α-1,3-グルカンとガラクトサミノガラクタンが麹菌の液体培養時の菌糸塊形成に寄与する
Both Galactosaminogalactan and α-1,3-Glucan Contribute to Aggregation of Aspergillus oryzae Hyphae in Liquid Culture.
Miyazawa K, Yoshimi A, Sano M, Tabata F, Sugahara A, Kasahara S, Koizumi A, Yano S, Nakajima T, Abe K.
Front Microbiol. 2019 Sep 13;10:2090. doi: 10.3389/fmicb.2019.02090. PMID:31572319
【PubMed】
【要約】我々は以前、細胞壁多糖α-1,3-グルカン(AG)が菌糸の凝集因子として機能することを示している(Yoshimi et al. (2013) PLoS ONE 8(1):e54893)。麹菌Aspergillus oryzaeでは、モデル糸状菌Aspergillus nidulansとは異なり、AGの欠損により菌糸完全分散には至らなかった(Miyazawa et al. (2016) Biosci. Biotechnol. Biochem. 80(9):1853—1863)。本研究でAGに加えて細胞外分泌多糖ガラクトサミノガラクタン(GAG)を欠損した場合、菌糸が全く塊を形成しないことを発見した(本菌初の菌糸完全分散株の作出)。また、GAGの精製方法を確立し、分散状態の菌糸とGAGの混合により菌糸塊形成が再現されたことから、GAGが直接的に塊形成に寄与することを示した。更に、GAGを介した塊形成はGAGのガラクトサミン残基のアミノ基を介した水素結合に起因することを示した。AGとGAGの二重欠損株は野生株やAG単独欠損株に比べて組み換え酵素の生産量が顕著に増加しており、糸状菌の発酵産業への応用展開が期待される。
(文責・宮澤)
黒麹菌 Aspergillus luchuensis のプロトプラスト形成における a-1,3-glucan 合成酵素遺伝子 agsE の影響
Influence of α-1,3-glucan synthase gene agsE on protoplast formation for transformation of Aspergillus luchuensis.
Tokashiki J, Hayashi R, Yano S, Watanabe T, Yamada O, Toyama H, Mizutani O.
J Biosci Bioeng. (2019) 128:129-134. doi: 10.1016/j.jbiosc.2019.01.018. PMID:30824179
【PubMed】
【要約】糸状菌の形質転換は、一般的にプロトプラスト・PEG 法にて行われている。ゲノム解析株である黒麹菌 Aspergillus luchuensis NBRC4314は、市販細胞壁溶解酵素 Yatalase を用いたプロトプラスト化が非常に困難なため、その形質転換はアグロバクテリウム法によって行われている。プロプロトプラスト・PEG 法は、マルチコピーでの DNA 導入や遺伝子組換え酵素タンパク質の直接導入等に適しているため、我々は、黒麹菌 NBRC4314 株のプロトプラスト化の開発を行った。その結果、黒麹菌のプロトプラスト化は、合成培地かつ静置培養による菌体に対し、Yatalase に加えて、a-1,3-glucanase を用いることで調整出来ることを見出した。更に、a-1,3-glucan 合成遺伝子の一つである agsE を破壊した株を宿主に用いると Yatalase のみでプロトプラスト化が可能となり、そのプロトプラストを用いた形質転換も可能であることが示された。
(作文:水谷)
超解像とパルスチェイスイメージングにより真菌細胞の極性成長における小胞輸送の役割を解明
Superresolution and pulse-chase imaging reveal the role of vesicle transport in polar growth of fungal cells.
Zhou L, Evangelinos M, Wernet V, Eckert AF, Ishitsuka Y, Fischer R, Nienhaus GU, Takeshita N.
Sci Adv. (2018) 4:e1701798. doi: 10.1126/sciadv.1701798. PMID:29387789
【PubMed】
【要約】糸状菌は、菌糸と呼ばれる管状の細胞を伸ばして生長します。菌糸は細胞壁に囲まれた細胞からなり、菌糸が先端を伸ばす際、先端の細胞壁を新たに合成する必要があります。本研究では、細胞壁を合成する酵素に着目し、菌糸が伸びるダイナミックな様子を超解像レベル(従来の約10倍の解像度; 30ナノメートル)で可視化しました。幅が約2マイクロメートルの菌糸の先端では、約100ナノメートルの限られた部位に細胞壁合成酵素が一時的に集中して局在し、その領域付近で部分的に細胞が伸長しました。そのような酵素が集中し細胞が伸長する微小部位の位置が少しずつ変化することで、細胞が徐々に伸びていることを発見しました。また、パルスチェイスイメージングにより、背景のシグナルを低下させ時間分解能を向上させたことで、細胞壁合成酵素が菌糸細胞内で高速で輸送される様子(10マイクロメートル/秒)を観察することに成功しました。その酵素が微小管上をキネシン-1により長距離にわたって輸送され、菌糸先端付近ではアクチンフィラメントに依存したミオシン-5により目的地に到達することを明らかにしました。
(作文:竹下典男)
Aspergillus nidulansの液体培養においてα-1,3-グルカンの分子量と局在が菌糸凝集性を制御する
Molecular Mass and Localization of α-1,3-Glucan in Cell Wall Control the Degree of Hyphal Aggregation in Liquid Culture of Aspergillus nidulans.
