Profile /Research

杉浦淳吉 Junkichi Sugiura

慶應義塾大学 文学部 教授

リサーチマップ: https://researchmap.jp/jsugiura

環境行動研究室: http://jsugiura.eco.coocan.jp/ (以前の個人サイト)

プロフィール

愛知県生まれ。名古屋大学大学院文学研究科博士課程(心理学専攻)修了,2001年に博士(心理学)。1998年より愛知教育大学助手,助教授,准教授として消費生活科学,家庭科教育などを担当。2013年より慶應義塾大学文学部准教授,2015年より慶應義塾大学文学部教授(現職)。専門は社会心理学,環境行動論,リスクコミュニケーション論。

専門領域・研究テーマ

環境とリスクの社会心理学

ゲーミング・シミュレーションによる問題解決手法の開発と実践

これまでの研究

環境配慮行動の普及に関する社会心理学的な実験研究がこれまでの研究の出発点です(杉浦2003a)。環境配慮行動は個人的便益と社会的便益との間で生じる社会的ジレンマと捉えられ、その解決に説得が及ぼす効果を現実の社会問題を対象として検討してきました。その展開として環境運動を再現した「説得納得ゲーム」を開発し[杉浦2003b; 2005,杉浦2014b, Sugiura2022, ほか]、ドイツや中国等、海外での実施による国際比較研究も積み重ねています[杉浦・本巣2013; Ando et al, 2019]。環境政策に関して、国内ではJSTのプロジェクトによる社会実験としての参加型会議を設計・運営してきました。その会議プロセスはゲーミング「ステークホルダーズ」[Sugiura 2014]として再現したり,「クロスロード」[吉川・矢守・杉浦2009]の応用として「クロスロード:循環型社会編」にもつながっています.ドイツでは,国際プロジェクトとして現地でのフィールドワークや質問紙調査を通じて環境計画における市民参加の役割について検討し,その成果の一部は「リスクガヴァナンスの社会心理学」としてまとめられています[広瀬2014].気候変動とエネルギー問題では、環境政策ゲーム「キープクール」の教育への導入や[杉浦・吉川2009]、学習教材「省エネ行動トランプ」[杉浦・三神2018]、「エコな住まい方すごろく」[杉浦・三神2020]の開発・実践を行ってきました。これらの研究は、伝統的な態度変容や説得的コミュニケーションの実験研究に対して、感情も含めたダイナミックな相互作用プロセスを捉えることができます。環境問題の解決には経済格差が阻害要因としてあり、このことは「仮想世界ゲーム」[広瀬2011],「廃棄物ゲーム」[Hirose, Sugiura, Shimomoto, 2004],「階層間移動ゲーム」、「大富豪」を活用した格差研究[杉浦2016; 2018]としても実施してきました。説得納得ゲームに格差を導入した新たなゲーミングでは、参加者に経済状況についての役割を付与するだけで個人と社会の利益構造の理解と公正さに関する評価が変化することが明らかになっています[Sugiura, 2022 ;2018]。以上のようなゲーミング研究を教育ゲームとして実社会で活用していくことに取り組んでいます。他にも,社会心理学の知見を現実の環境やリスク問題に応用する取り組みも行っています[吉川2012; 吉川・杉浦・西田2013; 杉浦2014a, Sugiura & Nagashima, 2017].

現在のテーマ

現在は、科学研究費補助金の援助を得て,社会の分断と統合プロセスをゲーミングによって再現し、なぜ社会は分断していくのか、分断した社会の統合はいかにして可能となるのかについて,検討しています.これまでの大きなテーマである環境問題は広い意味での資源分配問題であり,経済格差の問題を含め,「社会の分断」として捉えることができます.集団の形成やその分裂をモデルとし,それをゲームとしてシミュレーションした時に,どのようなルールのもとでプレーヤーは対立する集団との間に歩み寄りを見せるのでしょうか.そうした問題を,現実の事例を調べながら既存のゲームの改良や新たなゲームの開発を検討しています.

