第7回WS@北海道

2019年11月5日~6日に、なんぽろ温泉ハート&ハートにて、第7回ワークショップを開催致しました。

一日目は、まず第1部で参加者全員の自己紹介があり、全員打ち解けた感じになったところで、次に第2部で3名の先生より講演を頂きました。今回の講演テーマは「周辺の先端研究から考える糸状菌研究の展開」としました。糸状菌に近い領域で最先端の研究をされている内容をお話頂きました。二日目は企業・研究機関紹介があり、2社・2公的機関の計4名の方々より紹介頂きました。

全体を通じて、参加者の人達から多数の質問が出され、また夕食・情報交換会では所属を超えた交流が盛んに行われ、無事盛況に終えることが出来ました。

来年は今回とは別の世話人が担当します。また次回も楽しみに参加頂ければ幸いです。

7th_WS

ワークショップのQ&A

アンケートで頂戴した質問・コメントに対して、講師の先生方に御回答いただきました。

恒松先生、守屋先生、大友先生、 お忙しい中御対応いただきありがとうございました!

「糸状菌ゲノムが拡張する天然有機化合物研究」

(静岡県立大学 恒松雄太先生)

Q: 強発現プロモーターによる抗生物質の過剰発現を行った菌は生育に影響は出るのでしょうか?

A: 私がこれまでに実験を行った菌株においては、生育に影響が出た経験がありません(実際に増殖の具合を精密に測定したわけではなく、培養時の菌の増え方を見た目で評価した上での個人的見解です)。異種発現の場合、宿主細胞の生育に影響を及ぼす化合物を生合成させると、当然ながら生育に問題が生じる可能性が考えられます。私の場合、そのような活性の強い化合物を研究題材として選んでいなかった、というのが一つの理由です。一方で機能未知生合成遺伝子を異種発現させる際は、得られる化合物の活性は未知数です。今、隣にいる同僚は、以前、Aspergillus fumigatus由来のある遺伝子をAspergillus nidulansで異種発現しようとした際、形質転換体は得られるものの、液体培養(すなわち発現誘導条件)ではうまく成長しない、という結果を得ています。この生育不良が生合成された化合物によるのか、あるいは別の原因に起因するのか現在までに原因は掴めていません。そういう化合物をうまく取得できるように工夫する必要があるかと思います。また皆さんご存知かと思いますが、現在、国内外問わず多くの研究者がAspergillus oryzaeを宿主として生合成遺伝子を異種発現させ、天然物生合成研究を行っています。が、このような研究でA. oryzaeが生育不良になったという事例はほとんど聞いたことがありません。A. oryzaeが特別薬剤耐性が強いわけではないと思いますが、なぜでしょうか。

一方、転写因子を発現させる系においては、生合成遺伝子クラスター中に存在する耐性遺伝子やトランスポーターが同時に発現しているので、それらのタンパク質によって自細胞を傷つけない機構が備わっていると思われます。この耐性遺伝子をうまく利用してゲノムマイニングを行い、新たな抗生物質を獲得した研究が、我々がよく共同研究しているYi Tang教授らによってNatureに報告されています(https://www.nature.com/articles/s41586-018-0319-4)。私のグループでも過去に実は同じアイデアをもっていたのですが、実行に移す前にpublishされたので助かったというか、でも反省すべき点として印象に残っています。世の中同じことを考えているヒトは多いようなので、もっと奇抜なことを考えないと駄目ですね。

