麹菌Aspergillus oryzaeにおける細胞融合と菌核形成のメカニズムの解析
a) Establishment of a new method to quantitatively evaluate hyphal fusion ability in Aspergillus oryzae.
Tsukasaki W, Maruyama J, Kitamoto K
Biosci Biotechnol Biochem. (2014) 78:1254-1262. doi: 10.1080/09168451.2014.917262.
【PubMed】
b) Molecular dissection of SO (SOFT) protein in stress-induced aggregation and cell-to-cell interactive functions in filamentous fungal multicellularity.
Tsukasaki W, Saeki K, Katayama T, Maruyama J, Kitamoto K.
Fungal Biol. (2016) 120:775-782. doi: 10.1016/j.funbio.2016.02.001.
【PubMed】
c) Efficient formation of heterokaryotic sclerotia in the filamentous fungus Aspergillus oryzae.
Wada R, Jin FJ, Koyama Y, Maruyama J, Kitamoto K.
Appl Microbiol Biotechnol. (2014) 98:325-334. doi: 10.1007/s00253-013-5314-y.
【PubMed】
d) AoRim15 is involved in conidial stress tolerance, conidiation and sclerotia formation in the filamentous fungus Aspergillus oryzae.
Nakamura H, Kikuma T, Jin FJ, Maruyama J, Kitamoto K.
J Biosci Bioeng. (2016) 121:365-371. doi: 10.1016/j.jbiosc.2015.08.011.
【PubMed】
【要約】 麹菌Aspergillus oryzaeでは有性世代が見つかっておらず、交配育種を適用できないのが課題となっている。ここに挙げる4報は麹菌の有性生殖の誘導を目指した研究である。
細胞融合は、有性生殖の重要なプロセスの1つである。しかし、A. oryzaeではアカパンカビと比較すると細胞融合の頻度が著しく低く、その解析は困難であった。Tsukasakiら(2014)は、異なる2つの栄養要求性の相補を利用することにより、細胞融合能を定量的に評価する実験系を確立した。これにより、窒素源、炭素源などA. oryzaeの細胞融合に適する培地条件を決定することに成功した。
AoSOは子嚢菌門に属する糸状菌に特異的に存在するタンパク質であり、細胞融合に必要であるとともに、隔壁孔における溶菌の伝播を防ぐ機能に関与する。Tsukasakiら(2016)は、AoSOの1195アミノ酸全長が細胞融合に必要であるのに対し、溶菌の伝播を防ぐ機能にはC末側半分のみで十分であることを明らかにした。糸状菌の多細胞としての異なる2つの働きに、同一のタンパク質が領域を使い分けて機能しているという興味深い知見が得られた。
菌核は気中菌糸が凝集して形成する分化構造の1つであり、近縁の糸状菌では有性生殖器官を内部に形成することが報告されている。A. oryzaeでは菌核形成能が低下もしくは消失していることが、有性生殖を誘導するうえでの障害であった。Wadaら(2014)は異なる栄養要求性株を組み合わせた対峙培養において、その境界線に菌核形成が誘導されることを発見した。さらに、菌核形成を正に制御する転写因子SclRの高発現により、対峙培養の境界線での菌核形成を増加させることに成功した。
また、菌核形成の制御機構は多くは明らかになっていないが、Nakamuraら(2016)はストレス応答制御因子AoRim15に着目し、機能解析を行った。その結果、菌核形成はAoRim15の欠損により減少し、過剰発現により増加することが明らかになった。
以上で得られた知見が今後、細胞融合や菌核形成の制御機構のさらなる解明、A. oryzaeの有性生殖の誘導に役立つことが期待される。
(作文:丸山)
ウシグソヒトヨタケにおける子実体発生のストランド特異的 RNA-seq 解析
Strand-Specific RNA-Seq Analyses of Fruiting Body Development in Coprinopsis cinerea.
Muraguchi H, Umezawa K, Niikura M, Yoshida M, Kozaki T, Ishii K, Sakai K, Shimizu M, Nakahori K, Sakamoto Y, Choi C, Ngan CY, Lindquist E, Lipzen A, Tritt A, Haridas S, Barry K, Grigoriev IV, Pukkila PJ.
PLoS ONE. (2015) 10: e0141586. DOI: 10.1371/journal.pone.0141586
【PubMed】
【要約】 担子菌ウシグソヒトヨタケの子実体形成過程の13ポイントからトータルRNAを採取し(各ポイント2サンプル)、アメリカのJGIに送り、cDNAのストランド別に塩基配列決定を行った。JGIの作ったGene_Catalog(14,245個の遺伝子)に対して、Readsをマッピングし、RPKM値を算出するとともに、TCCを用いてポイント間の発現変動遺伝子(DEG)を検出した。隣接ポイント間のDEG集団をDAVIDでGO解析した。さらに、各遺伝子においてセンス鎖とアンチセンス鎖のRPKM値の変動が相関しない遺伝子(両鎖が異なる発現制御を受けている)についてIGVで発現状況を確認し、明らかにアンチセンス鎖が発現している遺伝子をいくつか見出すことができた。
(作文:村口)