「社会心理学とシミュレーション&ゲーミングとの遭遇」

本稿は、シミュレーション&ゲーミング/31 巻 (2021) 1 号に、優秀賞受賞報告として掲載された表題の論考に加筆・修正し、筆者のこれまでのシミュレーション&ゲーミング研究の小史として再構成したものです。今後、適宜、加筆していく予定で、私自身のメモとしてまとめているものですので、その点をご承知おきの上、ご覧ください。オリジナルの論考は以下をご参照ください。2022.6.6

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasag/31/1/31_310113/_article/-char/ja/

杉浦淳吉 (慶應義塾大学)

1. シミュレーション&ゲーミングとの出会い

私がはじめてシミュレーション&ゲーミング研究と出会ったのは,1993年に名古屋大学大学院文学研究科(心理学専攻)に進学し,広瀬幸雄先生に出会ったことと重なります.元々の関心事として,私の卒業論文は信州大学人文学部で社会心理学における説得の繰り返しの効果をテーマとして作成していました.広瀬先生の研究室では,環境配慮行動に関する調査研究と仮想世界ゲーム(広瀬1997)を用いた研究が,大学院生が参加して行われていました.ゲームの進行係を通じてゲーミング研究にもかかわっていましたが,私の修士論文,そして博士論文は,卒業論文のテーマを展開させ,説得研究を環境配慮行動の普及という現実問題を対象として行うことでした.博士課程の後期課程になると,共同研究だけでなく,ティーチングアシスタント(TA)として,広瀬先生の講義で,広瀬(1997)にも紹介されている「廃棄物ゲーム」や「階層間移動ゲーム」等の実施の補助を通じて,S&Gを講義でどのように利用するのかについて学びました.広瀬先生は以上で紹介したようなゲームを学部の授業で活用されていましたので,他大学出身の私はそれらをゲームのプレーヤーとして参加した経験が一度もありませんでした.ともかく,私自身は環境配慮行動の実験研究がメインで,自分自身の研究の中心がS&Gになることなど,大学院生の頃には思いもよりませんでした.

転機が訪れたのは1998年7月でした.愛知教育大学への就職が内定した頃,広瀬先生から日本シミュレーション&ゲーミング学会(以下、JASAG)で「ゲーミングの夕べ」が開催されることを紹介していただきました.今でこそ,その催しが如何に貴重な機会だったか理解できるのですが,かのDuke先生がHEXゲームを実演される機会だったのです.ゲーミングに参加することも初めてで,ゲーム自体よく理解できないまま,他の参加者の方々に助けられて何とかできたときには,ホッとしたものでした.その後,当日お世話になり,ニュースレター編集委員会の委員も担当されていた中村美枝子先生からゲーミングの夕べの参加記の執筆を依頼され,率直な感想をJASAGニュースレターに寄稿させていただきました.ゲームの小道具やルールの面白さ,そして当時のJASAGメンバーとの出会いを通じ,JASAGへの入会に至りました.

2. ゲーミングをデザインする

JASAGに入会し,広瀬先生と共同研究として実施した廃棄物ゲームや仮想世界ゲームを論文として投稿することがJASAGでの最初の活動でした(杉浦・広瀬1998, 広瀬・杉浦, 1997).その時は,既存のゲームを社会心理学の研究ツールとして活用するということはあっても,自分自身がゲームをデザインすることなど考えてもみませんでした.

1999年に次の大きな出会いがありました.名古屋市で「ごみ非常事態宣言」が出され,「名古屋ルールフォーラム」という,ごみ減量のルールを市民で考えようという集まりに,こちらも広瀬先生に誘っていただいて参加しました.その活動の一環として誕生したのが「説得納得ゲーム」でした.このゲームを考案する際には,広瀬先生のご研究やTAとしてゲームの補助を担った経験がヒントとなりました.ゲームは2000年4月に実施されたのですが,当時,それがその後の私自身の研究の屋台骨になるとは全く思っていませんでした.

その後の説得納得ゲームの展開には,2000年度から愛知教育大学の改組により共生社会コースという新しいコースができたことも作用しました.共同担当していた同僚が背中を押してくれたこともあって,必修科目のカリキュラムの一部として,ルールを改変して教育ゲームとして導入しました.他の環境関連の講義でも活用し,その実践報告を2001年度の日本社会心理学会(JSSP)で発表しました(杉浦2001).その時も,「こんなことを学会で発表していいものだろうか」と不安な気持ちでしたが,意外にも好評でした.

ルールについて尋ねられることもあり,ゲームについてまとめておこうと2002年の夏に論文として大学の紀要に投稿しました.その秋,松井啓之先生が委員長をされた京都大学でのJASAG大会で説得納得ゲームの実演セッションを企画しました(杉浦2002).その際,ゲームの説明のための配布資料として,投稿中の原稿をその旨明記し,配布資料として用意していました.

