近年、大正新教育研究は、思想史的な意義づけや実践の実態解明に向けて着実に成果を蓄積してきた。しかし、その主な着眼点は、「大正新教育」の主流であった都市の官公立師範学校附属小学校や私立小学校にとどまる傾向にあることは否めない。
「大正新教育」のより広い捉え直しのためには、それぞれの地域性や学校種、ひいては社会教育までをもふまえた「大正新教育」の受容・展開の特性を明らかにすることが必要であると考える。こうした問題関心を共有する報告者3名は、その特性を見定めるため、宗教や芸術という学校教育の周辺に置かれがちなものに焦点をあてることとし、今年度より研究会を開始した。本コロキウムは、今後の共同研究の助走となるものである。
報告では、北村は広島高等師範学校附属小学校で小原國芳の主導により全国的に初めて実施された「学校劇」を取り上げ、とりわけ小原とその周辺の教師との関係性に着目する。菊地は、山本鼎が先導した自由画教育運動や農民美術運動、そして自由大学運動が生まれた長野県上田市に着目し、地域と諸運動との相互的な影響関係を検討する。深田は、岩手県稗貫郡という山間地域の大迫尋常高等小学校でのドルトン・プラン導入の実態について、農業科と仏教的な修養法との関連性に着眼しながら論じる。司会は、教育制度政策史を専門とする柏木が担当する。学校教育の周辺を扱う報告者の視点を同時代の文脈に接続させることで、立体的な議論となることを目指したい。