Q: 天然物研究の10年後の展望についてアイディアがあれば教えて下さい。

A: これは天然物畑出身の方からの質問であると推測します。製薬企業における天然物創薬研究は、放線菌や糸状菌からの新規化合物の獲得率低下に伴い、30年ほど前より衰退の一途を辿ってきました(原因はそれだけでなく、抗体等他のモダリティ医薬の台頭などさまざまだと思います)。一方、ゲノム解読が溢れている現代、遺伝子組換え等を基盤として新しい物質を醗酵生産させる試みが世界中で行われています。また詳細に機能解明された生合成酵素の機能を拡張し、新たな化合物を創製することも可能になってきています。もはや、10年前とは大きく異なり、構造新規な化合物を得ることはそれほど困難ではない時代であると認識しています。これはこの先10年は続くでしょう(20年後は不明)。しかしながら、このような手法を用いて獲得された天然物(あるいは改変天然物)のうち、例えば医薬や研究用ツールなどとしてヒトの役に立つようなモノが開発されたという話を聞きません。私は最近、このまま多くの化合物を無闇に作り出すことに意味があるように思えなくなってきました(でもこのような研究は比較的論文が出やすいというスケベな気持ちもあります。また生合成研究は化学・生物学の両面で高いレベルの技術が要求されることもあり、比較的IFの高い雑誌に出たりと、もっとスケベ心を掻き立てられます。いや、もちろんこれらの研究も僕にとって純粋に面白いです。)。今は全く実現できていませんが、我々が作り出してきた多数の化合物を有効利用することが必要であると感じています。それではどうするか?多数の化合物を384 wellプレートに入れて、ハイスループットスクリーニングしますか?それでなかなかうまくいかなかったのがコンビナトリアルケミストリーです。対象とする天然物の化学構造を眺めて、その活性を当てる、相互作用するタンパク質をはじき出す、薬物代謝されて別の標的に結合することを予想するなど、in silico技術は欠かせない技術かと思っています。画期的なアイデアはまだありません。でも時代についていけるように、コンピューターの勉強は始めました(本当はラボ所有のMiseqを運用する必要に迫られたため)。今では自前のサーバーでアセンブリはじめ発現解析、アノテーション、メタゲノム菌叢解析も素人レベルですがコマンド入力で行います。

とはいえ、天然物化学の面白さは医薬品だけではありません。なぜネコがマタタビに誘引・酩酊させされるか、なぜカバの汗は赤いのか、化学構造式で説明できることには感動を覚えます。面白い分子に出会い、興味があるから研究する、でも良いのかなと思います。ある東大の先生は私に言いました、「論文のためだけにやってるんじゃないんだよ」と。そういう研究を楽しむ先輩方を沢山見てきて、自分もそうなりたいと思いますし、後輩にも沢山そういうのがいれば面白いと思っています。そのためには大学の人員削減という環境のなかでも天然物化学研究で十分メシが食えるよう、領域を盛り上げることが必要かなと思います。天然物研究が好きなのに大学を去らざるを得ない方を見るのは大変つらいですし、後進には明るい未来を見てもらいたいです。

質問の答えは、ぜひ一緒に20、30年後の展望を妄想して今やるべきことをはじき出しましょう。

Q: 遺伝子クラスターの中に転写因子がないこともあるとおっしゃいましたが、複数存在することもあるのでしょうか?その場合はどのような転写制御が行われてるのか知りたいです。

A: はい、その通りです。例えば私が扱っていたA. oryzae由来のaspirochlorine生合成遺伝子クラスター中には2つの転写因子が存在しており、そのうち片方のみ(aclZ)がクラスターを正に制御します。ただし、他方(aclV)については、この遺伝子を破壊してもaspirochlorineの生産量に影響を与えなかったという結果のみ持ち合わせていますので、aclVが単なるpseudogeneなのか、あるいは他の役割を担っているのかはわかりません。さらなる知見が得られると興味深いと思います。ちなみに両者の一次配列は結構異なります。

逆に一つの転写因子が2つの化合物のクラスターの転写を制御している例も知られています。私達が研究していた、fumagillinとpseurotinというAspergillus fumigatus由来の有名な代謝産物の生合成系での話です。

Q: 出芽酵母を使わなかった?理由が知りたいです。なぜ糸状菌なのでしょうか?

