2025年3月14日更新
ウナギ目魚類は世界で900種程度が知られる分類群で,いわゆるウナギ型の体をもつグループです.中でもウミヘビ科(Ophichthidae)はもっとも種の多様性が高く,現在知られているだけでも300種以上の存在が確認されています.一方で,ウミヘビ科に代表される多くのウナギ目魚類は退化的な鰭をもち(場合によっては完全に失っている),多くの骨が退化・癒合することになどよって分類諸形質の探索が難しく,多くの分類学的課題が残されています.これらのグループについて,ときには遺伝情報のサポートを加えながら形態形質を検討し,分類学的な研究を行っています.現在は特にベトナム・台湾における多様性について集中的に研究を進めています.研究の過程では,いわゆる新種を発見・記載することがあります.これまでに新種記載したウナギ目魚類は下記のとおりです.
イワアナゴ科Chlopsidae
Chlopsis nanhaiensis Tighe, Ho, Pogonoski and Hibino, 2015
Chlopsis orientalis Tighe, Hibino and Nguyen, 2015(写真:上段左;木村清志氏撮影)
ウツボ科Muraenidae
Diaphenchelys dalmatian Hibino, Ukkrit and Kimura, 2017(写真:上段中;木村清志氏撮影)
Gymnothorax pseudoprolatus Smith, Hibino and Ho, 2018(チャイロウツボ:日本と台湾に分布)
Gymnothorax vietnamensis Smith, Hibino and Ho, 2018
Uropterygius hades Huang, Hibino, Balisco and Liao, 2024
ウミヘビ科Ophichthidae
Apterichtus dunalailai McCosker and Hibino, 2015
Apterichtus hatookai Hibino, Shibata and Kimura, 2014(ダイダイマダラウミヘビ:日本,中国福建省と台湾に分布)(写真:下段左;波戸岡清峰氏撮影)
Apterichtus jeffwilliamsi McCosker and Hibino, 2015(写真:下段右;Jeffery T. Williams氏提供)
Apterichtus malabar McCosker and Hibino, 2015
Apterichtus mysi McCosker and Hibino, 2015
Apterichtus nanjilnaduensis Kodeeswaran, Ravinesh, Hibino and Saravanane, 2024
Apterichtus nariculus McCosker and Hibino, 2015
Apterichtus soyoae Hibino, 2018(ソウヨウゴマウミヘビ:日本のみに分布)
Apterichtus succinus Hibino, McCosker and Kimura, 2016(写真:下段中;Jeffery T. Williams氏提供)
Bascanichthys kabeyawan Hibino and Ho, 2022
Bascanichthys ryukyuensis Hibino, Yamashita and Sakurai, 2022(カズラウミヘビ:日本のみに分布)
Mixomyrophis longidorsalis Hibino, Golani and Kimura, 2014
Muraenichthys longirostris Hibino, Ho and McCosker, 2019
Muraenichthys velinasalis Hibino and Kimura, 2015
Neenchelys andamanensis Hibino, Ukkrit and Kimura, 2015
Neenchelys mccoskeri Hibino, Ho and Kimura, 2012(ツルギムカシウミヘビ:日本と台湾に分布)(写真:上段右;Hsuan-Ching Ho氏撮影)
Neenchelys nudiceps Tashiro, Hibino and Imamura, 2015
Ophichthus brevidorsalis Chiu and Hibino, 2019
Ophichthus cuulongensis Vo, Hibino and Ho, 2025
Ophichthus kbalanensis Hibino and Ho, 2024
Ophichthus kusanagi Hibino, McCosker and Tashiro, 2019(クサナギウミヘビ:日本のみに分布)
Ophichthus lupus Hibino, McCosker and Tashiro, 2019(ヤマイヌウミヘビ:日本のみに分布)
Ophichthus mccoskeri Sumod, Hibino, Manjabrayakath and Sanjeevan, 2019
Ophichthus multidentis Hibino, Huang and Ho, 2024
Ophichthus nguyenorum Vo, Hibino and Ho, 2025
Ophichthus oligosteus Hibino, McCosker and Tashiro, 2019(ツマリウミヘビ:日本のみに分布)
Ophichthus semilunatus Hibino and Chiu, 2019
Ophichthus vietnamensis Vo, Hibino and Ho, 2019
Ophichthus yamakawai Hibino, McCosker and Tashiro, 2019(モノサシウミヘビ:日本のみに分布)
Phyllophichthus diandrus Hibino, Endo and Ho, 2024
Scolecenchelys brevicaudatus Hibino and Kimura, 2015
Scolecenchelys fuscogularis Hibino, Kai and Kimura, 2013(ノドグロミミズアナゴ:日本と韓国に分布)
Scolecenchelys robusta Hibino and Kimura, 2015
Yirrkala nkust Hibino and Ho, 2024
現在は主にクリミミズアナゴ種群,ゴマホタテウミヘビ種群,Ophichthus apicalis種群,ショウキウミヘビ属の4つのグループに注力しつつ,その他のテーマとともに標本の収集と分類学的な整理を進めています.