ちょうどJASAGでは,学会誌に関する課題を議論する場が設けられており,私もそこに居合わせておりました.投稿論文が少ないことが課題として挙げられていたのですが,その時に新井潔先生が,私が企画セッションで用意していた紀要論文の原稿を目にされ,「なぜJASAGに投稿しないのか」と問われました.JASAGの学会誌の敷居が高かったということもありましたが,迅速にルールを公表しておきたいということもありました.最初に投稿した廃棄物ゲームの審査に長い時間を要したこともあり,掲載まで時間がかかることへの不安を申し上げると,「それこそが学会誌を信頼していないことだ」と新井先生からお叱りを受けました.兼田敏之先生を委員長とする論文審査委員会の委員を務め始めた頃でしたが,まさかその委員を12年も,特に最後の4年は委員長を担うことになるとは思いませんでした.

その後,紀要への投稿を取り下げ,本学会の学会誌へ投稿するに至りました.査読のコメントでは,論文にゲームを改良したプロセスが記載されていることを評価していただき,この論文が今後の一つのモデルになることも想定して,改稿の提案を丁寧にコメントしていただきました.説得納得ゲームの論文を学会誌に投稿し,それが掲載された(杉浦2003)こと自体,当初思いもよりませんでした.

私にとっての説得納得ゲームとは,説得に関する社会心理学研究という「学問的関心」と環境問題という「現実の課題解決」の両者の融合をシミュレーション&ゲーミングという発想が実現させてくれた一つのモデルです.その後,いくつかのゲームを開発し,活用してきていますが,いずれもその両者なくして成り立たないと考えています.

3. ゲーミング研究の展開

説得納得ゲームは,名古屋での市民運動のシミュレーションとして2000年4月に誕生し,2020年に20周年を迎えました.名古屋では他にも社会実験「市民参加による循環型社会の創生に関する研究」にかかわり,後に利害調整ゲーム「ステークホルダーズ」(杉浦2008, Sugiura2014)の開発と実践にも展開しました.説得から利害調整による合意形成の問題にも着目するようになったのです.以下は説得納得ゲームの展開について,掘り下げてご紹介いたします.

説得納得ゲームの発展において大きな力となったのが,吉川肇子先生との共同研究です.環境行動に関する説得というオリジナルゲームを,吉川先生は大学の講義での活用において商品(新型の傘)販売の価格交渉として改変・実践されました.吉川先生のアイディアは,私のゼミの卒業研究として「説得納得ゲーム:販売編」へと展開し,その成果は共同研究として学会誌に掲載されました(杉浦・吉川・鈴木, 2006).この研究を通じて,フレームゲームとしての説得納得ゲームをどのように展開したらよいのか,ゲームの普及と質保証の関係をどう捉えたらよいかなど,ゲーミングの根本的な問題をも考えるようにもなりました.

また,本巣芽美先生との共同研究も,説得納得ゲームによって現実問題を扱う展開のモデルとなりました.本巣先生は,風力発電の普及に関する課題をフィールドとされ,説得納得ゲームの風力発電の社会的受容の問題への活用可能性を検討されました(本巣・杉浦・加藤・古賀・荒川, 2009).私もそうした現実の課題をゲームとして表現し,教育に活用するということに強い関心をもちました.そこで風力発電の課題を本巣先生と議論してゲームをデザインしました.ゲーム実施時には,愛知教育大学で私が担当する環境教育に関する講義において,本巣先生に専門的な講義をしていただいた上でゲームを実施し,学習効果を検討しました(本巣・杉浦・荒川, 2011).この成果は,説得納得ゲーム研究の一つの到達点であると捉えています.

4. 省エネ行動に関する企業との共同研究

私にとってゲーミング研究のフィールドとして長年過ごした愛知・名古屋から,2013年4月に今の所属大学に移りました.キャンパスのある東京,横浜に慣れつつある頃,東京ガス株式会社,および一般社団法人日本ガス協会から共同研究の提案がありました.そのテーマは省エネ行動の普及に関する研究で,私自身は当初,ゲーミング研究というよりは,アクション・リサーチのような実践的な調査研究をイメージしていました.実際,省エネ行動の促進要因,阻害要因にかかわる事例研究からスタートしました.

