平成30年11月14−15日に湯沢グランドホテルにて第6回ワークショップを開催致しました。
今回、糸状菌(特に麹菌)を研究している若手研究者として、それらを利用して製造される日本酒・甘酒の味を私たちは理解できているのか?ということで利き酒・利き甘酒を行いました。はじめての試みに一抹の不安を感じておりましたが、皆様のご協力もあり盛況のうちに終えることができました。
第6回ワークショップで若手の会代表・幹事の多くが変わりますが、次年度からのワークショップもどうぞよろしくお願い致します。
アンケートで頂戴した質問・コメントに対して、講師の先生方に御回答いただきました。
栗林さん、北川さん、下田さん、お忙しい中御対応いただきありがとうございました!
アンケート集計結果はコチラ
Q. 二度麹で何が起きているのでしょうか?そのメリットは? 何か他の発酵食品でもそのような例があったのでしょうか?
A. 一旦、通常の麹菌で麹をつくり、その麹にさらにRhizopus菌を用いて、 再び製麹を行った麹で、清酒を製造する方法です。 Rhizopus菌の生育によって、麹中の有機酸組成が変化し、 有機酸含量の高い清酒が得られます。
Q. 越淡麗は山田錦に比べてどのような酒質になりやすいのでしょうか? Q. 越淡麗についてコメの溶け具合はどうなのか気になりました。
A. 越淡麗は、精米歩合を低くしても割れが少ない、吸水性に富んで 良い蒸米に仕上がる、醪での溶けが良くタンパク質含量が少ないため 後味のキレが良い、膨らみある酒になる等が特徴です。
Q. 清酒以外、ほかの種類の酒を開発していますか?
A. 新潟県醸造試験場は清酒が対象の研究機関ですので、 清酒を中心に、清酒に関連した酒類の開発を行っています。
Q. 少ない職員数の割には業務が非常に多いように感じましたので、 普段どのように研究の時間を確保しているのか気になりました。
A. 効率よく業務を行い、職員同士で助け合いながら、研究を行っています。
Q. キノコ生産量が年々増えている→経営基盤の拡大?需要の増加?
A. きのこ生産の大規模集約化・生産効率化が進んでいること、及びきのこの健康機能がメディアで取り上げられていることが大きいのではないかと思われます。
Q. α-グルカンの生理機能・調製方法が知りたい
A. 醸協2013 108(6)401-412、Int Immunopharmacol. 2019 Feb;67:408-416、PLoS One. 2017 Mar 9;12(3):e0173621.などをご参照ください。
Q. マイタケのメラニン合成に関与する遺伝子を破壊すると白いマイタケが出来るのでしょうか?
A. 黒マイタケから白マイタケが出ることがあるので、ある遺伝子を破壊すれば白くなると思いますが、それがメラニン合成関連遺伝子かは現状明らかになっていません。
Q. キノコの生育を制御する遺伝子は大体他の種の植物(真菌?)に保存されていますか?
A. 例えば、子嚢菌類の近紫外光で誘導されるBMR1遺伝子は、マイタケでも近紫外光に応答するなど、真菌類の制御系は結構保存されているのではないかと思われます。
Q. まいたけが他のキノコと比べてどのような優位点があるのかが気になりました。(マイタケα-グルカンはまいたけ特有のグルカンなのか?他のキノコよりグルカン量が多いのか?)
A. 分子構造を他のα-グルカンと比べると、マイタケα-グルカンは分岐が多い構造となっており、マイタケ特有のα-グルカンであるといえます。また、エリンギ、シイタケ、ブナシメジなどのα-グルカン量を調べたところ、マイタケの含有量が一番多い結果でした。
