その他

eDNAメタバーコーディングにより検出された木材腐朽性きのこ類の見えない未知系統

Complementary molecular methods reveal comprehensive phylogenetic diversity integrating inconspicuous lineages of early-diverged wood-decaying mushrooms.

Shirouzu T, Matsuoka S, Doi H, Nagata N, Ushio M, Hosaka K.

Sci Rep. (2020) 10: 3057. doi: 10.1038/s41598-020-59620-0. PMID: 32080243.

PubMed

【要約】微生物はその高い種多様性と微小な体サイズゆえに多様性の全貌解明が困難である.陸生微生物の中でも肉眼で見えるきのこ類は比較的探索が進んでいるが,目立たない系統が見落とされることにより,その多様性は過小評価されている.本研究では,木材腐朽性きのこ類の祖先的系統と考えられるアカキクラゲ類の包括的な多様性解明を目的とし,子実体採集,分離培養,環境DNA解析(eDNA)を併用した多様性探索を行った.結果,検出された合計28 OTUのうち,子実体採集と分離培養がそれぞれ10,eDNAが27を検出した.系統解析の結果,eDNAはアカキクラゲ類の初期分岐系統を含むさまざまな系統から広くOTUを検出していた.一方,子実体採集と分離培養はeDNAで検出されたOTUの約半分しか得られなかった.きのこ類のより正確な多様性評価に向けて,eDNAや分離培養などの子実体発生に頼らない方法も併用することが重要であると考えられる.

(作文:白水貴 HP


菌類内生細菌は宿主菌類の有性生殖を阻害する

Aposymbiosis of a Burkholderiaceae-related endobacterium impacts on sexual reproduction of its fungal host.

Takashima Y, Degawa Y, Nishizawa T, Ohta H, Narisawa K.

Microbes Environ. (2020) 35:ME19167. doi: 10.1264/jsme2.ME19167.

PubMed

【要約】 菌類の細胞内に生息する細菌は“菌類内生細菌”として認知され,その報告例が年々増加している.特にクサレケカビ属に属する菌類では,菌類内生細菌が多くの菌類種から報告されていた(Sato et al., 2010; Takashima et al., 2018a).しかし,それら菌類内生細菌が宿主菌類に及ぼす影響については,あまり理解が進んでいないのが現状だった.本研究では,筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所をタイプ産地として記載されたクサレケカビ属の1種Mortierella sugadairana(Takashima et al., 2018b)およびその菌類内生細菌Burkholderiaceae-related endobacterium(BRE)の1系統(MorBRE group C)(Takashima et al., 2018a)をモデル材料として,菌類内生細菌の有無が接合胞子形成(有性生殖)に及ぼす影響を調査した.菌類内生細菌除去株と保有株の接合胞子形成(有性生殖)を観察したところ,除去株では有性生殖が生じたのに対し,保有株では有性生殖がほとんど生じなかった.この結果は,菌類内生細菌の存在によって,宿主菌類の有性生殖が阻害されることを示唆していた.これまで節足動物では,共生細菌が宿主の有性生殖に干渉することが多数報告されていたが,菌類においても,細菌が宿主菌類の有性生殖に影響を及ぼすことが,本研究で初めて示された.

(作文:高島 )

プレスリリース

クサレケカビ属菌におけるBurkholderiaceae科菌類内生細菌の検出およびその系統的多様性

Prevalence and intra-family phylogenetic divergence of Burkholderiaceae-related endobacteria associated with species of Mortierella.

Takashima Y, Seto K, Degawa Y, Guo Y, Nishizawa T, Ohta H, Narisawa K.

Microbes Environ. (2018) 33:417–427. doi: 10.1264/jsme2.ME18081. PMID:30531154

PubMed

【要約】菌類の細胞内に生息する細菌は“菌類内生細菌”として報告されており,菌類の中でも特にケカビ門からの報告例が多い.ケカビ門において,今までにケカビ亜門(クモノスカビ属),クサレケカビ亜門(クサレケカビ属)およびグロムス亜門(Gigasporaceae科)の3亜門から,Burkholderiaceae科に属する菌類内生細菌(BRE)が報告されていた.しかし,これまで約100種近く記載されているクサレケカビ属菌におけるBREの検出率およびその系統的多様性は不明であった.本研究では,主に日本国内から分離したクサレケカビ属菌59種238菌株を対象にBREの検出を試みた.その結果,供試した菌株の22%(53/238菌株)からBREが検出され,新たにクサレケカビ属20種がBREの宿主菌類となることが示された.また,クサレケカビ属菌を宿主とするBREの16S rDNA遺伝子を解析した結果,95%以下の類似性(細菌で属レベルで異なることを示す閾値)を示す,系統的に異なる3つのグループ(MorBRE group A, B, およびC)が存在することが示唆された.本研究により,クサレケカビ属菌においてBREが多くの菌類種より検出されること,そして,検出されるBREの遺伝的多様性は従来の報告よりも高いことが明らかになった.