そこに一つの転機が訪れました.2014年12月に東京ガスのクリスマスイベントが開催されるのにあたり,親子を対象とした省エネに関するゲームを作成してイベントで活用することになりました.準備期間は3ヶ月でした.私はその頃,誰でも知っているようなトランプゲームを用いたシミュレーション&ゲーミングに関心をもって取り組んでいました(杉浦2013; 2016).それですぐに,七並べを応用したゲーミング開発を,大学1年生向けの演習授業との協同プロジェクトとして着手し,「省エネ行動トランプ」を開発しました(杉浦・三神, 2018).ここで課題となったのは,なぜゲームが効果を持つのかということです.続編として開発した「エコな住まい方すごろく」(杉浦・三神, 2020)は,ゲームが学習効果をもつのはなぜか,ということを意識して開発にあたりました.その説明を色々と考えるうちに,それは社会心理学者にとってはごく当たり前の古典的な社会心理学の理論だということに改めて気づきました.

ゲームを活用した省エネ学習は,多くの方々に興味をもっていただき,環境省「低炭素型の行動変容を促す情報発信(ナッジ)等による家庭等の自発的対策推進事業」の一環として実施された学校における省エネ教育の実証でも活用され,その結果を受け開発された「今日からはじめる省エネ教育」(三神・赤石・荒木, 2021)に掲載されました.

5. 社会心理学とS&Gの融合

シミュレーション&ゲーミング研究にかかわった当初は,社会心理学研究のツールとしてゲーミングを使っていました.ところが今は,現実の問題を解決するためのS&Gによる学習がいかなる効果をもつのかを社会心理学の理論によってきちんと説明しなければならないと考えるようになりました.ここで私自身が再発見できたのは,社会心理学の理論によってS&Gで展開される事象を説明することを通じて,元の理論そのものが新たな意味をもつようになる,ということです.

社会心理学の理論をシミュレーション&ゲーミングの文脈に載せることは,S&Gを通じて他の学問分野との連携をはかることにもなります.合意形成ゲーム「市民プロフィール」(杉浦・大沼・広瀬, 2021)は,市民参加による合意形成を実際の事例に基づいて学習する目的でデザインし,実施事例をもとに論文を作成しました.このゲームをデザインする際に,私自身は社会心理学における多属性態度モデルの発想を当たり前のようにヒントにして,つまり暗黙裡にルールを作成しました.しかしながら,なぜそのようなルールを設定したのか査読者の先生方にとって理解しづらい論文となってしまっていました.ゲームのコンテンツとしての市民参加による政策決定に注力したばかりに,開発したルールの背後にある社会心理学の理論の説明が疎かになっていたのです.恥ずかしい思いを悔いていても仕方なく,いただいたコメントをもとに論文を改稿し,最終的に掲載に至りました.論文を査読してくださった先生方には感謝しかありませんが,こうしたところがJASAGの魅力に他ならないと心から感じております.

ここで発見できたのは,シミュレーション&ゲーミングは個々の学問の内部では達することが難しいダイナミックなモデルを提案し,プレーヤーの視点に立って検証することが可能であるという点です.実際,「市民プロフィール」における多属性態度モデルでは,従来の社会心理学での態度研究とは異なった,現実問題に対応する知見をプレーヤーがゲーム経験を通じて理解できるようになっています.

6. フィールドとしてのドイツとS&G

ドイツではこれまで,説得納得ゲームも何度も実施しています.先の2020年11月から2021年9月の慶應義塾大学の塾派遣留学では、ハンブルク医療大学(MSH Medical School Hamburg)でG. Hübner先生にお世話になりました。Hübner先生とは1999年に日本ではじめてお目にかかって以来、20年来のお付き合いがあり,彼女が担当する講義で何度か説得納得ゲームを実施させていただいています.日本とドイツの説得納得ゲームの効果の違いを検討するため,本巣先生と共同でハレ大学(Martin-Luther-Universität Halle-Wittenberg)で地球温暖化防止をテーマとした実験も行いました(杉浦・本巣, 2013).また,安藤香織先生が代表の共同研究で,私はハンブルク医療大学での実験実施を担当し,その成果はSimulation & Gaming 誌に掲載されました(Ando, et al 2019).その縁もあって,ハンブルク近郊でロックダウンの特別な時間を経験しました。私にとってのドイツは3つの点でS&Gとの深くかかわるフィールドです.

