本コロキウムでは、批判理論と教育学の関係について、オスカー・ネクトの思想と実践から捉え直すことを目的とする。ネクトは学生運動と関わりがありつつも、68年世代より年長の「58年世代」としての自覚をもっており、労働運動をはじめ積極的に社会運動に携わってきた。また、ネクトは、フランクフルト大学で学び、テオドール・W・アドルノに師事し、学位論文を彼のもとで執筆した。さらに、彼は、ユルゲン・ハーバーマスとは異なる視点から、公共圏の思想を立ち上げた人物としても有名である。
フランクフルト学派としてよく知られる思想家とは一線を画しつつも、ネクトは当時の歴史・政治的状況の中で、公共圏と民主主義に関わる理論と実践に取り組んできた。とりわけ、彼がハノーファーにあるオルタナティブスクールの創設に深く関わったことは注目に値する。その学校は、私立学校ではなく公立学校のグロックゼー学校(Glocksee-Schule)である。教育と社会が地続きであることを踏まえ、初期の学校は、未だ社会で実現していないことを子どもたちの生活や学校の中で実現させようとすることの困難さを抱えていたように見える。そこで、本コロキウムでは、彼の思想と教育の実践について考えることを通して、批判的教育科学の更新につながる議論を行いたい。