一酸化窒素が産生されている組織に加えると一酸化窒素の寿命が伸びることから明らかにされました.スーパーオキシドアニオンラジカルと一酸化窒素との反応では,ペルオキシナイトライト(ペルオキシ亜硝酸イオン)が生成します.この反応の速度は6.7×109M-1s-1と極めて早く,SODとスーパーオキシドアニオンラジカルとの反応速度2×109M-1s-1よりも速いので,反応速度だけ考慮するならば,生体内で一酸化窒素とスーパーオキシドアニオンラジカルが共存すると,必ずペルオキシナイトライトが産生されるということになります.
現時点では,ラジカル種同士の反応なので,極めて速やかに反応が進行すること,また,生成したペルオキシナイトライトの構造から,一酸化窒素の窒素上の孤立電子が反応することになるため,新たに窒素-酸素間に結合が形成されるということを抑えておいてほしいです.試験では,新たに酸素-酸素間の結合が形成されるように構造を書いてまちがう人が多いです.
具体的な反応速度の数値を知りませんでしたので,以下の書籍から上記データを引用しました.
NO一酸化窒素,吉村哲彦 著,共立出版
Q.章末問題第6章の1番で,Cl-がchloroとなっていますが,chloridoでもいいですか.また,電荷を有する錯体の命名は,講義でやっていないように思いますが,テスト範囲ですか.
A.配位子の英語名に関しては,現在,旧名と新名が混在して使われている状況だと思います.ですので,どちらでも大丈夫です.ちなみに高校の教科書では,すべて新しい命名法で記述されていますので,chloridoですね.なお,電荷を有する錯体の命名に関してはテキストあるいはプリントを見てください.[ ]でくくった錯体部分がプラスチャージの場合は,中性の錯体の命名法と同じで,あとは,通常の無機塩の命名法に従い,陰イオン名を錯体名のあとにつければよいです.難しいのは,錯体部分が負電荷のばあいです.これは特殊です.問題の1(c)と1(d)がそれに該当しますが,金属名が特殊な変名をします.プリントを見てください.中性あるいは陽イオン性錯体の命名以外はテストの範囲外とします.テキストの修正に関しては,著者に連絡しましたが下の通りの回答を頂いています.
Q. ジアゾ化の反応機構で,構造式にすべての電子を記述した形で反応式を書いてほしいです.
A.講義資料に,各原子に存在するローンペアを含めて構造式を書いたものを載せました.ここからでも見れます.
Q. Q&Aに、期末試験の内容が変わると書いてあったのですが、昨年の質問なあるような、出題内容概要のように詳しくは教えてもらえないということですか?
A.希望が多ければ考えますが,現状を見ると,例えば掲示板のお知らせを見る人は3分の一以下でこのような現象は初めてです.
また,講義動画を見る人もあまりいないので,たぶん出題概要などを作っても需要はないのではないかと推測します.講義に対する興味,理解を喚起しようと努力してはいますが,こちらの講義の仕方が良くないのでしょう.力不足で申し訳ありません.
なお,昨年の講義において,試験問題をどこから出すか事前に教えるのはつまらない,との意見が複数ありました.しかしながら,限られた時間で,次に繋がる化学的センスを持ってもらうためには,これも一つの方法かとは思います.
ちなみに,毎年,試験問題の出題文言まで告知して出題する問題を作成していました.当然ほとんどの人が正解を書くかと思いきや,正解を書く人は半数程度ですので不思議です.(6月1日現在)
Q.無断欠席がある場合,期末試験は受けることはできませんか.
A. 原則,2/3以上の出席があれば試験は受けられるわけですから,そのルールに従います.2週以上の連続欠席に関しては,試験は受けられますが,合否の判定は保留します.また,欠席届をださない欠席や,出欠管理で,空欄があるものは,各自の責任においてチェックすることになっているので,期末試験での加点等の考慮はしません.レポート未提出のものは,期末試験を受けることは構いませんが,来年,再履修してください.
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2017年度
期末試験が近くなって,期末試験関連の質問が多いので,参考にして下さい.
Q.期末試験 出題内容概 p.5の大問7番 問2で,図示問題とありますが,何を勉強しておけば良いですか.
A. プリントにも書きましたが,5つあるd軌道の形状を模式的に図示できるようにしておくことです.ただし,形状のみではなく,位相を区別して書けるようにしておく必要があります.ただし,5つすべてを書くわけではありませんので,どの軌道を書けばよいかは,問題をみて判断して下さい.2013年期末試験大問7番問1のような問題です.やってみて下さい.
Q.アルミニウムと薬剤とのキレート形成に関して,できたキレートの物性が違うことが,副作用の違いになるのですか.
A. 一般に,キレートを形成すると,そのキレートが水溶性になる場合と,不溶性になる場合があります.例えば,腸管内で,不溶性のキレートが形成されれば,その薬剤は吸収されず,便として体外に排泄されます.ニューキノロン系の抗生物質がその例です.よって,服用しても,抗生物質が吸収されず,薬効を発揮できません.ただし,アルミニウムは本来吸収されてはいけないものですから,その点においては問題がありません.しかしながら,クエン酸とのキレートは水溶性のキレートが形成されてしまいます.その結果,本来旧主婦されないアルミニウムの血中濃度の上昇が見られる場合があります.キレートを形成する物質の物性に起因するので,詳しくは他の科目で学習することともいます.
Q.期末試験に講義動画で説明していたスピン禁制の話は理解しておく必要が有りますか.
