ポリエン化合物との相乗作用により活性を呈する潜在性抗真菌化合物
Cryptic antifungal compounds active by synergism with polyene antibiotics.
Kinoshita H, Yoshioka M, Ihara F, Nihira T.
J Biosci Bioeng. (2016) Apr;121(4):394-8.
【PubMed】
【要約】これまでの探索研究で同定された抗真菌化合物は、細胞膜や細胞壁を標的としているものが大部分である。この原因として他の作用機序を有する物質は、細胞内に存在できず、活性を示せないためと考えられた。このような物質を効率よく細胞内に導入させられれば、潜在性抗菌活性の発揮が期待される。そこで我々はエルゴステロールに結合し、細胞膜に小孔を開けるポリエン系化合物ナイスタチンの膜透過性向上作用を利用することにした。その結果、ナイスタチン存在下では多くの糸状菌代謝物抽出液が抗真菌活性を示した。活性画分より二つの物質を同定したところ、ヘルボル酸、テラマイドAであることが明らかとなった。それぞれの最小有効濃度がナイスタチン共存下では単独の場合の1/4量であったこと、テラマイドAの抗真菌活性は報告されていないことから、本方法は、新規抗菌物質探索に効果的な手法であるといえる。
【作文・木下】
麹菌による天然鉄キレート剤deferriferrichrysin(Dfcy)の生産と食品に利用可能な新規抗酸化剤としての評価
Production of the natural iron chelator deferriferrichrysin from Aspergillus oryzae and evaluation as a novel food-grade antioxidant.
Todokoro T, Fukuda K, Matsumura K, Irie M, Hata Y.
J Sci Food Agric. (2016) 96:2998-3006. DOI: 10.1002/jsfa.7469.
【PubMed】
【要約】 Dfcyは麹菌(Aspergillus oryzae)が産生する環状ペプチドであり、高い鉄キレート能を有する。Dfcyには抗酸化剤としての利用が期待されるものの、麹を含む一般の食品におけるDfcy含有量は非常に少なく取得・応用が難しかった。そこで我々は培養条件と菌株を最適化し、一般的な培養条件下で22.5 mg/Lであった生産量を2800 mg/Lまで増加させた。さらにDfcyを食品素材として利用するために、安定性・抗酸化活性について評価した。Dfcyは63℃ pH 3–11で30分、120℃ pH 4–6で4分の殺菌条件後でもそれぞれ90%以上が残存していた。さらに、水中油型モデルでの油脂酸化防止効果を過酸化物価とTBARSアッセイで確認したところ、それぞれ83%と75%の酸化防止効果が見られた。Dfcyの酸化防止効果は化学合成鉄キレート剤であるEDTAと同等かそれ以上であった。麹菌による実用化レベルでのDfcy生産は本報告が初めてであり、DfcyがEDTAの代替品と成り得る新規な天然鉄キレート剤であることを示した。
(作文:戸所)
微生物の可能性を開拓する −多様な新奇化合物合成のための新しいアプローチ−
Use of a biosynthetic intermediate to explore the chemical diversity of pseudo-natural fungal polyketides.
Asai T, Tsukada K, Ise S, Shirata N, Hashimoto M, Fujii I, Gomi K, Nakagawara K, Kodama EN, Oshima Y.
Nature Chem. (2015) 7: 737-743. doi: 10.1038/nchem.2308.
【PubMed】
【要約】糸状菌は、ペニシリンやシクロスポリンなどの有用薬理活性物質から、アフラトキシンなどのカビ毒まで、実に多彩な機能を示す二次代謝物を生産する。こうした多彩な機能が、二次代謝物の多様な化学構造に起因することを考慮すれば、新しいケミカルスペースの開拓は、新しい機能性物質、たとえば新薬などの探索に重要な意味を持つ。
天然物の化学構造の多様性は、分岐的な二次代謝物生合成経路によって形成される。その過程において、生合成初期中間体は多段階の変換を経て、多様で複雑な構造へと変幻自在にその姿形を変えていく。このような生合成初期中間体の多能性は、天然物化学構造多様性を拡大するツールとして高いポテンシャルを秘めている。そこで筆者らは、Chaetomium indicumのchaetophenol類生合成経路をモデルとして、麹菌異種生産系を用いた多能性中間体の供給と化学的多様化を組み合わせた「多様性指向型半合成プロセス」を開発した。本研究は、糸状菌の汎用性の高い物質生産能を有効活用する一つの方法を提案するものである。
(作文:浅井)
(参考文献)現代化学 「解説」(2016) 9: 21-26.
【要約】Diels-Alder 反応は共役ジエンにアルケンが付加してシクロヘキサン環が生じる有機化学反応であり、天然物の生合成経路においても、特徴的な環構造形成への関与が指摘されてきた。しかしながら、本反応を触媒する酵素「Diels-Alderase」については、ごく限られた数の報告例があるのみであった。今回、Fusarium 属糸状菌の生産する生物活性物質エキセチン(フサリセチンAの生合成中間体)の生合成経路において、Fsa2 がそのデカリン環形成において、endo 選択的な Diels-Alderase として機能していることを実証した。Fsa2 はこれまでに見つかっている Diels-Alderase との間で共通する保存配列は見つかっていない。いずれの酵素も各々の生合成経路に特異的であり、ある特定の立体構造形成を担っている。それに対し、Fsa2 はそのオルソログが、同じデカリン環でも異なる立体配置を有するもののカビ代謝物の生合成遺伝子クラスターにも見つかっている。今後、結晶構造解析や合成基質を用いた生化学実験を行うことで、Fsa2 とそのオルソログの反応メカニズムの詳細、さらには、生物活性とも密接な関係のあるデカリン環の立体配置を自在に改変した誘導体創製に繋がることが期待される。
(作文:加藤)