Q. α-グルカンの抗ウィルス作用のお話が興味深かったです。メカニズムなどは分かっているのでしょうか?
A. 直接的な殺ウイルス作用はなく、生体側の免疫機能を高めることによる作用であることが分かっています。α-グルカンの分子構造と抗ウィルス活性の相関は現在解明中です。
Q. 菌根菌の人工栽培も進めて欲しい。担子菌と子嚢菌のゲノムの違いは?
A. 菌根菌と言われている、ホンシメジは人工栽培できる菌株もあり、最近バカマツタケも人工栽培できたと報告がありましたので、少しずつ進んでいるようです。
担子菌ゲノムの大きな特徴は、リグニン分解系遺伝子があることと、セルロース分解系遺伝子が豊富なところです。(参:化学と生物 Vol. 53, No. 6, 2015。)
また、菌根性キノコのゲノムサイズは、現在わかっている限りでは、腐生性キノコに比べて大きく、遺伝子数が少ない一方で、トランスポゾン等の転位性遺伝因子が多数含まれていることがわかっています。
Q. キノコ生産では病害のような損失はあるのでしょうか?
A. 気を付けないと培地にカビやバクテリアのコンタミが生じやすいです。中でもトリコデルマ属菌は、キノコを殺すので嫌われています。また、キノコに感染し、褐変や奇形など病変させるウィルスも知られています。
Q. 抗ウィルスの実験があったが、どのくらいの量を何日間くらい食べたら効くのか?
A. 薬理試験から換算すると1日50g程度です。実験では感染前後1週間マイタケα-グルカンを与えました。予防的な効果もあるので感染前から食べていただくと効果的です。
Q. 甘酒や麹菌と皮膚バリアに関する話で、経口摂取および皮膚への直接の添加によって効果が変化しているのでしょうか?
A. ヒトの試験は、経口摂取で試験をしており効果が示唆されました。メカニズムの検討としてヒトの培養細胞を用いました。ヒトの皮膚への直接の添加効果は、検討できておりません。
Q. 味噌をそのまま摂取するのと熱処理を加えた後で摂取するのではACE阻害活性が変わるのでしょうか?
A. ACE阻害活性はほぼ同様でした。
味噌としては、加熱処理しても血圧上昇抑制する活性は変わらないと存じます。というのも、ご紹介したヒト試験に用いた味噌は、味噌の酵素を失活させるため(だしの分解を防ぐため)、製造工程で加熱処理しております。また、被験者の方は、味噌汁として摂取しておりますので、味噌を熱湯で溶いて召し上がっていただいております。
Q. 脂質代謝に効果がある9-HODEという活性成分は、他にもともと知られている生理活性などの報告はあるのでしょうか?
A. 今回、9-HODEのみご紹介しましたが、その他に13-HODEなどを同定しており、これらリノール酸酸化物の効果を確認できました。他の生理活性として、9-HODEではないですが、リノール酸酸化物、13-HODEは、免疫応答や酸化ストレスへの評価、ヒト表皮角化細胞で検討がなされていると存じます。
Q. ACE活性が低い味噌と一般味噌の間で実際の血圧に差がなかったが、ACE活性と血圧の間に関連はないのでしょうか?
A. ACE阻害活性にのみ着目すると、動物レベルでは差が確認できましたが、ご紹介したヒト試験の設計では差を見出すことが難しい結果でございました。
ACE阻害活性物を動物で評価する場合は、一般的にはSHR(高血圧自然発症モデルラット)を用います。今回ご紹介の通り、ACE活性と血圧に関連があった結果です 。SHRの動物試験では、ACE阻害活性が高い味噌程、血圧上昇抑制を示しました。これは、ACE阻害活性物質の評価で用いられる一般的な動物試験です。ただ、これはモデルマウスでございます。SHRのように自然に血圧が上がるモデルの他に、Dahlラットのように食塩感受性ラットで試験がされることがございます(食塩により、血圧が上がるモデル)。ACE活性とは関係なく、一般の味噌はDahlラットでも血圧上昇を抑制すると報告されています。
ヒトでは、食塩感受性の有り無しの方が存在し、一概に動物モデルを反映することが難しいと存じます。ヒト試験の際に、モニターの方が食塩感受性か否かを判別することが難しためでございます。よって、ヒト試験では、血圧の差が明確に出なかった要因の一つと考えております。それは、ヒトの中には食塩感受性の方とそうでない方が混ざっている可能性があるためと考えます。ただ、いずれにしても血圧は上がることはなかったという結果でございます。
