昨年度の教育哲学会ラウンドテーブル「アイロニー・演劇・主体:教育とコミュニケーション・再考」の続篇である。演劇に関心のある研究者、実践者が集ってこの 6 年ほど続けている演劇研究会のメンバーが企画の母体であるが、このたびのコロキウムに先立って、新たなメンバーも加わっている。今回も、前回に続き、「教育」「演劇」「コミュニケーション」という三層それぞれのなかの「没入」「虚構」「拍手」といった概念の意義や役割を検討し、私たちの社会や文化にこれらの現象がどのような影響を与えているのかについて理解を深めることにしたい。
具体的には、観客の没入を誘う演劇の技法、拍手という行為が社会的活動の区分や現実と虚構の境界にいかように関与するか、などを検討課題とする。奥井は、自身がフィールドとしている人形劇における役者や観客を、粕谷は教育社会学研究の立場から、授業会話や授業場面の分析を、そして中谷は、シェイクスピア研究の成果を踏まえつつ、演出家・鈴木忠志の『リア王』論を、それぞれケースとして考察を行う。また常深は、メルロ゠ポンティの現象学を現代行為論と結びつけながら考察を深めたコマリーン・ロムデン゠ロムラックによる議論を手がかりとして、教育学的に有意義に作用している没入的体験について論じる。渡辺健一郎は今回指定討論者に回り、それぞれの報告を相対化しつつ、「没入」の定義、多様な領域において論じられる「没入」についてコメントを行う。