(作文:高島 )

ナシ黒斑病菌Alternaria alternataに感染して生育抑制と強毒化の二面性を付与する新規マイコウイルスの解析

Molecular characterization of a novel mycovirus in Alternaria alternata manifesting two-sided effects: Down-regulation of host growth and upregulation of host plant pathogenicity.

Okada R, Ichinose I, Takeshita K, Urayama SI, Fukuhara T, Komatsu K, Arie T, Ishihara A, Egusa M, Kodama M, Moriyama H.

Virology 519 (2018): 23-32.

PubMed

【要約】 ナシ黒斑病菌(Alternaria alternata Japanese pear pathotype)から新規の2本鎖RNA (dsRNA)マイコウイルスが発見された。このウイルスは5分節のdsRNAをゲノムとし、RNA依存性RNAポリメラーゼの系統解析からクリソウイルス科に属すことが示され、Alternaria alternata chrysovirus 1(AaCV1)と命名された。AaCV1高含量株はPDA培地上で生育不良、不均一な色素沈着が確認された。また、AaCV1dsRNA2がコードするORF2領域を酵母に異種発現させると生育遅延が生じる事より、AaCV1の感染による宿主への生育抑制はORF2タンパク質発現が関与すること示唆された。驚くべきことに、ナシ葉への接種試験において、AaCV1高含量株は低含量株に比べて約3倍の壊死斑面積を示した。そこで壊死斑の要因となるAK毒素の定量を行った結果、AaCV1高含量株では低含量株よりも1個の分生子当たり13倍量のAK毒素が検出された。従って,AaCV1の感染はAK毒素の産生を上昇させることで、宿主菌を強毒化することが示唆された。このようにAaCV1は生育抑制をする一方で、強毒化を付与するというトレードオフにより宿主菌に病原性変動を齎し得る新規なマイコウイルスである。

(作文:森山・丸山)

サンパウロ海台アスファルト湧出域における真菌多様性

Fungal diversity in deep-sea sediments associated with asphalt seeps at the Sao Paulo Plateau.

Nagano Y, Miura T, Nishi S, Lima A.O, Nakayama C, Pellizari V.H, Fujikura K.

Deep Sea Research Part II: Topical Studies in Oceanography (2017) 46: 59-67. doi: 10.1016/j.dsr2.2017.05.012.

Link

【要約】サンパウロ海台で発見されたアスファルト湧出域における深海底泥中の真菌多様性を環境DNA解析により調査しました。その結果、多種多様な真菌が検出されましたが、その存在量を解析するとPenicillium sp.,Cadophora malorumRhodosporidium diobovatumの3種がほぼ優先していることがわかりました。また、アルファルト湧出域と非アスファルト湧出域の真菌相を比較したところ、有意差がないことがわかりました。アスファルト湧出域には多量のアスファルトが存在し、その周辺には海綿やエビなどの大型生物が存在するなど、他の深海環境とは明らかに違っていたので、これは予想に反する結果でした。しかし、アスファルト湧出域にのみアスファルト分解能が報告されている真菌種が存在することなども明らかになりました。また、今回の調査で検出された真菌種は、その半分以上がこれまでに報告されていない種(相同性が97%以下)であり、深海環境中に存在する真菌類の多くは未だ未記載種であることが明らかになりました。

海台: 海底の高台

アスファルト湧出域: 海底でアスファルトが湧き出ている場所

(作文:長野)

白紋羽病菌における粒子で保護される二本鎖RNAマイコウイルス間のRNAサイレンシング誘導の差異

Differential inductions of RNA silencing among encapsidated double-stranded RNA mycoviruses in the white root rot fungus Rosellinia necatrix.

Yaegashi H, Shimizu T, Ito T, Kanematsu S.

Journal of Virology (2016) 90:5677–5692. doi: 10.1128/JVI.02951-15.

