次回の若手WS開催概要です!!下の方までありますのでご確認ください。
参加受付をスタートしました。以下リンク先のフォームより受付を行ってください。
https://forms.gle/89AfEsU2VttB7YgA8
※10月4日(金)に参加申し込みを締め切ります※
→締め切りました。
2024年11月2日(土)~3日(日)に、沖縄県にて第12回若手の会ワークショップを開催しました。
心配された台風も進路が変わり、晴れて非常に暑い沖縄らしい天気の下で無事ワークショップを終えることができました。今回のワークショップは、地元では校外研修などで使用される(渡嘉敷さん談)という海沿いのネイチャーみらい館を会場として、42名プラス招待演者3名の総勢45名での開催となりました。ドクターコースの学生の参加者が13名と恐らく過去最多で、特別講演での五味先生の若手研究者への激励もあって、議論が活発であったことが今回の特筆すべき点でした。夕食のBBQの雰囲気も相まって、アットホームかつ有意義な時間となったのではないかと思います。
招待演者の先生方、キャリアデザイン企画でご登壇いただいた皆さま、ご協賛いただいた企業の皆さまに重ねて御礼申し上げます。また、ご後援をいただきました日本生物工学会九州支部に厚く御礼申し上げます。
なお、演者の先生方への質問のご回答は、プログラムの下部に掲載しましたので是非ご覧ください。また、ワークショップの詳細な内容については若手の会のブログ(https://fmbsjyoung.theblog.me/)に掲載しましたので、もしよろしければ併せてお読みください。
(世話人一同)
Q. モナスカス属菌について、生合成遺伝子クラスターはどのくらいの数を有しているのでしょうか。
A. Monascus属の種によっても異なりますが、ゲノム解析の結果、22~46個の二次代謝物生合成遺伝子クラスターを持っていることが報告されています。この数はAspergillus属の遺伝子クラスターの数の約7割(34~56個)に相当します。紅麹菌のゲノムサイズや遺伝子数もAspergillus属の7割程度であることから妥当だと考えられます。その一方で、黒麹と紅麹の抽出物について、それぞれTLCパターンや抗酸化活性を比べた場合、紅麹の方がより多くの代謝産物を産生しているように観察されることから、二次代謝物の生合成遺伝子クラスターについてさらに慎重に検討する必要があるように思われます。
Q. 紅麹菌は抗酸化作用を持つ物質を産生できるとのことでしたが、黄麹菌などが産生するエルゴチオネインなどの抗酸化物質とは機能や生産できる量など違った特徴を持つのでしょうか。
A. エルゴチオネイン(EGT)は、糸状菌、酵母、担子菌類で広く見つかっている抗酸化成分なので紅麹菌でも産生していると思われますが、これまでのところ報告はないようです。紅麹菌の抗酸化物質としてジメルミン酸(Dimerumic acid)が報告されています。この化合物はシデロフォア様の性質を有し、非常に高い抗酸化力を示しますが、産生量は極めて微量です。一方、紅麹菌がつくる色素やGABA、ペプチドなどにも抗酸化力が報告されていることから、食品中の期待される抗酸化力は紅麹色素に由来しているのではないかと考えています。事実、液体培養したときに著量の色素を含む培養液に抗酸化活性が観測されますが、活性炭で色素を吸着すると残液(透明)の抗酸化活性は顕著に減少します。
Q. 紅麹菌が発酵の過程で作り得る代謝産物は、すべて同定されているのでしょうか。
A. これまでに紅麹菌の二次代謝物として、カビ毒、多数の色素およびモナコリン類が報告されています。特に色素に関しては、近年再注目されており、新規蛍光色素なども多数見つかっています。したがって、同定されていない代謝産物もまだ存在していると考えています。また、色素をつくらない紅麹菌株についても、ゲノムサイズがほぼ同じであることが確認できています。色素産生株とは異なる生物活性をもつことが知見として得られており、色素をつくらない株についても未知の代謝産物がつくられていると考えます。