A: 当初は出芽酵母を用いていました。出芽酵母を用いた多コピープラスミドによる大量発現法にて、場合によっては化合物を大量生産させることに成功しています(生産量は最大 1.0 g/Lほど)。またJ. Keaslingらによる高マラリア薬アルテミシニンや大麻カンナビノイドの酵母醗酵生産でも、同等以上の生産が達成されています。酵母を使用するメリットはたくさんあります。

ただし、天然物の生合成系を異種宿主内で再構築する際には、複数種類の遺伝子を導入する必要があります。また各遺伝子から合成されるタンパク質も多岐にわたり、その中には酵母内にて正しくフォールディングされないものも含まれます。大腸菌でのリコンビナントタンパク質の取得と同様に、タンパク質が活性を持った形で得られるかどうかは、やってみないとわからない部分が多いです。大腸菌でも、封入体にタンパク質が集積するような場合は、一筋縄ではいかないですよね。そういう意味では、糸状菌由来の遺伝子は、酵母よりも、より系統的に近い「糸状菌」で異種発現させるとうまく働きやすいのではないでしょうか。私達の実験系では、具体的にFtmDというメチル基転移酵素が酵母のなかでうまく働きませんでした(酵素反応産物がわずかに観測される程度)。上記の理由に加え、この酵素が補酵素として必要とするS-adenosylmethionine(SAM)の量が細胞内に少ないのでは、と妄想しています。糸状菌は二次代謝遺伝子を必ず持っていて、その中にはメチル化酵素遺伝子は頻繁に見受けられますが、一方で出芽酵母はそれらを糸状菌ほど多くは持ち合わせていません。じゃあSAMを酵母内で過剰に生合成させればよいじゃないかと考えられますが、そこまでは手が回っていませんので、興味のある方はぜひ挑戦して頂ければと思います。

また、もうひとつの大きな理由は、酵母発現ではmRNAから遺伝子をクローニングする必要がありますが、糸状菌発現系ではゲノムDNA配列から発現が可能な点です。ゲノムDNAからの遺伝子クローニングは非常に簡単です(このとき遺伝子のアノテーションをしっかり確認し、開始コドンの位置を間違えないことが重要)。真に休眠型の遺伝子はmRNAを取得できないはずであり、この場合ゲノムDNAを使用せざるを得ません。ただし、我々の経験上、Aspergillus属以外の糸状菌由来ゲノムDNAをAspergillusで発現させる際、正しくスプライシングされる場合とそうでない場合の両者が見受けられます。他のグループも同様な経験をしているようであり、その場合はmRNAからクローニングを行っていたりします。私達は酵母内で糸状菌のスプライシング機構を構築しようと考えたこともありましたが、壮大なテーマ過ぎて未だ実現に至ってはいません。

Q: 休眠しているクラスターはなぜ休眠しているのでしょうか。菌の属・種でSMクラスターの共通性はどれくらいあるでしょうか

A: よく言われることですが、糸状菌を実験室内の培地中で継代し続けると、二次代謝のパターンが変動し、天然物を生産しなくなることがあります。本来、糸状菌は自然界で他の微生物と競合しながら生活・繁殖しているわけであり、二次代謝産物は「Lethal weapon」として相手を殺したり、自身を守ったりする働きがあると考えられています。また、相手を殺すけれどもあまりに量が多いと自身を傷つけるような天然物も存在します。上述べた自己耐性化のメカニズムも備わっているわけですが、それでもこと足りない場合もあるようです。つまり、糸状菌は結構頑張って化合物を作っているわけです。一方、実験室内の培地は栄養リッチであり、外敵もいません、おまけに生育にも適した温度で飼いならされる「ぬるま湯」状態です。そのような環境で、多量のATPや自身の一次代謝系を使って武器を作り続ける必要があるでしょうか。ですので、どうやら糸状菌はこのような環境を察知して、天然物を作ることをやめるようです。その制御にはクロマチン構造の開閉が関与している(いわゆるエピジェネティックな制御)と言われており、注目されています。また糸状菌の種類によっては、植物などへの感染時に特異的に転写が上がる生合成遺伝子が存在するなど、その生態に強く関連するものも少なくありません。個人的には、このような微生物の環境応答や生態に関与する化合物の活性や制御機構にとても興味を惹かれます。生物って面白いな、賢いなって思います。

