浅海性ウミヘビ科魚類の顔同定

2019年10月29日作成,適宜改訂中(2022年4月30日)

■はじめに


種の同定は原理原則で言えば、担名タイプとの比較とはまではいかないまでも、識別的特徴(diagnosis)を逐一確認する必要がある。しかし、これはあくまで原理原則なのであって、フィールドで確認できるのか、となると話がちがってくる。特にウミヘビ科魚類は、水中で遭遇した個体について、種の同定に必要な脊椎骨数を現場で数えることは不可能だし、代わりに側線管の感覚管孔を数えようにも多くが潜砂生活を送っており、頭部の一部しか見えていないことがほとんどだ。ここでは浅海性の種で私が情報をもっているものに限って、それぞれの種の頭部に見られる特徴を紹介する。コツをつかみさえすれば、多くの浅海性種の頭部のみでの種同定が可能になると考えていいだろう。ただし、先に断っておくこととして、この情報はあくまで国内の既知の種に基づいており、未知の種が現れた場合には必ずしもこの限りではないことをご了承いただきたい。はじめに立ち返るが、本当の種同定は識別的特徴の確認が必須であり、そのためには標本の確保が必要となる。なにか分からないウミヘビを撮影・または採集された場合には日比野まで一報いただきたい。

■このページに書かれている情報

●色の特徴:頭部~首元までしか見えていない水中観察・写真を前提に、色や模様から分かる種の特徴を属内にとどまらない形で列記しています。

●形の特徴:色の特徴と同様に、吻や頭部の皺といった特徴を列記しています。

●大きさ:概ね最大の全長。顔だけの観察ではあまり役に立ちませんが、頭部の長さは一般に全長の5%~12%程度なので目安にはなります。

●現在の分布:国内と国外の分布情報です。ただし、この情報は文献とインターネット上の写真の組み合わせに基づくもので必ずしもすべてが学術的検証を経たものではありません。あくまで目安です。

●備考:備考です。

※これらの情報は水中観察の一助として提供するもので、必ずしも正確かつ客観的な情報のみから構成されているわけではありません。

ホオジロゴマウミヘビApterichtus australis

●色の特徴:体の地色は明るいオレンジ色;通常眼の後方、口裂の後端、頭部側面の3箇所に斑入り状の白色斑をもつ(一部がないこともある);眼の虹彩は白色;前鼻孔は頭部全体と同色

●形の特徴:吻も下顎もよく尖る;下顎の前端は眼の前縁よりも前に突出する;上顎に沿った皺が1筋ある;胸鰭がない

●大きさ:最大で40 cmくらい

●現在の分布:相模湾・伊豆周辺・柏島

●備考:本種は太平洋域広域に分布するにもかかわらず、なぜか沖縄では撮影されていない。なぜだろう。

ダイダイマダラウミヘビApterichtus hatookai

●色の特徴:体の地色はくすんだ紫褐色から赤褐色で、いくらか透明感がある;鮮やかなオレンジ色の円形ないし楕円形の斑を多数もち、後頭部側面のものの長径は眼径と同径か、それより大きい;眼の虹彩は完全な白色ではなく、背側と腹側はわずかに黄金色みを帯びる

●形の特徴:吻も下顎もよく尖る;下顎の前端は眼の中央下部に位置する;上顎に沿った皺が1筋ある(ただし色がくすんでいるので目立たない);胸鰭がない

●大きさ:最大で50 cmくらい。

●現在の分布:伊豆周辺・渥美半島・三重・愛媛・愛南・台湾
●備考:沖縄で本種とされてネット上に掲載されているものはA. klazingaiと考えられるが標本が確保されておらず、確定には標本が必要。同種と思われるものが柏島周辺っでも撮影されている。

ゴマウミヘビApterichtus moseri

●色の特徴:体の地色はくすんだクリーム色からくすんだ白桃色で、変異に富む;前鰓蓋部(口裂後端の少し後方)と側頭部上部はわずかに朱色を帯びる;眼の虹彩は黒色で、瞳孔との境界部が銀輪状に見える;前鼻孔は地色と概ね同色

●形の特徴:吻は尖るが他のゴマウミヘビ属に比べて鈍く、背側がわずかに膨らんで見える;下顎は尖る;下顎の前端は眼の前縁よりも前に突出する;上顎に沿った皺が1筋あるが目立たない;胸鰭がない

●大きさ:最大で60 cmくらい。
●現在の分布:伊豆周辺・紀伊半島・高知・東シナ海・台湾
●備考:体色の変異は果たしてすべて同種の変異なのだろうか。ダイバーによる撮影がほとんど特定の地域に限られているのは深場の種だからだろう。

モヨウタツウミヘビBrachysomophis cirrocheilos

●色の特徴:体の地色は灰褐色から茶褐色;頭部には目立った斑紋をもたないが、多数の小黒点をもつものがある;体に背から体側にかけて濃い褐色の雲形の鞍掛状斑をもつ

●形の特徴:上から見た吻の幅は細い;眼はかなり前方にあり、背面側に少し突出する;眼の後方背縁に凹みがない;鬚が上唇の広範囲と下唇の前方とに多数、密にある。太さは比較的太く、髭に分枝はないか、ほとんどない;体表は比較的滑らか

タツウミヘビBrachysomophis crocodilinus

●色の特徴:体の地色は白色から淡褐色まで変異があるが、淡いことが多い;頭部は全くの無紋から、くすんだような不明瞭な斑紋をもつものまである

●形の特徴:上から見た吻の幅は太く、短い;眼はきわめて前方にあり、背面側に明瞭に突出する;眼の後方背縁に凹みがある;鬚が上唇の広範囲と下唇の前方とに多数、密にある。太さは太く、分枝のあるものが多い;体表はごつごつしている