第1に,環境に配慮したユニークな社会の仕組みやルールがあることです.資源分別は日本と同様必要ですが,容器を行政が回収するのではなく,デポジット制度により消費者がスーパーに買い物に行く際に容器を持参して機械で返金のクーポンを受け取るという点で商品の購入者がリサイクルのコストを負担するというのはその代表例です.他にも外国からやってきた「プレーヤー」にとって「あたりまえでない」ことに気づかされることがあります.今まさにドイツで暮らす中で,そうした発見を積み重ねることができる意義をありがたく思っています.

第2に,市民が参加して社会の仕組みを作ったり変えたりしていく特徴をもった参加型会議の取り組みが進んでいることです.無作為に選ばれた市民が参加し,参加者による議論の際も小グループのメンバーを常にくじ引きで入れ替えを行っていく等の手続きを組み合わせたプランニングセルと呼ばれる手法があります.広瀬先生との一連のプロジェクトでは,大沼進先生らとこの市民参加手法の意義や効果について検討してきました.「市民プロフィール」は,こうしたプロジェクトの対象をゲーミングとして伝えていくことを目指したものです(杉浦・大沼・広瀬, 2021).

第3に,ボードゲーム大国としてのドイツです.前職(愛知教育大学)での在外研究でドイツに滞在した2005年には「キープクール」との出会いがあり,気候変動問題のS&Gとして日本に導入し,実践を重ねました(杉浦・吉川, 2009).この点に関して,私にとって大きな転機になったのは,2004年にミュンヘンで開催されたISAGAサマースクールです.サマースクールでは中村美枝子先生のチームに参加し,”GIMM-J”という集団意思決定ゲームを作成したことは,その後の私のゲーミング研究に大きな影響を与えました.そのサマースクールに誘っていただいたのが吉川肇子先生でした.吉川先生はミュンヘン市内のゲームショップに案内してくださいました.当初はゲームが詰まった広大な棚を見て何があるのか全くわからない状態でしたが,以降吉川先生と何度もドイツでショップめぐりのフィールドワークを積み重ねるうちに,教育研究に何が必要なゲームか分かるようになってきました.そして,「吉川さんだったら,このゲームをどうみるだろうか」という視点が私に備わるようになりました.吉川先生との共同研究はもう20年近くになりますが,ゲームへのスタンスの共通点と相違点をお互いに意識できていることをありがたく思っています.

私にとってのドイツをフィールドとする3つの観点は,今改めて考えると,全てシミュレーション&ゲーミングで統合して考えることができるように思います.

ドイツでの研究テーマの一つとして,様々な側面で社会が分断する状況の中で,相互に対立する立場や価値観をもつ人々の間の葛藤をモデル化し,それをシミュレーション&ゲーミングで表現するということがあります.先に紹介した「市民プロフィール」は,ドイツ・ノイス市での調査研究をゲーミング化したものですが,これも社会の分断による葛藤とその解決として位置づけています.今回の滞在はハンブルク以外にも,ライプニッツ•ハノーファー大学(Leibniz Universität Hannover)で訪問研究員として,化学を専門とするF. Renz先生と化学の視点からこの問題を扱うS&G「化学反応ゲーム」の開発に取り組みました(杉浦・レンツ2021)んでいます.とりわけ,前回のドイツ滞在時(2005年)にポーランドのクラクフで開催されたISAGAサマースクールでW. Kriz先生のチームで開発した「ICHIBA」(杉浦2006; Nöbauer & Kriz, 2006)を再考し,新たなゲーミングへの展開を検討しています.

2020-21のドイツでは、いわゆるロックダウンをはじめとする、政府による規制を遵守しながら身のまわりで起こっていることを常にS&Gの視点で捉えながら生活を送っていました。こうした状況の中で、これまで私自身が多くの共同研究者の方々とS&G研究を続けてきたことを再認識する機会にもなりました。

7. ゲーミングによる教育と研究の新たな展開

(準備中)


引用文献

Ando, K, Sugiura, J. Ohnuma, S, Kim-Pong Tam, Hübner, G, Adachi, N, (2019) Persuasion Game: Cross Cultural Comparison, Persuasion Game: Cross Cultural Comparison, Simulation & Gaming, 50(5), 532-555,

広瀬幸雄(1997) 『シミュレーション世界の社会心理学-ゲームで解く葛藤と共存-』ナカニシヤ出版.

広瀬幸雄・杉浦淳吉(1997) 「環境教育のカリキュラムとしての模擬社会環境ゲームの開発」, 『シミュレーション&ゲーミング』,,7(1),7-16.

