2024年 期末試験 出題概要(2)4番から5番
(正誤問題)とは,記述されている文章が正か誤かを判断する問題
(記述問題)とは,問いに対し,自分で説明をして答える問題
(その他)空欄補充,化学反応式を書く,対象の化学種を答える,などの問題
4番 第7回,第8回,9回講義 (分子軌道法,窒素,リンに関する問題)
I.一酸化窒素に関する問題(第7回分子軌道法,第8回講義,一部第10回講義内容)
1987年,血管の細胞から筋肉を弛緩させる物質が放出されることが見出され,それが一酸化窒素(NO)であることが突き止められ,その後,病気や健康と密接に関係していることが知られるようになった.一酸化窒素に関連する設問.
問1,問2 (その他)一酸化窒素の分子軌道エネルギー準位図に関す
る問題
一酸化窒素は,異核二原子分子である.異核二原子分子の分子軌
道は一般的に等核二原子分子に比べて複雑であるが,原子番号が近い
原子どうしからなる一酸化窒素のような分子では,等核二原子分子の
場合と同じようにして分子軌道を構成することができる.このとき,
注意しなければいけないのは,同じ軌道でも,原子が異なれば,その
エネルギー準位は異なるということである.(例えば,同じ1s軌道で
も,窒素と酸素では,そのエネルギー準位は異なる).一酸化窒素の場
合,酸素原子の軌道のほうが,窒素原子の軌道よりも,エネルギー準
位が低い.
ちなみにこの理由を説明すれば次のようになる.「酸素原子のすべて
の軌道が,窒素原子の対応する軌道よりも低いエネルギー準位にあるのは,酸素の
方が有効核電荷が大きいためである.スレーター則によりn = 2電子の有効核電荷を計算してみ
れば,Z*N =7-(0.85×2+0.35×4)=3.9, Z*O=8-(0.85×2+0.35×5)=4.55.よって,酸素の方がより強く電子を引き付けることにより,電子はより安定に収容される.この議論は,OとNは同一周期にある元素であることにより成り立つ.すなわち,同一周期内においては,原子番号が増えれば,有効核電荷も大きくなることにより,軌道のエネルギー準位は低くなる.」(今回は理由までは問わない)
また,一酸化窒素の分子軌道エネルギー準位図を考えるとき,s軌道とp軌道の相互作用を考慮する必要はない.以上のことを前提に,一度,一酸化窒素の分子軌道エネルギー準位図をかいてみると良い.そして,一酸化質素の分子軌道エネルギー準位図中,どれが,σ軌道(σとσ*)か,また,どれがπ軌(πとπ*)かを理解しておく.
類似問題:2022年1番問3と2021年4番問6(一酸化炭素の部分は範囲外),2016年4番問1と問3
問3.(正誤問題)一酸化窒素に関連する文章の正誤問題 4問
一酸化窒素に関する正誤問題は,毎年出題しているので,過去問を参照のこと.
一酸化窒素の性質としては.遷移金属と錯体を形成するligandとなる
(第8回プリント10),常温では無色の気体(第8回プリント7),分子軌
道エネルギー準位図に電子を埋めるとわかることとして,不対電子を1
個有し常磁性化合物であるということ(第8回プリント13),第10回講義で扱う内容であ
るが,スーパーオキシドアニオンラジカルと速やかに反応し,活性窒素種であるペルオキシ
ナイトライトを生成するなどの性質を有する(第10回プリント18).
また,生体内で一酸化窒素を与える医薬品として,ニトログリセリン(グリセリンのトリ硝酸エステル)がある.(第8回プリント19)
類似問題:一酸化窒素に関する正誤問題(過去問)
II.窒素酸化物に関する問題(第8回,9回講義)
問4.(その他)硝酸は,酸性条件下で,芳香族のニトロ化剤に用いられる.濃硝酸と濃硫酸の混酸から生成する,強力なニトロ化剤となるイオン種は何?このイオン種に含まれる窒素原子の混成軌道は何?このイオン種をルイス構造式で書くとどうなる?(第9回プリント8,9)
類似問題:第10回プリント29 2番問2,2019年3番問2,
問5.(その他)脂肪族第二級アミンのニトロソ化(テキストp.119式5.18)
窒素酸化物であるN2O3は,第二級アミンをニトロソ化し,発がん性の疑いのあるN-ニトロソ化合物を生成する.反応の詳細な機構は問わないが,第二級アミンの水素原子がニトロソ基と置換された化合物が生成するということと,生成物のN-ニトロソ化合物の構造式が書けるようにしておく(第9回プリント11~15).(第一級アミンと第三級アミンのニトロソ化は試験範囲外)
類似問題:2015年2番問3(2),2018年2番問7など
問6.(その他)リンのオキソ酸の還元性(第9回プリント19,テキストp.52図3.20(iv), p.120(d))
リンのオキソ酸(リン酸,ホスホン酸,ホスフィン酸)のうち,還元性を有するのは,ホスホン酸とホスフィン酸である.これらは,中心原子のPに直結した水素原子が存在する.リン酸は,酸化力,還元力とも示さない.