PubMed

【要約】 RNAサイレンシングは真核生物に普遍的なウイルス防御機構である。一方、糸状菌に感染するウイルス(マイコウイルス)の多くは二本鎖RNAをゲノムとし、粒子で保護されるため、RNAサイレンシングを誘導するかは不明である。本研究では、果樹類の重要病原菌である白紋羽病菌において、5種の粒子で保護される二本鎖RNAマイコウイルス(RnPV1、RnQV1、RnVV1、RnMyRV3、RnMBV1)によるRNAサイレンシング誘導能を比較解析した。RNAサイレンシング関連遺伝子の発現量はRnMyRV3やRnMBV1感染により上昇するが、他ウイルスでは上昇しなかった。RnPV1、RnQV1、RnVV1、RnMyRV3、RnMBV1由来スモール(s)RNA (19-22塩基)の蓄積量はそれぞれ6.8%, 1.2%, 0.3%, 13.0%, 24.9%であり、vsRNAの特徴(サイズ、5’末端塩基種、3’オーバーハングの有無、分布様式)もウイルス間で異なっていた。さらに、RnMBV1およびRnPV1由来sRNAは、RNAサイレンシング複合体を活性化することを明らかにした。これらの知見は、マイコウイルスによるRNAサイレンシング誘導の多様性を示す。

(作文:八重樫)

肺アスペルギルス症患者から順次分離された Aspergillus fumigatus 株のゲノム配列比較解析

Whole-genome comparison of Aspergillus fumigatus strains serially isolated from patients with aspergillosis.

Hagiwara D, Takahashi H, Watanabe A, Takahashi-Nakaguchi A, Kawamoto S, Kamei K, Gonoi T.

Journal of Clinical Microbiology (2014) Dec;52(12):4202-9. doi: 10.1128/JCM.01105-14.

PubMed

【要約】アゾール薬による真菌感染治療経過中に、感染菌の遺伝子変異によるアゾール薬耐性化が問題となっている。そこで本研究では、肺に感染する病原真菌 Aspergillus fumigatus を対象とし、新たな手法として高速シーケンサーを活用したゲノム比較を行い、感染中に発生したと考えられる変異の検出を試みた。同じ患者から複数回にわたり順次分離された菌株ゲノムを比較することで、各株に特異的な変異(SNP)を検出・同定することができた。特に、16ヶ月をあけて分離された菌株間では、アゾール薬耐性に関与する変異を含んだ7個の非同義置換変異が見つかった。さらには、11 遺伝子を含む約 38.5 kb の領域の欠落も確認され、感染中の菌体ゲノムにおいて動的な変異導入とゲノム改変が起こっていることが示唆された。高速シーケンサーによる変異検出の技法を確立するとともに、感染菌ゲノム動態の理解の手助けとなる。

(作文:萩原)

イネいもち病菌の生育及び分生胞子形成を阻害するdsRNAウイルス、Magnaporthe oryzae chrysovirus 1 strain B (MoCV1-B)

A dsRNA mycovirus, Magnaporthe oryzae chrysovirus 1-B, suppresses vegetative growth and development of the rice blast fungus.

Urayama S, Sakoda H, Takai R, Katoh Y, Minh Le T, Fukuhara T, Arie T, Teraoka T, Moriyama H.

Virology. (2014) 448:265-273. DOI: 10.1016/j.virol.2013.10.022

PubMed

【要約】 糸状菌にはしばしば持続感染型のウイルスが感染しており、これらウイルスの一部は宿主糸状菌に対して生育阻害などの異常を引き起こす。植物保護の観点から、このような糸状菌に対するウイルスの抑制作用を利用した植物病原糸状菌の防除法が提案されている。本研究において、我々はイネの最重要病害菌であるイネいもち病菌の生育を抑制(弱毒化)するウイルスを発見し、宿主菌に対する影響評価及びウイルスの生化学的解析を行った。本研究で発見したMoCV1-B持続感染株と、MoCV1-Bを除去したMoCV1-Bフリー化株を比較した結果、MoCV1-B感染は培地上において分生胞子形成とメラニン化を大幅に阻害し、菌糸成長速度も抑制することが明らかとなった。分生胞子形成とメラニン化はイネいもち病菌が植物に感染する際に重要なプロセスであることから、MoCV1-B感染はイネいもち病菌の病原力を抑制するのに有効であることが示唆された。

(作文:浦山)