Q. 微生物をスクリーニングして機能性や生理活性を見出す、という研究はどのようなきっかけでスタートするのか(何をターゲットとしようとするのか)が気になっています。ある程度の予想があって狙っていくのでしょうか?
A. 琉球大学では、元々は1970年代に伝統発酵食品である「豆腐よう」の製造方法を科学的に解明し、地場産業に技術移転して産業振興を図るために紅麹の研究が始まりました。2000年以降、紅麹菌が機能性の二次代謝産物をモナコリン以外にもつくることや、着色料として利用されていた紅麹色素にも様々な生物活性が報告されはじめました。しかし、豆腐ようにしても紅腐乳にしても、紅麹が独特のクセを持つため、毎日継続的にそれなりの量を食べ続けるのは困難なことが想定されました。そこで、食品加工に利用しやすい水溶性またはエタノール溶性の画分を生物活性のスクリーニング検体として用いました。
今回紹介した機能性(生物活性)は、過去にモナコリンKやGABA、色素などでも報告されています。ターゲットとなる生物活性は、培養細胞を使ってスクリーニングするため、細胞の分化誘導期間の短い評価系を使います。以前、骨芽細胞の評価系を使用した際は、細胞の分化誘導の評価訓練だけで数か月を要し、研究をスタートさせるための信頼できるデータを得るのに数年かかってしまいコスト的にも厳しい経験をしました。
生物活性は、沖縄県やアジアの疾病予防を主眼におきました。紅麹は本土で食歴が短く、受け入れてもらうためのハードルが高いのに対し、沖縄や東南アジアでは食歴が長いため食材として受け入れられやすいメリットがあります。色素をつくらない紅麹にも注目すべき生物活性があると仮定してスクリーニングを行いました。骨芽細胞の骨形成能に関しては、紅麹色素をつくらない株で最も高い生物活性が観察されました。
Q. (クエン酸生産が)ミトコンドリアの活性を判断する基準になる可能性があるかどうかが気になっていました。
A. ミトコンドリアの活性の基準になるかどうかはわかりませんが、クエン酸生産条件では非生産条件と比較してミトコンドリアが細胞内でより張り巡らされた状態になることが観察されているので、ミトコンドリアが発達しているのは間違いないのではと考えています。しかし、ATP生成量などは測定していないので、この状態でミトコンドリア活性が高いかどうかはわかりません。また、cexA破壊株では野生型株よりもコロニーが小さくなるので、クエン酸を高生産することで代謝速度が上昇し、それが生育にも影響している可能性は考えられます。
Q. LaeAの下流に輸送体があるとのことでしたが、他にもLaeAによって調節される輸送体は知られているのでしょうか。
A. Aspergillus terreusのイタコン酸輸送体MfsAなどはLaeAの制御下にあることが知られています。LaeAの制御下にある二次代謝生合成遺伝子クラスター内にある輸送体は制御下あると考えて良いかと思います。laeA破壊によって発現変動する遺伝子群のGO解析をするとTransportは上位に出てきます。また、他の生物種においてもlaeAの破壊によってリンゴ酸などの有機酸生産量が激減することが報告されているため、おそらくそれらの有機酸輸送体の発現にも関与していると考えられます。
Q. イネいもち病菌と麹菌を扱っています。カビは大体酸性条件で培養しているので、至適pHが酸性側に寄っていると思うのですが、白麹菌はクエン酸を細胞外に大量に放出することで強酸性環境下での生育遅延などはあるのでしょうか?
A. しっかり実験したことがないので、はっきりとした回答ができず恐縮ですが、白麹菌はpHが2~3くらいの酸性環境であってもあまり生育が遅延しないので、他のカビと比較すると酸性環境に強い印象ではあります。また、液体培養でのクエン酸高生産条件では培地の初発pHは3~4程度にしていますが、この条件でもクエン酸を生産しながら生育するので、クエン酸を生産して強酸環境になることで生育遅延することはほとんどないのではないかと考えています。
Q. LaeAによるcexAの制御はクエン酸高生産条件で起こるのでしょうか?LaeAはいろいろな遺伝子を制御していると思うので、何か培養条件等でターゲットを変えたりしているのか気になりました。
A. LaeAによるcexAの発現制御は液体培養でのクエン酸高生産条件(高濃度グルコース、金属イオンの欠乏、低pH)で起こります。最近、グルコース濃度を高くするほど、またマンガンイオンをより欠乏させるほど、cexAが高発現することをAspergillus nigerを扱っている海外の研究グループが報告しているのですが、意外にもlaeAの発現量はcexAとは逆にむしろ下がっていくようです(Zheng et al. Front Bioeng Biotechnol. 2023; Fekete et al. Microbiol Spectr. 2024)。LaeAは固体培養条件ではクエン酸生産にほとんど関与しないことを含めて、クエン酸高生産の条件とLaeAによるクエン酸生産制御の関係性についてはまだまだ解明すべきことが残っていると考えています。
Q. 麹菌形質転換操作のどの過程でプロトプラストが融合し、DNA(ベクター)が取り込まれるかについて詳しくお聞きしたいです(ご発表の後半に「Sol. 1を添加して希釈されたとき」とおっしゃっていたかと思いますが、それが具体的にどの工程にあたるのかを教えてください)。
A. 説明が雑駁ですみませんでしたが、プロトプラストを使用した形質転換方法は細胞融合付随形質転換とも言われていて、細胞膜周辺に存在している外来DNAがプロトプラストの融合に伴って細胞内に取り込まれて起こります。
形質転換操作では、最初にプロトプラストにDNAを加えてその後にPEG+CaCl2溶液(一般にSol. IIと呼んでいる)を加えますが、この操作ではプロトプラストは凝集する(ベクターなどのDNAも細胞膜に吸着されやすくなるのかもしれません)だけで、プロトプラストは融合しません(=細胞融合は起こらない)。プロトプラスト同士を凝集させた後でSol I(一般的には0.8 M NaCl+CaCl2)をSol IIの10倍量ほど加えてPEG濃度を希釈する操作の過程で細胞膜が融合してプロトプラスト融合(細胞融合)が起こることになります。上に述べたように、この細胞融合の過程で外来DNAも細胞内に取り込まれることで形質転換が可能になります。
Q. 麹菌以外の生物を研究対象にしようと思ったことはありますか。
A. 講演でもお話ししたように、醸造試験所に採用になった時には麹菌ではなく酵母の研究をしたいと思ったことはありましたが、醸造試験所で麹菌の研究を始めてからは別の微生物を研究対象にしようと思ったことはほとんどありません。ただ、東北大学に着任してから学生を指導することになったため、麹菌を対象にした研究だけでは研究の幅が狭いと感じて、紅麹菌(モナスカス)の形質転換系の開発、糸状菌を対象にしたメタゲノム解析、酵母による乳酸生産、などの研究に着手しました。しかし、紅麹菌については配属学生が足りなくて形質転換系を確立したところで終了、真核微生物のメタゲノム解析は技術的困難さのため断念、酵母の研究に関してはその後研究室に着任した新谷准教授(現 教授)が引き継いで、膜輸送体の分解制御機構の研究に発展させてくれています。