環境応答機構

青色光と栄養条件がウシグソヒトヨタケの子実体原基(knot)形成に関わる遺伝子発現を調節する

Blue light exposure and nutrient conditions influence the expression of genes involved in simultaneous hyphal knot formation in Coprinopsis cinerea.

Sakamoto Y, Sato S, Ito M, Ando Y, Nakahori K, Muraguchi H.

Microbiol. Res. (2018) 217:81-90. doi: 10.1016/j.micres.2018.09.003. PMID: 30384911

PubMed

【要約】子実体発生に必須な因子を明らかにするために、ウシグソヒトヨタケを用いて解析を行った。はじめに培養方法を検討し、グルコース濃度を0.2%にすることで、最短15分の青色LEDの照射で同調的かつ、同心円上に子実体原基(knot)形成を誘導する手法を確立した。グルコース濃度を1%にすると子実体発生が完全に抑制された。青色光照射後1時間で脂質修飾酵素(cfs1,cfs2)、fasciclin (fas1)等の発現が誘導された。それらの遺伝子は赤色光照射では発現しなかった。それらの遺伝子は、1%グルコース濃度の培地でも光照射で発現することから、グルコース濃度に依存しないことが示唆された。青色光照射16時間後に、knotができるグルコース0.2%条件特異的にガレクチン(cgl1-3)、ラッカーゼ(lcc1)、ich1等の遺伝子が発現した。knotを形成するための遺伝子の発現はグルコース濃度に影響を受けることが示唆された。

(作文:坂本)

糸状菌Aspergillus fumigatusの環境応答を支える遺伝子群の探索

Global gene expression reveals stress-responsive genes in Aspergillus fumigatus mycelia.

Takahashi H, Kusuya Y, Hagiwada D, Takahashi-Nakaguchi A, Sakai K, Gonoi T.

BMC Genomics (2017) 18: 942. DOI: 10.1186/s12864-017-4316-z. PMCID: PMC5715996

PubMed

【要約】病原真菌Aspergillus fumigatusは、通常環境中に存在することから、宿主内ではそれと異なる様々なストレスに晒されている。ストレスに晒された時の遺伝子発現応答についての手がかりは、本菌のストレス応答を理解する一助となる。本研究では、A. fumigatusの菌糸を材料として、熱ストレス(30ºC→37ºC, 30ºC→48ºC)、酸化ストレス(メナジオン)、浸透圧ストレス(ソルビトール)の条件下でのNGSによるトランスクリプトーム解析を実施した。その結果、酸化・浸透圧ストレスでは一過的な発現変動が観測された一方で、熱ストレス条件したでは、発現プロファイルが大きく変わることが明らかとなった。さらに、試験した全ての条件下で変動する遺伝子を探索したところ、266遺伝子を同定することができた。これらのうち、77遺伝子は、酵母でも環境応答遺伝子であったことから、糸状菌の環境適応は、酵母と共通の因子と糸状菌固有の因子の総和となっていることが明らかとなった。

(作文:高橋弘喜

転写因子Afmac1Aspergillus fumigatusの銅獲得機構を制御する

Transcription factor Afmac1 controls copper import machinery in Aspergillus fumigatus.

Kusuya Y, Hagiwara D, Sakai K, Yaguchi T, Gonoi T, Takahashi H.

Curr. Genet. (2017) 63:777-789. doi: 10.1007/s00294-017-0681-z.

PubMed

【要約】銅は細胞内の酵素・タンパク質が正常に働くために必要不可欠であるが、その過剰な蓄積は生体にとって有害となるため、その濃度は厳密に制御されている。アスペルギルス症を引き起こすA. fumigatusにおいても細胞内の銅濃度の恒常性が維持されなければならず、銅の恒常性維持機能を調べるために転写因子Afmac1の解析を行った。Afmac1の遺伝子破壊株では、銅欠乏時に著しい生育の低下を示し、最小培地では分生子の連鎖が短く、メラニン色素が少ない分生胞子が観察された。それらは細胞内に銅を取り込むために必要な金属還元酵素やトランスポーターおよびメラニン色素合成、分子形成後期に必要とされる遺伝子などの発現がAfmac1の遺伝子破壊株では減少していることが原因と考えられ、Afmac1が銅の獲得機構を制御する転写因子として機能しており、銅の獲得が生育と胞子の形成に重要であることが示唆された。

(作文:楠屋陽子

麦麹の製造過程における白麹菌Aspergillus kawachii の温度応答に関するトランスクリプトーム解析

Transcriptomic analysis of temperature responses of Aspergillus kawachii during barley koji production.

Futagami T, Mori K, Wada S, Ida H, Kajiwara Y, Takashita H, Tashiro K, Yamada O, Omori T, Kuhara S, Goto M.

Appl Environ Microbiol (2015) 81:1353-1363. doi: 10.1128/AEM.03483-14

PubMed

【要約】 焼酎製造に用いられている白麹菌(A. kawachii)はクエン酸を高生産する性質があり、クエン酸には醪のpHを下げて雑菌汚染を防ぐ重要な役割がある。麹造りの温度管理として、約40℃に上昇させた後に温度を約30℃に下げることが行われており、温度を下げることでクエン酸を高生産することが知られているが、どのような機序で行われるのか不明であった。今回、この温度管理が白麹菌の代謝活動にどのような影響をもたらしているのかを遺伝子発現レベルで解明することを目的とした。そこで、大麦を原料とした麹造りにおける白麹菌の遺伝子発現をマイクロアレイにより解析した結果、温度を下げた際に発現上昇する566遺伝子と発現減少する548遺伝子を同定した。温度を上げた状態では、解糖系から分岐するグリセロール合成経路、トレハロース合成経路、ペントースリン酸経路の関連遺伝子の発現が上昇する傾向があり、クエン酸が生じるTCA回路へのカーボンフローが抑制されているためにクエン酸を高生産できないことが示唆された。また、温度を下げることにより分子シャペロンの発現が減少し、一方で、アミノ酸、有機酸輸送体などの輸送体関連遺伝子が高発現していたことから、白麹菌が高温ストレスから解放されることによってクエン酸の高生産がはじまることが示唆された。

(作文:二神)