三神彩子・赤石記子・荒木葉子(2021)『今日からはじめる省エネ教育』開隆堂出版.

本巣芽美・杉浦淳吉・加藤太一・古賀誉章・荒川忠一 (2009)「市街地における小型風車の社会的受容-説得納得ゲームによる検討-」, 『シミュレーション&ゲーミング』, 19(2), 135-144.

本巣芽美・杉浦淳吉・荒川忠一(2011) 「説得納得ゲームを用いた風力発電の科学技術コミュニケーション—風力発電による便益と問題点の双方の理解をめざして—」, 『シミュレーション&ゲーミング』,21(2), 105-114.

Nöbauer, B. & Kriz, W. C. (2006) Marktplatz und ICHIBA, Mehr Teamkompetenz: Weitere Methoden und Materialien. Pp.119-123. Vandenhoeck & Ruprecht.

杉浦淳吉(2001) 「環境教育ツールとしての「説得-納得ゲーム」の開発と実践」,『日本社会心理学会第42回大会発表論文集』, Pp.356-357.

杉浦淳吉(2002) 「環境教育ゲームとしての「説得-納得ゲーム」,『日本シミュレーション&ゲーミング学会2002年度秋季全国大会発表論文集』,Pp.109-111.

杉浦淳吉(2003) 「環境教育ツールとしての「説得納得ゲーム」-開発・実践・改良プロセスの検討-」, 『シミュレーション&ゲーミング』,13(1),3-13.

杉浦淳吉(2006) 「意見対照ゲーム"ICHIBA"の開発」, 『シミュレーション&ゲーミング』, 16(2), 105-115.

杉浦淳吉(2008) 「利害調整ゲーム『ステークホルダー』の開発とその展開」, 『日本シミュレーション&ゲーミング学会全国大会論文報告集, 2008年秋号』, 25-28.

杉浦淳吉(2013) 「格差社会の葛藤と合意形成を考察するゲーミング・シミュレーション-「大富豪」による検討-」, 『日本シミュレーション&ゲーミング学会全国大会論文報告集2013年秋号』, 124-125.

杉浦淳吉(2016) 「トランプのルールを応用したゲーミング・シミュレーションによる社会的課題の理解」, 『シミュレーション&ゲーミング』,24(1), 11-21.

Sugiura, J. (2014) Using the “Stakeholders” Simulation Game to Understand Social Problem: An Application of a Frame Game to Assess Environmental and Health Conflict Resolution. Kriz, W. C. (Ed) The Shift from Teaching to Learning: Individual, Collective and Organizational Learning through Gaming Simulation. Pp.357-364. W. Bertelsmann Verlag.

杉浦淳吉・広瀬幸雄(1998) 「廃棄物処理における監視と罰則のジレンマを理解するための廃棄物ゲーム」,『シミュレーション&ゲーミング』,8(1),51-56.

杉浦淳吉・吉川肇子・鈴木あい子(2006) 「交渉ゲームとしての『SNG(説得納得ゲーム):販売編』の開発」, 『シミュレーション&ゲーミング』, 16(1), 37-49.

杉浦淳吉・吉川肇子(2009) 「環境政策ゲーム「キープクール」の教育への導入とその評価:ゲーム実施者とプレーヤ双方の観点から」, 『シミュレーション&ゲーミング』, 19(1), 87-99.

杉浦淳吉・三神彩子(2018) 「カードゲームのデザインと実践による省エネ行動の学習」, 『シミュレーション&ゲーミング』, 27(2), 87-99.

杉浦淳吉・三神彩子(2020) 「住環境と省エネルギー学習教材としてのすごろくの開発と学習効果」, 『シミュレーション&ゲーミング』, 30(1), 45-54.

杉浦淳吉・本巣芽美(2013) 「説得における役割演技の効果-日独における説得納得ゲームによる実践的検討-」, 『説得交渉学研究』, 5 ,15-28.

杉浦淳吉・大沼進・広瀬幸雄(2021) 「合意形成ゲーム「市民プロフィール」:ドイツ・ノイス市の都市政策の社会調査事例から」, 『シミュレーション&ゲーミング』, 31(1), 27-37.

杉浦淳吉・フランツ レンツ (2021)「気候変動問題の理解を目指したゲーミング:メタファーとしての化学反応」『日本シミュレーション&ゲーミング学会2021年度秋期全国大会発表論文集』, Pp.76-77.