つまり、味噌はACE阻害活性だけでなく、その他のメカニズムに対しても作用する(たとえば利尿など)活性成分を持っていると推察しております。
Q. 味噌・糀の機能性について学べました。PPARの活性化成分は糀だけでなく味噌にも十分入っているのでしょうか?
A. 味噌でもPPAR活性を確認しております。
Q. みそ汁の摂取による血圧降下作用のヒト試験において、用いたみそ汁は具なしのものだったのか?
A. 今回の試験は、具なしの味噌汁を飲んでいただきました。
Q. 味噌中の活性ペプチドの解明が難しいとのことでしたがどのような点が難しいのでしょうか?
A. ペプチドは、一斉分析で分析ができております。ジペプチド、トリペプチド程度までは、定量、定性(m/z)で確認しております。分析手法の特性上、一部のジペプチドおよびトリペプチド以上は、配列までは同定できておりません。また、今回ご紹介した中で、ペプチド以外の成分に高いACE阻害活性があり、その成分の解明に時間を要しております。
Q. 血圧降下効果について、減塩にするとより効果が得られるのでしょうか?
A. 一般的には、そのように考えます。
Q. 糀甘酒は米のにおいがしてとてもおいしいと思います。アルコールがないのは、もともと生産していないのですか?それとも後から除いたのか?それはどんな意味がありますか?
A. 糀甘酒は、アルコールを生成させる工程がないためです。酒粕を用いていないこと、アルコール発酵をする酵母を用いずに生産するためです。アルコールを含まないことで、赤ちゃんから、アルコールに敏感な生活者の方まで、幅広い方に支持をいただけるのではないかという当社の商品コンセプトです。
Q. 甘酒が調味料として使用される場合、栄養成分の加熱による変化などはあるでしょうか?
A. 他の食品、調味料と同じように加熱により、風味は変化します。砂糖とは異なり、糀甘酒は、グルコースが主の糖成分ですので自然な甘味を付与することができます。
Q. 自分好みの味噌作り→ダシ成分を変えたり(帆立、魚、野菜など)すれば嗜好性の多様性に対応できるのではないでしょうか?
A. ご指摘の通りと存じます。だしも地域、個人で多様なため、そのように思います。
Q. 器の多様性にはどの程度対応しているのかが気になりました。特定の一種の容器でのみ形而的な状態確認ができるのか、違う大きさの器で温度計を指す場所は一カ所で十分なのでしょうか?
A. 現在は試作段階ですので1.5kg 程度の味噌で、同一の容器で温度測定し、モデル化しております。この程度の味噌量であれば、外気の影響を受けやすいため、1ヶ所で問題ないと考えております。今後、味噌の量や容器形状は、検討の必要があると考えます。その際にセンサーの位置なども検討が必要と存じます。
Q. IoTを使ったみそ作り、完成した後いつまで食べられるとかも管理してもらえるのか?大きさ(単身用、家族用)は?
A. 完成後は温度センサーを外していただき、発酵をとめるため、冷暗所、冷蔵庫または冷凍庫での保管を想定しております。
完成した後の食べられる期間は、今後の課題とさせてください。ただ、一般的に、通常の味噌商品は、冷暗所で賞味期限は6ヵ月~1年間です。味噌作りキットで出来上がった味噌も同様に6ヵ月~1年間を想定できると存じます。
大きさは、今後の検討課題と存じます。現在販売しているものは、1.5kgの1種類です。
Q. 近年、塩麹から糀甘酒と麹ブームがテレビ等で盛り上がっていますが、甘酒の次は何が来るのでしょうか?
A. わかりません・・・。ただ糀を使用した製品が注目されており、今後も注目されることは確かであると存じますので、当社としても、糀事業は主軸として力を入れており、種々開発してまいります。
Q. 味噌の海外輸出が伸びていたが、海外に対するマーケティング等はどのように行っているのでしょうか?
A. 海外専門の営業、海外専門のマーケティング、海外専門の商品開発が、連携して行っています。また、海外の拠点、工場のスタッフとも連携しています。
Q. みそ汁を飲んでも血圧が上がらないことが科学的に調べられていて面白かった。それでも減塩の製品が売られているのは、市場に求められているからですか?
A. その通りです。減塩市場は一定のお客様に支持をいただいております。
今回の講演でご紹介した内容は、塩の摂取について、減塩を否定するご提案ではございません。お薬を飲んでいらっしゃる高血圧の方など、様々な生活者の方がいらっしゃると存じます。この様な方は、医師の指導により減塩が必要と存じます。
一般的な生活者の方にとって、あくまで食品としての味噌、味噌汁が、今回ご紹介したエビデンスがある中で、食塩の摂取をどのような食品形態からとるのが良いか?をお考えになるきっかけとして、生活者の皆様の選択肢が増えると良いなと考えております。