Miyazawa K, Yoshimi A, Kasahara S, Sugahara A, Koizumi A, Yano S, Kimura S, Iwata T, Sano M, Abe K.
Front Microbiol. (2018) Nov 6;9:2623. doi: 10.3389/fmicb.2018.02623. PMID:30459735
【PubMed】
【要約】α-1,3-グルカン(AG)は糸状菌の主要な細胞壁多糖の一つである。Aspergillus nidulansの二種のAG合成酵素遺伝子(agsA, agsB)のうち、通常の生育条件では主にagsBが機能する(Yoshimi et al. (2013) PLoS ONE 8(1):e54893)。本研究では、機能未知のagsAおよび agsBの構成的高発現(agsAOE, agsBOE)株をそれぞれ作製し、野生株やagsBOE株が緊密な菌糸塊を、agsAOE株では密度の低い菌糸塊を形成することを発見した。この違いを明らかにするべく、種々の多糖の化学構造解析を行い、agsAOE株由来AGの分子量がagsBOE株に比べて約4倍大きいことを見出した。更に、細胞壁多糖の局在を解析したところ、野生株やagsBOE株ではAGが細胞壁外層に位置していたのに対し、agsAOE株のAGは細胞壁内層に局在していた。このことから、菌糸の凝集性は従来知られていたAGの量に加えて、AGの分子量と細胞壁中の局在によっても制御されうることが示唆された。
(作文:宮澤)
Aspergillus fumigatus の真菌型ガラクトマンナンのマンナン主鎖生合成に寄与する2つのマンノース転移酵素の同定
Identification of two mannosyltransferases contributing to biosynthesis of the fungal-type galactomannan α-core-mannan structure in Aspergillus fumigatus.
Onoue T, Tanaka Y, Hagiwara D, Ekino K, Watanabe A, Ohta K, Kamei K, Shibata N, Goto M, Oka T.
Sci Rep. (2018) 8:16918. doi: 10.1038/s41598-018-35059-2. PMID:30446686
【PubMed】
【要約】真菌型ガラクトマンナン(FTGM)は,α-(1→2)-/α-(1→6)-マンノシルおよびβ-(1→5)-/β-(1→6)-ガラクトフラノシル残基で構成される糖鎖です。肺アスペルギルス症を引き起こす Aspergillus fumigatus の細胞表層に局在しています。細胞壁の表層にある糖鎖は宿主細胞との相互作用に関係しているので,その生合成酵素(遺伝子)を知ることは糸状菌の病原性発揮機構や感染機構を理解するための手がかりとなります。しかし,FTGM構造中のマンナン主鎖の生合成を担う糖転移酵素(遺伝子)は長らく不明でした。この論文では,生化学的な手法と逆遺伝学的な手法を組み合わせることでCmsAとCmsBと名付けた酵素がマンナン主鎖の生合成を担っていることを明らかにしました。∆cmsA株,∆cmsB株では菌糸の伸長能や分生子形成能が著しく低下しました。このことは,CmsAやCmsBの阻害剤が新規な抗真菌薬となることを示唆しています。
(作文:岡拓二)
GfsAは Aspergillus fumigatus の真菌型ガラクトマンナンのガラクトフラン側鎖生合成に関わるβ-(1→5)-ガラクトフラノース転移酵素である
GfsA is a β1,5-galactofuranosyltransferase involved in the biosynthesis of the galactofuran side chain of fungal-type galactomannan in Aspergillus fumigatus.
Katafuchi Y, Li Q, Tanaka Y, Shinozuka S, Kawamitsu Y, Izumi M, Ekino K, Mizuki K, Takegawa K, Shibata N, Goto M, Nomura Y, Ohta K, Oka T.