共同研究者:John E. McCosker氏(California Academy of Sciences, USA),Hsuan-Ching Ho氏(National Museum of Marine Biology & Aquarium, Taiwan),Vo van Quang氏(Institute of Oceanography),田城文人氏(北海道大学),遠藤詢介氏(九州大学)ほか
日本列島は数えきれないほどの島から構成されているうえに,黒潮・親潮をはじめとする海流に洗われる地理的特徴から,複雑で多種多様な魚類を見ることができます.中でも,琉球列島から大隅諸島にかけての海域は,トカラギャップを黒潮が貫流し,多様な熱帯性魚類が分布している一方で,その全容は日本における魚類研究が始まってから100年以上経つ現在も未解明な部分が多く残されています.「今,そこに何がいるか知りたい」という興味から,こうした海域での魚類相調査を行っています.この成果の中には日本未記録種等が含まれることから,これらについても適宜発表しています.現在興味があるのはトラギス科,イトヨリダイ科,キツネアマダイ科です.
共同研究者:佐藤真央氏(国立科学博物館),小枝圭太氏(琉球大学),木村祐貴氏(大阪府立環境農林水産総合研究所)ほか
これまでに発表した新称提唱を伴う日本初記録種(※新種をのぞく)
ウツボ科 Muraenidae
オニウツボ Enchelynassa canina(第二記録)
スズランヒメウツボ Gymnothorax fuscomaculatus(★)
タカノハウツボ Gymnothorax mucifer
ワタユキウツボ Gymnothorax niphostigmus
マメウツボ Gymnothorax reevesii(再提唱)
タピオカウツボ Gymnothorax shaoi
ムラクモキカイウツボ Uropterygius fasciolatus(★)
コブキカイウツボ Uroptetygius oligospondylus(★)
ウミヘビ科 Ophichthidae
ショウキウミヘビ Cirrhimuraena playfairii
トラノオウミヘビ Leiuranus versicolor
マダラシマウミヘビ Myrichthys paleracio
ヨイヤミウミヘビ Ophichthus aphotistos
グンバイウミヘビ Ophichthus exourus
フチナシウミヘビ Ophichthus sangjuensis
ゲットウウミヘビ Phyllophichthus xenodontus
タケノコウミヘビ Yirrkala misolensis
ウシィバーミミズアナゴ Muraenichthys gymnopterus(★)
シラスミミズアナゴ Muraenichthys sibogae(★)
シノミミズアナゴ Muraenichthys thompsoni
サンゴミミズアナゴ Scolecenchelys iredalei
フトミミズアナゴ Scolecenchelys laticaudata
テンジクダイ科 Apogonidae
サザナミイシモチ Ostorhinchus hartzfeldii(★)
ハナダイ科 Serranidae
アワユキハナダイ Pseudanthias hutomoi(★)
フエダイ科 Lutjanidae
フタホシフエダイ Lutjanus biguttatus(★)
アゴアマダイ科 Opistognathidae
シシダマオオクチアマダイ Opistognathus variabilis(★)
キツネアマダイ科 Malacanthidae
ホタルビサンゴアマダイ Hoplolatilus fourmanoiri(★)
トラギス科 Pinguipedidae
ホムラトラギス Parapercis randalli(★)
※人為的に導入された種、いわゆる外来種を除く
★は近年の離島調査で得られた成果に基づくもの
九州大学水産学第二教室は初代内田恵太郎博士の着任以来,一貫して魚類生活史の研究を行ってきました.内田は研究で用いた標本を採集地や採集日のデータ(ロカリティ)とともに保存することを徹底し,塚原博博士をはじめとするその弟子たちも内田の教えを忠実に守ってきたことから,ロカリティデータ付きの膨大な魚類標本が所蔵されています.一方で,これらの標本の大部分は長年管理されておらず,このままではすべて標本としての価値を失ってしまいかねません.加えて,九州大学箱崎キャンパスの移転事業に伴い,廃棄の危機にもさらされています.このようなことから,この歴史的魚類標本群の整理作業を行っています.一連の標本群には多数の九州産淡水魚類標本が含まれており,これらを用いてかつての九州の水辺の原風景を探ることにも取り組んでいます.
ニホンウナギAnguilla japonicaは我が国にとって重要な水産資源ですが,さまざまな要因からその個体数を急速に減らしてきました.本種の生息数回復のためには多角的な取り組みが必要です.全国内水面漁業協同組合連合会の支援の元,ニホンウナギの生息河川に石倉漁法を利用したモニタリングサイトを設置し,隠れ家としての有効性,ニホンウナギ以外の生物や河川環境に与える影響,捕獲されるニホンウナギについてのモニタリングを行っています.同時に,全国各地の伝統漁法としての石倉漁について,その分布や呼び名,漁法等についての調査を行っています.
我が国は海に四方を囲まれた島国です.海洋国家とも言える日本ですが,実は川魚,すなわち淡水魚類を利用する多様な文化が各地で育まれてきました.生物多様性の恩恵そのものである川魚の漁撈や,食文化,信仰,地方名を通して,地域の人々と河川や湖沼,あるいは水路との関わり合いを記録する作業を続けています.現在は特にフナやウナギを中心に記録を行なっています.川魚文化は地域資源であり,その担い手は地域住民に他なりません.全国の多くの地域で川魚文化の担い手は激減しており,今ある川魚文化をどのように生かしていくか,真摯に向き合わなければならない時代になっています.
その他,さまざまな魚類や,魚類にまつわる物事に興味をもち,研究を行っています.