菌の属・種でSMクラスターの共通性については一言では答えられません。共通しているものもあれば、そうでない場合もあります。全く異なる菌種なのに、良く似たSMクラスターを所有している場合もあります。あまりに子嚢菌が多様だということでは無いでしょうか。一方、私が発表した担子菌のcoprinoferrin生合成遺伝子は、現時点でゲノム解読されている担子菌のうち200種以上で保存されている点で特徴的です。これほど多くの菌株に保存されている例はそこまで多くないのではないかと考えています。さて、通説としては、SMクラスターは染色体テロメア近傍に存在しているものが多く、これらは外から水平伝播によって獲得されたものだと考えられています。外来遺伝子を獲得後、いかにして自分で利用できるように進化・適応したのか、非常に興味深いと思っています。

Q: laeAが働かない時にキノコ形成を促進するcoprinoferrinが生合成される理由が気になりました。ΔlaeA以外でcoprinoferrinを生合成する条件はあるのでしょうか?

A: 発表では触れませんでしたが、実際には野生株でもcoprinoferrinは生産されていることがわかりました。しかし、その生産量は極微量です(0.1 mg/L未満)。すなわち、僅かな量で成長促進・子実体形成に役立っていると考えているのですが、まだ実証はできていません。その他にもこの分子が、鉄を外部でキャッチしたあと、どのように細胞内に取り込まれて、鉄を使用可能なかたちでリリースしているのか、興味は尽きません。

現在までに、鉄を欠乏させた培養条件でcoprinoferrinの生産量が増加することがわかっています。これは一般的なシデロフォアと同様な傾向となります。ただし、本条件での生産量は∆laeA株と比較しても大変少なく、単離・構造決定にはなかなか難しいほどの量だと思われます。今回、laeAを破壊して、なぜだか理由はわかりませんが代謝が撹乱され、結果的に単離・構造決定が可能な量のcoprinoferrinがはじめて生産されてきました。

Q: 今回担子菌でΔlaeAの解析をされ、二次代謝への関与を示されましたが、子のう菌の知見がどの程度担子菌にも適応できるという感触をお持ちでしょうか?

A: 今回示した作用は通常と逆でしたが、laeAが二次代謝に関与するという点では子嚢菌と担子菌はよく似ていると思います。担子菌でも二次代謝の制御にはクロマチン構造の開閉が大きく関わっているのだと思います。一方で、子嚢菌においてもlaeAの詳細な機能は十分に解明されてはいないと認識しています。例えば、laeAのメチル化機能を調べた研究例はまだないのではないでしょうか(どこかに出ていたら教えて下さい)。担子菌laeAの役割についても、今回が特例なのか、あるいは共通した機能があるのか現段階では全く不明です。今後その機能の普遍性とともに生理機能を調べていきたいと思っていますが、一方で私は天然物有機化学者でして、天然物でヒトの役に立ちたい上で自分の役割を考えると、そこまで踏み込むと本業がおろそかになりそうです。担子菌は形質転換が困難なこともありますので、担子菌を専門とする研究者と協力して調べていくことができれば幸いと考えています。

(恒松先生からの今回WSの感想)

今回は素晴らしい会場で講演をさせて頂きどうもありがとうございました。なるべく有機化学反応を説明せずに講演しようと心がけたのですが、質問もたくさんして頂けたということで、皆さんに理解して頂けたのかなと感じています。普段は天然物化学の学会に参加することが多いのですが、実はこのWSや糸状菌コンファレンス本会に参加することが最近はとても楽しいです。なぜなら、自分の全く知らないことを知ることができる、ことに尽きます。そういえば学生時代は天然物化学って面白いなぁと感じて、もっといろいろ知りたいと貪欲に本や諸先輩方や先生に貪りついていたように思います。私にとって少し異分野となる本学会に出ていると、一人の学生に戻った気分になるのでしょう。逆に、糸若会参加者の皆様には、少しでも天然物に興味をもって頂けると幸いですし、面白そうなことがあれば一緒に研究・議論させて頂ければ嬉しいと思っています。天然物の醍醐味は、新しい物質を自分で見つけ、名前をつけて、ヒトに役立てることができる点にあります。糸状菌はこれを達成するためのこの上なく良い題材ですし、皆様がお持ちの技術・知見はポストゲノム時代の次世代天然物研究にさらなる革命を引き起こすことが可能だと思っています。