Glycobiology. (2017) 27:568-581. doi: 10.1093/glycob/cwx028. PMID:28369326
【PubMed】
【要約】真菌型ガラクトマンナン(FTGM)は,α-(1→2)-/α-(1→6)-マンノシルおよびβ-(1→5)-/β-(1→6)-ガラクトフラノシル残基で構成される糖鎖で,肺アスペルギルス症を引き起こす Aspergillus fumigatus の細胞表層に局在しています。私たちは,以前の研究でGfsAと名付けた酵素がO-グリカンのガラクトフラノース糖鎖生合成に関わることや遺伝子破壊株の菌糸成長が抑制されることを見つけて報告していました(Komachi Y et al., Mol. Microbiol.)。この論文ではGfsAの機能について詳細な解析を進めGfsAがβ-(1→5)-ガラクトフラノース転移酵素であることやFTGMのガラクトフラン側鎖の生合成に関わっていることを明らかにしたことを報告しています。
(作文:岡拓二)
Ca2+のパルスがアクチン重合とエキソサイトーシスを同調させることで、段階的に細胞が伸長する
Pulses of Ca2+ coordinate actin assembly and exocytosis for stepwise cell extension.
Takeshita N, Evangelinos M, Zhou L, Serizawa T, Somera-Fajardo RA, Lu L, Takaya N, Nienhaus GU, Fischer R.
Proc Natl Acad Sci U S A. (2017) 114:5701-5706. doi: 10.1073/pnas.1700204114. PMID:28507141
【PubMed】
【要約】糸状菌は、菌糸と呼ばれる管状の細胞を伸ばして生長します。本研究では、糸状菌の有用性と病原性を特徴付ける菌糸の伸びる仕組みを、超解像顕微鏡を含む蛍光イメージング技術により明らかにしました。具体的には、菌糸細胞が先端を伸ばす際、菌糸先端でのアクチンの重合化、酵素の分泌、細胞の伸長が周期的に起きること、そして細胞外からのカルシウムイオンの一時的な取り込みも周期的に起き、上記のステップを同調させ制御していることを明らかにしました。細胞内のカルシウムイオンは蛍光バイオマーカーであるR-GECOにより可視化し、カルシウムチャンネル依存的な細胞内Ca2+の濃度の周期的なパルスを発見しました。一見、菌糸細胞が一定のスピードでスムーズに伸びているようですが、そうではなく、いくつかの段階的なステップを周期的に繰り返すことで、細胞を徐々に伸ばし続けていることが明らかとなりました。
(作文:竹下典男)
黄麹菌Aspergillus oryzaeにおける特殊分泌されるアシルCoA結合タンパク質の解析
Analysis of an acyl-CoA binding protein in Aspergillus oryzae that undergoes unconventional secretion.
Kwon HS, Kawaguchi K, Kikuma T, Takegawa K, Kitamoto K, Higuchi Y.
Biochem Biophys Res Commun. (2017) 493:481-486. doi: 10.1016/j.bbrc.2017.08.166. PMID:28870810
【PubMed】
【要約】分泌されるタンパク質は一般的にN末端にシグナルペプチドを有し、小胞体とゴルジ体を経て細胞膜へと小胞輸送されます。しかし、シグナルペプチドを持たないにも関わらず、小胞体とゴルジ体を経ずに、細胞外へと分泌されるタンパク質があり、タンパク質特殊分泌経路の存在が明らかになっています。出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeのアシルCoA結合タンパク質Acb1pはシグナルペプチドを持たず、栄養源枯渇条件で細胞質から細胞外へ分泌されます。しかし、なぜ特殊分泌されるのかはわかっていません。今回、黄麹菌A. oryzaeにおけるAcb1pオルソログとしてAoAcb1とAoAcb2を見出し、炭素源枯渇条件でAoAcb1は分泌されないものの、AoAcb2は分泌されることを明らかにしました。AoAcb2は窒素源枯渇条件では特殊分泌されないことと併せて、AoAcb2が特殊分泌される分子生理機構の解明が待たれます。それにより、有用タンパク質分泌生産の新たな戦略の可能性が考えられます。
(作文:樋口裕次郎)
黄麹菌Aspergillus oryzaeにおいて初期エンドソーム動態はα-アミラーゼ生産および細胞分化に関与する
Early endosome motility mediates α-amylase production and cell differentiation in Aspergillus oryzae.
Togo Y, Higuchi Y, Katakura Y, Takegawa K.