ハワイタツウミヘビBrachysomophis henshawi

●色の特徴:頭部前方域は赤色で、後方では黄褐色になる;頭部感覚管孔の多くは細い黒色の縁取りをもつ;下顎は白色と赤色との縞状になることが多い

●形の特徴:上から見た吻の幅はやや細い;眼はかなり前方にあり、背面側に少し突出する;眼の後方に凹みがある;鬚は両唇にあるが、やや短く、その本数は少なく疎い。太さは細く、分枝はないが凸凹がある;体表はごつごつしている

ムラサキウミヘビBrachysomophis porphyreus

●色の特徴:体の地色は褐色から濃褐色で、無紋(浅海域では紫がかって見えることもある);上唇に沿った眼下感覚管孔は黒く縁取られる

●形の特徴:上から見た吻の幅は細い;眼はかなり前方にあり、背面側に少し突出する;眼の後方に凹みがない;鬚は両唇にあるが短く、細く、その本数はやや少なく目立たない;体表にクレーター様の浅い凹凸があるがはっきりしない場合もある

ヒモウミヘビCallechelys katostoma

●色の特徴:体の地色はクリーム色から淡桃色で、頭部後半から体にかけての側面に赤褐色から暗褐色の太い縦帯をもつ;頭部には不定形の褐色斑があり、上側頭感覚管孔と頭部の側線管孔は白く縁取られる;背鰭に暗褐色の縁取りがある

●形の特徴:吻は太く、概ね尖るが前端が明確に尖らずイノシシのような顔つき;下顎前端は眼の前縁直下か、またはわずかに後方;前鼻孔は突き出して目立つ;背鰭の始部は鰓孔直上よりも前方;胸鰭がない

クロウミヘビCallechelys kuro

●色の特徴:体の地色はくすんだ茶褐色で、黒ずみが強くほぼ真っ黒なものから淡いものまで、やや変異がある;眼の後方、下顎先端付近などに斑入り状の白色斑をもつ;眼の虹彩は黒褐色で、周囲を青白色で縁取られるうえ、瞳孔との境界部が金輪状に見える;前鼻孔と後鼻孔の覆いは明るいオレンジ色(ただし後者は不明瞭なこともある)

●形の特徴:吻は太く、概ね尖るが前端が明確に尖らずイノシシのような顔つき;下顎前端は眼の前縁よりもわずかに前に突出する;前鼻孔は突き出して目立つ;背鰭の始部は鰓孔直上よりも前方;胸鰭がない

モンヒモウミヘビCallechelys marmorata

●色の特徴:体の地色はクリーム色から黄色みを帯びたクリーム色で、眼径よりも小さな黒点ないしは眼径と同程度の黒斑を多数もち、これは鰭にもある

●形の特徴:吻は太く、概ね尖るが前端が明確に尖らずイノシシのような顔つき;下顎前端は眼の前縁よりもわずかに前に突出する;前鼻孔は突き出して目立つ;背鰭の始部は鰓孔直上よりも前方;胸鰭がない

●現在の分布:柏島・琉球列島

●備考:本種によく似た種が国外にはおり、果たして国内で撮影されている個体がすべてC. marmorataであるかは不明。

トンガリホタテウミヘビOphichthus altipennis

●色の特徴:体の地色は白色から黄色がかった褐色まで変異に富む;目立った模様はないが、頭部の感覚管孔は黒から暗褐色で縁取られよく目立つ;眼の前や下顎の感覚管孔に沿った部分などに孔器列(感覚管孔よりもはるかに小さい暗色点列)がある;眼の虹彩は地色とほぼ同色

●形の特徴:部の背縁はほぼ直線的で、後頭部は膨らまない;吻も下顎もよく尖る;下顎の前端は前鼻管付近にあたる眼より前、上唇に沿って小さな突起が2個ある;胸鰭がある;背鰭の始部は胸鰭付け根の直上かそれよりも前側に位置する

●大きさ:最大で1 mくらい

●現在の分布:琉球列島、インド・太平洋の熱帯域一帯

●備考:琉球列島でミナミホタテウミヘビと同定されているものの大半が本種で、眼の周りや下顎の孔器列がはっきりしていればまず本種の誤りと考えてよい。本種をデザインしたTシャツがウチダヒロコ氏、海と島の雑貨屋さんにより作成、販売されている。これらも元々はミナミホタテウミヘビとされていた。

ミナミホタテウミヘビPisodonophis cancrivorus

●色の特徴:体の地色はくすんだ暗褐色から色がかった褐色まで変異に富む;目立った模様はないが、頭部の感覚管孔は暗褐色で細く縁取られ、個体によってはあまり目立たない;孔器列はあるが目立たない(地色と同色のため);眼の虹彩は地色とほぼ同色

●形の特徴:頭部の背縁は眼の後ろ側でやや膨らみ、特に大型の個体では顕著;吻も下顎も尖る;下顎の前端は前鼻管付近にあたる;眼より前、上唇に沿ってやや大きな突起が2個あたまに猫目になっている;胸鰭がある;背鰭の始部は胸鰭付け根よりも後ろ側に位置する

●大きさ:最大で70 cmくらい

●現在の分布:相模湾以南の南日本沿岸、琉球列島、インド・太平洋の熱帯域一帯

●備考:トンガリホタテウミヘビよりはやや塩分の低い場所でより多く出現。ただし重複する。