A. 現時点では必要ありません.d5錯体は,低スピンならd-d遷移可能なので,d1-d9錯体でd-d-遷移が起こる,といっても間違いではありません.
Q.期末試験 出題内容概 p.5の大問7番 問4.で,テキストp.154章末問題14番 と書いてありますが,これは,そのまま出るのですか.
A. はい.ただし,記述式ですので,自分では書いたつもりでも,相手に伝わらない可能性があります.講義動画の問題演習15で採点基準を説明しましたので,あとは,自分で理解して書けるようにしておけば良いでしょう.ただっし,錯体の着shホクの理由のすべてをd-d-遷移で説明できるわけではありませんから,解答を作成する際には,「錯体の着色の理由の 多くは d-d-遷移で説明できる」というように,多くは,としておく必要はあるかと思います.
Q.期末試験 出題内容概 p.1に「Liの水素化物の性質は?」とありますが,講義ノートやプリントにないのですが.
A. テキストに書いてあります.リチウムは,1族の中でもサイズが小さくて性質も異なることが多いですが,1族共通の性質もあります.テキストp.109の(b)アルカリ金属の水素化物 のところに,「アルカリ金属の水素化物は,・・・・,おもに還元剤として用いられる」すなわち,ヒドリドを放出する性質があるので,還元剤として用いることができるのです.
Q.期末試験 出題内容概説に書いてあることをやっておけばテスト対策は大丈夫ですか.
A. はい.
Q.インターネットで三臭化ホウ素を調べたところ,“脱メチル化”というキーワードが出てきました.レポートの課題にあった,BBr3とBF3NMe3との反応を考えるときに,トリメチルアミンNMe3の脱メチル化は考慮しなくても良いのですか.
A. たしかにBBr3は,脱メチル化試薬として,よく使用されます.ただし,脱メチル化できる相手は決まっていて,下図のように,エーテル結合の状態のメチル基を切断します.詳しくは,有機化学で取り上げられるので,そこで学習してください.今回の場合,脱メチル化を考慮する必要はありません.このようなことに着目できるのは素晴らしいことですね.
Q.試験勉強の仕方は?
A. 例年,この質問が多いのですが,人それぞれで,としかいいようはありません.
テキストは重要ですか?という質問もよく受けますが,それはもちろん重要でしょう.(たぶん,質問の趣旨は,テスト勉強で教科書は重要か,という意味かとは思いますが.)
テキストは,一通り目を通すのが理想です.もちろん,重要なことが書かれていますから.ただ,今の時点では,とりあえずスルーしてもいいところもあるかとは思います.テキストの文言をよく読むと,どうして?って言う箇所が出てくることもあるでしょう.あるいは説明不足だったり,重要事項ではあるが,テキストでは触れていないこともあります.講義や,補助プリントは,それらを補うものです.
私も,何十年か前の自分の大学時代を思い返せば,無機化学ってなんてつまらないんだろうという記憶しか呼び起こせません.ただ,無機化学という学問が,例えば薬学において単独で存在するのではなく,いろいろな科目の基礎となり,また,化学的思考をトレーニングするのに適した科目であるのは間違いありません.特に,高校での学習内容とのつながりもありますから.高校の延長で講義がつまらない,という声を最近聞きました.そういう方は,ぜひもっと高いところを目指してほしいです.講義資料の一番下に,参考図書を紹介していますし,MITのオンライン講義も紹介していますので,ぜひのぞいてみて下さい.
後は,過去問題,演習問題,あるいは,ビデオの問題を問いて,知識の再確認をして下さい.
Q.化学式を書くのに,どのようなソフトで書いていますか.
A. ChemDrawというソフトです.(Perkin Elmer社).業界の標準ソフトです.個人で購入するとアカデミックアカウントを利用しても,2万5千円程度します.しかし,静岡県立大学は,サイトライセンス契約をしていて,大学のメールアドレスを所有しているものは,一定の登録手続きをすれば,フリーで使用できます.(若干,英語の読解力必要).また,個人のPCにインストールできます.(Windows版,Mac版どちらもあります).インストールマニュアルをpdfファイルにしましたので,興味のある方は,御覧ください.なお,ChemDrawの使用方法に関しては,後期の科学演習で,演習する予定です.それ以外にも,フリーの化学構造式描画ソフトがあります.一長一短ですが,pdfにまとめておきました.
Q.無機医薬品などに興味を持ちました.さらに学習するためになにか良い本は有りますか.
A.特に金属と医薬品との関連で,学習されるとよいかと思います.
とりつきやすいのは,講談社のブルーバックシリーズで出版されている,「金属は人体になぜ必要か」(桜井弘 著)です.
少し古い本ですが,図書館にあります.
ネットでもいろいろな記事がありますが,例えば,以下のアドレスから参照できる記事などを読んでみるのはいかがでしょうか.
http://www.tcichemicals.com/ja/jp/support-download/chemistry-clip/PDF/2013-07/158yomo(J)-02.pdf
「医薬品と元素」という題で佐藤健太郎氏が書いたコラムです.しっかりした内容ですので,参考になるかと思います.
薬剤師を目指しているなら,スタンダード薬学シリーズ3 化学系薬学 I. 化学物質の性質と反応 日本薬学会編 東京化学同人 .
Q.結合とか,混成軌道などが今ひとつ理解できません.
A.これらは,化学の基本ですから,今のうちにしっかり学習しておく必要があります.
基礎化学という講義が開講されていますから,そこでしっかりと学んで下さい.