2024年 期末試験 出題概要(1)1番から3番
(正誤問題)とは,記述されている文章が正か誤かを判断する問題
(記述問題)とは,問いに対し,自分で説明をして答える問題
(その他)空欄補充,化学反応式を書く,対象の化学種を答える,などの問題
1番 第1回~第3回講義 (4つの量子数,構成原理,パウリの排他原理,混成軌道,遮蔽,貫入,ルイスの酸・塩基)
問1.(正誤問題)2問
4つの量子数に関する基本的なことを再復習.主量子数nが決まれば,方位量子数lが決まる.lはnで規定されて,l = 0,1,・・・n-1. 磁気量子数mlはlで規定されて,-l ,・・・0, ・・・,+l. スピン量子数は,+1/2あるいは-1/2
類似問題:第2回プリント32 問10,2023年1番問1,2022年1番問1,2021年1番問1と同じ
問2.(正誤問題)3問
扱っている内容:
1)構成原理の例外(第2回 プリント12~14)
構成原理の例外となる原子において,半閉殻,閉殻をキーワードとしてその理由を説明できる原子として,24Cr, 29Cuを紹介した.これらの原子の基底状態の電子配置を,内殻の電子配置を希ガスの電子配置で代用して書き表せること.
類似問題:プリント第2回29問2b,2023年1番問2b,2021年1番問22019年1番問4b,など
2)遮蔽と貫入(第2回 プリント18-20,テキストp.19 1.5.1)
主量子数の大きい軌道の電子が、主量子数の小さい内側の軌道よりもさらに内側に入ることを貫入という.貫入の度合いは,s>p>dである.よって,遮蔽効果の受けやすさは,s<p<dであることを理解しておく.
類似問題:ない(と思う)
3)パウリの排他原理とは,「一つの原子の中で,4つの量子数(主量子数,方位量子数,磁気量子数,スピン量子数)のすべて同じ電子は2つ以上存在しない」という原理である.(テキストp.17,6行目からの記述)この意味をもう一度理解しておく.
類似問題:テキストp.23章末問題2,プリント第2回29問2c,2019年1番問4c
問3.(その他)混成軌道の問題
化合物中の特定元素の混成軌道を問う問題.
混成軌道を考えるとき,化学式上よく似ている化合物において,混同しがちである.例えば,二酸化塩素(ClO2)と亜塩素酸イオン(ClO2-)など .化合物がイオンになっている場合の考え方も復習しておくとよい.2021年1番問3の二酸化塩素中の塩素原子の混成軌道に関する問いを参照のこと.
問4.(その他)ルイスの酸・塩基に関する問題(第3回講義)
例えば,「以下の反応式において,左辺の反応物質のうち,ルイス酸として働いている化合物の化学式を答えよ.」といった問題.
電子対の授受による,ルイスの酸・塩基の定義を踏まえたうえで,与えられた反応式を酸塩基反応として理解できるか,を問う.例えば,二酸化硫黄は水に溶けて,一部が亜硫酸となる.この反応を反応式で記述すれば,SO2 + H2O → H2SO3 (あるいはH+ + HSO3-)と記述できるが,この反応を酸・塩基反応と捉えれば,水はルイスの塩基,二酸化硫黄はルイスの酸として働く,と見ることができる.なお,反応機構の詳細を問うことはない.
類似問題:第3回プリント29b,2022年2番問4問題文3行目以降(これは,SOCl2と・・・)
2番 第4回~第5回講義,第11回講義 (アルカリ金属,アルカリ土類金属,制酸剤としてのアルミニウム,マグネシウム,ヨウ素)
問1.(正誤問題)3問 リチウムに関する話題(第4回講義)
扱っている内容:
1)Li2CO3炭酸リチウム(第4回プリント9~12):炭酸リチウムは,主に双極性障害の躁状態の治療に用いられる.Li+が抗躁作用を有するが,治療濃度と毒性濃度が非常に近いため,毒性の発現が懸念される.そのため,定期的な血中Li+濃度の測定が必須である.このような特性のため,リチウム製剤として,易溶性の製剤では,血中濃度の急激が上昇による副作用の懸念があるため,あえて溶解性の低い炭酸塩の形である炭酸リチウムとして製剤化されている.テキストp.110の記述では,炭酸ナトリウムは難溶性である,と記載されおり,これに従い,説明も難溶性の炭酸リチウムとして説明した.(プリント第4回9~12,テキストp.53)ただし.この,難溶性という言葉は,易溶性の対義語として用いていることに注意して欲しい.単純に,溶けにくいか溶けやすいかを区別しているだけである.日本薬局方には,溶質1 g又は1 mLを溶かすのに要する溶媒量によって,溶解性を表す用語が規定されている.炭酸ナトリウムの溶解度は1.3 g / 100 mLであるので,1 gを溶かすのに77 mL程度の水が必要である.これは,日本薬局方の溶解性の定義からすると,「やや溶けにくい」となる.今後,別の教科で学習することになるので,参考として記載した.