「出芽酵母のゲノミクスにより探る過剰発現による増殖阻害のメカニズム」(岡山大学 守屋央朗先生)

Q: gTOW法の知見として、タンパク質からシステインを無くすと酵母で発現量が多くなるということで、システインの働きが気になりました。同じ種類のタンパク質でも、システインが多いものほど発現量が少ないということはあるのでしょうか?

A: とても良い質問です。酵母の話ですが、発現量が高いタンパク質にシステインが少ないという傾向は見られます。しかし、「同じ種類のタンパク質で」というのは調べたことがありません。同じ種類のタンパク質を定義するのは簡単ではないのですが、調べてみたいと思います。

Q: システイン以外のアミノ酸でも、タンパク質に含まれると過剰発現で増殖阻害となるものはあるのでしょうか?また、リジンを含むタンパク質が過剰発現に適しているように見えました。もしそれで正しければ、その理由について何か考えられますか?

A: これも良い質問で、現在実際に実験で試しているところです。一般的に電荷のあるアミノ酸はたくさんあっても悪影響はなさそうです。

Q: 解析に用いる緑色蛍光タンパク質(GFP)でも酵母で過剰発現させると細胞の形態異常が起こってしまうのに驚きました。またその形態異常を引き起こすメカニズムを知りたいと思いました。どのような因子がGFPの影響を受けているのか、何か判っているのでしょうか?

A: システインを持つGFPは、ジスルフィド結合を介して他のタンパク質と凝集体を作るらしいことはわかって来ていますが、それがどうして形態の異常につながるのかは現在調査中です。

Q: 酵母内でわずかに過剰にしただけで増殖を阻害するDSGに含まれる遺伝子の特徴について、もう少し詳しく知りたいと思いました。

A: これは少し長い説明が必要になります。詳しくは以下の解説記事かレビューを見ていただけると良いと思います。

解説記事

守屋央朗「酵母の持つすべての遺伝子の限界コピー数の計測」 生物物理 vol.53 No.6 pp323-326, 2013 以下にPDFへのリンクがあります。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/53/6/53_323/_pdf/-char/ja

少し詳しい英語レビュー

Moriya H., Quantitative nature of overexpression experiments., Mol Biol Cell. 2015 Nov 5;26(22):3932-9.

Q: gTOW6000プロジェクトの結果、酵母で一次代謝関連で過剰発現できない遺伝子が有ったのかが気になりました。

A: 一次代謝ではTDH3(グリセロアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)のみが量感受性遺伝子(DSG)として得られています。しかし、これはTDH3の代謝活性のせいではなく、単純に「発現量が多い」という性質のせいでDSGになっています。この他、解糖系−アルコール発酵の酵素について体系的に調べましたが、一次代謝酵素は、大量に発現させても酵母の増殖に悪影響を与えず、代謝にもほとんど影響を及ばさない無害なタンパク質だと言うことがわかりました。詳しくは以下の論文を御覧ください。

Eguchi Y, Makanae K, Hasunuma T, Ishibashi Y, Kito K, Moriya H., Estimating the protein burden limit of yeast cells by measuring the expression limits of glycolytic proteins., Elife. 2018 Aug 10;7. pii: e34595.