Sci Rep. (2017) 7:15757. doi: 10.1038/s41598-017-16163-1. PMID:29150640
【PubMed】
【要約】初期エンドソームはエンドサイトーシス経路におけるオルガネラであり、糸状菌細胞内を微小管に沿ったモータータンパク質の作用により、2~3 mm/secでダイナミックに動いています。なぜ初期エンドソームが細胞内をダイナミックに動く必要性があるのかという生理的意義に関して、これまで植物病原菌であるUstilago maydisを中心に解析がされてきました。今回、黄麹菌A. oryzaeにおいて初期エンドソームとモータータンパク質のリンカーとして機能するAoHok1を欠損し、初期エンドソーム動態が停止した株を作製しました。その結果、初期エンドソーム動態がa-アミラーゼの発現および分泌生産、無性胞子である分生子や気中菌糸形成に関与することを明らかにしました。今後、黄麹菌において初期エンドソーム動態が関与する未知の分子生理機構が一層解明されていくことにより、新たな観点からの応用展開が可能かもしれません。
(作文:樋口裕次郎)
Sirtuin Eは糸状菌の対数期から定常期への転写の移行をグローバルに制御する
Sirtuin E is a fungal global transcriptional regulator that determines the transition from the primary growth to the stationary phase.
Itoh E, Odakura R, Oinuma KI, Shimizu M, Masuo S, Takaya N.
J Biol Chem. (2017) 292:11043-11054. doi: 10.1074/jbc.M116.753772. PMID:28465348
【PubMed】
【要約】カビは環境中の栄養源の減少に伴い増殖を抑制し、対数増殖期から定常期へと移行するが、それに伴う代謝調節のメカニズムはあまり分かっていない。NAD+依存性のヒストン脱アセチル化酵素であるサーチュインは真核生物のエピジェネティクス制御にとって重要な因子である。本研究では、Aspergillus nidulansが有するサーチュイン様タンパク質の一つ、SirEの機能を明らかとした。野生株とSirE遺伝子破壊株のトランスクリプトームの比較、クロマチン免疫沈降、種々の生化学的解析から、SirEは定常期に引き起こされる炭素飢餓に応答してヒストンを脱アセチル化することによって、一次代謝、二次代謝、胞子形成など、広域な代謝関連遺伝子の発現を調節する新たなサーチュインであることが示された。
(作文:桝尾俊介)
産業用糸状菌 Aspergillus oryzae の α-1,3-グルカン合成酵素遺伝子破壊株を用いた液体培養におけるタンパク質分泌生産の向上
Increased enzyme production under liquid culture conditions in the industrial fungus Aspergillus oryzae by disruption of the genes encoding cell wall α-1,3-glucan synthase.
Miyazawa K, Yoshimi A, Zhang S, Sano M, Nakayama M, Gomi K, Abe K.
Biosci Biotech Biochem. (2016) 80:1853-1863. DOI: 10.1080/09168451.2016.1209968
【PubMed】
【要約】 糸状菌の液体培養における菌糸凝集性は、高密度培養を困難にし、発酵生成物の生産を限定する要因と考えられてきた。我々は以前、モデル糸状菌 Aspergillus nidulans の細胞壁α-1,3-グルカン(AG)欠損株は、液体培養において菌糸が培地中に均一分散することを見出した(Yoshimi et al. 2013, PLOS ONE)。そこで本研究では、産業用糸状菌(麹菌)Aspergillus oryzae の AG 欠損株を造成し、その培養特性と発酵生産への適正を評価することを目的とした。まず、麹菌において3種の AG 合成酵素(AGS)遺伝子破壊株を作製し培養性状を解析した。その結果、麹菌 AGS 遺伝子3重破壊株は、菌糸の完全分散性を示さず、野生株よりも小さな菌糸の塊を形成しながら生育した。また、3重破壊株は細胞壁からAGが欠損していることも確認された。次に、麹菌の野生株および AG 欠損株を親株とし、ポリエステル分解酵素であるクチナーゼ遺伝子 cutL1 を高発現する株を作製し、液体培養におけるタンパク質生産性を解析した。その結果、AG欠損株に cutL1 を高発現させた株は、野生株 cutL1 高発現株と比較して菌体生育量、CutL1 生産量とも向上していることが明らかになった。これらの結果から、AG 欠損株の酵素生産量の増大は、小さな菌糸の塊の形成により嫌気状態の細胞数が減少し、タンパク質生産に必要となる呼吸によるエネルギー生産効率が上昇したことに起因していると考えられた。
(作文:宮澤)
Aspergillus 属菌の休眠胞子および発芽時に関連する転写物の網羅的比較:胞子休眠におけるAtfAの重要な役割
Comparative transcriptome analysis revealing dormant conidia and germination associated genes in Aspergillus species: an essential role for AtfA in conidial dormancy.