類似問題:2019年2番問1a,2015年1番問4c,プリント第6回19演習問題2番など
2)リチウムが他の1族アルカリ金属と異なる性質を示す1例として,窒素との反応が挙げられる.リチウムは,窒素と反応して,窒化リチウムを与える.なお,マグネシウムも窒素と反応して窒化マグネシウムを与える.(第4回プリント18,テキストp.109)
類似問題:2019年2番問1d,2018年2番問1の一部,プリント第6回19演習問題2番など
3)アルカリ金属・アルカリ土類金属を液体アンモニアに溶解させると,溶液中では,溶媒和された自由電子が生成し,これが,還元作用を示す.これを利用したBirch還元を,金属ナトリウムを一例として紹介したが,このような,強力な還元作用を有するアンモニア溶液を調整できるのは,ナトリウムだけではなく,他のアルカリ金属,アルカリ土類金属でも可能である.(第4回プリント22~24)
類似問題:2022年2番問3,2021年2番問2d,2019年2番問1eなど
問2.(その他)アルカリ金属の酸化物の話題(第4回講義)
アルカリ金属の,Li, Na, Kを,それぞれ,十分な酸素が存在する条件で加熱すると,酸化物として,主に,Li2O, Na2O2, KO2が生成する.いずれも塩基性酸化物である.たとえばKO2が水と反応したとき,どのような反応式が書けるか?(第4回プリント3.テキストp.110(c))
類似問題:2023年6番問3,
問3.(その他)マグネシウム塩の定性反応に関する話題(第5回講義)
日本薬局方における酸化マグネシウムMgOに関する記述の中で,「本品(MgO)の希塩酸溶溶液(1→50)はマグネシウム塩の定性反応を呈する」とある.規定されたマグネシウム塩の定性反応の一部は以下の通りである.「マグネシウム塩の溶液に炭酸アンモニウム試液を加えて加熱するとき,白色の沈殿を生じ,塩化アンモニウム試液を追加するとき,沈殿は溶ける.さらに,リン酸水素二ナトリウム試液を追加するとき,白色の結晶性の沈殿を生じる.」
最初の白色沈殿は,塩基性炭酸マグネシウム(この場合3MgCO3・Mg(OH)2)であるが,Na2HPO4によって沈殿する白色結晶は何?(結晶水の数について,今回は不問)この白色結晶は,尿路感染によって形成される尿路結石の主成分である.なお,上記文中の(1→50)は,固体の薬品の場合は1 g,液状の薬品は1 mLを溶媒に溶かして全量を50 mLとすることを意味する.(第5回プリント5, 8)
類似問題:第6回プリント23 問題11問2
問4.(正誤問題)2題 制酸剤としてのマグネシウム,アルミニウムの話題(第5回講義)
扱っている内容:
1)酸化マグネシウムMgO:酸化マグネシウムは,日本薬局方に収載されている医薬品であるが,制酸剤としての効能の他に,瀉下(しゃげ)薬(いわゆる下剤)としての効能も有する.(第5回プリント5, 6, 7, 10, 11,テキストp.112(d))
類似問題:2023年2番問2 8行目(酸化マグネシウムMgOは・・・)
2)アルミニウムを含有する医薬品には,水酸化アルミニウムゲル,スクラルファート,
合成ケイ酸アルミニウムなどがある.合成ケイ酸アルミニウムAl4(Si3O8)3は胃酸の中
和のみならず,生成物が二次的に胃粘膜保護などの効果を発揮する,すなわち,生成す
る塩化アルミニウムは収斂的に働き,二酸化ケイ素は胃壁を保護する.合成ケイ酸アル
ミニウムと胃酸(HCl)との中和反応は次の式で示される.