「生物イメージングのための多光子顕微技術開発」

(北海道大学 大友康平先生)

<大友先生は12月1日付で自然科学研究機構に異動されました。まずは新所属、新連絡先、メッセージについて下記の通り連絡いたします。

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大友 康平

自然科学研究機構 生命創成探究センター 創成研究領域 バイオフォトニクス研究グループ

自然科学研究機構 生理学研究所 バイオフォトニクス研究部門 (兼)

〒444-8787 愛知県岡崎市明大寺町東山 5-1 山手 2 号館 8 F東

Tel: 0564-59-5259 (直通), FAX:0564-59-5256

Email: otomo@nips.ac.jp

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顕微鏡は使われてこそなので共同研究については大歓迎です!

Q: 2光子と比べて1光子の良い点はありますか?

A: もちろん多々あると思います。思い付くものですと、

- 励起波長が短く集光スポットが小さくなるため, 二光子の励起の局所性 (励起が集光スポットの強度プロファイルの二乗に相関) を加味しても空間分解能に優れます。

- 二光子顕微鏡に用いるものと比べると安価かつ時間安定性に優れるレーザー光源が多く, システムの価格を安価に抑えられます。

- 二光子顕微鏡に用いるパルスレーザーは, 一般に光ファイバ等による空間伝送が困難ですが, 一光子励起の場合はその限りではありません。そのため, 光路の大半を光ファイバで取り回すことで, 顕微鏡システムをコンパクトかつロバストに作ることが出来ます。

- 長時間観察におけるフォーカスドリフトを補正する方法として, 近赤外の光を用いてフィードバックをかける方法が多くのメーカーのシステムで採用されていますが, 二光子顕微鏡の場合波長が重なるためこのような機能の実装が困難です。

等が挙げられます。また、

- 二光子の吸収スペクトルは一光子の吸収スペクトルに対して単純に波長が倍のものとはなりません (Makarov et al., Opt. Express 2008; Drobizhev et al., Nat. Methods 2011)。蛍光発色団によっては、二光子顕微鏡には適さないものもありますので、一光子顕微鏡の方が適している場合があります (逆もあり得ますが)。

Q: 一度に何色まで観察が可能なのか?

A: 生きたまま、実時間で、標識や光照射によるダメージを抑えたい等の事情を鑑み、我々のシステムでは四色程度が限度です。しかし、二光子に限った話ではありませんが、原理的には吸収スペクトル、蛍光スペクトルの差異を見出せる顕微鏡システムと対象となる多重標識標本が準備できれば何色でも分離観察はできると思います。現に近年ではBrainbow (Livet et al., Nature 2007) の様な方法で無限に多色イメージングを行うような方法も考案されつつあります。一方で、二光子顕微鏡は蛍光のみならず、第二次高調波発生、第三次高調波発生のような非線形光学過程による信号の分離検出のも適しており、コラーゲン線維のような組織は非染色で同時可視化することが可能です。他にも、色だけでは無く蛍光寿命の差異や偏光を用いることで多色化を図るような試みも行われつつあります。

Q: 多光子で深部を励起できるのは理解できるのですが、蛍光が戻ってくる時に何か障壁はないのか気になりました?

A: 正にその通りで、帰り道は可視の蛍光が戻ってこなければなりません。そのため、蛍光再吸収、光散乱等の障壁が存在いたします。逆に言うと、近赤外域の励起光自体は現在二光子顕微鏡が可視化している深さよりも深いところに届けられる筈です。関連し、近年では近赤外域の吸収帯を有し、近赤外域の蛍光を発する発色団や近赤外域対応の検出器も開発されつつあります。

Q: Aspergillus(糸状菌)は蛍光物質を産生しているのですが、このような自家蛍光を利用したイメージングは可能でしょうか?

A: もちろん可能だと思います。現にNADPHやFAD、植物の場合はクロロフィルにような自家蛍光成分は蛍光イメージングの可視化対象です。これらを邪魔者と捉えるか局在や生物の機能を知るツールとして使うかは研究対象に依存するところだと思います。むしろ標識操作が不要となりますので、ありのままに近い標本を観察できるという意味で自家蛍光のイメージングは優れているとも言えます。