Hagiwara D, Takahashi H, Kusuya Y, Kawamoto S, Kamei K, Gonoi T.
BMC Genomics (2016) 17:358. doi: 10.1186/s12864-016-2689-z
【PubMed】
【要約】糸状菌の胞子(分生子)は、環境中において休眠状態を維持するが、形成された後に休眠状態への移行、休眠維持、休眠打破(発芽)に至る分子メカニズムには不明な点が多く残されている。本研究では、3種のアスペルギルス属菌(A. fumigatus, A. niger, A. oryzae)を対象に、休眠胞子および発芽最初期(1h)の胞子に含まれるmRNAの網羅的比較解析を行い、新たな知見の発見を目指した。まず、RNA-seq解析により、胞子に特徴的な遺伝子、および発芽胞子に特徴的な遺伝子を各菌において同定した。そのうちの91または391個は、3菌種間で相同に保存された共通の胞子関連遺伝子または発芽関連遺伝子であった。この共通胞子関連遺伝子のうち63%は、bZIP型転写因子AtfAに依存的な発現制御を受けていた。atfA遺伝子破壊株の休眠胞子が野生株よりも高い代謝活性を示していたことと併せて、胞子のストレス耐性と休眠維持におけるAtfAの重要性が示唆された。
(作文:萩原)
超解像顕微鏡による細胞極性の維持機構の解析
【要約】細胞の極性は、様々な細胞の機能に必須です。極性に従った生長により、機能に適した細胞形態が形成されます。具体的には、極性マーカーが、極性部位を決定し、そこに向かって膜小胞が運ばれることにより、部位特異的な生長がもたらされます。この研究で明らかとなった主な点は、糸状菌Aspergillus nidulans をモデルに、超解像顕微鏡PALMを含む蛍光顕微鏡によるイメージングを用いて、極性マーカーの挙動を可視化し、エキソサイトーシスや微小管・アクチン細胞骨格との関わりを明らかにしたことです。極性マーカーは、微小管と形質膜の相互作用により一時的に集合し、引き続き起こる局所的なエキソサイトーシスにより、形質膜上で拡散してしまうことが示されました。このような一時的な極性の確立を繰り返し、時空間的に制御された過程が繰り返されることで、極性生長が効率的に起こることが明らかになりました。また、シミュレーション解析により、このモデルの妥当性が支持されました。
(作文:竹下)
黄麹菌のハイドロフォビンRolAの正電荷アミノ酸残基とクチナーゼCutL1の負電荷アミノ酸残基間に働くイオン的相互作用の解析
Ionic interaction of positive amino acid residues of fungal hydrophobin RolA with acidic amino acid residues of cutinase CutL1.
Takahashi T, Tanaka T, Tsushima Y, Muragaki K, Uehara K, Takeuchi S, Maeda H, Yamagata Y, Nakayama M, Yoshimi A, Abe K.
Mol Microbiol. (2015) 96:14-27. DOI: 10.1111/mmi.12915
【PubMed】
【要約】 ハイドロフォビンは糸状菌(カビ、キノコ類)の細胞壁表面に局在する両親媒性タンパク質で、糸状菌の形態形成や病原性に関与することが知られている。醸造などに広く利用されている黄麹菌 Aspergillus oryzae は、生分解性のプラスチック polybutylene succinate co adipate (PBSA) を炭素源として培養すると、ハイドロフォビン RolA と、PBSA 分解作用を持つ酵素クチナーゼ CutL1 を培地中に分泌する。RolA は PBSA の表面に結合し、その後 CutL1 と相互作用して PBSA 表面へ濃縮することで、CutL1 による PBSA 分解を促進する。この新奇に発見された相互作用は、固体‐液体界面において糸状菌が固体高分子を分解するメカニズムを解明するためのモデルケースとして期待される。本報告において我々は、RolA-CutL1 間の相互作用に必要なアミノ酸残基を特定した。RolA 変異体と CutL1 変異体を用いて水晶発振子マイクロバランス法 (QCM) による分子間相互作用解析を行ったところ、CutL1 分子表面の 3 つの負電荷アミノ酸残基 (Glu31, Asp142, Asp171) と、RolA のアミノ酸配列 N 末端側の 2 つの正電荷アミノ酸残基 (His32, Lys34) が協奏的にイオン的相互作用することが判明した。
(作文:田中)