Al4(Si3O8)3 + 12 HCl → 4 AlCl3 + 9 SiO2 + 6 H2O
(第5回プリント20)
類似問題: 2023年2番問2問題文10行目(金属を含有する制酸剤としては・・),
2021年2番問3b
問5.(正誤問題)3題 ヨウ素に関する話題(第11回講義)
扱っている内容:
1)ヨウ素の酸化力:水中でヨウ素分子の一部は,次亜ヨウ素酸 (HIO)とヨウ化水素酸 (HI)になる.ヨウ素は,酸化作用により殺菌作用を示す.(プリント第11回3)
類似問題:2022年6番問2d,2021年6番問3d,2017年2番問2aなど
2)安定ヨウ素剤:ヨウ化カリウムは,安定ヨウ素剤として,放射線障害予防に用いられる.安定ヨウ素剤とは,放射性でないヨウ素を内服用にヨウ化カリムの形で製剤化したものである.放射性ヨウ素が甲状腺に取り込まれる前に,安定ヨウ素剤を服用すると,甲状腺が非放射性ヨウ素で飽和され,その後取り込まれた放射性ヨウ素は体内に蓄積することなく排出される. (プリント第11回4)
類似問題:2023年7番b,2019年2番問4b,2017年2番問2dなど
問6.(記述問題)電荷移動相互作用に関する話題
ある分子(電子供与体)の軌道電子が,エネルギー準位の近いほかの分子(電子錠幼体)の空の分子軌道と相互作用して安定化する.このような作用を,電荷移動相互作用(電荷移動錯体形成)という.(テキストP.74 3.8.6電荷移動相互作用,プリント第11回5~8)
ヨウ素を例に,電荷移動相互作用(電荷移動錯体形成)を説明できるようにする.(過去問と異なり,記述式である)(プリント第11回5~8,テキストp.74 3.8.6)
参考問題:2023年7番c,2022年6番問2c,2021年6番問3c,2019年2番問4cなど
3番 第6回~第7回講義(ホウ素)
ホウ素に関する話題のまとめ;
ホウ素の水素化物であるBH3の二量体であるジボランB2H6の構造では,6個の水素原子のうち,2個の水素原子は2個のホウ素原子との間で架橋構造をとっている.このB-H-Bの結合は三中心二電子結合である.(3中心2電子結合でもよい)よって,この部分のB-H結合は弱い(結合長は長い).電子不足(欠損)化合物であるジボランは反応性が高く,例えば,水と速やかに反応する.ジボランは,BF3と水素化ホウ素ナトリウムとの反応によって得られる.ホウ素のハロゲン化物であるBF3における,B-F間の結合長の実測値は131 pm(長さを知っている必要はない)である.ホウ素原子の共有結合半径は82 pmであり,フッ素原子の共有結合半径は71 pmであることから考えると,B-F間の結合長の実測値は,B-F間が単純な共有結合であると考えたときの理論値長の86%程度である.
ホウ素原子には,中性子反応断面積が大きい,という特性がある.この特性を利用したがん治療法として,ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が知られている.この療法は,質量数10のホウ素が熱中性子を捕捉すると,α線(He核)と7Li核に崩壊することを利用したものである.
問1.(その他)空欄補充 ジボランの構造に関する話題,BNCTの原理に関する話題(プリント第6回3~5,テキストp.191 7.5.2)
問2.(その他)ジボランの高い反応性を示す化学反応の一例を化学反応式で記述(プリント第6回14,テキストp.113(c))
問3.(その他)ジボランの製法を化学反応式で記述(プリント第6回14,テキストp.53Advanced)
問4.(記述問題)BF3において,B-F結合長が,単純な共有結合で考えたときの理論結合長よりも短い理由を説明する.(プリント第7回3~6,テキストp.114(e)~p.115)