類似問題:2023年5番問6,2022年6番問1(3)(4)(5)など
5番 第10回講義 (酸素,硫黄に関する問題)
問1.(その他)(記述問題)スーパーオキシドアニオンラジカルのSODによる分解(不均化反応)(テキストp.146 5.3.3 下から7行目からp.147式(5.27)まで,p.181 7.1.4,p.183 7.2.1式(7.2),第8回プリント32,第10回プリント17)
スーパーオキシドアニオンラジカル (superoxide anion radical) は,スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)により不均化され,分解される.SODには,銅と亜鉛を含むCu-Zn SOD,マンガンを含むMn SOD,鉄を含むFe SODが知られている(この3種を試験で問うことはない).
SODの触媒による,スーパーオキシドアニオンラジカルの不均化反応による分解反応の反応式が書け,この反応式を例に,不均化反応とは何かを説明できるようにする.不均化反応については,第8回講義で定義を扱った.「不均化反応とは,反応基質中の特定の元素の酸化と還元が同時に起こる反応である」よって,この定義に従い,スーパーオキシドアニオンラジカルのSODによる分解反応を説明する.2・O2- + 2H+ → O2 + H2O2 反応基質中の特定の元素は,この反応の場合,酸素原子であり,スーパーオキシドアニオンラジカル中の酸素原子の酸化数は-1/2.あとは,酸化数がどう変化しているかを具体的に示す(第8回プリント32)
類似問題:2022年5番問2,2019年4番問2,2017年6番問2
問2.(その他)活性酸素種,Fenton反応,ヒドロキシルラジカル(第10回プリント13~15,テキストp.184 7.2.3)
ヒドロキシルラジカル(・OH)は,活性酸素種の中では最も反応性の高いラジカルである.生体内では,過酸化水素と2価の鉄イオンとの反応により,容易に生成すると考えられている.
この反応をフェントン反応(Fenton’s reaaction)という.Haber-Weiss反応は試験範囲外.
類似問題:2019年4番問3,2023年6番問4,第10回プリント30問4
問3.(その他)光線力学療法PDT(テキストp.184-5 7.2.4,第10回プリント3,4,5,24,25)
光線力学療法(PDT)は,光感受性物質の蓄積したがん細胞に,レーザー光を照射することにより,光増感作用に伴って生成する一重項酸素の細胞毒性によってがん細胞を選択的に変性・壊死させる治療法である.
一重項酸素の分子軌道エネルギー準位図における電子配置を見直す.また,重項の定義を見直す.スピン多重度N = 2S + 1 (Sは全スピン量子数の和) 基底状態の酸素単体は三重項である.
類似問題:第10回プリント32 6番
問4.(その他)チオ硫酸ナトリウム(第10回プリント21~23,テキストp.126 6行目~8行目)
まとめ:チオ硫酸ナトリウムNa2S2O3は,日本薬局方にチオ硫酸ナトリウム水和物(Na2S2O3・5H2O)として収載されている,シアン化物イオン(CN-)の解毒剤である.その解毒機構は,ミトコンドリア中の酵素ロダネーゼ (Rhodanese) の触媒作用により,チオ硫酸ナトリウムがシアン化物イオンを毒性の弱いチオシアン酸イオン(SCN-)に変化させ,尿中に排泄させることにより解毒することによる.チオ硫酸イオンは反応後,SO32-となり,さらに体内で酸化を受けSO42-となり,尿中に排泄される.また,Na2S2O3は,種々の場面で利用される.例えば,ヨウ素の定量.ヨウ素による着色の脱色などに用いられる.Na2S2O3とヨウ素(I2)との反応は,水が関与しないかたちで反応式を書けば,次のような反応式が書ける.I2 +2Na2S2O3→ Na2S4O6 + 2NaI このとき,チオ硫酸ナトリウムは還元剤として働く.
類似問題:第10回プリント31 5番,2023年6番問5,2021年6番問2