このページは、日本産ウミヘビ科魚類図譜(ウミヘビ図譜)を博物ふぇすてぃばる!(2025/7/21 於東京ビックサイト)当日に来場、入手いただいた方限定の付録に掲載した文章の中から、公開可能な部分のみを抽出して多少の加筆を加えたものです。
ウミヘビ図譜を読んで、自分も未知のウミヘビを捕まえてみたい!と思われた方がいらっしゃるかもしれません。この文章は、そのような方に向けて作成しています。
混獲
日本産既知種標本の多くが混獲によって得られたものです。国内には多種多様な漁法が存在し、商業的に重要な種以外のものが非意図的に漁獲される、これが混獲です。ウミヘビ科が混獲されやすいのは定置網と底曳網ですが、延縄や籠漁業によって大型の種(個体)が混獲されることもあります。ただし、ウミヘビ科は他の混獲物とは異なり明らかに市場流通に不適当な存在のため、特に底曳網については洋上での魚種選別の際に投棄されることが多いのが現実です。未選別のまま水揚げする港に行くか、あるいは船に直接乗り込んで採集するとよいでしょう。もちろん、漁業者から適切に許可を取ったうえで行ってください。
採集
原則低密度で生息するウミヘビ科魚類を、「狙って採る」のは至難の業です。一方で、採集品は混獲物に比べて状態がよい場合が多く、また漁業ではカバーしきれないきわめて浅い水深帯や、逆に深い水深帯を狙うことも、また通常の漁網ではすり抜けてしまうような大きさ、というより太さのものも採集できることがあります。手軽なのは釣りやたも網による採集です。彼らは一般に日中は砂や泥に潜って過ごし、夜になると穴から出て摂餌します。つまり、夜間の方が遭遇できる可能性は高まります。ただし、昼間であっても例えば干潮時に砂泥基質をドレッジのように掬い上げて、採集できることがあります(*1)し、理由は不明ながら生きたまま浜辺に打ち上げられることもあります(*2)。琉球列島では冬季の強い寒波や、夏季の台風の襲来時に打ち上げられたものが採集できることもあります(*3)。駿河湾のような特殊な場所での打ち上げ現象は広く知られるところですが、遠浅の玄界灘沿岸でも打ち上げられたウミヘビ科魚類が採集されたことがあります(*4)。ダイビングによる採集例もあり、私は未経験ですが、穴から顔だけを出しているものの”首”のあたりを狙って突く(*5)、潜っている砂ごとシャベルなどで掬い取って目の細かい網に入れ、篩って採る(*6)などの方法があるようです。大型種の場合、籠(カニ籠)による採集も可能です(*7)。漁業調整規則に違反しないような採集を心がけてください。最後に、トリッキーな採集方法として、爬虫類ウミヘビの胃内容物を採集する、という方法があります(*8)。一部のウミヘビ(アオマダラウミヘビ、クロガシラウミヘビ)は、ウナギ目魚類を選好して食べています。強制嘔吐法によって吐き出させたものを採集するのが一般的ですが、ウミヘビは強力な有毒生物ですので、慣れない方は避けるべき大変危険な方法です。採集して小さなバケツなどに入れておくと、ストレスで吐き出すこともあります。
実際の採集種の例:*1ハクテンウミヘビ;*2タツウミヘビ;*3タケノコウミヘビ・カズラウミヘビ・ショウキウミヘビ;*4クロウミヘビ;*5ハワイタツウミヘビ;*6ダイダイマダラウミヘビ;*7ゴマホタテウミヘビ;*8マダラシマウミヘビ
もし、ウミヘビ科魚類が採集でき、それが未知の種(色彩が未知の種も含む)かもしれない場合、まずすべきことは鮮度のよい状態でのスナップ撮影です。ウミヘビ科魚類の場合、眼の外側に透明の膜がありますが、これは死ぬと急速に白濁し、虹彩の色彩が不明瞭になるためです。すなわち、頭部の背面や側面を重点的に撮影することが優先されます。美しい透明の鰭も、死ぬと白濁しますので小型の種であれば観察ケースなどに入れて撮影しておくことが有効です。一部の種は体の色も死後変化します。小型の個体の場合、生時は体にわずかな透明感があることが多く、こうしたものは側面からの写真によって側線孔数や脊椎骨数がおおまかに計数できることもあります。
生時にもある程度の特徴は把握できますが、詳しい観察は冷蔵して、死亡後に行います。頭部の微細な特徴は顕微鏡によって、脊椎骨数はレントゲン撮影によってたしかめる必要があります。このような観察の一部は、専門的な研究機関で行う必要があります。未知の種であれば論文にしましょう。もし、私に提供いただける場合には、採集場所と同程度の塩分の冷水ごとユニパックに入れて、冷凍後クロネコヤマトの着払いでお送りください(予めご相談ください)。大型のもので難しい場合にはキッチンペーパーなどで全身をぐるぐる巻きにして、よく濡らしてからさらにサランラップでぐるぐる巻きにして、ユニパックに入れて冷凍してください。体表の乾燥防止が目的です。
相談連絡先:日比野友亮(yusukeelologyあっとgmail.com)